ワインステーション+ですごいワインが出てきた
2022年の元日に、豪徳寺のワインステーション+へお邪魔した。親戚の家が近くにあり、正月の午後の一瞬の間隙を縫って新年初飲みへと繰り出したわけだが到着するとなんと店内は超満員。旧知の方々とも会うことができて大変有意義だったのだがそこでとんでもないワインを飲んだので記録に残しておきたい。
さて、行った方はおわかりの通りワインステーション+にはワインリスト、みたいなものがない。あるのかもしれないけど、私はみたことがない。あんのかな。あったらすみません。ともかくない。
なので、オーダーの仕方としては「泡ください」「なんか赤お願いします」みたいな曖昧な感じ、甚だしくは「適当に面白いのください」みたいなもはやなにが出てきても文句は言えない抽象的な方法になる。
ただしその結果、店主こと駅長がその時々で入荷している南アフリカワインから適当なものをグラスに注いでくれ、それが大概おいしい。ワインの価格はこれまた大概わからないが、この店で「思ったより高いな」と思った経験は一度もないどころか「あれ、計算間違えてんじゃないのこれ」というほど安いケースがほとんどであるため安心して飲める。いい店だなあ、ワインステーション+。なんの話だっけ。
「アフリカーの倉庫で見つけた4万くらいするシラー」の正体は?
話は元日の午後に戻る。元日の振る舞い酒でグラス500円というシャンパーニュを飲み、機会があれば1記事を割きたいカノンコップのピノタージュ2011(ものすごく素晴らしい)を飲んでご機嫌になり、さてそろそろおいとまするかと私は思っていた。
そこに、宅配業者から店にワインが到着。中からとんでもないワインが出てきたのだった。出てきたのは、木箱ならぬ木枠によって固定された黒一色のボトル。駅長いわく「アフリカーの倉庫で見つけた4万くらいする南アのシラー」なんだそうだ。
そもそも南アのワインって全体に高コスパなわけですよ。シラー(ズ)で4万って。一体どんなワインなんだという話になるのだが、駅長にもよくわからないのだそうで、正月だし景気良く行ってみようみたいな感じで仕入れたワインのようだ。なにがすごいって正月がすごい。
約4万円するワインを入荷せしむる正月もすごいがこのワインの見た目も改めてすごい。ボトルを封印している木枠の天面には鍵のカタチの凹みがあり、ボトルを取り出すためにはどうやら鍵を使って解錠する必要があるという中二病心をくすぐる仕様。調べてみると、生産者は「デ・トーレン」。ワインの名前は「ブラックライオン シラーズ」というようだ。
到着したばかりだし2019ヴィンテージだし少し休ませたほうがいいんじゃないんですかね少しっていうか5年くらい、という気がしなくもないがここはワインステーション+、難しいことを考えずに気楽にワインを楽しめる酒場だ。駅長からのオファーもあり、話のタネに飲んでみることにした。南アの超高級シラーズ、飲んでみたいじゃないすか。
デ・トレン ブラックライオン シラーズはどんなワインか
生産者のデ・トーレンはアフリカーのサイトによれば 1994年設立の比較的新しいワイナリー。公式サイトには「国際的な経験を積んだワインメーカーと企業家の融合」であり、その目的は「世界最高級のボルドースタイルのワインをつくる」ことにあると書いてある。農家ベースじゃなくて企業ベースの生産者なんですねなんかわかる。デ・トーレンは塔を意味し、南ア初の100%重力駆動のタワー型セラーに由来するのだそうだ。「ザ・タワー」なわけですね。カッコいい。
25ヘクタールの農地はステレンボッシュ大学の研究者とともに土壌分析を行い15種類の土壌を特定。カベルネ・ソーヴィニヨンは左岸っぽい砂利質の土壌に、メルローは右岸っぽい粘土質の土壌に植えるなど、区画ごとにそれぞれ最適な5品種25のクローンが植えられているという。うーん手間かかってる。だんだん4万円の理由が見えてきたぞ。なんでも収穫前には実の凝縮度を高めるために4割のブドウを取り除くそうですよ。贅沢〜。
ブラックライオンはそのフラグシップのひとつ。公式オンラインショップでの価格は3245南アフリカランドで、日本円にして2万3572円(2022年1月4日時点)。たっか。参考までに有名なブーケンハーツクルーフ “7つの椅子”シラーの価格を調べると495南アフリカランド約3595円なわけなのでそのプライシングのすさまじさがわかる。7つの椅子の6.5倍…!
その製法を調べると、いきなり新樽200%というパワーワードが出てくる。発酵・熟成すべてが新樽ってことですよねこれ。それ以上の特別な説明はないのだが、1000〜1300本が生産され、それぞれにシリアルナンバーが振られているそうだ。
金は出すからともかく最高級ワインを造るべしみたいなポリシーの元、生まれるべくして生まれた高級ワインという印象だ。私の生活圏・消費ポリシーからはかけ離れたワインだが、飲んでみましょう。正月だし。
デ・トレン ブラックライオン シラーズがグラスに注がれるまで
ところがワインを固定する木枠、これがなかなか開かないんですよ。鍵があんだから鍵穴があると思うわけじゃないですか普通。さにあらずで、鍵の先をネジの頭に差し込んでマイナスドライバーの要領で1本ずつ引っこ抜く必要がある。
木枠に入った佇まいは完全に高級ワインのそれなのだが、解錠というかこの様子はむしろ解体、という印象で、引っ越しのときにIKEAの家具をバラす、みたいになってしまうのは仕方ないことだろうか。なんかこう、鍵を刺すと木枠がバラバラになるみたいな演出を期待してた。
さて、すったもんだの末に木枠から外されたそれを、コラヴァンを用いてグラスに注いでもらった。ちなみに飲んだのは予算の都合で「ハーフのハーフ」サイズだ。今年こそ庭からレアメタルが産出してほしい。家に庭ないけど。
デ・トーレン ブラックライオン シラーズを飲んでみた
外観はディープな感じの紫色で、色の印象の通りのインクとブドウを1:1で合わせて擦ったばかりの墨汁を足したような香りが立ち上ってくる。開けたて(開けてないけど)とは思えない落ち着いた非常にいい香りだ。
飲んでみると甘渋すっぱの三要素がどれも強く、要素の多い感じがするがヴィンテージは2019。40年以上の熟成が可能だというこのワイン、おいしいけれどもさすがに飲むには早いんじゃないですかね一般論として、という味がする。
ただ、クール便で送られてきたばかりのこのワインを手のひらで温めながら飲んでみたところ、時間が経つにつれて少しずつ開いてきて、硬いつぼみから本来の香りや味わいが顔を覗かせるみたいにはなってくるので、この日味わえたのはその壮大なスケールの片鱗、物語の序章の部分だったのだろう。立ち飲みしちゃってゴメン。
というわけで南アフリカ最高峰のシラーズ、気になる方は豪徳寺のワインステーション+に念のため問い合わせの上で是非。新年早々話のタネになるはずだ。