カリフォルニアのグランクリュ! 「ボンド」のワイン飲み比べてみた
カリフォルニアカルトの一角・ボンドのセミナーに参加
カリフォルニアにはカルトと呼ばれるワインが数あるが、なかでも有名なうちのひとつがハーラン。そして、そのハーランの兄弟ブランドといえるのがボンドだ。
カリフォルニアカルトの代表選手。飲みたいものだ、来世で。と思っていたら、なんと「ボンドのセミナーがあるから来ないか」と輸入元である中川ワインの方からお誘いいただいた。
ちょうど現世で飲みたいんと思ってたんですよと脇目もふらずに参加させていただくこととしたので、その日の模様をレポートしたい。

この日はボンドの支配人でありマスターソムリエであるマックス・カーストさんが来日。東京・有楽町のザ・ペニンシュラを会場に、7種類のワインをテイスティングしながら貴重はお話を聞かせていただいた。
まずは7種類のワインのラインナップを見てみよう。こんな感じだ。
2021 メイトリアーク
2021 クェラ
2021 メルバリー
2021 セント・エデン
2021 ヴァシィーナ
2021 プルリバス
2011 プルリバス (蔵出)
いきなり野暮なことを書くと、メイトリアークの価格は60,000円。他のワインは158,000円だマジか。2011 プルリバスに至っては参考試飲のみで一般販売なし。すごいワインばっかりだ。ワインブロガーやっててよかった。
ちなみに私の周りには高級ホテルやレストランのソムリエ然とした方々ばかり。場違いな空間に紛れ込んでしまってもまったく気にならないタイプでよかった。
ボンドはどんなワインか?
ワインの感想を述べさせていただく前に、まずはサクッとボンドについてまとめていこう。まずハーランとボンドでなにが違うのかだが、それは端的にボルドーとブルゴーニュの違いと言えるようだ。
ハーランはカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなどを組み合わせて造られるのに対し、ボンドはカベルネ・ソーヴィニヨン単一で造られる。そしてメイトリアークを除いた5キュヴェは、すべて単一畑のぶどうで仕込まれている(メイトリアークはマルチヴィンヤードのセカンド的位置付け)。キュヴェ名すなわち畑の名前となっている。

なぜそうなったのか。それはハーランの創世神話に由来する。
ハーラン/ボンドの創始者であるビル・ハーランは、オーパス・ワンのラベルに描いてある横顔でお馴染みのカリフォルニアワイン界最大の有名人、ボブさんことロバート・モンダヴィと親交が深く、彼に勧められてフランスに視察にいったそう。
最初にボルドーで一級シャトーをすべて巡ったあと(そこで200年続くワイナリーをナパに造ろうと決意したそうな)、向かったのがブルゴーニュ。
そこでビルさんは思ったのだそうだ。「なんで同じピノ・ノワールなのに、こんなに味が違うんだッ」と。同時にロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ロマネ・サンヴィヴァンといった偉大な畑はすべて東向きの斜面の中腹にあることにも感銘を受けたのだそうだ。
帰国したビルさんは、ナパ・ヴァレー中を駆け巡って、コート・ドールで見た陽の当たる東向きの斜面の探索を開始(当時のナパはバレーフロアと呼ばれる平地で主にぶどうが栽培されており、斜面の畑はあまりなかったそうだ)。そこで見つけたのがヴァシィーナとメルバリーのふたつの畑であり、このふたつの畑から「ボンド」は産声を挙げることになる。

その後5つにまで増えた畑はそれぞれ土壌も違えば標高も違い、ときに仕立て方も異なっていたりするそう。醸造はすべてのワインで同じなのだそうが、先に結論を言うと、畑の違いによる味わいの違いは心底驚くべきものだった。
「ナパのグランクリュ」が生むワインの実力、一杯ずつ見ていこう。
ボンド メイトリアーク 2021
まずはメイトリアークだが、ここでこの日の講師を務めてくれたマックス・カーストMSのヴィンテージコメントを紹介しておこう。
「2021年は7インチしか雨が降らない、つまりほとんど雨が降らなかったヴィンテージです。ぶどうは粒が小さく、そのぶん皮が厚い、タイトにしまった小さい房になりました。非常にパワフルで、力強いヴィンテージです」
雨少ない>粒小さい&皮暑い>房小さい>凝縮度鬼高い、みたいな理解で一旦問題ないと思う。そして、メイトリアクについてはこう語ってくれた。
「メイトリアークはボンドのセカンドワインです。5つのクリュ(畑)は小さい区画ごとに収穫、区画ごとに醸造を行います。ワインとして仕上げたあとで区画ごとのワインをテイスティングし、ベスト・オブ・ベストを選んでブレンドし、ファーストワインとして仕上げたあと、残った樽をブレンドしたものがメイトリアークになります。そのため、ボンドのすべての畑の要素が入っているのがメイトリアークの特徴です」(カーストさん、以下同)
私はこのワインを飲んで、「これは無限に続くレッドカーペット街道だ」と思った。カリフォルニアのぶどう畑、その畝と畝の間にレッドカーペットが敷き詰められ、それが丘の向こうにまで続いている。
重厚なのにエレガント。そして味わいの奥行きが無限に深いベリー無限廻廊。めちゃくちゃうまいなと感じたが、真のビックリ体験はこのあとやってくる。
ボンド 2021 クェラ
いよいよカリフォルニアのグランクリュの世界へ分け入っていこう。2杯目に飲んだのは「2021 クェラ」。
これがとんでもないワインだったのだった。クェラはドイツ語で「純粋な源」という言葉に由来する。古代には川底だったところが隆起したという土地なのだそうだ。
飲んだ印象は宇宙一優雅なブラックホール。注がれたワインは30mlほどだが重量は300グラムはあるんじゃないのかな少なく見積もって、という密度。パワーが内側へ内側へと向かっており、3リットルの液体が圧力によって30mlになってしまったような雰囲気を湛えている。
メイトリアークはものすごくおいしいワインだった。だが、それと比してもこれは端的にレベルが違う。
ボンド 2021 メルバリー
この日飲んだボンドの畑違いのどれが一番おいしいかは人によって意見が異なると思うが、私が一番好みだったのがこのメルバリー。

「こちらは粘土質土壌なので、火山質土壌のクェラとは雰囲気が異なるのではないでしょうか。オーガニック栽培で不耕起というマサノブ・フクオカ(福岡正信)の教えにならっています」(カーストさん)
というこの畑は灌漑を行なっていないため、雨の少なかった2021年は過去もっとも収量が少なかったそう。ワイン界隈では「厳しいヴィンテージで収量が少なかった分、採れたぶどうには凝縮感があり、造られたワインは素晴らしいものになった」みたいな宣伝文句はよくあり、いつも「ほんとかよ」と私は思っているのだが、これはちょっとほんとにとんでもないワインだった。
限界までなめらかでつるつるすぎる球体を思わせる味わいで、ボリュームたっぷりの果実が高密度で存在しながらも、タンニンと酸が豊かすぎるがゆえにそれを感じさせずに印象はあくまでもエレガントで、同時に極めてチャーミング。これがカベルネ・ソーヴィニヨンだって? 嘘だろ? という味わい。すごいなボンド!
ボンド 2021 セント・エデン
ここまでの3杯は「これがカベルネ?」という印象の、繊細でエレガントな印象の味わいだったが、続くセント・エデンからはまったく異なる印象を受けた。

バレーフロアに位置するこの畑は、夜が寒く昼は非常に暖かい土地なのだそう。それだけに、これがナパのキャベルネじゃ! と言わんばかりのパワフルでビッグ&ボールドな味わい。お願いだから今すぐにTボーンステーキを持ってきてください、血が滴るほどのレアで! と言いたくなる、カリフォルニアワインの王道感あふれるワインだった。
クェラの内向きで陰性な旨み、メルバリーのエレガントな果実味、そしてセント・エデンのクラシックなナパカベを思わせるボリューム……畑ごとの違いってこんなにわかりやすく出るもんなんだという驚きがある。
ボンド 2021 ヴァシィーナ
次のヴァシィーナはカーストさんいわく「クリュ(畑)ではなくリュー・ディ(区画)」とのことで、他のワイナリーも使う畑の、ボンド専用の区画のぶどうを使用しているとのこと。ちなみに、5つの畑のなかでもっとも涼しいそうだ。

その気候は液体にも反映されているようで、冷たくて硬いけれども極めてなめらかといった印象。失踪するチーターやグライダーのような機能美にあふれる流線型が自然と想起されつつも、果実味と酸味が爆発的に弾けていて人懐っこさもある。偉大なワインの2021ヴィンテージがもう飲める、それもカリフォルニアワインの良さだなあと、そんなことを思わせてくれるワイン。
2021&2011 プルリバス
最後に2ヴィンテージの垂直試飲を試すことができたのが、標高347〜404メートルとボンドのなかでもっとも標高の高い畑だというプルリバス。タンニンが高くなりやすい“山カベ”。2021と、蔵出し2011の贅沢な飲み比べとなった。

まずは2021だが、飲んだ印象は「黒一色」。口に含んだ瞬間に電気が消されて部屋が闇に包まれたような感覚がある。暗く静かなエネルギーにあふれているのだが、薄暗い茶室に活けられた一輪の山茶花のような果実味もあって、それが飲み手に救済をもたらすような、ストイックさのなかに親しみやすさが隠されている。
宇宙のエネルギーの7割を占めることがわかっているにも関わらず今の人類では観測することすら叶わないというダークエネルギーの正体ってナパ・ヴァレーのカベルネが発するエネルギーなんじゃないかという仮説まで成り立つ(成り立たない)ようなワインだったのだった。
そして今回のお楽しみ、ボーナスステージであるところのプルリバス2011だが、これは「黒」が時間経過で「紫」へと変化したような味わい。紫はさらに「赤」と「青」に分解されている。深く暗い森の中のそこだけ光が降り注ぐ一角に、同時に豊かな雨が降っている。冷たくて暖かく、有機と無機が混淆している。矛盾している要素が違和感なく共存し、とんでもなく広い世界をボトルのなかで形成している。
印象としてはまだ若々しいけれど、ゆっくりと熟成の歩みもはじめつつある。掉尾を飾るに相応しい、素晴らしいワインだった。
ボンドの5つの畑について
そんなわけで中川ワイン主催の「ボンド マスタークラス」は幕を下ろした。
ボンドが誇る5つの畑を一通りテイスティングさせてもらったが、
クェラ/プルリバス=陰
メルバリー/ヴァシィーナ=中庸
セント・エデン=陽
というのが個人的整理。これが正しい整理かどうかは一旦さておいて、畑によってカベルネ・ソーヴィニヨンはびっくりするくらい表情を変える。ボンドが証明するのがその圧倒的事実である点は疑う余地がないだろう。
カーストさんいわく、「ボンドは40年の時をかけて120の畑に携わり、5つの畑を見つけました。今は最後のひとつを探している途中です」とのこと。40年で5つの畑を見つけたわけだから、ひとつの畑を見つけるのに10年近くの時間をかけているということになる。今回5つの畑の5つのキュヴェを飲んみると、それも納得だ。すべてがおいしいのは当たり前として、とにかくそれぞれの個性がすごい。
カリフォルニアワインは本当に奥が深い。もっともっと知りたいので中川ワインさんまた呼んでください!(直訴)
なんだかんだいろいろ飲ませてもらっています↓
