ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

「すしざんまい」でモロッコワインが飲めるのはなぜ? 問い合わせたら意外な(?)答えがかえってきた!

神楽坂「すしざんまいS」でモロッコワインと出会う

東京・神楽坂にある「すしざんまいS」に行った。すしカウンターを廃してタッチパネルを導入した、「回りそうで回らないすし」の異名を持つとか持たないとか言われる低価格帯の店舗である。

さて、ワイン好きがレストランに行ったらやることはひとつで、ドリンクメニューのワインの項目をチェックすること。というわけでタッチパネルを操作してみると意外な選択肢が提示された。

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「すしざんまいS」のワインリストがこちら。

ハウスグラスワイン(赤)350円+税

ハウスグラスワイン(グリ)350円+税

ちょっと待った。

ハウスワイン(赤)はわかるんですよ。でも、(赤)っつったら(白)でしょうふつう。つーかそもそも寿司屋といえば白と泡じゃない? なのに(グリ)って。そもそもなんなんだろう(グリ)って。ピノ・グリ? グリ・と・グラ? なにかヒントがないものか……と店内を見回すと、ワインボトルがデザインされたポスターを見つけた。というわけで凝視してみるとさらに意外なことがわかった。

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店内掲示のポスターがこちら。

ロッコワインだった!

そう、すしざんまいSで頼めるグラスワインは、フランスでもイタリアでも、なんなら日本ワインでもなくマイナー国・モロッコのワインだったのだ。攻めてるなすしざんまいS。すしざんまいSのSは「SEMETERU」のS(違う)。モロッコワインは飲んだことがなかったが、まさかすしざんまいで飲めるとは……!

ともあれポスターが見つかったことで情報量は一気に増えた。ワインの銘柄名は「メダイヨン」というようだ。そしてヴァン・グリとは黒ブドウから造る白ワインのこととあるという説明もある。

シャンパーニュでいうブラン・ド・ノワール。つい最近ピノ・ノワールから造られる白(ロゼ )ワイン“ホワイト・ピノ・ノワール”を飲んでおいしかったので味のイメージがこれでできた。白ワインとロゼの間くらいの感じの味ってことだろう。

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すしざんまいでモロッコワインが飲めるのはなぜなのか?

さて、この後私はこのヴァン・グリを飲み、続いて赤もいただいたのだが、その話は本稿後半にまとめるとして、先にこの疑問を解決しておきたい。なぜ、すしざんまいでモロッコワインなのか? である。

この疑問、おそらくいくら考えても答えが出ない。なので今回は大人しく「築地喜代村すしざんまい」を運営する株式会社喜代村の公式サイトのお問い合わせページから問い合わせをかけてみたら、丁寧な回答をいただいた。

実際は問い合わせフォームからメールを送り、それに対してメールで回答を得たわけだが、読みやすさを考慮して質問と回答をインタビュー風に起こしてみよう(注:あらかじめ掲載の許可を得ています)

ヒマ:どうしてまた、モロッコワインを選ばれたのでしょうか?

すし:モロッコ大使館と弊社とは友好な関係がある為です。

ヒマ:なるほど、では「白」や「泡」ではなく、「グリ」をチョイスされたのは?

すし:モロッコのグリは日本では大変珍しく美味しい為に日本の皆様にも味わって頂きたいからです。

ヒマ:たしかに珍しいですよね。では、このワイナリーを選ばれたのは?

すし:モロッコ大使館からのお勧めであるからです。

ヒマ:最後の質問です「赤」と「グリ」それぞれ合うネタを教えていただけますか?

すし:グリは白身やサーモン・貝類、赤はトロや穴子がお勧めです。

いやーよくわかった。ありがとうございました。

後日調べると、モロッコは水産資源に恵まれた国で、globalnote.jpによれば1975年から2018年にかけての大西洋クロマグロの漁獲高は25カ国中5位。そしてこの大西洋クロマグロこそが、いわゆる「本マグロ」であるようだ。

そこに注目した株式会社喜代村木村清社長は、マグロを獲るだけでなく、現地の人にマグロを解体・処理するノウハウを授けるなどして同国との関係を深めていったようだ。モロッコ大使館主催のゴルフコンペで木村社長がマグロ解体してる写真とか出てきた。

木村社長にはソマリアの海賊を壊滅させたという伝説があるが、それももちろん武力をもってしたのではなく、海に生きる現地の人々にマグロを獲って加工するノウハウを授けることで生活を豊かにし、「海賊行為をする必要をなくす」ということをしたようだ。

そういう情報を知ってから目の前にある一貫のマグロを眺めると、表面を優しく撫でて「You、どこから来たんだい……?」とやさしく問いかけたくなるワインの話だった。

ロッコワインの歴史

Wikipediaの「Moroccan wine」の項目を読むと、そもそもモロッコではローマ時代からワインが造られていたのだそうだ。そして、フランスの占領下でアルジェリアに次ぐ、アラブ世界第二位の生産量を誇る一大ワイン産地として栄えるが、1956年の独立後、徐々にブドウ畑は面積を減らし、また荒廃していく。

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1930年代のモロッコワインのラベルだそうです。(wikipediaより/public domain)

ロッコのワイン産業が復活するのは1990年代に入ってからで、外国からの投資とノウハウが流入するようになり急回復。2005年時点で栽培面積は5万ヘクタールにまで拡大しているんだそうだ。「マイナー国」とか言っちゃってすみませんでしたッ!

なぜ「すしざんまいS」のハウスグラスワインは「赤とグリ」なのか

そして、「すしざんまい」でなぜ白や泡ではなく「赤とグリ」なのかの答えも見つけることができた。モロッコでは赤ワインが生産量の75%以上を占めており、次いでロゼとヴァン・グリが約20%、白ワインは約3%にとどまっているんだそうだ(2005年時点)。赤とロゼ(グリ)で95〜97%を占めてるとなれば、そりゃ「赤とグリ」だわ。

ちなみにすしざんまいのハウスワインはそれぞれ「メダリオン ルージュ」「メダリオン グリ」という名前。生産者はDomaine des Ouled Thaleb、だというところまでは判明したが、今回はここに至るまでの経緯でわりとお腹いっぱいなのでワイナリーとワインについてのディープな調査は行わなかった。いずれまた、機会があれば調べたいと思う。

「すしざんまいS」でモロッコワイン(赤/グリ)を飲んでみた!

さて、いろいろあったが私はいま神楽坂の「すしざんまいS」にいる。なぜ「すしざんまい」でモロッコワインなのか。そして、なぜ「赤とグリ」なのか。ふたつの疑問はふたつとも氷解した。うーん気持ちいい。ピュアリサーチって本当に楽しいですよね。

ということを席に着いている時点で私はまだ知らないのだが、まずビールで喉の渇きを癒し、続いて頼んだハウスグラスワイン(グリ)を飲んで驚いた。これ、おいしいですよ普通に。

グリ=ロゼと白の中間くらいの味わいで、酸味と果実味がしっかりとある。私はサーモンと合わせたときにとくに最高に合うと感じた。サーモンの脂の甘さと色味、そしてシャリの酸味がワインと呼応してこれは本当においしかった。

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ハウスワイン(グリ)。ややオレンジがかった色味。

続いて頼んだ赤、メダリオン ルージュも全然悪くなく、果実味がかなりくっきりとあり、スパイシーさもどこかにある南仏っぽいような味。モロッコではカリニャンやサンソーがよく栽培されているので、それらのブドウが使われているのかもしれないなあと思うような味だ。

これはアナゴと合わせたがツメの甘さとよく合って、おいしかった。かなり小ぶりのグラス&冷え冷えでの提供だったが、大ぶりのグラスで適温で供されたらもっとおいしく飲めそうなポテンシャルを感じた。おいしいワインですよこれ絶対。さすがモロッコ大使館お墨付きである。

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ハウスワイン(赤)。色はかなり濃いめだけど酸味もあっておいしい。

というわけでワインもおいしく、大満足で「すしざんまいS」を後にしたのだった。神楽坂は東京のなかでも個人的に好きなエリアのひとつ。みなさんも神楽坂にお出かけの際にはぜひ「すしざんまいS」で、モロッコワインを!

メダイヨンルージュ売ってた‼︎

 

これは白か、オレンジか!? ジョージアの「クヴェブリ発酵白ワイン」を飲んでみた。【Giuaani Rkatsiteli Qvevri】

ジョージアの白ワインを買ってみた

ジョージアのワインは赤を飲んだことがあったけど白は飲んだことがなかったな、とふと思ったので買ってみた。その名も「ルカツィテリ クヴェヴリ 2018 ギウアーニ」、と購入したカーブ・ド ・エル・ナオタカの商品ページには書いてある。

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ルカツィテリ クヴェヴリ 2018 ギウアーニを飲みました。

クヴェブリは前回ジョージアの赤ワインを飲んだときに調べたから知ってる。ワインを発酵・熟成させるために地面に埋めて使う卵形のつぼみたいなやつ。あとのルカツィテリ、と、ギウアーニはわからない。片方が生産者の名前で、片方が商標的なことだろうか。

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さて、調べてみるとこのワイン、品種はრქაწითელიであることがわかった。読めないけど。カタカナにするとრქაწითელიはルカツィテリと読み、ブドウ品種のこと。つまり商品名のルカツィテリはブドウ品種のことだった。ルカツィテリをクヴェブリを使って発酵・熟成させてる感じなんですかね。

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ジョージア語で「勉学の基礎は辛いが、その結果は甘い」って書いてあるそうです。いいこと言うなあ。

 

ジョージアの人からみると、日本語もこんな感じでエキゾチックな印象になるんだろうなあ。文化の違いって面白い。リタイアしたら言語学でも学ぼうかしら。

 

ルカツィテリはどんなブドウ? ギウアーニはどんな生産者?

さておきではこのルカツィテリ、いったいどんなブドウなんじゃろうかと調べてみると英語のwikiページがあった。それによると、この「古代ヴィニフェラ」はジョージア原産のもっとも古いブドウ品種のひとつで「紀元前3000年にさかのぼるルカツィテリのブドウの種子が粘土製の容器から発見されている」とある。すご。

紀元前3000年っつったら5000年前ですよ2021年の今からすると。中国4000年の歴史のさらに1000年前にこのブドウを栽培していた人がこの地球上のどこかにいた。どこかっていうかジョージアにいたんだなあ、すごい。

さて、となるとギウアーニは生産者ということになる。調べると綴りはgiuaaniのようだ。「ローマ字読み」的な感じなのが面白い。ともかく綴りがわかったので名前で検索すると、まずはგიუაანი მეღვინეობაのインスタが出てきた。გიუაანი მეღვინეობა=giuaaniwineryみたい。
インスタは主に「ワイナリーの四季」みたいな内容。雑誌BRUTUSとかでもし「死ぬまでに行きたい世界の奇妙な庭」特集とかがあったら載りそうな庭がいい感じで行きたい。クヴェブリと思しきつぼも確認できるし。

www.instagram.com

そんなギウアーニがあるのはジョージアはカヘティ地方のマナヴィ村。ワイン発祥の地、みたいに言われるそうですねカヘティ地方。で、その地に1894年に設立されたのがギウアーニだそう。

ギウアーニ ルカツィテリ クヴェブリを飲んでみた

でもって今回飲んだルカツィテリ クヴェブリは「伝統的な製法」で造られた白ワインであり、クヴェブリで6カ月発酵させるとある。樽で熟成させたシャルドネを俗に樽ドネというけれどもこれはクヴェブリで発酵させたルカツィテリなのでさしずめクヴェルカ。その味わいやいかに。

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地面に埋められたクヴェブリのご様子(Levan Gokadze from Tbilisi, Georgia - Flickr.com)

ということでグラスに注いでみると限りなくオレンジに近いゴールド。ピンクゴールド、くらいの色なのかなこれ。白かオレンジかって言われたらかなり微妙な色だ。

なにをどうすればこんな色になるのか。公式サイトに詳しい造り方は紹介されていないが、クヴェブリのwikiを見るとクヴェブリを使ったワイン造りは大きく3つに分かれるそうだ。

1:クヴェヴリ内でブドウの皮、種子や茎(チャチャ)とともに数ヶ月間醸す(カヘティアンスタイル)
2:ブドウのチャチャ(搾りかす)を1/10ほど、茎は除いて入れて醸す(イメレティアン方式)
3:ブドウのチャチャの茎を含む1/3を入れて醸す(両者の中間)

今回のワインはカヘティのワインなのでカヘティアンスタイルだったりするのだろうか。わからないのでまあ飲んじゃいましょう、もう。

で、飲んでみるとかなりこれ特徴的な味わいですね。香りはふんわり薬草系。マテ茶とかのエキゾチック茶っぽい味わいと香りだ。さわやか! 果実味! 柑橘! みたいなご様子はなく、ひたすら滋味深い系の薬草系のお酒を1、2滴垂らしたましたかみたいなお味。

お刺身と、とか、鶏肉と、とかじゃなくてなんかこう、スパイシーなエスニック系の煮込みと合わせて寝業に持ち込んだ場合に真価を発揮しそう(ただ、2日目は一転かなりサッパリ系に変化し、ボトルの最後は濁り気味だった)。

ちなみにギウアーニにはクヴェブリ熟成をしていないルカツィテリもラインナップにあり、そちらの商品紹介には「白い花とシトラスの組み合わせ」って書いてあって、今回飲んだワインの印象とは完全にかけ離れている。ベースとなるワインが同じかどうかはわからないけど、クヴェブリのワインへの影響が小さくないことを予感させて面白い。たしかに、冒頭に引用したルカツィテリのwikiを見ると「アロマの中にスパイシーさと花の香りを持つ、酸味が際立ってバランスの取れた白ワイン」になるって書いてあったもんなあ。

というわけで、「樽の風味」ならぬ「クヴェブリの(あるいは“チャチャ”の)風味」を感じられる、興味深い1本だったのだった。ジョージアワインは2打数2安打で個性的。まだまだ奥が深そうなので、また飲みます。

 

「全て自然派!ヨーロッパナチュラルワイン5本セット」に入ってます↓

a.r10.to

ドメーヌ・ド ・ベレーヌ ブルゴーニュ クロ・バルドを飲んでみた。【Domaine de Bellène Bourgogne 'Clos Bardot' 】

ドメーヌ・ド・ベレーヌとニコラ・ポテル

安くて良さそうなブルゴーニュのワインがないかな〜とあれこれ調べていたら良さそうなのがあったので買った。ドメーヌ・ド ・ベレーヌ ブルゴーニュ・クロ・バルド。定価3300円税込がセールで2000円台で入手でき、vivinoの評価は4.0。最近vivinoに実装されたユーザすなわち私との「マッチ度」は97%と出ている。シンクロ率97%となれば出撃一択、ということで買ったそれを本日抜栓することとした。

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ドメーヌ・ド ・ベレーヌ ブルゴーニュ クロ・バルドを飲みました。

さてこのワイン、ニコラ・ポテルという造り手が手がけるワインなのだそうだ。知らない。ということで名前で検索してみるとニコラ・ポテルは1969年生まれのニコラ・ポテルさんが1996年に設立したメゾンなんだけど、2004年に売却、2008年には自分の名前を冠した会社を去った、とある。去っちゃった。

メゾン・ニコラ・ポテルは今も存続しているが、じゃあニコラ・ポテル本人はどうなったのか。調べると、タカムラワインハウスのサイトの本人来日イベントのページにわかりやすい説明があった。現在、ニコラ・ポテル絡みのブランドは4つあるようだ。

【1】ドメーヌ ・ド ・ベレーヌ >ニコラ・ポテルのドメーヌもの。
【2】ロッシュ・ド ・ベレーヌ>ニコラ・ポテルのネゴシアンもの。
【3】コレクション・ベレナム>ニコラ・ポテルが他生産者のワインを瓶買いしたもの。
【4】ニコラ・ポテルと名のついたもの>2008年以降ニコラ・ポテルは関わっていない。

うむ、なるほどよくわかった。「ニコラ・ポテル」と名がついたもの以外はニコラ・ポテルが関わっているということですね。わかりやすわかりにくい。ロバート・モンダヴィ・ワイナリーがロバート・モンダヴィと関係ない的な資本主義社会あるある。いずれにせよ、ニコラ・ポテルはドメーヌ・ド・ベレーヌとロッシュ・ド・ベレーヌを率いており、私が購入したのはドメーヌ・ド・ベレーヌだからニコラ・ポテルが自社畑のブドウで造ってるんだろう多分。

で、ドメーヌ名の「ベレーヌ」ってなに? となるのだが、公式サイトに答えがあった。ドメーヌ ・ド ・ベレーヌの本拠地はボーヌ。ボーヌは、紀元1世紀に太陽の神ベレヌスにちなんでベレーナと呼ばれ、ベレーナ、ベレーナ、ボレーナ、ボレーヌ、ボーヌ(途中適当です)……みたいな伝言ゲーム的な感じに名前が変遷していった経緯があるのだそうだ。東京でいえばドメーヌ ・ド ・トキオ、みたいな感じですかねわかんないけど。そしてTOKIOにはダッシュ村でワイン造ってほしい関係ないけど。

ドメーヌ・ド ・ベレーヌのワイン造り

さて。ではこのニコラさん、どんなふうにワインを造っているのだろうか。公式サイトに詳しく記載されているので見ていこう。赤ワインの場合、収穫されたブドウの4割ほどを除梗し、残りを「丸ごと収穫」にするとある。うん、おかしいなここ。翻訳が変だなどう考えても。「vendanges entières」って書いてあるな、原文には。これどうやら全房を使うってことみたいですね。4割は除梗、残りは全房を使う。するとどうなるか……は私にはさっぱりわからないがともかくそうなんだそうです。

その後、ステンレスタンクやオークの古樽で20〜25日間、最高32度の温度で発酵。プレスして、1年以上オーク樽で熟成されるようだ。

ドメーヌ・ド ・ベレーヌ ブルゴーニュ クロ・バルドの位置情報

さて、公式サイトにはそれぞれのワインのヴィンテージごとのデータシートが完備されていて、しかも畑の緯度経度まで記載されている。これである。

47°05’50.92”N 4°54’56.73”E

と、言われましてもなので、さっそく上の座標をグーグルマップにコピペしてみると、畑の場所が示された。今夜私が飲むワインが収穫されたのはこの畑だっ。

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コンブランシアン寄りのコルゴロアンに今夜飲むワインの畑はあるみたい。

クロ・バルドは地図上はコンブランシアンに近いけど行政区分的にはコルゴロアンになるみたい。コート・ド ・ニュイ最南端の村ですよねコルゴロアンって。たしか村名は名乗れないけどコート・ド・ニュイ・ヴィラージュは名乗れるとかじゃなかったかな。広域名ブルゴーニュ+畑(区画?)名なのはなんでなんだろう。どなたか教えてください。

難しいことはわからないので放置し、続いてはストリートビューで畑を見てみよう。いざ行け、ペグマン!

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地図上の座標をストリートビューで眺めてみる。いい天気ですね。

やだ……You、輝いちゃってるじゃない! 位置的には写真で見える「この畑」より奥の区画っぽいけどまあそれはそれ。なんかこう、良さそうな畑だなあという印象で嬉しい。「今日飲むブドウが獲れた畑」をストリートビューで眺めてから飲むの楽しいのでオススメです。ともかく上掲の画像らへんで収穫されたブドウ を使い、2017年に4200本造られたワインのうちの1本を今から私は飲もうと思う。ブドウはピノ・ノワール100%。1936年に植えられた古樹だそうです。

ドメーヌ・ド ・ベレーヌ ブルゴーニュ・クロ・バルドを飲んでみた

「なんで蝋キャップなんか使うんだよ。滅びよ、蝋キャップ!」とか言いつつ蝋キャップをボロッボロにしつつなんとか開栓してグラスに注いでみると、うーん、いい香り。私には「ピノ・ノワールの香り」としか言いようのない香りがする。そしてグラスに注ぐと、うーん、明るいルビー色。まさにブルゴーニュピノ・ノワールに期待する色。そして飲んでみるとこれぞまさしくブルゴーニュの……ってしつこい。自分だけど。

なんですかねこれは。ものすごく優等生的な、5段階評価の5がひとつもないけど3もひとつもない的なスペックを感じる。いわばシーズン成績で打率.271、本塁打8本、32打点の守備も走塁もソツなくこなす三塁手みたいな印象だ。どこにも不満はないし贅沢は言わないけどせめてホームラン2桁打ってくんないかなみたいな選手、じゃなかったワインであった。

2000円台で買えるのを前提にすれば、とても良いワインだったように思います。

購入はカーブ・ド ・エル・ナオタカ。2月25日までポイント10倍をやってるので実質2000円台で買える。

 

誕生から145年! G.H.マム「コルドン・ルージュ」を飲んでみた。【G.H.Mumm Cordon Rouge】

G.H.マムの“CEO”の名前をご存知か

シャンパーニュ、G.H.マム社のCEOの名前をあなたは100%の確率で知っている。え、知らないけどと思うかもしれないが、知っているのだ。その名はウサイン・ボルト。人類200万年の歴史上もっとも足が速い人物であるボルトは、2016年にG.H.マムのCEOに就任している。ただしChief Entertainment Officerね。内閣掃除大臣みたいなもんですかね。ダジャレかよ。ちなみに2019年にはボルトとコラボしたシャンパーニュ「マム オランプ ロゼ」もリリースしてるみたい。以上、ワインバー等で使えるタイミングでお使いいただきたい小ネタのコーナーを終える。

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G.H.マム コルドン・ルージュを飲みました。

さて、シャンパーニュに24あるグランドマルクのスタンダードシャンパーニュを飲む企画もボランジェ、テタンジェ、ルイ・ロデレール、ポメリーときて5回目。今回はG.H.マムのコルドン・ルージュを飲んだ。

G.H.マムの歴史

G.H.マムは1827年ドイツ出身の三人兄弟が設立。1852年に三兄弟の一人、ジョルジュ・エルマン・マムが会社を引き継いだ際に頭文字に由来してG.H.マムとなった。

赤いリボンが有名なコルドン・ルージュはレジオンドヌール勲章受賞者に授与される赤い綬からヒントを得たのだそうだ。

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左がレジオンドヌール勲章。右がウサイン・ボルト。何の関係もないようで、実はどちらも「マム」とつながる。

レジオンドヌール勲章はナポレオンが制定した、フランスの最高位勲章で、「綬(じゅ)」っていう言葉の意味もついでに調べると、「勲章・法相・記章などをさがるひも。また、勲章の種類」だそうだ。勉強になる。

ここまでがwiki情報。続いて公式サイトを調べてみよう。

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G.H.マムとブドウ調達

面白いなーと思ったのは、マムと生産者の関係。なんでもマムは、「未発酵のジュースではなく、(中略)直接ブドウを購入する」ようにしたんだとか。それによってブドウの品質を確認し、果汁を自分たちで搾ることができるようになった。それは、「当時としては前例のない供給方針」だったのだそうだ。

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1879年のティラージュ(瓶詰め)の様子。このあと瓶内二次発酵するわけですね。

オーパス・ワンをつくったロバート・モンダヴィも地元の農家と交渉して高く買うからとにかくブドウの質を上げてくれと言いまくったと自伝に書いてあるけれど、伝説的なワインの背景にあるブドウ農家との交渉話がプロジェクトX感があって私は好き。

シャンパーニュの歴史を調べていくとA社がXを導入し、B社がYを開発し、C社がZを発見し……みたいなことが重なり合って、品質が螺旋的に向上していく様子が見られて大変面白い。マダム・クリコがデゴルジュマンを編み出し、マダム・ポメリーがブリュットを開発し、マムはシャンパーニュでジュースではなくブドウを買った!

 

G.H.マム コルドン・ルージュはどんなワインか?

さて、1876年に誕生したコルドン・ルージュは、ピノ・ノワールを中心に、シャルドネ、ムニエをブレンドし、セラーで20カ月以上熟成して造られるというキュヴェ。そしてどうやら145年前は実際にリボンがかかってたみたいですねこのボトル。1881年から、ボトルにリボンがデザインされるようになって今に至るようだ。

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1923年の広告。コルドン・ルージュは「トレ・セック」って書いてある。当時は残糖が多かったとかなんでしょうか。教えて詳しい方。

使われているブドウ比率はピノ・ノワール45%、シャルドネ30%、ムニエ25%。以上のようなところで調査を終え、飲んでみることとしよう。

 

G.H.マム コルドン・ルージュを飲んでみた

というわけで、今週も無事に日曜日を迎えられたことを祝してマム コルドン・ルージュを開けることとした。安いワインではないので、本来は誕生日やらなにかの記念日やらに開けるべきなのかもしれないが、誕生日やらなにかの記念日はすでにしてめでたいハレの日。シャンパーニュを抜栓すると、その辺に転がってる駄日曜日が誕生日・記念日格に格上げされるので大変お得だ。AOC日曜日がAOCシャンパーニュを飲む日・グラン・クリュに格上げされるみたいなイメージ。なので週末はシャンパーニュを飲むべきなんだそうなんだと己に言い聞かせて贅沢しちゃう次第だ。

グラスに注いでみるとうーん美しい。非常にキレイな黄金色。ギラギラ派手な、ラッパーが首にかけてるブリンブリン的な金ではなくて、すごく滑らかで少しだけマットな金のプレートのような落ち着いた金色の液体。身長1センチくらいの小人がグラスの底で必死にストローから息を吐いてるみたいな非常に細かい泡が立ち上がってくる。香りは、おお、パンっぽい。

そして飲んでみるですね。これは私が飲んだシャンパーニュ史上もっともパン。クラッカーの上に薄く切ったペコリーノロマーノを乗せたやつを食べてたんですけどそれと合わせるとさらにパン感が高まる。

泡は見た目通りにめちゃくちゃ細かく、プチプチ系ではなくシュワシュワ系。そしてフレッシュな果実味というよりも甘さ控えめに煮たリンゴとパン的なコクのある味わい。私は過去飲んだなかではテタンジェの三角定規の頂点みたいなとがった酸味が一番刺さったのだが、味の方向性としては真逆っぽいこのコルドン・ルージュも非常においしかった。

シャンパーニュのグランドマルクのスタンダードシャンパーニュ完全制覇まで残りは19メゾン。2022年中の完走を目指して、のんびり続けていきたい。サロンどうしようマジで(金額的な意味で)。

※本記事中の写真は一番上のものは©️ヒマワイン。残りはパブリックドメインです。

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセ「ブエナ・ピンタ」を飲んでみた。【Bodegas y Vinedos Ponce Buena Pinta】

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセ ブエナ・ピンタと私

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセ ブエナ・ピンタを飲んだ。先月なぜか突然スペインワインが気になりだし、なにかオススメがあれば教えてくださいとお願いしていたところ、ワインブロガー・KOZE氏よりオススメいただいたのがこのワインだ。

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ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセ ブエナ・ピンタを飲みました。

私はおいしいワインを知らないが、おいしいワインを知っているお友だち(主観)はいる。他人のふんどしでハッケヨイのこった状態でホント恐縮だがありがたい話である。KOZEさんありがとうございます。

このワイン、もともとはちょうど1年前くらい前に開催された「モトックスワールドワインフェスティバル 20春」なるイベントで見つけたワインだったのだそうだ。今年はコロナ禍で開催されないようだがモトックスが輸入する200ものワイン飲める一大試飲会なのだそうでうらやましすぎるなこれ。行きたかったなあ。コロナが終息したらぜひ復活をお願いしたいイベントだいきなり余談だけど。

 

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセラ・マンチャ

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセはどんな生産者か。まずは輸入元のモトックスのサイトでざっくり把握してみると、マイナー産地のD.O.マンチュエラでマイナー品種のボバルを用い個性的なワインを生み出すスペインワイン気鋭の造り手、みたいな感じみたい。

ワイナリーが位置するのはスペイン中央部のカスティーリャ・ラ・マンチャラ・マンチャといえばドン・キホーテだがラ・マンチャってそもそもなんだっていうと、アラビア語で「乾いた土地」を意味する言葉なんだとか。知識は荷物にならないので是非持ち帰っていただきたい。ラ・マンチャは「乾いた土地」です。

ラ ・マンチャの造り手の話を別の輸入元の方に聞いた折、「とにかく暑い土地なので灌漑をしないと自然に収量が落ちる(≒いい感じのブドウになる」みたいなことを言っていたが、ボテガス・イ・ビニェードス・ポンセも灌漑を行っていないのだそうだ。ラ・マンチャは灌漑をするとバルクワイン用ブドウが大量にでき、しないといい感じのブドウが実る土地(雑な理解)。

 ラ・マンチャのワイン。これはとてもおいしかった↓

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さて、スパニッシュワインラバードットコムなるサイトによると、醸造家、フアン・アントニオ・ポンセの目指すのは、「メイクアップなしのクリーンでピュア、シンプルでダイレクトなワイン」なのだそうで、「台地のなかの台地」だという標高の高い石灰質土壌を生かし、化学物質を使わない栽培をしているようだ。

輸入元のモトックスのサイトによれば、ワイナリーには「必要最小限の設備しかないセラー」しかないと記述があるが、スパニッシュワインラバードットコムによれば2017年に「広々とした機能的なワイナリー」を新設し、それは「質的な飛躍を意味する」とある。今回飲むワインのヴィンテージは2017なので、あら楽しみじゃない。

 

謎の品種モラビア・アグリアとブエナ・ピンタ

以上のように調査が進むほど期待が高まっていくわけだが今回飲んだ「ブエナ・ピンタ」の問題は品種だ。メイン品種が「モラビア・アグリア」なんですよ。知ってますかモラビア・アグリア。知らないですよモラビア・アグリアは普通。moravia agliaで検索してもなんにもヒットしないもの。

もちろん検索結果はあるんだけど、どんなブドウかを示す資料が全然ない。カタカナで検索するとブエナ・ピンタのページが表示されたときの私の気持ちは「アンサイクロペディア たらい回し」で検索していただくと理解していただけるだろう。

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アリアニコの綴りがaglianicoで、アリアニコの名前の由来はラテン語の「ヴィティス・ヘレニシア(vitis hellenicia、ギリシャのブドウ)」がなまったもの。かつモラビアチェコの地方名(かつてのモラヴィア王国)という検索結果があったから、「チェコらへんで栽培されてたギリシャ由来のブドウでアリアニコの親戚」みたいな強引な仮説が立てられなくもないけどどうにも無理がある。アリアニコのシノニム一覧にもアグリアの名前はないし。

お手上げなので詳しい方教えてください。わかったのは前出のスパニッシュワインラバードットコムによる「酸度の高い品種」であるという点だけだった。

ともかくそのブドウをメインに、ガルナッチャを10〜20%加えて作るのがブエナ・ピンタのようだ。ブエナは「良い」。ピンタは「見た目」。ルックスグッドとかサウンズナイス的な意味っぽい。どんな味か、いざ飲んでみよう。

 

ボデガス・イ・ビニェードス・ポンセ ブエナ・ピンタを飲んでみた。

というわけで抜栓してみると、香りがすごくて驚く。子どものころ、自宅にお中元かなにかが届き、すわ甘いものの類かと親にねだって開封したら花の香りの石鹸の詰め合わせだったときに失望とともに鼻腔を満たしたいい香りってあるじゃないですか。あれ。石鹸の匂いがするわけではないが、封印を解かれた瞬間に香りが溢れ出す様子が似ている。

かつてあった私の実家の庭にはスミレが自生していたのだが、その頃に嗅いだようなスミレとか、タンポポとかの春を告げる野草系のワイルドいい香り。あふれてんなあ、野趣。2000円台前半の香りでこれだけ香りの量が多いのってなかなかない感じがする。ルックスグッドっていうかサウンズグッドっていうかスメルズグッド。

飲んでみると、意外と果実味は主張せず酸味を中心に渋みもキリッと効いてる。でもって意外と薄い。ピノ・ノワールです。って言われたら「そうですか。」って私は確実に言う感じの薄さで、パワフルっていうより上品な感じだなこのラ・マンチャの地品種。まさかの薄うま。アルコール度数も「12%以上13度未満」と軽めだし。

というわけでボデガス・イ・ビニェードス・ポンセはブエナ・ピンタは香りが非常に良くて大変楽しめるワインだったのだった。いつか上位キュヴェも飲んでみたいなー。

探せば1000円台でも買えるっぽい↓

テ・テラ ピノ・ノワールはどんなワイン? ワインについて調べたことと味の感想【Te TERA Pinot Noir】

3000円以下のピノ・ノワールと私

3000円以下のおいしいピノ・ノワールを私はいつも探している。比喩的表現ではなく本当にほぼ日課として探しており、具体的にはネットショップなどで価格帯・品種指定で検索し、片っ端からvivinoの口コミ点数を調べる、というとても他人にはお見せできない地味な作業を行なっている。これが俺のテレワーク……!

人生には残念ながら限りがあって、42歳の私が仮に80歳まで元気に2日に1本ペースでワインを飲めるとしても飲めるワインはたったの6935本に過ぎない。少ない! もっと飲みたい! というわけで6935分の1をおろそかにできるわけがなく、かつワイン購入のための手元資金もニホンウナギの稚魚を思わせる有限っぷり。悲しい。

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マーティンボローヴィンヤード「テ・テラ ピノ・ノワール」を飲みました。

以上のような理由から3000円以下のおいしいピノ・ノワール調査作業を私は意外な真剣さでやっており、おかげさまでおいしいワインと多数出会えてハッピーなのだが今回は中でも久しぶりに大きめの当たりとなった1本をご紹介したい。飲んだのはニュージーランドマーティンボローヴィンヤードの「テ・テラ ピノ・ノワール」である。

 

マーティンボローヴィンヤードとは

どんなワインか、とりあえずカタカナでマーティンボローヴィンヤードを検索してみると輸入元のラックコーポレーションのサイトがヒットし、「そこにはNZピノの素晴らしさを世界に知らしめたパイオニア」とあった。調査をスタートしていこう。

himawine.hatenablog.com

マーティンボローヴィンヤードは、1979年に国立土壌局の調査によりブルゴーニュとの気候的・土壌的類似性が認められ、その調査を担当した博士が翌年その土地にワイナリーを設立したのが起源なのだそうだ。博士行動力ありすぎ。「調べた博士が惚れ込んで設立した」っていうストーリーがまず良い。

博士の目に狂いはなかったようで、マーティンボローヴィンヤードのワインは1997年にロンドンのインターナショナル・ワイン・チャレンジで世界で最高のピノ・ノワールに贈られる賞を受賞するなど成功を収める。最初にブドウの木を植えてから20年足らずで世界の頂点に立つんだから本当にいい土地だったんだね感がある。

 

「テ・テラ ピノ・ノワール」はどんなワインか

ここで公式サイトに情報の出元を変えて見てみると、マーティンボローが位置するのはニュージーランド北島の南端。土壌は水はけが良く、降雨量は少なく、日中暖かく、夜涼しく、秋は乾燥して長いのが特徴だそうで、結果、「伝統的な冷涼気候のワインを栽培するのに最適な産地」なのだそうだ。いいじゃないの。

今回飲んだテ・テラはニュージーランド先住民族マオリ族の言葉で「もうひとつのもの」を意味し、樹齢の若い木からとれたブドウで造られるワイナリーのエントリーワイン的な位置づけ。ショップページをみると、このワインの価格は6本で153NZドル。1本あたり25.5NZドルで、日本円で約1934円。私の購入価格は2552円税込なので価格も非常に優秀だ。

 

himawine.hatenablog.com

購入したトスカニーの商品ページによれば、平均樹齢18年のブドウ樹から手摘みされたブドウは小型開放タンクで自生酵母により発酵。新樽率15%の樽で7カ月熟成後、フィルターをかけずに瓶詰め。年間生産量は約7万本のようだ。なんというか、そこはかとなくナチュラル感のある造りっぽいですね文字情報だけを見ると。

さて、いよいよ飲んでいくわけだが新世界のピノ・ノワールをグラスに注ぐとき、どこか祈るような心境になるのは私だけだろうか。向こうが透けないド紫で「ピ、ピノ・ノワール! お前、いったいどうしてこんな姿に……!? 」みたいになるワインもあるわけですよ。なんじゃこりゃ。ウェルチかよ。とか言いながら悲しみの6935分の1を消化しているちょっぴり切ない夜がある(このブログはワイン批評ブログではなくレコメンドブログなのでおいしかったやつだけご紹介してます)。果たしてこのワインはどうか。

 

マーティンボローヴィンヤード「テ・テラ ピノ・ノワール」を飲んでみた

祈りの気持ちとともにテ・テラのスクリューキャップをくるくる回してグラスに注いでみると、実にいい感じのルビー色なんですよいきなり。実にいい色。「お前 見込みあり」って地獄のミサワみたいな顔でいいたくなる(『お前 見込みあり』で画像検索してみてください)。

そして香りが非常にいい。花のような果実のような私のなかで「ピノ・ノワールってこういう香りであってほしいなあ」と思う香りがちゃんとする。香りで生ハム2枚食べられる。ウナギ焼く香りでごはん2膳いけるみたいな文脈で。いいピノ・ノワールは香りが本体。その上でこのワインは、ニュージーランドと聞いてイメージするような大草原を思わせる草の香りも最初にして、それがまたいい。まさにいい香りすぎて草。

で、飲んでみるとこれがなんていうんですかね果実味がやや強いブルゴーニュピノ・ノワールみたいな印象で非常においしい。これ以上果実味が強いと甘過ぎ、これ以上酸っぱいと酸っぱすぎってなるギリギリの甘酸っぱさ。アルコール発酵後に砂糖とか調味料で味付けっていうことをしないのがワインという飲料だと思うけど、そのやり方でよくぞまあこんなギリギリのバランスが造れるもんだ。醸造家ってのはすごいもんだわと感心しちゃう味だ。

最近ではTwitterやらClubhouseやらでおいしいワイン情報を得たり、オススメワインを教えていただけたりといった機会が格段に増え、おかげで非常に充実したワインライフを送ることができているが、脈絡のないところから探して出会ったワインがおいしいと、それはそれで嬉しいものだ。この土壌を調査した博士に「お前 見込みあり」と私は言いたい嘘ですありがとうございます博士。

というわけでテ・テラ ピノ・ノワール、大変おいしいワインだったのだった。オススメです。

hb.afl.rakuten.co.jp

日本ワイン144年史。シャトー・メルシャンを飲んで国産ワインの歴史に想いを馳せた話

日本ワイン144年史とシャトー・メルシャン 椀子シャルドネ

目の前に一本のボトルがある。シャトー・メルシャン 椀子シャルドネだ。メルシャンといえば国産ワイン大手。椀子ワイナリーは優れたブドウが採れるその自社畑であるはずだ。

そのワイナリーの名前を冠した国際品種の白ワイン、果たしてどんなワインなのだろうか……と調べはじめて気がついたが、私はメルシャンのことをまったく知らない。

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シャトー・メルシャン 椀子シャルドネを飲みました。

というわけで、シャトー・メルシャンの公式サイトを訪ね、手始めに「HISTORY」のページを開いてみた。

それが、日本ワインの144年史をひもとくことになるきっかけだった。

ここから先はガッツリ歴史の話だ。歴史に興味がない人は読まないほうがいいレベル、弊ブログのいつもの感じ(『このワイン樽ドネっていうよりたる☆どね! って感じだよね!』 みたいなの)とは大きく異なるトーンになることを、最初にお断りしておく。

シャトー・メルシャンと空白の72年

さて、シャトー・メルシャンのHISTORYページには、今日に至るシャトー・メルシャンの歴史年表を見ることができる。その歴史は、こうはじまる。

1877 大日本山梨葡萄酒会社 設立
1949 甘味料を混ぜない本格ワイン「メルシャン」誕生

私は思った。「72年飛んでますけど?」と。この間なにがあったんだろう。

気になる。

私、気になります!

というわけで調査開始である。

まずメルシャンのwikiを見てみると、そもそもメルシャンがメルシャンブランドを傘下に収めるのは1961年。日清醸造株式会社を吸収合併した年であるようだ。シャトー・メルシャンの年表だと1949年に「メルシャン誕生」が記されているから、メルシャンがメルシャンブランドを取得したのはシャトー・メルシャンの年表で示されているより後ということになるわけだ(わかりにくい)。日本醸造という聞き慣れない社名も出てきた。

わからないことは先送りして、ともかくメルシャンのwikiからは1877年から1949年間の事情を知ることはできなかった。

となると、72年の空白を埋めるために差し当たり私が知りたいのは、「大日本山梨葡萄酒会社がその後どうなったのか?」だ。

「大日本山梨葡萄酒会社」で検索してみると、今度はサントリーの公式サイト内の「日本ワインの歴史」というページがヒットした。

大日本山梨葡萄会社と高野正誠と土屋竜憲。そして宮崎光太郎

そこには衝撃の事実が記されていた。大日本山梨葡萄酒会社は設立から9年後の1886年に早くも解散しているというのだ。

えっマジ。メルシャンの前身問題どうなっちゃうんだこれ。メルシャンはキリンホールディングス傘下でサントリーとは関係がないためサントリーのサイトにメルシャンについての記述は当然ながらこれ以上はない。ただ、同記事には、その先の手掛かりになりそうなこんな記述があった。

1877年(明治10年)、日本初の民間ワイン醸造所が設立されます。 それが、「大日本山梨葡萄酒会社」(メルシャンの前身)です。 この会社から、高野正誠と土屋龍憲(※サイトの表記は竜憲)という二人の若者がフランスに派遣され、本場のワイン醸造技術を二年間学びました。
フランスから帰国した二人は、宮崎光太郎と共にワインの醸造を始めました。

3人の人物の名前が出てきた。きっと、彼らがのちのメルシャンへとつながる糸を握っているはず。

読み進めると、その後土屋龍憲と宮崎光太郎は甲斐産葡萄酒醸造所を設立し、さらにその後土屋はマルキ葡萄酒(現・まるき葡萄酒)を設立したとある。

どうやらメルシャンにつながる糸は大日本山梨葡萄酒会社から甲斐産葡萄酒醸造所に引き継がれたようだ。余談だが、「日本ワインの父」と呼ばれる川上善兵衛にワイン造りを教えたのはこの土屋龍憲だったようだ。さしずめ日本ワインのグランドファーザーといったところ。

 

甲斐産商店と宮崎光太郎未来人説

さて、その設立メンバーである「宮崎光太郎」とは何者か。名前で検索すると、メルシャンの親会社であるキリンの公式サイト内の「日本のワインのパイオニアたち」という記事がヒットした。

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宮崎光太郎。たぶん未来からきた男。

宮崎光太郎は、1877年設立の大日本山梨葡萄酒会社の設立発起人の一人の長男。本来は高野、土屋両名とフランスに行くはずだったのが、「一人息子だから」と父の猛反対にあい泣く泣く諦めた、という人物だ。

この人には商才があったようで、土屋龍憲とともに甲斐産葡萄酒を売る会社「甲斐産商店」を東京・日本橋1888年に設立すると、ワインのラベルに大黒天をデザインし、広告にも大黒天のイラストを起用、いまでいうブランディングを行って拡販に成功すると、薬用として病院へも販路を拡大、明治天皇の御大婚25年式典に献上するなどして、ブランドの名前を高めることに成功していったようだ。優れた営業マンであり、マーケターでもあるって感じ。

1892年、宮崎は勝沼の自宅に「宮崎第一醸造所」を開設。1912年には隣接するブドウ園と合わせて「宮光園」として公開、1913年の国鉄中央本線勝沼駅(JR勝沼ぶどう郷駅)開業に合わせてブドウ醸造所見学を行う観光事業を企画したとある。

これちょっとすごすぎませんか。東京からワイナリーを訪問してブドウを食べ、ワインを飲み、温泉に浸かって帰る。130年前にワインツーリズムを提案してたとか先見の明があるどころの話じゃなくて宮崎光太郎タイムトラベラー説まであり得るレベル。転生したら宮崎光太郎だった……!?

 

大黒葡萄酒株式会社と第二次世界大戦。そして日本連抽株式会社

さて、1922年には国産スパークリングワイン「オーシャン」を発売するなどなんだかんだ順調に発展した甲斐産商店にも時代の荒波が押し寄せる。世界恐慌の煽りを受けて販売不振に陥ると、経営を立て直すため大黒葡萄酒株式会社へ改組(のちにオーシャン株式会社に改称)される。

キリンのページはここで終わり。では、その後はどうなったか。この後第二次世界大戦へと突入していくというなかで、大黒葡萄酒の歴史、というか日本のワイン造りの歴史は記録が極端に減る。ほとんどの記事がこのあといきなり戦後。

いろいろ探すなかで、「日本のワイン」のwikiにこんな記述を見つけた。

第二次世界大戦中にワイン製造の際の副次品である酒石酸から生成されるロッシェル塩結晶が兵器(音波探知)の部品になるとして、国内でぶどう酒醸造が奨励され、大増産された

なんと……ワインから兵器(ソナー)が生まれていたとは……! そして、酒石酸から生成されるロッシェル塩を抽出することを業とした会社、日本連抽株式会社の設立に、前述の宮光園が関与していたようだ(宮光園wiki)。

さらに調べると、甲州市が策定した甲州市歴史的風致維持向上計画」のPDFを発見した。それによれば、当時のスローガンは「ブドーは科学兵器」だったそうだ。ワインの近現代史には、ワインが戦争に使われた悲しい歴史があるんだなあ。ブドーは飲み物、そうでなければ食べ物である。このあたりの事情は、日本ワインにとってはPRすべきでない負の歴史扱い、なのかもしれない。

 

戦後。日清醸造と三楽酒造。そしてメルシャン株式会社

さて、戦後、日本連抽株式会社は日清醸造となる。M&A Onlineの記事『宮光園、ワイン産業に浮かびくる「秘数3」|産業遺産のM&A』によれば、大黒葡萄酒も日清醸造も「同じ宮崎光太郎の生家の敷地内で始まった」とある。そして、その日清醸造が1949年に発売したワインが、「メルシャン」だ。

1877年から72年。大日本山梨葡萄酒会社からメルシャンへと、ようやく歴史の糸がつながったことになる。長かった……。

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1949年発売の「メルシヤン 」。甘味料を加えない“本格ワイン”だ

その後、日清醸造は味の素の創業者の次男である鈴木忠治が設立した会社、昭和酒造株式会社(1949年三楽酒造株式会社に社名変更)に1961年に買収される。三楽酒造は1962年にオーシャン(大黒葡萄酒)を買収し、1990年に「メルシャン株式会社」と社名変更、今に至る。キリンホールディングス傘下の国内最大手ワインメーカーであることは説明する必要がない。

1949年の「メルシヤン」発売からさらに72年。大日本山梨葡萄酒会社設立から144年。二人のフランス語を一言も話せない若者二人が三等客室に揺られて渡仏してから1世紀以上の時を経て、2021年の今はある。

 

日本ワイン144年史とシャトー・メルシャン 椀子シャルドネふたたび

目の前に一本のボトルがある。シャトー・メルシャン 椀子シャルドネだ。さっきからずっと私の目の前に置いてあるわけだが、以上のような歴史を知る前とはまったく違うボトルに見えるから不思議だ。

大日本山梨葡萄酒会社、甲斐産商店、大黒葡萄酒株式会社、日本連抽株式会社、日清醸造、三楽酒造、オーシャン株式会社、メルシャン株式会社、宮光園と宮崎光太郎……、いったいどれだけの人が関わった果てにこの1本はあるのだろうか。我々消費者にはなんの関係もない話だけれど、ワインはそんな歴史の重みも味になる。

テイスティングコメント云々は、今回は語るだけ野暮だろう。日本ワイン144年の歴史に乾杯である。

 

<参考サイト>
・SUNTORY「日本ワインの歴史」
https://www.suntory.co.jp/wine/nihon/column/rekishi01.html

・キリン歴史ミュージアム「歴史人物伝」
https://www.kirin.co.jp/entertainment/museum/person/wine/09.html

・シャトー・メルシャン 「ヒストリー」
https://www.chateaumercian.com/aboutus/history/

M&A Online「宮光園、ワイン産業に浮かびくる「秘数3」|産業遺産のM&A
https://maonline.jp/articles/miyakouen?page=3

 ・wikipedia「メルシャン 」「日本のワイン」「宮光園」

・ジャパニーズウイスキーデータベースwiki

https://w.atwiki.jp/jwhisky/pages/26.html

甲州市歴史的風致維持向上計画

 

戦時中の葡萄酒製造の歴史は今回調べきれなかった感がある。いずれ国会図書館とか、山梨現地取材とかでガッツリ調べたいところ。