カリフォルニアのすごいピノ・ノワール&シャルドネを飲んできた
とんでもないワイン会に参加してしまった。どうとんでもないのかはあれこれ説明するよりワインリストを見ていただくのが早いはず。いきなりだがご覧いただこう、これだっ。
1 ラック&リドル ブリュット ブラン・ド・ブラン ノースコースト
2 キスラー シャルドネ カーネロス ハドソンヴィンヤード2004
3 ピーター・マイケル シャルドネ ソノマカウンティ Mon Plaisir2004
4 オーベール シャルドネ ソノマコースト リッチーヴィンヤード2004
5 ローリング ピノ・ノワール サンタルチアハイランズ ゲイリーヴィンヤード2004
6 ローリング ピノ・ノワール サンタルチアハイランズ ロゼラズヴィンヤード2004
7 ピーターマイケル ピノ・ノワール サンタルチア ハイランズ ル・ムーランルージュ2004
8 キスラー ピノ・ノワール ソノマコースト オクシデンタル ステーションヴィンヤード キュヴェ キャサリン2004
9 キスラー ピノ・ノワール ソノマコースト ボテガ ヘッドランズ キュヴェ エリザベス2004
10 マーカッシン ピノ・ノワール ソノマコースト ブルースライドリッジヴィンヤード 2004
11 マーカッシン ピノ・ノワール ソノマコースト マーカッシンヴィンヤード2004
というわけでカリフォルニアワイン専門のワイン会、それも2004年のピノ・ノワール特化の会にお邪魔したのだった。
ピーター・マイケル、キスラー、そしてマーカッシン……。たとえるならば教科書越しにチラ見するのが精一杯だったキャンパス屈指の美女軍団を思わせるキラ星のようなワインたちですよ。マーカッシンのマーカッシンヴィンヤード04に至ってはパーカー100点ですよ。ミスキャンパスですよ言ってみれば。
この銀河系ワイン軍団を主宰のMさんが個人でご用意くださり(!!)、Mさんを含めた参加者一同で飲むという会。ここ2週間くらい1本750円のコノスル ビシクレタしか飲んでませんという事実は伏せていざ参戦である。
というわけでワイン会の模様をグラス・バイ・グラスでレポートしていきたいのだが、はじめに前提として、東京では新型コロナウイルスの新規感染者数が激減しているなか、テーブルに原則1名着席での厳密なマスク会食という徹底した感染症対策が施されていたことを会の名誉のために付記しておきたい。それでは行ってみよう。
【1杯目】ラック&リドル ブリュット ブラン・ド・ブラン ノースコースト
まずは1杯目は「カスタムクラッシュをやってるところの自社ブランド」(Mさん)だというスパークリングワイン。カスタムクラッシュっていうと委託醸造ってやつですね。グラスの底から漂う細かい泡と、麦わら色の液体が実にいい感じ。
味わいは超わかりやすく青リンゴ。昼間の終わり、日中の熱気がわずかに残る夜のはじまりの17時に飲むのにこれは最高のさわやかさ。なんならこれ1本飲みたい。
【2杯目】キスラー シャルドネ カーネロス ハドソンヴィンヤード2004
乾杯を終えて、次に出てくるのがいきなりキスラーなんですよこの会。私でも知ってるカリフォルニア・シャルドネの王ですよ。2番打者がいきなり王。どうなっているのか。
Mさんいわく「キスラーは1990年代の後半からSO2の量を減らし始めたようで、そのぶん熟成が早く進むし色も濃くなるみたいですね」というわけでたしかに琥珀的な色合い(ハドソンヴィンヤード自体が色が濃いめに出る傾向にあるのだそうだ)。
味わいはこれなんていうんですかね。スタバでいうところのなにかしらマキアートというかクリームブリュレっていうかっていう味わいだ。濃くて甘やか。クリーミーとすら言えちゃうような感じ。でもって熟成した香りがしっかりする。うまいなあ。
【3杯目】ピーター・マイケル シャルドネ ソノマカウンティ Mon Plaisir2004
続いてはピーマイだ。前回この会に参加させていただいた際、みなさんが「このころのピーマイは…」とか「ピーマイと比較すると…」みたいに言っているのを聞いて、テーブルの下でこっそり「ピーマイ」と検索したのは甘酸っぱい思い出。
ピーター・マイケルさんはイギリス人。フランスでビジネスマンとして財を成し、その後アメリカでワイン造りに転じたという人物だ。
船が転覆するので早く海に飛び込んでもらいたい場合、イギリス人には「飛び込むのが紳士ですよ」と、アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」と、フランス人には「飛び込まないでください」と伝えると飛び込むのだそうだ。日本人には「みんな飛び込んでますよ」と伝えるのが効果的です。
なんの話だっけ。ピーマイの話だった。こちらは実にカリフォルニアのシャルドネらしい樽の風味とか熟した果実の感じがしっかりある。Mさんいわく「ピーマイのほうがキレイに熟成してますね」とのことで、なるほど、これが「キレイに熟成してる」ってことかと深く納得がいった。
ちなみにキュヴェ名のMon Plaisir(モン・プレシール)はフランス語で英語でいえばマイプレジャーだそうだ。フランス的ワイン造りをアメリカで行うイギリス人がマイ・プレジャーと名付けるワインかーと思って飲むと味の深みが2割増である。
☆【4杯目】オーベール シャルドネ ソノマカウンティ リッチーヴィンヤード2004
で、この会の最初のクライマックスが4番のオーベールのシャルドネだったこれヤバいやつです完全に。液状の黄金きた。
味わいでいうと、キスラー、ピーマイ、そしてこれと徐々にピュア度が増してくる感じで、参加者の方が「生産者の世代の違いがこの3種類でわかる」とおっしゃっていたのが面白かった。樽を効かせた濃厚なつくりから、より酸を活かした造りになっていく感じで、「オーベールは、『次世代』という印象」とのこと。なるほどな〜。長くワインを飲まれている方は、時代による造りの変遷まで肌感覚とともに楽しめちゃうわけか。素敵すぎる。
オーベールはピーター・マイケルなどでワインメーカーを務めて1999年に独立したという人物なのだとか。新樽率100%での樽発酵・熟成をしつつエレガントに仕上げるのがその特徴だそうで、ひとつ前に飲んだピーマイのシャルドネと味筋が似てるなあと思ったけど、元ワインメーカーならそりゃそうか。
いずれ劣らぬカリフォルニアのトップ生産者のシャルドネ。ここまでの白ワイン3杯ですでに満足度が成層圏に達しているのだが、主宰のMさんいわく「まだまだ十両ですよ……(ニヤリ)」とのこと。このカリフォルニア大相撲、幕の内のハードルが高過ぎる!
【5杯目】ローリング ピノ・ノワール サンタルチアハイランズ ゲイリーヴィニャード2004
おそろしいことにここからが会の本番で、怒涛の04カリフォルニアピノ7連発のスタートだ。そのうちの5杯目、6杯目、7杯目はサンタルチアハイランズAVAのワイン。
そのはじまりを告げるローリングのワインがいきなりすごいワインだった。香りを嗅いだ時点で鼻の中がバラ園なわけです。私はもちろん東京にいるのだが、鼻だけがフランスのバラ園にいるみたいな状態だ。バラの香水とかドライフラワーとかじゃなくて、そのまんま生花の状態のバラの香りがするワインははじめて。
ちなみに、参加者の方が「この妖艶さは、まるでヴォーヌ・ロマネ。ブラインドだったらヴォーヌ・ロマネの一級と答える」とおっしゃっていたので、(まさに……!)みたいな顔をしてうなずいたのだがヴォーヌ・ロマネのワインを過去に80ccくらいしか飲んだことがないのは内緒だ。
☆【6杯目】 ローリング ピノ・ノワール サンタルチアハイランズ ロゼラズヴィンヤード2004
5番がすごいワインだったのだが、続く6番、ローリングの畑違いのワインもすさまじいワインだった。香りはバラ系で前のグラスとよく似ているのだが、こちらはエレガントさがやや減って、代わりにしっかりとした果実味がある。うっまー!
参加者の方々は総じて前のワインのほうを評価していたが、私は(僅差だが)こちらが好み。妖艶さ、奥行き、複雑さ……素晴らしいワインはそれらを兼ね備えるものだと思うが私はどこまで行っても「甘ずっぱい味が好き」っていう小学校5年生レベルの味覚でワインの世界に臨む者。複雑さに親しみやすさを兼ね備えたこのワインは最高においしいと感じたのだった。これが私のここまでの今日イチ。
【7杯目】ピーターマイケル ピノ・ノワール サンタルチア ハイランズ ル・ムーランルージュ2004
そして次が一同をうならせたピーマイの「ムーラン・ルージュ」だ。色はカラメルのような濃い色。アルコール度数は15.3度と非常に高く、アルコールのツンとする感じを強く感じる。これがピノ・ノワール? 嘘だろ? という味わいだ。中学時代にまるで百合の花のようだった少女が30年後の同窓会であったらラフレシア化していたようないや、やめておきましょうこのたとえ。
とにかく強烈な味わいだ。蒸留酒ですと言われたらふつうに信じると思う。参加者の方から「ポートみたいだ!」という声や「エメリアロマーニャのパッシートみたい」という声が聞かれた。
みなさんコメント力すごいんだよな。「うまい」「すっぱい」「やばい」の以上語彙3つでワインの世界にお邪魔している身からすると、こういう知識と経験に裏打ちされたコメントを拝聴するだけで参加して良かったなあという思いがする。みなさん、ワインがお好きなんだなあ。
ムーランルージュといえばパリ・モンマルトルのキャバレー。そしてムーランルージュとといえばトゥールーズ・ロートレックで、ロートレックがポスターで描いた世界のようなデカダンスな雰囲気がグラスの中にたしかにあった。主宰・Mさんいわく「コントロバーシャル(議論を呼ぶ)なワインですね」とのこと。「コントロバーシャルなワイン」って言い方超カッコ良くないすかね。「コントロバーシャルってなんですか?」とド正面から質問したという事実は伏せて、別のワイン会でしれっと「コントロバーシャルなワインですね、このワインは……」みたいに使わせていただく所存だ。
【8杯目】 キスラー ピノ・ノワール ソノマコースト オクシデンタル ステーションヴィンヤード キュヴェ キャサリン2004
そしてここからラスト4杯はスーパー様子がおかしいゾーンへと突入していく。まずはキスラーの希少キュヴェ、「キャサリン」だ。今回、非常に多くのことを教えてくださった古参の参加者の方曰く「これがおいしいカリフォルニアピノ」であり「ブルゴーニュでいえばモレ・サン・ドニ的な素晴らしいバランス」だとのことだ。
実際これが素晴らしくおいしかった。パリとかにありそうな、19世紀から営業している劇場の毛足の長い絨毯のような、滑らかで厚みがあって柔らかい味わい。
キャサリンは生産者の長女の名前なのだそうで、「アメリカは(離婚が多く、裁判で不利になるから)なかなか奥さんの名前を畑にはつけないんです。娘の名前は多いけどね。奥さんの名前を畑につけるのには覚悟がいる……!」というMさんの説明が最高だった。
そしてやや余談になるがこのタイミングで供されたウナギのリゾットが強烈においしかったことを筆圧強めで記しておきたい。コメ、チーズ、ウナギ、キャベツなどが主な材料なので見た目は白い料理なのだが強烈にピノ・ノワールに合った。ワインもおいしいし、料理もおいしいし、みなさん親切に色々教えてくださるし最高の夜だ。
☆【9杯目】キスラー ピノ・ノワール ソノマコースト ボテガ ヘッドランズ キュヴェ エリザベス2004
キスラーのキュヴェ・長女に続いてはキュヴェ・次女。これが今日イチを更新する味わいだった。
5番目に飲んだローリングのヴォーヌ・ロマネ的バラの香りがありながら、6番目に飲んだワインの果実味がさらにボリュームアップしているような味わい。「ブラックチェリーリキュールのような味わい」とどなたかが言った言葉がまさにそれだなと感じた。
つまり長女(キャサリン)よりも次女(エリザベス)のほうが味濃いめ。次女のほうがキャラが濃いわけですね。あるある。私の感想としては、フランス的な味とアメリカ的な味のちょうど中間地点でエレガンスと果実味が正面衝突して新しい素粒子が生まれた、みたいな味がして素晴らしいと感じた。ワインは本当に素晴らしい。
【10杯目】マーカッシン ピノ・ノワール ソノマコースト ブルースライドリッジヴィンヤード 2004
いよいよ会は佳境。マーカッシンヴィンヤードへと突入していく。ワインメーカーはヘレン・ターリー。ロバート・パーカーが「ワインの女神」と呼んだという人物で、ピーマイの初代ワインメーカーでもあるわけなんですね。ピーマイ、オーベール、そしてマーカッシンと、ちゃんと“流れ”みたいなものがつながっていてすごいなこの会の構成。私みたいなド素人が煉獄杏寿郎みたいな顔してうまい! うまい! と飲んでるだけでちゃんとカリフォルニアワインへの理解が進む構成となっている。
本日ご一緒させていただいたブルゴーニュ通の方曰く、これは「完璧!」とのこと。「ブルゴーニュでいえばグランエシェゾー。酸味が極めてエレガント」とのことだった。
その味わいは酸味、渋み、果実味の正三角形にさらにもうひと次元加わった四次元立方体的な、小さな空間が無限の広がりを持つような超常現象的味わい。ドアを開けるとドアがあり、それが無限に連なるような奥行きがある。とてもおいしい。のだけれど、私の好みでいえばひとつ前のキスラーのキュヴェ・次女のほうが好みだった。贅沢〜。
☆【11杯目】マーカッシン ピノ・ノワール ソノマコースト マーカッシンヴィンヤード2004
そしていよいよ真打。パーカー100点のマーカッシンのマーカッシン・ヴィンヤード2004が登場した。カリフォルニアのピノノワールでパーカー100点は6本しかないのだそうで、そのうちの1本だ。
この時点で10種類を飲み、しかもほとんどがアルコール度数15%前後の屈強なワインたちということで私自身ほぼグロッキー寸前なわけだがパーカー100点のカリフォルニア最強クラスのピノ・ノワール、心して味わってみた。
ひとつ前に飲んだブルースライドリッジと同様の奥行きがありながら、原子核にたとえるならばこちらは陽子と中性子の周りを回る電子がブドウの粒の形をしている感じ。グレプトンみたいな未知の素粒子がくっついてません? 原子核に。という印象で、つまり果実味がある。同時に巨大な構造物のような広がりもある。ミクロとマクロを同時に感じるアインシュタイン的味わいだ。すごいワインのすごさがすごい。
ちなみにこのワイン、通は「マーカッシン・マーカッシン」と呼ぶそうだ。今後真似します。
最終結果を発表すると、このワインと9番目に飲んだキスラーのキュヴェ・次女がピノ・ノワールの双璧、シャルドネは4番目に飲んだオーベールがもっとも好きだった。もちろん、以上は個人の感想に過ぎず偉大なワインの前に順位もなにもないのはみなさんご存知の通りだ。
すさまじいワイン会を終えて
というわけで、以上11本を私の味覚レベルで十全に味わえたとは到底思えないが、どのワインも本当においしく、まさしく夢のような一夜となった。
料理もおいしかったなあ……とくに本文でも言及したウナギのリゾットはまた絶対食べたい一皿となった。なんですかあれは。地球上に存在するウナギ料理の中でカバ焼きと勝負できる唯一のウナギ料理という印象だ話が逸れてるのは知ってる。
末筆となるが、今回も私のようなド素人の新参者を暖かくお迎えくださる主宰のMさんならびに、参加者のみなさま、そして素晴らしい料理とホスピタリティで迎えてくださったお店の皆様に心より感謝を申し上げて、拙稿を閉じたい。ありがとうございました。