ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

バロークス プレミアムバブリー シャルドネ。缶入りスパークリングワインを飲んでみた。【Barokes prmium bubbly chardonnay】

缶スパークリングワイン「バロークス」の魅力

ツイッターで缶ワインの話題が盛り上がっているなあと思いながら近所のスーパーに行ったらドリンク・ミーみたいな眼差しでこちらを見つめてくる缶ワインがあったのでお迎えした。「バロークス プレミアムバブリー シャルドネ」がそれである。

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バロークス プレミアムバブリー シャルドネを飲みました。

実は私はバロークスの缶ワインを昨夏週一ペースで飲んでいた。屋外で開かれるなんかのパーティとかに行くと最初にサーブされる一杯の泡、あれが好きで、あの感じを家で味わうにはバロークスの250ml缶がベストと感じていたのだ。

ただ、ここ最近はとんとご無沙汰していた。その理由は単純で、カクヤス500円泡の登場によってである。バロークス1缶400円とか。カクヤス500円泡、500円。容量約3倍。あとは推して知るべしで、最近はもっぱらカクヤス500円泡を飲んでいたという次第だ。

しかし、この考えは言わずもがな痩せた考えで、それならばワインは値段が低ければ低いほうがいいということになってしまう。わたしにとってワインは多様性の海に漕ぎ出すための船であって、価格などといった基準だけで選べるものでは到底ない。

私はバロークスが好きだったのだ。缶に入ったそれを夏の夕方に注いで一口飲む、スッと汗が引くあの感じがいいな、わたし時間だな、わたしナウ・オンだなと感じていたのだ。いちいちストッパーをつけて冷蔵庫にしまって……みたいな手間がないのも素晴らしい。缶の底にチョビっと残って気が抜けてしまったのなら、そのあとに赤ワインと合わせる肉料理に入れて風味をつけるもをかし。

バロークスの技術の鍵「vinsafe」とは?

さて、バロークスに話を戻すと、この缶ワインの鍵を握るのがvinsafeなる技術であることがわかる。vinsafeとは、公式の説明によれば「ワイン、缶、および充填技術を組み込んだ統合システム」であり、それを採用することで「非vinsafe缶の2倍の長さ」の12カ月間品質が保証され、「ワインの完全性を最大5年間維持することが証明されています」とのこと。

ワインの品質管理について主に論じられる書籍「イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門」の著者は、強く、軽く、光やガスを通さないアルミ缶を「空気も微生物も遮断した状態で充填作業を行えるうえに、通常より少ない量の二酸化硫黄でも品質が9カ月ほど保てる」と評価しつつ、「さほど普及していない」理由を、「アルミ缶といえばビールという印象」「設備投資がかさむこと」そして「ガラスボトル以外の容器に対する人々の抵抗感」を挙げている。うむ、そうっすね。

これは電子書籍の普及の問題に似ている。電子書籍はなにをどう考えても便利だが、「紙以外のデバイスで長文のテキストを読むことに対する人々の抵抗感」によって、期待されたほどには普及していない。プロ野球セ・リーグにおけるDH制導入にも似たようなところがあって、投手も打席に入るのがセ・リーグの野球であるというDH制に対するセ・リーグ関係者の抵抗感によって導入が遅れているように思えるワインの話だった。

缶ワインと「気分」の問題について

ただ、これが無視できない議論であるのは間違いがない。書籍『GAFA 四騎士が創り変えた世界』に、スティーブ・ジョブズ最高の発明はほかのなんでもなく、アップルストアだという話が出てくる。レジの後ろにキーボードやむき出しのハードディスクが積み重ねられたPCショップでナードな店員から購入するものだったパソコンを、洗練されたブティックのような内装のショップで、知性と将来性に溢れているように見える店員から王のような扱いを受けて購入するものに変えた、それこそがジョブズの革命だという話だ。「マニアしか入れない雰囲気のショップに入ることに対する人々の抵抗感」をなくしたことで、アップルは天下をとった。消費者の購買行動において「気分」は死ぬほど重要だ。

缶ワインでは気分が出ない、という意見は間違いない。今夜こそ告白するぞと前のめりに臨んだデートでフランス料理店に行き、テキトーにワインを注文したら缶ワインが出てきた、となると現状そりゃまあちょっといっやー、どうですかね、缶。ここはボトルで出てほしかったです、僕、みたいになると思う。

一方で、一仕事終えてようやく涼しくなってきた夕方に、ベランダかなんかで風かなんか浴びながら、本格的に飲み始める前にサクっと飲む、ピンク色に染まる空を見ながら、みたいな状況においては、缶ワインの強みは大いに出てくる。あるいは飛行機の機内で飲むのにも良さそうだ(航空機内で供されるペットボトルワインは、酸素を透過するため寿命が3〜6カ月ほどになってしまうのだとか)。出張帰りの東海道新幹線で駅弁に合わせるシーンは想像するだけでたまらない。神宮球場の外野席でスワローズ対カープ戦を眺めながら飲むなんてのも乙でしょうなぁ。若い二人が井の頭公園で池かなんか見ながら、ベンチに二人で並んで座る。間にバロークス、とかもいいじゃないですか。うらやましいな、若い人。

バロークス プレミアムバブリー シャルドネを飲んでみた。

というわけで、缶ワインがさらに人口に膾炙していくかどうかを決めるのはマーケティングいかんにかかってるという超ふつうの意見に落ち着いてしまったのでもう飲む。

バロークスはふつうの泡とロゼを飲んでいたので、金色のこの缶ははじめて。どんな味かなと飲んでみたら……うまい! けど、泡、弱い!

味は本当においしいと思う。シャルドネ100%の泡の味を脳裏に描いていただいて、ややりんごみたいな味わい強めって考えていただければその味ですっていう味。なのだが、泡は弱い。微発泡って言いたいレベル。

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vivinoの点数は2.8点。この評価も、「缶である」っていうことが作用している気がする。

おいしいけどな〜、もう少しこう、シュワシュワしてるほうがいいなあ、と思っていてふと気がついた。「これ、缶のまま飲むべきなんじゃないか」と。だって缶なんだし。あのさあ、子どものころ缶コーラをコップに移してないだろう? そういうことだぞ、っていう心の声に従って、缶のまま飲んでみた。

うっま。

なんだこれ、しっかり泡を感じることができる。シュワシュワしてる。このワイン、缶のまま飲むようにチューニングされている!? 「缶で飲む」そのことにしっかりこだわって、このワインは造られている……!

以上はもちろん勝手に私が受信した怪電波にすぎないが、グラスで飲んだ場合と、缶のまま飲んだ場合の明らかな味わいの感じ方の違いからは、「缶ワインを造る」ことへのプライドみたいなものを感じたような気がしたのだった。

アルコール度数13%と意外と強くてイージー・トゥ・ドリンク。若い恋人たちは、バロークスを飲むべきだ。お外で。いいなあ。