ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

自然派ワインの父、マルセル・ラピエールの遺志を継ぐワイン。「ボジョレー シャトー・カンボン」を飲んでみた。【Beaujolais Chateau Cambon】

自然派ワインの父、マルセル・ラピエールとボジョレー シャトー・カンボン

とあるワインを購入しようとワインショップのページをチェックしていたところ、「1本から送料無料」と謳っているワインが目に留まった。それが今回飲んだワイン、「ボジョレー シャトー・カンボン」だ。どうせ別のワインを買うんだし送料分が実質割引となるのであれば迷う理由はないな! とマーケティング戦略には積極的に乗っかっていくという本ブログのスタイルに従って購入。マーケティング用語でいうクロスセルってやつですが私の場合はクロスバイ。迷ったら両方買えの精神であります。さてせっかく買ったことだしと調べてみると、商品紹介ページには、このワインの産みの親的人物として、マルセル・ラピエール(故人)という人物の名前が挙げられている。あれこの名前どこかで聞いたことあるなどこだっけ、と考えてああそうかと思い当たった。まさに今読んでいる本『土とワイン』でその名の言及があったのだった。

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ボジョレー シャトー・カンボンを飲みました。

本によれば、ラピエールは当時「貧しく低品質なワイン産地へとなりさがった地域」であったボジョレーの「救い主となった」とある。彼が行ったのは有機農法によるブドウ栽培と、ブドウを破砕せず、亜硫酸さえ使わない自然ワイン造りだそうで、私でも名前を知っているフィリップ・パカレは彼の甥であり、2018年に亡くなったDRC共同経営者のアンリ・フレデリック・ロックほか多くの生産者に影響を与えたそうな。ほえー。

ボジョレーとガメイとマルセル・ラピエール

『土とワイン』では、ボジョレー地方の特徴について項を設けていて、そこではボルドーの特徴的な品種であるガメイについて詳しく書いてある。それによれば、ガメイは歴史的に持ち上げられたり落とされたり、いろいろあったようなんだけれども読んでるとガメイ大喜利みたいに見えてきてちょっと悪いけど笑うわってくらい面白いので以下に記します。

ガメイとは?

ブルゴーニュという冷酷な親の元に生まれた哀れな少女

・ペストに苦しむ人々に対する全能の神からの謝罪のしるし

・劣悪で不実な植物

・三人姉妹の真ん中のような、肩身の狭い立場

・冗談めいた販売戦略の道具

なんですかこの言われようは。三人姉妹の真ん中の人に謝ってください。ちなみに三人姉妹の残りは高貴なるブルゴーニュと威厳あるローヌ北部だそうです。ボジョレーがんばれ。負けるな、ボジョレー。

気を取り直して上の箇条書きを説明すると、14世紀、発見当初のガメイは収量が多く、熟すのが早く、風味も豊かだったことから大評判となるが、時の為政者に気に入られず引き抜くよう命じられてしまう。なんとかロワール、ローヌ北部、ボジョレーで生き残ったガメイは数世紀後、とあるネゴシアンの販売戦略に乗せられ、世界的ボジョレー・ヌーヴォーブームが巻き起こるも、生まれたワインは「本来のガメイワインの模倣品」であり、結果的にボジョレーは「貧しくて低質なワイン産地へとなり下がっ」てしまう。そして、その産地を救ったのがマルセル・ラピエールという流れだ。

 ボジョレーの黒歴史についてはこちら↓で軽く触れています。

himawine.hatenablog.com

当時のボジョレーの「未熟な状態で収穫し、糖分を加えて発酵させた後、ワインの状態を安定させておくために亜硫酸を加え」て作ったワインは「完全に毒入りシチュー」だと考えたラピエールは、科学者でありワイン醸造家のジュール・ショヴェの助けを借りて、「有機農法によるブドウ栽培と、自然ワイン造りを始めた」とある。なるほどなー。(ガメイは)三人姉妹の真ん中、とか、毒入りシチュー、とか、随所に筆が走っちゃってるところが『土とワイン』という本のなんというんでしょうか、コクの部分ですね。オススメです。

自然派ボジョレー シャトー・カンボンはどう造られる?

フランス自然派ワインの父と呼ばれたラピエールは2010年に逝去し、現在はその妻と幼馴染が遺志を継いでシャトー・カンボンのワイン造りを行っているとのこと。ブドウは樹齢50年の古木から手摘みで収穫後、ホーローのタンク内で破砕せずに野生酵母とともにマセラシオン・カルボニックを行い、古樽でシュール・リー熟成。瓶詰は原則ノンフィルターで、ボトリングの際にごく少量だけSO2を添加するとある。自然派ですね。さてその味わいはいかがか。ちなみに私は、自然派であるかどうかはワインを選ぶ際の判断材料にはしておらず、どちらもリスペクト。工業製品的に造られたワインだってリスペクト。それがワインである限り、という立場です。

ボジョレー シャトー・カンボンを飲んでみた。

さて、抜栓してみると、コルク短め。注いでみると、色薄め。香り弱め。あれこれ大丈夫かな。ここまでいい予感一個もないけどと飲んでみるとなんですかこれ、出たっ、ガメイ史上NO.1ッ! ってなった。飲んでるキャリアが浅すぎてしょっちゅう自己ベストが更新される弊ブログではあるものの、このガメイはおいしいんじゃないでしょうか。なんですかねこれは。天然素材の服を着た化粧っけはないけど愛想のいい女性店主が営むドライフラワーとかが飾ってある無垢材中心のインテリアが落ち着くカフェで、自家製ジンジャーエールですって言ってでてきたスパイシーな飲料にイチゴジャムが添えてある、みたいな香りの雰囲気がある。ちなみにその店の床はむき出しの土でハーブとか自生してる。すげえ店だな。そして、主張しすぎないけどたしかにある果実味と、くっきりした酸味が、フェンス直撃のライナー性の当たりのように味覚を刺激する。当たりが良すぎてシングルヒット、みたいなもどかしさもありつつ。なにを言っているのかわからなくなってきたぞ。

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vivinoの評価も3.9点と高め。

正直ガメイをなめていたというか、もっとわかりやすくチャーミングな味しかしないのかなと思ってたんだけどすみません謝る。本日2日目はさらに味わいが変化しているに違いない。早く夜にならないかしら。そしてどなたか飲まれた方いたら、この味わいをどう表現すべきか教えてください(他人任せ)!