ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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ドメーヌ・ラファージュ「バスティード・ミラフロール ブラックスレート」を飲んで調べて味と価格をまとめてみた。【DOMAINE LAFAGE BASTIDE MIRAFLORS BLACK SLATE】

バスティード・ミラフロール ブラックスレートはどんなワインか

18歳くらいの頃、フリーマーケットに出店するのが趣味だった。
地元のフリーマーケットで購入した商品を翌月のフリーマーケットで売るみたいなサイクルで、それで儲けようというわけではなく、ただ“出店者”という一種特権的な(ように勘違いすることが可能な)立場で、地べたに座って仲間と1日を過ごすのが楽しかった。青春を持て余して、要するにとてもヒマだったのだ。
ある日、私はフリーマーケットの店番をしながら、カミュの「異邦人」を読んでいた。書いていて匿名ながら相当恥ずかしいのだが、フリーマーケットに出店しつつ「異邦人」を読んでいる俺、みたいなものを満天下にアピールしたかったのだと思う。うわあああああと頭をかきむしりたくなるが、ともかく読んでいたんだから仕方がない。そして忘れもしない、一人のフランス人と思しき女性が通りがかり、私に「なにを読んでいるのか?」と聞いた。
その後のやりとりを私は今も鮮明に覚えている。その女性は、「ああ、エトランジェね」と言った後、「これはフランス語で読んだほうがいい」と言ったのだ。これにはやられた。おれはフランス語で異邦人を、いやさエトランジェとやらを読まねばならぬ、フランス語で、絶対にだ、と、そのとき私は誓った。

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ドメーヌ・ラファージュ「バスティード・ミラフロール ブラックスレート」を飲みました。

それから1年後、私は大学生となり、選択する言語として迷わず英語ではなくフランス語を選択した。橋の下を多くの水が流れ私は大人になった。今、私がフランス語で本が読めるかといえば、そりゃまあねえ、アンタ、読めるわけないじゃないですか。人生ってそういうもんだよ、な?(18歳の頃の私の肩を抱きながら)、という体たらく。

さて、とにもかくにも時が経ち、私はワインが好きになった。でもって、今日飲むのは、遠い日の憧れの地、フランスのワイン、ドメーヌ・ラファージュの「バスティード・ミラフロール ブラックスレート」である。調べてみると、ドメーヌ・ラファージュは南フランス・ペルピニャンを拠点とする生産者で、当主ジャン・マルク・ラファージュは世界中から引く手あまたでアッサンブラージュの天才と言われる醸造家なのだとか。

バスティード・ミラフロール ブラックスレートを生んだ土地の歴史

このペルピニャンという土地、「フランス領カタルーニャ(北カタルーニャ)」の中心都市なんだそうで、カタルーニャ語ではパルニビャーと呼ぶんだとか。フランス領カタルーニャっていう言葉に恥ずかしながら聞き覚えがなくてさらにディグしてみると、時は17世紀、プロテスタントカトリックが争い、ヨーロッパ中を巻き込む国際戦争となった三十年戦争に端を発し、1635年から1659年まで続いたフランス・スペイン戦争の果てに、1659年に締結されたピレネー条約により割譲された土地なのだとか。

ピレネー条約に先んずること約10年のヴェストハーレン条約で、フランスはアルザスとロレーヌを手に入れているので、アルザス、ロレーヌ、ルシヨンというワインどころは17世紀半ばのこの時期にどどっとフランス領に入ったことになる。この三地方がフランスにない可能性があったのか……!

アルザスリースリングがドイツと同じ細長いボトルだってのもさもありなん。彼の地は17世紀までドイツだった。そして欧州では17世紀はつい先日である(暴論)。

「バスティード ミラフロール ブラックスレート」の話だった。18歳の頃の自分に恥じぬようにせめてその意味を調べると、ミラフロールはドメーヌ・ラファージュの所在地。バスティードは「中世に建設された新都市」なんだそうだ。フランス領カタルーニャの歴史的経緯を知った上でその意味を知ると、直感的にはよくわからないけれども、ともかくなにかしら歴史的な意味合いがその名に宿されていることが感じられる。つくづく歴史はワインの味わいを高める合法かつナチュラルな添加物。「安定剤(歴史)」みたいに表記すべきレベル。

もうひとつ、BLACK SLATEは直訳すると黒い粘板岩、といったところででよくわからないけれどもおそらく土壌、テロワール的ななにかを表す文言なんですかね。ブドウはシラー70%、グルナッシュ30%とのこと。

バスティード・ミラフロール ブラックスレートの味と価格

飲んでみると、これがもう、ちょっとどうかしてるくらいバカうま。歴史がどうとか調べておいて飲んだ感想が「バカうま」なのは自分でもまったくどうかと思うけれども他にとくに言葉がない。深紫色で、見た目にも濃厚。飲んでみるとやっぱり濃厚。フランス領カタルーニャはフランスでももっとも暑い地方とのことで、いかにもたくさん太陽を浴びたブドウの味という感じがする。チャーミングでグラマラスで女性にたとえるならばそこはかとない壇蜜感漂うワイン。1立方センチメートルあたりに使われてるブドウの量が多い感じがする。ドメーヌ・ラファージュ醸造所は地球上のその他の地点に比べて重力子の作用が強いのかもしれない(わけない)。
買い値2618円でこの内容は最高の一言。ちなみに私はこのワインを京橋ワインで買ったが、京橋ワインの商品ページにはこんなことが書かれている。

これが飲めた人はまさに奇跡!人生最高の幸運を手にした人です!この先、一生分のお買い求めを、強く強くおすすめします!

気持ちはわかるがこの文章を書いた人の肩をポンと叩いて私は言いたい。「落ち着け」と。