ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

これはすごいぞ。うちゅうブルーイング「アトム マンゴー」を飲んでみた。【Uchu Brewing ATOM Mango】

※今回はワインの話ではなく、ビールの話です。

名古屋「酒の岡田屋」でうちゅうブルーイングと初遭遇

名古屋に日帰り出張に行ってきた。

出張に行ったらその土地のワインショップやワインが飲めるお店に行きたくなるのがワイン好きというもの。というわけで、名古屋駅周辺の酒屋を検索してみると、「酒の岡田屋」というお店がヒットした。

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「酒の岡田屋」のご様子。いいお店。

名古屋駅から5分くらい歩いた繁華街の一角にある酒の岡田屋は近代的な街並みにあって昔ながらの酒屋の風情。それでいて、クラフトビールやワインなどにも力を入れているという非常にいい感じの酒販店。入店してなんとなくビールコーナーを眺めていると、おお、私でも知ってる「うちゅうブルーイング」のビールが売っている。

 

うちゅうブルーイング「アトム マンゴー」を買ってみた

店員さんが親切に接客してくれたのだが、うちゅうブルーイングのビールは人気で、入荷すると1日か2日で完売してしまのだとか。そして「ATOM」と書かれたそのビールはまさにその日に入荷してきたのだそうだ。え、ラッキーじゃないの。

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アトム マンゴー、たまたまたくさん売られてるの図

正式名称は「アトム マンゴー」。私はビールに関する知見がないので知らなかったのだが店員さんいわく“サワー”と呼ばれる酸味の強いタイプなのだそうだ。なるほど缶には「TROPICAL SMOOTHIE SOUR」と書いてある。

せっかくなのでそれを1本。岡田屋は自社ブランド「ワイマーケットブルーイング」のビールにも力を入れているとのことなので、その「ヒステリックIPA」も1本(とてもおいしいIPAだった)。計2本を購入することとした。価格は2本で1500円ちょい。え、意外と高いな。後で調べたら「アトム マンゴー」は税込1136円(350ml)とかするようだ。高いっていうかなんかすげえ。350mlのビールで1136円なんていう世界があるのか……!(無知)

ここから先は余談だが、酒の岡田屋さん、スタッフの方々が非常に親切。クラフトビールコーナーはもちろん、日本酒コーナーもちょっと尖ったラベルの面白そうな酒が並び、ワインコーナーも面白い品揃えだった。聞けばソムリエの方もいるそうだ。近隣の飲食店情報なども快く教えてくれて、とても楽しく買い物できた。名古屋に来たら酒の岡田屋さんですよ、みなさん(勝手に宣伝)。

 

うちゅうブルーイングはどんな生産者か

うちゅうブルーイングについて調べてみると、「宇宙農民」という名前で2009年から無農薬での米や野菜づくりをスタート、2017年に山梨県北杜市醸造所をDIYで建設、今に至る、みたいな感じなようだ。なんでも視察で訪れたアメリカ西海岸でクラフトビール文化に感銘を受け、ホップ栽培を開始したという。

クラフトビールに関するWEBメディア「クラフトビールタイムス」によれば、うちゅうブルーイングが得意とするのはヘイジーIPAというスタイルなのだそうで、ヘイジーIPAとはなにかといえば、「IPAなのに苦味のないソフトな味わい」「ホップの爆発的なフレーバー」「向こう側が見えないほどの液体の濁り」が特徴なのだそうだ。ほえー。IPAって、インドにビール運ぶのに劣化を防ぐためにホップをたくさん入れたやつとかだったはず(調べずに書いてます)。なのに苦くないってどういうことなんだろう。

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原材料名の先頭には「マンゴー果汁(インド産)」の文字。こんなビール初めて。

ただ、今回購入した「アトム マンゴー」にはIPAという表記はない。大きなくくりだとサワーエールという分類になるのかなわかんないけど。これまたクラフトビールタイムスによればそれがなにかといえば「すっぱいビール」なんだそうで、アルコール発酵と同時に乳酸菌発酵も同時に行われるのが特徴とある。そして、このサワーエールにフルーツを加えたビールを「フルーツサワー」といい、それは「近年のクラフトビールブームにおいて、最も流行している」スタイルなのだそうだ。なかでもフルーツスムージーサワーはフルーツを大量に使ったトロトロ感が魅力、みたいなことのようだ。

このあたり本当にわからないで書いてるので、間違っていたらぜひご指摘ください。

 

うちゅうブルーイング「アトム マンゴー」を飲んでみた

さて、ここで話は私が購入した「アトム マンゴー」に戻る。ちょうど自宅にクラフトビール好きの友人が来る予定があったので、そのタイミングで開けてみることとした。

グラスに注いで本当に驚いた。外観は完全にマンゴージュース。ビール感ゼロ。ビールだと思って注いだら中からマンゴージュースが出てきて本当に驚いた。これがビールの最前線か!

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これが……ビールなのか!?

そして、飲んで驚きは2倍になった。うっま!!!!!

私が知っている苦味と旨みが主体のビールとはまったく違う。最初に来るのは見た目のとおりの(そして実際にたくさん入っている)マンゴージュース味。そこにパイナップル、ライムなどの酸味が加わり、後味にビールの苦味がやってくる。マンゴージュース味だし、トロピカルジュース味だし、ちゃんとビール。なんだこりゃ! ココナツミルクも入っているようなのだが、なるほどミルキーなピニャ・コラーダみ、みたいな印象もある。

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缶に書いてある説明の通りの味でした。

いやーすごいなこれ。味の感じを自分の経験から検索すると近似値は「ビアカクテル」なんだけど、あくまでもビール。昨年初めてドメーヌ・モンの「モンペ」を飲んだときに覚えた衝撃と似た「これは俺の知ってるワイン(ビール)ではない!(そしてうまい)」という衝撃が走る。これがビールの最前線か2回目!

というわけで大変おいしく、衝撃的な初うちゅうブルーイングだったのだった。いやー驚いた。また機会があれば飲みたいと思います。

 

ネットだと「抱き合わせ」でしか買えないとかなのかな…?

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発表! 2021年に飲んでおいしかった3000円以下ワインBEST10

3000円以下の安ワインを振り返る

2021年もまもなく終了。今年も元気においしくワインが飲めて大変良い年だったので、おいしかった3000円以下ワインを振り返ってみたい。

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「3000円以下」は定価ではなく単品での実売額が基準。そのためたとえば1万円で4本のセットに入っていたけど単品での実売額は3000円超、みたいなワインは選外としている。また、選考基準は味わいの絶対値というわけではなく、「値段の割においしいなこれ!」みたいな私個人の印象度とかがランキングに強く反映されている。そして、言うまでもないがすべて自費で購入し、750mlを飲み切ったものだけが対象だ。

ちゃんと数えてないが、おそらく今年も100本くらい3000円以下ワインを飲んだと思う。そのなかのトップ10はどんな結果になったのか自分でも気になる。早速10位から発表していこう。

 

10位 シャトー・マルス 甲州オランジュ グリ

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今回日本ワインとして唯一ランクインしたのがシャトー・マルス 甲州オランジュ・グリだ。普通にそのへんのスーパーで売ってるやつだが、これは全然まったくあなどれなかった。

himawine.hatenablog.com購入価格は1636円。和柑橘的なあまずっぱさに渋みや苦みが加わって、色あいから想像される通りのおいしさがあったのだった。他にもおいしくて3000円を切る日本ワインはもちろんたくさんあったのだが、「いつでも買える」ことを良しとして、10位に挙げたい。

 

9位 トレジャーズ シラーズ

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成城石井で私が良く買う高コスパ豪ワイン「30マイル シラーズ」と同じ生産者が作る上位キュヴェ。上位キュヴェっつっても購入価格は1969円とお安い。

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渋み=強い。酸味=強い。果実味=強い。っていうわかりやすいストロングスタイル。ドライフルーツの入った甘くないチョコみたいな力強い味わいで、しかし温度が上がるとあまずっぱさも出てきて大変おいしい。これも成城石井さえあればほぼ確実に買えるのもいいところ。

 

8位 デントンシェッド ピノ・ノワール

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ソムリエの田邉公一さんが今年「1月のベストワイン」として挙げておられたのがこのワイン。70%は全房のまま野生発酵を行い、無濾過・無清澄という自然派的な造り。

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飲草や花を思わせる香りが豊かで、梅とかアセロラみたいな酸味があり、それに負けない果実味もある。このワイン、「3000円以下で売ってるショップも中にはある」程度で基本的には3000円超え。このランキングに入れること自体が若干チート感があるのだが、値段相応においしい。

 

7位 ドンナルーチェ

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全体の7位、白ワインとしては2位となったのがイタリアのアロマティックワイン「ドンナルーチェ」。重さ1939グラムとドンペリよりも重い古い寺院の厚い扉を思わせるヘビーボトルに入っていながら味わいは明るい森の陽の当たる岩清水みたいな清らかさっていうギャップにやられる1本。

himawine.hatenablog.com桃とかマスカット、レモンとかミントを浮かべたきれいな水、みたいなフレーバー。SDGs的にはワインのボトルが重いのはあんまりいいことじゃない気もするのだが、とにかくおいしいのは間違いないというワインだった。

 

6位 バリスタ シャルドネ

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新樽を使う代わりにポリマー製容器とオークチップ的なものを組み合わせてオーク樽で熟成させたような効果を与えるというシステムを採用して造られたワイン。

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ただでさえクオリティと価格のバランスがぶっ壊れている南アフリカワインにあって、こんな裏技的な造りまで採用したとあってはもはやおいしくないわけがなく、1000円台半ばのベストシャルドネのひとつとなってしまった。イントゥ・シャルドネとか、カモミとか、カリフォルニアの樽の効いたシャルドネみたいな濃厚こってり風味。キラキラ輝く果実味も強い。

南アフリカワインのコスパの良さを痛感できる1本。

 

5位 ポワルヴェール・ジャック ロゼ

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2000円を切る価格で我が家の常備菜シャンパーニュとして活躍してくれているポワルヴェール・ジャックのロゼだが、2021年はなぜか「ヴェリタス」で恒常的に2940円(送料無料)で買えるというバグが発生し続けていた。どうなってんだ。

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ムニエ100%で5年熟成。あまずっぱさがしっかり感じられて実においしい。しっかりおいしいロゼシャンパーニュが2000円台送料無料で買えるという尊さも含めて、5位とした。

 

4位 ルイ・ジャド シャブリ シャペル・オー・ルー

 

Amazonで買ったルイ・ジャド白5本セットに入っていたうちの1本で、2000円台で買える白ワインとしてのベストに近いと思った1本。

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シャブリっていうと酸味が強い印象があったのだがこれはしっかりと酸味がありながらふくよかさもあってとてもおいしかった。大手のワインなんで発見感は1ミリもないがうまいもんはうまい。2021年の3000円以下ベスト白ワインはこれでお願いします。

 

3位 パンパネオ テンプラニーリョ ナチュラ

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いよいよベスト3だが、3位にはこのあまり有名と思えないワインを挙げたい。ラシーヌの試飲会で大変おいしかったので買って帰り、自宅で飲んでもやっぱりおいしかったというスペインワイン。産地はラ・マンチャで、私のラ・マンチャ=うまいという雑な認識はこのワインと出会ったのが原因だ。

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もともと大量生産用のワインを造っていた畑の灌漑をやめたところ自然と面積あたりの収量が落ちてブドウの質が上がり、人的介入の少ないおいしいワインの製造が可能になったんだけれどもなにしろ畑が40ヘクタールあるから値段はお安い、というストーリーも良い。無濾過・無清澄でオリがすごかったのも印象的だった。

あまずっぱいワインが私は好きだがこれは2021年のベストあまずっぱワイン候補。ただこれ売ってないんですよ残念ながら。無濾過・無清澄でない「パンパネオ テンプラニーリョ エコ」というワインは普通に買えるので、そちらを近々試したいと思っている次第だ。味違うのかな、やっぱり。

 

2位 グロリア・フェラー ブラン・ド・ノワール

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でもって2位はカリフォルニアはカーネロスの生産者がつくるブラン・ド・ノワールなんですが本当にすみませんこれも買えなかったマジか。「やまや」で売ってるから絶対買えるだろと調べないで2位に選んでしまったが買えないのかこれ……残念だ。ただ、だからといって順位を下げたくないくらいにおいしいワインなんすよこれ。あと今更「2位」を入れ替えるとなると全部書き直しなんですよこの記事。避けたい。

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なので、おそらくはヴィンテージの端境期(NVだけど)的なことできっとまたすぐ買えるようになるだろうハハハ、という希望的観測のもと2位に推したい。セールになってて1000円台で買ったのだが、間違いなく1000円台で購入したスパークリングワインとしては自己ベストを更新してきた。

シャンパーニュで3000円以下では名高いグラハム・ベックのブラン・ド・ブランに挑める逸材だと感じたのだった。というわけで2021年安泡ベストにこれを挙げたい。

 

1位 キュヴェ・リカ ピノ・ノワール2018

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ベストは私の3000円以下ピノ・ノワールランキング暫定王者となった南アフリカピノ・ノワール。おいしかったなあこれ。私が選ぶ私のベストなので私の好みがモロに出るわけなのだが、この記事を通じて何度書いたかすでにわからないけれどもあまずっぱくておいしいんですよこのワイン。

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もっといえば私の好みはすっぱ>あまのバランス。たとえば9位の「トレジャーズ シラーズ」はあま>すっぱの順なのだが3位のワインやこれは「すっぱ」が強い。そこに草原みたいなニュアンス、湧水みたいな雰囲気が加わると「ぼくのかんがえるさいきょうのやすわいん」ができあがるのだがキュヴェ・リカはまさにこれ。さいきょう。というわけで2021年のMYベスト安うまワインとなった。おめでとうございます。

 

というわけで駆け足ではあったがベスト10を振り返ってみた。どれもおいしかったなあ。もちろん他にもお店で飲んだ素晴らしいワインの数々があり、今年も本当に充実した1年となったのだった。グラスで飲んだワインベストは、記事を分けてご紹介したいと思う次第だ。

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ルイ・ジャドの白ワイン5本セットを飲んでみた。ブルゴーニュ、シャブリ、マコン……おいしかったのはどれ!?【後編】

ルイ・ジャド白5本セットを飲んでみた

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ルイ・ジャド白5本、今回はマコン・ヴィラージュ(右から2番目)とシャブリ シャペル・オー・ルー(右)を飲みます

【前回のあらすじ】Amazonでルイ・ジャド白5本セットを買ったのでブーズロン→コトー・ブルギニヨン→ブルゴーニュ・ブランの順で飲んだところブーズロンがうますぎてビビった。【あらすじ終わり】

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前回飲んだ3本は、品種でいうとアリゴテ→アリゴテ+シャルドネシャルドネであった。今回、後編では残りの2本を飲んでいくわけだが、これはどちらもシャルドネ100%のワイン。1本はマコン・ヴィラージュ。もう1本はシャブリ シャベル・オー・ルー。いわゆる“ACブル”とどう違うのか。そのあたりをたしかめていきたい。

 

ルイ・ジャド白5本【4本目】マコン・ヴィラージュ

まずはマコン・ヴィラージュだ。いきなり告白すると、私はこの「マコン・ヴィラージュ」というアペラシオンのことが正直よくわかってない。いやごめん。正直ぜんぜんわかってない。

なんかほらマコンとかマコンヴィラージュとかマコネとかいろいろあるじゃないすかあのあたり。マコン? マコネ? どっちだっけ? みたいになる。テンプラニーリョ? テンプラリーニョ? とか上白石萌音上白石萌歌みたいになる。

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マコン・ヴィラージュ

調べてみると、マコンはマコネ地区の主要コミューン。マコネ地区の中にマコン郡があって、その中心都市であるマコンはソーヌ=エ=ロワール圏の県庁所在地でもあるそうだ。大阪府大阪市みたいなことですかねかなり強引に言うと。うん、調べて頭では理解できたけどやっぱりわかんねえなこれ。

Wikipediaの「マコネー・ワイン」の項によれば、マコネは北はコトー・シャロネーズ、南はボジョレーに挟まれた、ブルゴーニュ最大の生産量を誇る地区。マコン、フュイッセなど85のコミューンがあり、石灰質に富んだアルカリ性の土壌はシャルドネの栽培に適しているのだそうだ。マコンを含むマコネのワインはシャルドネがおいしい。

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さらにわかりにくいことには、ブルゴーニュワイン公式サイトによれば、マコン・ヴィラージュは地域名ワインと書いてあるのだが、ルイ・ジャドの公式サイトには村名格(Appelation Village)ですみたいに書いてある。これもう本当にわかんないので、格付け、それはあなたの心が決めることだというワインからのメッセージだと解釈し、もう飲んじゃうこととする。

ルイ・ジャド マコン・ヴィラージュを飲んでみた

さて、わかりにくいわかりにくいと書いてきたが、ワイン自体は超わかりやすくおいしい。「ブルゴーニュ」も十分においしかったのだが、やっぱり別物で、なんていうんですかねこれ。ポケモンが進化した感じというか、少年漫画の主人公の修行前・修行後というか、似てるけど別人感がある。

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具体的には、「ブルゴーニュ」のほうで感じられなかった酸味が豊かにある。それでいて果実味もパワーアップしている。前回の記事で「ブルゴーニュ」を私はイケメンで性格もいいが体型がだらしないアラフォー男性と印象を述べたが、このワインはそこから贅肉を落とし、それでいて体重は増やしたような感じ。なんかこう、一気に美女感出てきた。

このワイン、ステンレスタンク醸造・熟成で樽がかかっていないようなのだが、少し温度が上がるとクレーム・ブリュレみたいな印象も出てきて、1/3を樽熟成させている「ブルゴーニュ」よりむしろふくよかに感じる。これはブドウの力なんだろうなあ多分。おいしいワインだった。

 

ルイ・ジャド白5本【5本目】シャブリ シャペル・オー・ルー

というわけで、ルイ・ジャド白5本を順番に飲む企画もいよいよ次が最後。トリは「シャブリ シャペル・オー・ルー」だ。ここまでさっぱり→こってりの流れで来ているはずだが、ここにきてブルゴーニュのほぼ最南から、一気に最北の冷涼な地域にワープ。twitterで「飲む順番、マコンとシャブリ逆じゃない?」というご意見を頂戴したが正直自分もそう思いました。

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シャブリ シャペル・オー・ルー

ルイ・ジャドの公式サイトにはシャブリと名のつくワインが9種掲載されているものの、当該ワインは載ってない。仕方ないのでキリンのサイト「DRINX」を参照すれば、発酵後、ステンレスタンクで6カ月熟成とだけ書いてあるのでこれも樽は使っていないみたい。土壌はシャブリといえばのキンメリジャン土壌だ。

シャブリ シャペル・オー・ルーを飲んでみた

さて、実は私はシャブリに先入観を持っている。「すっぱいんじゃないか」というものだ。私はすっぱいワインが大好きだが、シャルドネに限っては若干話が違って、シャルドネは極力ふくよかボヨヨン系であってほしいと思っている。なのでシャブリは正直若干敬遠しているところがあったのだが結論を言うとこのシャブリ シャペル・オー・ルーが5本のなかのベスト(ただしブーズロンとはほんとに僅差)だった。なんだこりゃ超うまいな!

夜の森に月の光に照らされて咲いてます花が、みたいな香り。レモンに蜂蜜のような甘ずっぱさが豊かにあり、森を抜けた先にはメロンとかバナナみたいなトロピカルな雰囲気まである飲むタカノフルーツパーラー状態。開けた瞬間から香りもおいしさも全開だった。

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ルイ・ジャド白5本セットを飲み終えて

今回飲む順番を私はAmazonソムリエに相談して決めてもらったのだが、これはシャブリがトリで間違いない。お見それしました。

以上5本を、「好きな順」に並べるならばこうだ。参考までに、Amazonでの売価(2021年12月22日現在)も併記する。

シャブリ シャペル・オー・ルー 3213円

ブーズロン ドメーヌ・ガジェ 2890円

マコン・ヴィラージュ 2747円

ブルゴーニュ シャルドネ 2567円

コトー・ブルギニヨン ブラン 2290円

ここは資本主義社会、見事なまでに価格順だ。ワインは5000円くらいまで価格に応じておいしくなるとはよく言われることだが、同一生産者のワインを飲み比べたことでよりクリアにわかった気がする。

プロ野球選手は他リーグの選手、他球団の選手と比較するのが難しいが同一チーム内ではわかりやすく比較できる。宇草孔基外野手は野間峻祥外野手よりも打撃はいいが守備では劣るといった感じだ急に広島東洋カープの話になったけど。同質なクラスターの内部だと比較がしやすくなり、より違いを楽しむことができるというのが今回の気づき。

 

ルイ・ジャド白5本セットの飲む順番について

最後に飲む順番について。品種のことを抜きにして考えた場合、以下のような順番も面白いと私は思う。これだ。

シャブリ シャペル・オー・ルー 

ブーズロン ドメーヌ・ガジェ 

マコン・ヴィラージュ 

ブルゴーニュ シャルドネ 

コトー・ブルギニヨン ブラン 

つまり価格の安い順だ。Amazonソムリエに提案していただいた順番もひとつの正解で間違いないが、安いほうから高いほうに飲んでいくと味わいの違いがよくわかって楽しい気がする。

ともあれ大変楽しい飲み比べができて大満足だったのだった。ルイ・ジャド、いいやつも飲んでみたいなー!

 

 

 

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ルイ・ジャドの白ワイン5本セットを飲んでみた。ブルゴーニュ、シャブリ、マコン……おいしかったのはどれ!?【前編】

ルイ・ジャド白5本セットを買ってみた

Amazonでルイ・ジャドの白ワイン5本セットが安くなっていたので買った。

経緯はこちらの記事↓にまとめているが、

himawine.hatenablog.comAmazonのソムリエの方に好ましい「飲む順番」を教えてもらったので、実際に提案してもらった順にワインを飲んでみたよ、というのが本記事の趣旨だ。

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ルイ・ジャド白5本セットを左から順に1本ずつ飲みました。

その順番は以下のようなもの。

ブーズロン ドメーヌ・ガジェ  

コトー・ブルギニョン ブラン 

ブルゴーニュ シャルドネ  

マコン・ヴィラージュ

シャブリ シャペル・オー・ルー 

さっぱりからこってりへと進む流れで、twitter上で発表したところ「マコンとシャブリ逆じゃない?」みたいな意見が散見されたがそのあたりをたしかめるのも楽しみ。

で、さっそく飲んで行こうと思うわけなんだけど私にとってルイ・ジャドのワインははじめて。というわけでサクッと生産者についても調べることとした。

 

ルイ・ジャドはどんな生産者?

ルイ・ジャドは1859年、ルイ・アンリ・ドニ・ジャドが設立し、ブルゴーニュ全域に数多くの畑を取得し、米国と英国に販路を拡大するなど発展するも、後継者に恵まれず1985年にアメリカのKOBRAND社にビジネスを売却し今に至るようだ。アメリカ資本なんですね、ルイ・ジャド。ちなみに、ジャド買収はアメリカ企業がブルゴーニュの生産者を買収した最初の例だったんだそうだ。へー。

特徴的なラベルは酒の神バッカスで、グラン・クリュからAOCブルゴーニュまで「すべてのアペラシオンに対して同等の価値を」置いてワイン造りをしていることを示していると日本リカーのブランドサイトにある。ワインに貴賎なし。あるのは価格の違いのみである。

そしてルイ・ジャドの公式サイトが素晴らしく、すべてのワインに対して詳細な説明が載っている。それを紹介しつつ、購入した5本のワインを飲んでいきたいと思う。

 

ルイ・ジャド白5本【1本目】ブーズロン ドメーヌ・ガジェ

まずはブーズロン。ボーヌの南、コトー・シャロネーズの小さな村で、ブルゴーニュで唯一の「アリゴテの白ワイン限定の村名アペラシオン」なんだそうだ。そんなのあるんだ。なのでこのワインもアリゴテ100%。

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ブーズロン ドメーヌ・ガジェ

正式名称はブーズロン ドメーヌ・ガジェで、ガジェはルイ・ジャドの現社長のファミリーネーム。仮に楽天がワインを造ってるとしたらドメーヌ・ミキタニみたいなことですよねこれ。社長の名を冠したワイン、おいしくないはずがない。

公式サイトを見ると、手摘み収穫後、半分から2/3をタンクで、1/3を新樽率20%のオーク樽で14〜15か月熟成させてからボトリングされるそうで、手のこんだ造りしてる。

でこれ、飲んでみるとやっぱりもうすごくおいしいわけです。最初は甲州みたいなサッパリ感だなあと感じたのだが、後味に重みを伴う蜜感がドバーッとやってくる。ちょっとビックリ。こりゃ旨い。

少し色褪せたゴールド、なんならシルバーって言ってもいいんじゃなのって色も含めて特徴的。アリゴテってこんなにおいしいのか……!

というわけで1本目からいきなり素晴らしかったのだった。次に飲むのはなんだっけ。そうだ、コトー・ブルギニヨン・ブランだ。

 

ルイ・ジャド白5本【2本目】コトー・ブルギニヨン

AOCコトー・ブルギニヨンはボジョレーを含むブルゴーニュのどの地域のブドウを使ってもよく、ブレンド比率も自由というフリースタイルな原産地呼称。品種もいろいろ使ってオッケーで、白品種はシャルドネ、アリゴテ、ピノ・グリ、ムロン、ピノ・ブランが認められている。

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コトー・ブルギニヨン・ブラン

ムロンって初めて聞いたけどwikiによれば「メロンの香りがするから」ムロンなんだそう。フランス語でメロンはムロン……!?  ちなみに「大した個性はないものの、寒さにはめっぽう強い」らしいですよムロン。大した個性がないのかよ笑。がんばれムロン。話が逸れてるのは知ってる。

ルイ・ジャドのコトー・ブルギニヨンに話を戻すと、使っているブドウはブルゴーニュボジョレー産のシャルドネとアリゴテ。比率は不明だが、全量をステンレスタンクで発酵および熟成させているようだ。

飲んでみると、うん、おいしい。知ってるシャルドネの味にアリゴテのさわやかさが加わってシャルドネにアリゴテを加えた味」という印象だそのまんまだけど。

十分においしいワインなのだが、前に飲んだブーズロンが素晴らしかったため、印象が薄くなってしまった感は否めない。ブーズロンのほうがこっちよりさっぱりしてるのに味の密度は高いんですよ。

 

ルイ・ジャド白5本【3本目】ブルゴーニュ シャルドネ

挽回すべく次に飲んだのがブルゴーニュ シャルドネ。主にコート・ドールとマコネ産のブドウで造られるという、3本目にしてついにシャルドネ100%のワインだ。一部は樽、一部はステンレスタンクで熟成(キリンのオウンドメディア『DRINX』によれば、1/3がオーク樽熟成)しているとのことなのだが、飲んでみた印象は「たっる。」という感じ。

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ブルゴーニュ シャルドネ

おそらくこれが同じ造り手のブルゴーニュ白を連続して飲む面白さで、ブーズロン、コトー・ブルギニヨンというさっぱりしたワインを続けて飲んだからこそ、この「ブルゴーニュ」の樽感が強調して感じられたのだと思う。

造りを見ると最初に飲んだブーズロンのほうがむしろ樽が効いてていいはずだが、品種の違いもあるのか「ブルゴーニュ」のほうがバターとかバニラみたいなベタな樽感、ひらがなで「たるどね」感がある。果実味たっぷり、酸味がさほど強くないこともあり、イケメンだが少々体型がだらしない気のいいアラフォー男性みたいな親しみやすさがあってうまい。ちょうど良くうまい。

さて続いてはマコン・ヴィラージュ……なのだが記事がずいぶん長くなりそうなので記事を分け、残りは後編に記したいと思う。

ちなみにここまでの3本のベストは割と図抜けて最初に飲んだブーズロン ドメーヌ・ガジェ。これはおいしいですよ。残るマコン・ヴィラージュとシャブリ  シャペル・オー・ルー はどうなるか、乞うご期待である。

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「アマゾン限定ワイン」の実力は!? 4本を2819円で買って飲んでたしかめた【Amazon】

アマゾンワインの実力は?

Amazon.co.jpを運営するアマゾンジャパン合同会社が自社輸入する“Amazon限定”ワインが以前から気になっていた。Amazonのネットワークおよび流通網はそりゃまあ世界最強レベル。その規模と調達力を活かしたワイン(以下、アマゾンワイン)の中に、もしかしたら知られざる安うまワインが眠っているのでは……?  と思ったのがその理由。

折よくAmazonブラックフライデーセールが開催中だったので、安くなっていたワインを4本ほど買ってみた。

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アマゾン限定ワインを4本買ってみました。

購入したのは、
ファンティネル ボルゴ テシス"カベルネ・フラン"  675円
レダ  715円 
カルサーダ クイネア クリアンサ 634円
フィオーレ バルベーラ・ダルバ 795円
の4本。
すべて赤ワインで、イタリア3本、スペイン1本という構成。どれも元値は1000円台だが、セールで1000円を切る価格となっており、4本の合計金額が2819円。お財布にやさしいぜアマゾンジャパン合同会社

 

アマゾンワイン、4本合計50ユーロのワインが2819円!?

飲む前にまずはお得度をチェックしていきたい。ワインサーチャーにワイン名を入力し、ユーロでの販売価格を調べてみた。以下だ。

ファンティネル ボルゴ テシス"カベルネ・フラン" (€11.64)
レダ  (€12)
カルサーダ クイネア クリアンサ(€10.45)
フィオーレ バルベーラ ダルバ(€16)

まさかの合計50.09ユーロ。日本円でざっくり6500円くらいだ。購入価格は2819円なので、ヨーロッパでの販売価格から57%オフとかいうわけのわからないことになっている。

とはいえ、お得ならいいってもんではなくてワインは飲み物。本当においしいのか、実際に飲んでたしかめてみた。

 

アマゾンワイン1本目ファンティネル「ボルゴ テシス カベルネ・フラン

まず最初に飲んだのはファンティネルの「ボルゴ テシス カベルネ・フラン」。産地はイタリアはフリウリ・ヴェネツィア ジュリア。購入価格は675円なのだがこれはちょっと私には難しいワインだった。

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ボルゴ テシス カベルネ・フラン

カベルネ・フラン単一のワインを飲んだことがなかったので、よく言われるピーマン香とやらを嗅いでみようじゃないか、ひとつ、と選んだのだが「バスクリンの香り」だと私は感じたピーマンどこいった。バスクリンの名誉のために言いたいが、バスクリンはいい香りだ。しかし、それはあくまで「風呂として」であって、ワイングラスから漂ってきてほしくはない。

というわけでこれは大概のワインをうまいうまいと飲む私としては珍しく「なんとか頑張って飲み切った」というワインとなった。すべてのワインを私はリスペクトするが好みの合わないものもありますよそりゃあ。

Vivinoの評価は3.2と低めながらAmazonのレビューは賛否両論。もしかしたらこのような香りが大好物、という方もおられるのかもしれない。どなたかチャレンジしてください。

 

 

アマゾンワイン2本目フィンカ・ラ・エスタカーダ「カルサーダ クイネア クリアンサ」

次に飲んだのが、スペイン中央部に278ヘクタールもの畑を所有するというスペインの生産者フィンカ・ラ・エスタカーダのカルサーダ クイネア クリアンサ。品種はテンプラニーリョだ。

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カルサーダ クイネア クリアンサ

テンプラニーリョって甘酸っぱい系の軽いものもあれば、ボルドーブレンドっぽい重厚なのもあるじゃないスか。これはその中間という印象だ。しすてヴィンテージは2017ながらなんだかちょっと熟成感があり、なんなら今がピークなんじゃないのこれ、という印象を受ける。

ベリー系の果実の香り、濃く淹れたコーヒーのような渋みに少しこなれた感じも加わって、お肉に合わせてソツなく旨い。1000円を切る価格で買えたらラッキー! という味わいだ。

おいしいワインなのだが、1本目のハズレ感がなかなかのものだったため、気分的には2アウトランナー1塁みたいな気分。すわ、企画倒れか!? とも思われたがここからの2本が素晴らしかった。

 

アマゾンワイン3本目フィオーレ「バルベーラ・ダルバ」

次に飲んだフィオーレ バルベーラ・ダルバ、これが今回飲んだ中の白眉となった。北イタリア・ピエモンテの生産者がつくるこのワイン、購入価格は795円ながらワインサーチャー調べ価格は16€というだけに、ブドウの収穫はすべて手摘み、新樽のフレンチオーク樽で12カ月熟成という贅沢な造り。

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今回の白眉、フィオーレ バルベーラ・ダルバ

味わいはもう795円は絶対になにかの間違いでしょうというクオリティ。ブラインドで飲んだら「メルロー単一」とたぶん答えるふっかふかの絨毯みたいな柔らかさ。時間が経つとあれ誰かカルピス入れました? みたいな乳酸菌感のある甘酸っぱさも加わって単体で飲んで良し料理と合わせて良しモードに突入していく。vivino評価は3.9と高いが、納得だ。

このワイン、残念ながら現在(2021年12月17日)品切れになっているようで購入できないのだが、在庫が復活したらすぐに買いたいワインとなった。フィオーレシリーズ、ほかのも買ってみよ。

 

アマゾンワイン4本目メアーナ「パレダ

最後に飲んだのが「パレダ」というイタリアはサルディーニャ島のワイン。品種は「数タイプの土着品種」だそうで、手摘みしたブドウをステンレスタンクで発酵させ、4カ月の瓶熟成を経てリリースされるとある。これも大変おいしいワインで、715円という感じは(現地12ユーロなので)当然ながらまったくない。サルディーニャのワインを私は飲んだことがなかったが、なんかこうシチリアとかに通じるような果実味全開のアゲアゲな感じかといえばさにあらず。

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サルディーニャからやってきた「パレダ

調べると生産者が畑を所有するのは標高600〜700メートルのシスト土壌なんだそうで、日差しは強いが山風も吹くといった土地のよう。それもあってかキッチリ酸味もあって、たしかに標高の高さを感じるのだった完全に言われてみればだけど。

 

アマゾンワイン4本まとめ

というわけで4本を飲んだのだが、好きな順に並べるならば、
フィオーレ>>パレダ>クイネア クリアンサ>>>>>>>ボルゴ テシス カベフラ
ということになる。フィオーレ バルベーラ・ダルバがホントに良くて、パレダがそれに続き、クイネアも全然悪くなかった。ボルゴ テシス、キミはあとで職員室に来るように。

というわけでアマゾンワイン4本、好きなのもそうでないのもあったが、2819円という投資に対して非常に楽しめたのだった。密林の奥地に眠るお宝ワインを探るべく、今後も調査を継続していく所存だ。

 

【追記】大事なことを書き忘れていた。本記事で取り上げたアマゾンワインは、prime会員であればすべて1本から送料無料であっという間に届く。アマゾンすごい……(いまさら)!

 

「立ち飲みワイン 荒川STAND」。日暮里駅すぐの立ち飲み酒場がなにかと最高だった件。

「立ち飲みワイン 荒川STAND」に行ってみた

飲み友達のいさみさんと日暮里の立ち飲み屋に行くことにした。いさみさんがtwitterにいい感じの飲み屋の画像を投稿→私が食いつく→日程調整→行った、という流れ。ともに40代男性、ビジネスで培った調整能力をここぞとばかりに駆使である。

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「立ち飲みワイン 荒川STAND」に行ってきました。

向かったのはJR山手線の日暮里駅降りてすぐの場所にある「立ち飲みワイン 荒川STAND」というお店。この店舗、もともとは「串揚げ×大衆酒場日暮里ただいま」という店舗だったのだそうだ。それが2020年7月に「日暮里ただいま食堂」にリニューアル。それから1年4ヶ月後の2021年11月に「立ち飲みワイン 荒川STAND」へとメタモルフォーゼしたようだ。「ただいま」どこいった。

 

「立ち飲みワイン 荒川STAND」はどんなお店か

互いに仕事を終えた18時半、お店で待ち合わせ。スプーンとフォークのネオンが赤く輝き、「STAND」の文字も鮮やかなのれんが風にはためく外見はなんともオシャレでイマドキ。渋谷とか神泉とか三宿にありそうな雰囲気のお店が日暮里にあるっていうのがなんともいい。

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こちらドリンクメニューになります。

店内はコの字型のカウンターが入り口から店内奥へと続くいかにも立ち飲み屋らしい構造。カウンター内部ではスタッフの方々忙しく立ち働く姿が見え、壁にはワインを中心としたお酒が所狭しと陳列されている。

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おつまみのメニューがこちら。

下町の立ち飲み屋的雰囲気とヨーロッパのバル的雰囲気ががっぷり四つに組んで最終的に下町の立ち飲み屋的雰囲気が寄り切った、みたいな印象の店舗だ。お店のインスタの投稿には「#ネオ大衆居酒屋」とタグがついているが、なるほどそんな感じである。

 

「立ち飲みワイン 荒川STAND」と「サロモン・リースリング・ペットナット」

私といさみさんはワインつながりのお友だち。飲むのはもちろんワインだ。まず最初は「本日のナチュラルワイン」から「泡」をチョイスした。

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ナチュラルワインも揃ってます。イマドキ。

この日の泡はオーストリアの「サロモン・リースリング・ペットナット」。ワイングラスではなく、背の低い薄口で幅広なグラスで供されたそれで乾杯。リンゴの香りにレモンみたいな酸味があって、とてもおいしい。そして、正確な引用ではないがナチュラルの泡、一丁!」みたいにオーダーが通されるのがなんとも良い。ワイン飲みたい欲と大衆酒場系の飲み屋行きたい欲、両方が同時に満たされる。

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サロモン・リースリング・ペットナットで乾杯。おいしい。

我々の隣ではオジサン3人がワインには目もくれず楽しそうにハイボールかなんか飲んでいる。ここは日暮里、日が暮れる里。なにを飲もうともちろん自由だ。いいなこの店。また来たい。まだ入店して5分だけど。

つまみに目をやると、エビのアヒージョ、生ハム、本日のチーズ……といかにもワインに合いそうなメニューが豊富。量は少なめだが価格も概ね500円前後と安く、いろいろと食べられるのは飲むときそんなに食べない派の私としてはむしろありがたい。最終的に5、6品頼んだろうか。どれもおいしくて満足だった。いいなこの店(2回目)。

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生ハムたっぷり。うれしい。

いさみさんとは先日開催した「ヒマワイン会」がはじめましてで、今回が2回目。なので冒頭15秒くらいはややぎこちなかった気がするが、年齢1歳違い、ともにワイン好きということで20秒後くらいには5年前から月イチで飲んでますみたいな雰囲気。つくづくワインは関係性の潤滑油だよなあ私が馴れ馴れしいだけかもしれないけど。

 

「立ち飲みワイン 荒川STAND」と「スクリーミングベティ」

と、いい感じで潤滑油を摂取していたところグラスが空になったので2杯目として「本日のナチュラルワイン」から「白」をチョイス。

運ばれてきたのはオーストラリアの造り手・デリンクエンテのスクリーミングベティ。品種はヴェルメンティーノ100%で、この品種初めて飲む気がするのだが、レモンとかユズのような酸っぱみ系の液体でこれまたうまい。揚げ物なんかに良さそうですねこれは。

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スクリーミングベティのベルメンティーノもさっぱりしておいしい。濃い味つけの立ち飲みつまみによく合います。

うまいうまいとこれも飲み干すと、いさみさんから「せっかくなので、ボトルから選びませんか」と提案。ボトルは(どれを選んでも?)3850円〜と非常に安く、白、オレンジ、ロゼは冷蔵庫に入れられ、赤は壁に陳列されているなかから自由に選べるワクワク仕様。

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白ロゼ橙は冷蔵庫に入れられてる。だいたいなんでも3850円。

「立ち飲みワイン 荒川STAND」と「パレリャッチャ2016」

乾杯で泡を飲み(私は白も飲み)、いさみさんは赤ワインがお好きとのことなので、選んだのは赤ワイン。いさみさんが「ジャケ買い」的に選んだのが、アルテザーノ・ヴィントナーズの「パレリャッチャ2016」だ。

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赤はこんな感じで店内右手奥の壁際に並べられてます。

で、これが大当たりで、まったくもって私の好みのど真ん中の色合い薄めの甘酸っぱ味で最高だったのだった。甘酸っぱい 味のワインを 我は所望す。ヒマワイン。思わず一句詠んじゃうおいしさだ。ともあれどんなワインかさっぱりわからないので裏ラベルを見ると「Tinto/Blanco」という表記。

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「パレリャッチャ2016」をチョイス。結果これが大正解だったんですよ。

「ティントは赤ワイン、ブランコは白ワインってことですよね。どうなってんだこれ一体……?」と考えてもわからないのでスマホでピコピコ調べると、カバ品種のパレリャーダとガルナッチャの“まぜこぜワイン”であることがわかる。パレリャーダとガルナッチャをまぜてるからパレリャッチャ、チェック・イット・アウト・ヨーでチェケラッチョ的な命名だ。 「これはブログネタ的にも良さそうですね……!」といさみさん。まさにおっしゃる通りである。

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Tinto/Biancoと併記された裏ラベル。黒ブドウと白ブドウを一緒に発酵させてつくる赤白ワイン(?)がその正体。

あとから調べたところによるとこのワイン、除梗した白ブドウに全房の黒ブドウを投入して発酵させているのだそうだ。パレリャーダとガルナッチャのブレンド比率は不明だが、色合い的には「気持ち薄めの赤ワイン」。アルコール度数が12%と低めなこともありコップに注がれていることもあってゴクゴク飲めちゃう危険なワインだった。いいなあ、自由で。

で、このワイン、調べる過程で価格も目にしてしまったのだが3520円とかなのだネットで売られてる値段が。それが3850円で売られてるわけなんですよこのお店。どうなってんだ荒川STAND。栓を抜いてもらってグラスも用意してもらって後片付けもしてもらうのに店の利益が300円……!?

 

「立ち飲みワイン 荒川STAND」とお会計の金額

話も弾んでつまみ片手にうまいうまいと飲んでいるとあっという間に1本がカラに。じゃ、二次会行きますかと会計をお願いしたところ、なんと総額で1万円いかないわけですよ。男性ふたりでつまんでボトルでワイン飲んでるのに。どうなってんだ荒川STAND(2回目)。また来ます。それも近々。

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いいお店だったなー!

その後は二次会に場を移し、なんていうんでしょうか。中学2年時の修学旅行の就寝時間を過ぎた頃、「お前、好きな子誰? せーので言おうぜ」的ノリの中年バージョン、みたいな感じで今まで行った国でどこが良かった、みたいな中学30年生トークに花が咲いたのだった。あー楽しかった。

というわけでワイン好き、立ち飲み好きには荒川STANDを全力で推せるのでみなさんも是非。

 

年末なのでシャンパーニュセット買った↓

その他購入候補のみなさん↓

 

 

「百合草梨紗さんとシャトー・ジンコを飲む会」レポート。ボルドー初の日本人女性醸造家がやってきた!

シャトー・ジンコと百合草梨紗さん

豪徳寺のワインバー「ワインステーション+」にて、「百合草梨紗さんと、シャトー・ジンコを飲む会」が開催された(私は幹事兼司会進行役として参加)。

話をしているうちにわかったのだが百合草さんと私は同い年。大学卒業後、就職し、今に至る。私のキャリアは俳句に満たないわずか12文字で説明可能だが、百合草さんは短大卒業後アパレル会社に就職、その後ワインに出会い渡仏、ワイン学校を優秀な成績で卒業するとワイン業界でキャリアを積み、夫でネゴシアンのマチュ・クレスマン氏とネゴシアン・カイワインを設立。2015年11月にボルドーはコート・ド・カスティヨンの1.65ヘクタールの畑を購入し、日本人女性初のボルドー醸造家として、2016年ヴィンテージから「シャトー・ジンコ」を世に送り出している……と、同じ時間を使って実にドラマチックな半生を過ごしておられる。カッコいいなあ。行動する者のみが特別な場所にたどりつくことができる。私との共通点はほぼ年齢のみだが、間にワインがあればどっこい今日からお友達である。

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百合草梨紗さん。明るくて気さくで、とても魅力的な方でした。

でもってめちゃくちゃ明るく快活でよく笑う素敵な女性なんですよ、百合草さん。大冒険のキャリアと魅力的な人柄。成功する人に理由あり。

現在百合草さんは一時帰国中。家族をフランスに残し、シャトー・ジンコをPRするためさまざまなイベントに引っ張りだこの忙しい日々を過ごしている。そしてこの日の「百合草梨紗さんと、シャトー・ジンコを飲む会」にも来てくれたという流れだ。ありがたや。

 

シャトー・ジンコとシャンパーニュと「ボルドーあるある」

12名のゲストをお迎えして、陽もとっぷりと暮れた夜7時に開会。シャトー・ジンコと同じ輸入元(都光)のシャンパーニュ・パルメの「ヴィンテージ2012」で乾杯となった。

これが泡立ち控えめながらド派手な香りと異様なまでの旨みがあって大変おいしいシャンパーニュだった。この日の立ち位置は脇役だが、主役になれるポテンシャルのあるワインですねこれ。また飲みたい。

ちなみに百合草さんいわく、「ボルドーで誰かの自宅に招かれたとき、たいていワインは用意されているので、お花かシャンパーニュを持っていくことが多い」そう。「花かシャンパーニュ」っていう綿谷りさの小説でそんなタイトルのやつありませんでしたっけ? っていう言葉の響きがなんとも良い。みなさん、ボルドーでお呼ばれしたら「花かシャンパーニュ」だ。

さらに話は脱線し続けるが、ボルドーはとにかくワイン生産者の絶対数が多い。そのため「結婚式でソーテルヌが出たんです。隣にいた方に感想を聞かれたので、正直に『このソーテルヌは得意じゃない』と伝えたら、そこのオーナーでした(笑)」なんてこともあったそうだ。ボルドーではどこに生産者がいるかわからないから気をつけるんだみんな……!

 

ジー・バイ・ユリグサ ブラン2020はどんなワインか

そんなこんなの話で盛り上がりつつ乾杯のシャンパーニュを飲み干したら、いよいよシャトー・ジンコのワインを飲んでいく時間に突入していく。まず1杯目は、グラーブ地区の畑を区画単位でセレクションし、収穫から醸造まで百合草さんが厳しくチェックして生み出されるワイン「ジー・バイ・ユリグサ ブラン2020」だ。

シャトー・ジンコの畑は1.65ヘクタールと必ずしも広くはないため、現状ではセカンドラベルをつくることができない。それでもシャトー・ジンコの世界観を味わってほしいという思いから買いブドウでつくるのがジー・バイ・ユリグサのシリーズだ。このあたり、百合草さんと夫のマチュさんのネゴシアンとしての経験が大いに役立っているようだ。

himawine.hatenablog.com

そんなこんなで飲んでみたこのワイン、結論から言えばこれは私の「2000円前後で買えるボルドー・ブランBEST」となった。この日飲んだ5キュヴェのなかでも、コスパという観点から見ればこれがベストだと思う。

ソーヴィニヨン・ブランが60%、セミヨンが40%のブレンド。バトナージュを行うことで、バターのような甘みやまろやかさを感じられるようにしています。和洋中すべて合わせられますが、白桃やマンゴーのヒントがあるのでエキゾチックでスパイシーな料理にも合います。樽熟成は9カ月。ソーヴィニヨン・ブラン特有の香りに、貴腐ブドウにもなるセミヨンのまろやかさが加わって、厚みも感じられると思います」(百合草さん)

実際に飲んでみると、樽由来と思われる厚み、バターのような濃厚さ、蜂蜜のような甘味、桃やマンゴーのようなエキゾチックな香りも感じるという百合草さんの説明を繰り返してるだけじゃないかお前、という印象でなんだこりゃ超うまいな。

同席した都光の戸塚尚孝社長いわく「おいしすぎて(その割に安すぎて)品薄です」とのことなのでこれは急いで入手するべきだしこのクオリティが2000円ちょいで買えるのは完全にバグ。飲んだ瞬間に会場の一部が静かになったのでいったいなにが起きたんだと思ったら「品薄」発言を受けていち早くネットで注文している方もいたのだった。シャトー・ジンコ会に集まる人々おそるべし。

 

ジー・バイ・ユリグサ ルージュ2020はどんなワインか

さて、その赤のほう、ジー・バイ・ユリグサ ルージュ2020だが、こちらはシャトー・ジンコのご近所、コート・ド・カスティヨン地区の、シャトー・ジンコと同じプラトー(百合草さんは『プラットー』と発言しておられたが、表記としては『プラトー』が一般的? っぽいのでプラトーと表記する)と呼ばれる台地で生産されるというワインだ。

「ワインを飲んで、これはいい! どこの? というと大抵プラトーというくらい、プラトーからはピュアでクリアなワインができるんです。コート・ド・カスティヨンはサン・テミリオンから車で10分ほどの地続きの場所ですが、土壌としてはシャトー・パヴィやシャトー・オーゾンヌ、シャトー・バランドローと同じ土壌が横につながっています。1メートルほどの表土の下に石灰岩というのが特徴です」(百合草さん)

サン・テミリオンに比べ知名度は低いが、コート・ド・カスティヨンのワインは「ヴァン・ド・メディソン(薬のワイン)」と呼ばれるのだそうだ。その意は「入れるとワインが元気に(おいしく)なる」。みなさん、悩んだらコート・ド・カスティヨンだ。

 

シャトー・ジンコと「プラトー

さて、ではプラトーはなぜいいのか。

プラトーは1メートルの表土が粘土質でその下は石灰岩だと言いましたが、石灰岩はスポンジのような働きをします。雨が多いとそれを吸収してくれて、雨が少ないときには出してくれ、保湿性があるんです。プラトーは標高が高く風通しがいいため、病気のリスクも減ります」(百合草さん)

詳しくは後述するが、百合草さんが求めるピュアでクリアな味わいは、そもそも土壌が良くないと実現できないのだそうだ。シャトー・ジンコの畑を購入した決め手も、そこが標高100メートルのプラトーだったからだという。

himawine.hatenablog.com

なんの話だっけ。ジー・バイ・ユリグサ ルージュの話だった。メルロー95%、カベルネ・フラン5%のブレンド、「ルモンタージュによりうまみを取り出したワインは、心地よい甘味とエレガントさがあります」と百合草さんが説明する通りの味わいでこれまた非常にうまい。

2000円前後で買えるボルドー・ルージュを私はなかなか選べない。正直に申し上げて渋くてすっぱいだけ、みたいなワインに出くわしがちという先入観があるからだ。なのだがこのワインはまずもって香りが非常に良く、味わいにもしっかりと果実味があり、さりとて濃すぎないクリアでピュアな味わい。そりゃまあ醸造家ご本人から説明してもらいながら飲むっていう贅沢をしてるのでおいしさにプラス補正がかかってるとは思う。でも絶対においしいですよこのワイン。

シャトー・ジンコは100%メルローでつくるワイン。「なんでジー・バイには5%カベルネ・フランが入るんですか?」と質問してみると、こんな答えが返ってきた。

「(ジー・バイ・ユリグサ用に)セレクションした畑の区画にカベルネ・フランも植わっていたので、メルローカベルネ・フランアッサンブラージュしてテイスティングしてみたときに、カベルネ・フランを加えたほうが骨格ができ、バランスが良くなったんです。次のヴィンテージではマルベックを加えるかもしれません」

いいなあ、面白そうだなあ。アッサンブラージュの現場を取材したい(飲みたい)

 

シャトー・ジンコ2019はどんなワインか

さて、ジー・バイ・ユリグサ ルージュを飲み干したらいよいよ本丸。ワインステーション+駅長が百合草さんの依頼を受けて4時間前に抜栓しておいてくれたシャトー・ジンコ2019の登場だ。

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この日飲んだシャトー・ジンコの3キュヴェ。どれも素晴らしい味でした。

2019は、百合草さんにとって自身の畑が厳しい審査を経てオーガニック認証ABマークを得た記念すべきヴィンテージ。それだけに、思い入れも強い。

「2019年はグレートヴィンテージ。私にとってはファーストヴィンテージの2016と並び、一生忘れられないヴィンテージです。ABマークをボトルのどこに貼るのかも迷いましたが、ワインのピュアでクリアな味同様、情報もクリアにしたいとラベル前面に貼ってあります」

土壌にこだわり、オーガニックにこだわる。その理由はシンプル。ピュアでクリアな、百合草さんが愛するボルドーワインを表現するためだ。

「無農薬にしたほうが土壌の個性が出せますし、ワインはピュアでクリアな味が出せます。そのためには生きた土をつくる必要がある。生命の持っているエネルギーを引き出す必要があるんです。人間も抗生物質を飲み続けると免疫力が下がりますよね。オーガニックにすることで、根は下に下に伸びて土壌の成分を吸収します。ワインの複雑性はテロワールがもたらしてくれるんです」

「ワインは栽培が何割、醸造が何割ですか?」という質問もしてみた。ここからの百合草さんは本当にカッコよかった。

「92%が畑、8%が醸造でしょうか。ワインは畑からできています。極端なことをいえば、健全なブドウがとれたらあとはタンクに入れるだけでワインはできます。だから、ブドウを食べたら『今年はこういうワインになるんだ!』がわかります。それだけに、シャトー・ジンコは年によって味が違うんです。たしかに栽培が難しく、収穫量が落ちる年はあり、それは生産者にとっては痛いです。でも、年による違いもワインの面白さですから。たとえば2017年は収穫量が落ちた厳しい年でしたが、今飲むとやわらかくてこじんまりとしたピュアな果実味があります」

 

シャトー・ジンコと“プリンセス・ジンコ”

百合草さんは、自分のつくるワインに愛情と誇りを持っている。だからこそ「この年はバッドヴィンテージ」みたいに切って捨てたりしない。自ら“プリンセス・ジンコ”と呼ぶワインたちは、百合草さんにとって娘のようなもの。娘にグッドヴィンテージもバッドヴィンテージもないんですよ当たり前だけど。

シャトー・ジンコ2019の生産本数は4578本と少ない。それは、1本のブドウ樹にブドウが5〜6房だけ残すように剪定するから。その3倍の収穫量があってもおかしくないところ、収量をそこまで落とす。そして畑での作業はすべて手作業。

ワインについて説明しながら、「シャトー・ジンコは私が人生と命をかけて造っています」と真っすぐに言い切った姿に、私は心から感銘を受けた。私はそこそこ仕事を頑張っている気がするが、人生と命はかけていない。それに値するものがあるとすれば、それは自分の娘たちくらいなものだろう。その覚悟でもって、百合草さんはブドウとワインに向き合っている。リスペクトするなっていうほうが無理です。

飲んでみると、すごくエレガントで、同時に百合草さんの言う通りにピュアでクリア。一般的には飲むにはまだ早いと言うことになるのかもしれないが、いま飲んでも十二分においしい。しっかりとした渋みと酸味、それに負けない果実味もしっかりとあり、早朝の針葉樹林のなかに身を置いたような静けさや、森、土、木が醸し出す香りのようなものも感じられる。

 

シャトー・ジンコ2019の飲み頃はいつなのか問題

このようなワインを飲むと、「飲みごろはいつからですか?」「ピークはいつ頃で、その頃にはどのような姿になっていると思いますか?」みたいな質問をしたくなるし、実際にしたのだが、その質問に対して百合草さんは「60年は持つと思う」とだけ答えてくれた。

醸造家が飲み頃を口にすれば、その言葉は消費者を縛ることになる。飲みたいときに、飲みたいように飲んでもらいたい。どうやらそれが百合草さんの望むことのようだ。願わくばできるだけゆっくりと、なるべく大きなグラスで。これが唯一の注釈だ。

寝かせるも良し、飲むも良し。今成人している酒飲みの人生のほぼすべてのタイミングで、シャトー・ジンコ2019は楽しむことができるのだ。今さらながら「60年は持つと思う」という発言に対し「えっ、60年後って我々死んでませんか?」とリアクションした己を恥じたい。そういうこっちゃないんだよ!

というわけであっという間の2時間。〆の甘口ワイン、これまた都光輸入の「ル シェーヌ クーシェ ジュランソン モアルー ビオ 2018」を飲んで、会は中締め。残った参加者と百合草さんを囲んで、ワイン片手に終電までワイワイと二次会を楽しんだのだった。

個人的には、テロワールという言葉の重さを知り、ヴィンテージごとのワインの楽しみ方を教えてもらい、ワインの飲み頃について新たな知見を得ることができて、有意義メーターの針が計器を突き破るような実りある時間だった。そしてなにより、百合草梨紗さんというとても魅力的な人物と出会うことができ、シャトー・ジンコの素晴らしい3つのキュヴェと出会うこともできた。飲み友達もまた増えた。ワインはつくづくフレンドメイキングマシンだ。

また来年、次はシャトー・ジンコ2020を飲む会を開催できたら、それは本当に素敵なことだ。百合草さん、ご参加の皆様、ご縁があれば、また来年お会いしましょう。