ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

カリフォルニアのロマネ・コンティとは? 「カレラ ピノ・ノワール セントラルコースト」を飲んでみた【calera pinot noir central coast】

 カリフォルニアのロマネ・コンティ「カレラ」

「カリフォルニアのロマネ・コンティ」という売り文句のワインを見つけたのはワインにハマって数カ月後のこと。ロマネコンティっつったら1本100万とかするやつでしょそれのカリフォルニア版なんてウマいに決まってんじゃん。ははは、買う一択。と買って、飲んでみて、うーんなんかイマイチわからん。コノスル飲も。と、思ったのが1年半ほど前のこと。

先日、AUTHORITYカレッタ汐留店にオーパス・ワンを試飲しに行った際、3本1万円コーナーで選んでもらった3本のうちの1本が、そのとき飲んで以来のカレラだった。正確には、カレラ ピノ・ノワール セントラルコーストだった。

ジョシュ・ジェンセンとカレラ創業の神話

大学卒業後、ドメード・ド・ラ ・ロマネ・コンティで研鑽を積んだジョシュ・ジェンセンはブルゴーニュに似た石灰岩土壌の土地を見つけ出し、1974年にスペイン語で「石灰窯」を意味するカレラと名付けたヴィンヤードをオープン。DRCから持ち帰ったという苗木とともに(これは真偽不明らしい)やがて、カリフォルニアのトップピノ・ノワール生産者となっていく……これがカレラの神話だ。ちなみにポルシェにも911カレラという車名のモデルがあるが、こちらの綴りはCarreraで、これまたスペイン語で「レース」とかって意味なんだそうだ。へー。

話はワインのほうのカレラに戻って、セレック、ジェンセン、リード、ド・ヴィリエ、ライアン、ミルズと、ブルゴーニュ式に区画ごとに命名された標高の高い石灰岩土壌の自社畑からとれるブドウで作るヴィンヤードシリーズがカレラの魅力……なんだろうけど「セントラルコースト」はセントラルコーストのブドウ園からの買いブドウで造るワイン。

himawine.hatenablog.com

それだけにお安いのだが、これをカリフォルニアのロマネ・コンティと呼ぶのはいやーどうでしょうかなり無理があるよね。単一畑の下がいきなり広域名って感じだし。人気シンガーソングライターが作詞とアレンジで参加したバンドの曲、みたいな感じなきにしもあらずである。肝心なのは曲なんですけど感。でもそんなの1年半前、初心者だった私にわかるわけがない。これがカリフォルニアのロマネ・コンティか。さぞかしうまいに違いないぞ。4000円近くもしたし! とワクワクした気持ちを今も私は鮮やかに思い出すことができる。

f:id:ichibanboshimomojiro:20201019162233j:plain

カレラ ピノ・ノワール セントラルコーストを飲みました。

そのときは、「うーん、おいしいけど、ロマネ・コンティってこんなもんか(※飲んだのはロマネ・コンティではなくカレラ セントラルコースト)」と思ったとは既に述べた通りだ。カリフォルニアのロマネ・コンティはDRCの樹を植樹した(という伝説のある)ジェンセンだけってことなんですね厳密にいえば。今知ったわ! ガンダムのプラモを買ってもらったつもりがエルガイムだったような寂しさを、人はいつだって味わい続けるものである。

[rakuten:shiawasewine-c:10004978:detail]

カレラ ピノ・ノワール セントラルコーストを飲んでみた

さて、カレラ ピノ・ノワール セントラルコースト2017は新樽率10%のフレンチオークで10カ月熟成。アルコール度数は14.5度と高い。そのお味はどうかしらと飲んでみると、なんというか案の定というかすっごくおいしいわけです。「まさに優等生という味わいです」と聞いていた通りのカリフォルニアのキレイなワイン。え、こんなおいしかったんだ。ドロッとした濃さのピノ・ノワールもあるなか、伏流水を手のひらで救って飲んだような瑞々しさと、お日様をたっぷり浴びた果実味がソーシャルディスタンスをしっかりとってワインの中で整列している。これはマウントハーランのおいしいワイン。六甲のおいしい水的な意味で。現地価格30ドル。日本で買っても3500円とか。なんだ、ただの素晴らしいワインじゃないっスか。

とこのように明らかに1年半前に飲んだ時よりもおいしいと感じられたのだった。初めて飲んだときのヴィンテージが2015。今回飲んだのは2017。ヴィンテージチャートを見ると、カリフォルニアは2015に比べると2017年のほうが良い年だったようだけどそういうのが影響しているのかもしれない。

さらに、2017年はジョッシュ・ジェンセンがカレラをダックボーン・ヴィンヤードに売却した年。ジェンセンはダックホーンとワイン造りに関して4年間のコンサル契約を結んでいるそうなので、経営が変わったことによって味わいが急激に変化することはないまでも、多少の変化はあるかもしれない。そういうのが影響しているのかもしれない。

つまり「ワイン自体が違う味」である可能性は無論ある。しかし、ワインが好きになり、もっと知りたいとあれこれ調べながら1年半ほぼ毎日飲むことによって、私側に変化があると考えるほうが、この場合妥当に思える。そして、本稿を通じて私が言いたのは経験値に応じておいしさが変化する食品ってすごくないすか? という驚きだ。だって、どんなにおいしい食べ物だって、2回3回食べたら99%こう言うじゃないすか「最初食べたときの感動はないかなあ」って。ほとんどのものに対して我々は飽きる。あるいは慣れる。

himawine.hatenablog.com

たとえば私は学生時代新宿の某ラーメン屋に初めて行ったときになんだこのラーメンうますぎる。死ぬ。と思ったが、通ううちに味に慣れ、感動は去り、やがて足は遠のいていった。あるいは毎日食べる米のように、慣れていく。この季節の炊き立ての新米は最高のご馳走だが、この季節の新米のおいしさへの感動は、昨年味わった感動と量的にも質的にもほぼ変化していない。しかしワインは違う。カレラ セントラルコーストを今回飲んで得た感動は、前回よりも量的にも質的にも大きく異なり(高まっており)、おそらくそこには飲み手としての私自身の変化が因子となっている。

私は運動が得意でも苦手でもなく、全力疾走して50人中25番目にゴールするタイプの人間で、味覚もまったく優れていない。花粉症でしょっちゅう鼻がつまるし。それでもああでもないこうでもないと飲んでる間に勝手に経験値が蓄積、ワインの「おいしさ」をより多く感じられるようにはなっているような気がする(品種とか産地とかはさっぱりわからない)。

カレラ ピノ・ノワール セントラルコーストとモンスターハンター

ゲームのモンスターハンターシリーズが衝撃的だったのは、キャラクターの「レベル」という概念をなくしたことだ。キャラクター自体はまったく強くならない。その代わりに、武器や防具をよりよりものにしていくことで戦いを有利にすることができる。そしてなにより、プレーヤー自身がスキルを磨くことで巨大なモンスターをも打倒することができる。このモンスターハンターのゲームシステムはワインのゲームのルールに似たところがあるかもしれない。

モンスター=ワイン
武器や防具=グラスや料理
プレーヤー=飲み手

といったように。モンスターの強さは常に一定だ。飲み手によってワインは質的に変化しない。しかし、分厚いタンブラーで飲むか専用のグラスで飲むかで味は変わるだろうし、合わせる料理に気を使うだけでも劇的に変わるはずだ。しかし、最高のグラスと至高のマリアージュを揃えても、飲み手次第では「しっぶ。やっぱワイン無理。カルピスサワーください」となってもおかしくはないのだ。カルピスサワーはおいしいし。

私がプレイしていた当時のモンスターハンターには「イャンクック」という敵が登場し、すべてのプレーヤーが複数回戦うことになり基本的な立ち回りを学ぶことになることから「クック先生」と呼ばれ親しまれていた。

ならば私はカレラ ピノ・ノワール セントラルコーストをこう呼びたい。「カレラ先生」と。