ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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注目産地「ウエストソノマコースト」とは? カリフォルニアワインAlive Tasting2023レポート! 

カリフォルニアワインAlive Tasting2023に行ってきた

twitterでその存在を知った「カリフォルニアワインAlive Tasting2023」に参加してきた。東京會舘の巨大な宴会場で開催されたプロ向けの試飲商談会で、私はプレスとしての参加。

会場にはインポーター48社が試飲ブースを出展しており、そのほかにサスティナビリティに力を入れるワイナリーにフォーカスした「Wines on a Mission 〜 カリフォルニアワインの使命」ブース、2023年のテーマ産地として「ウエスト・ソノマ・コースト」ブースなどが出展されていた。

なかでも私が注目したのは2022年5月にAVA(アメリカ政府公認葡萄栽培地域)認定されたウエストソノマコーストAVAのブース。

エストソノマコーストは「アメリカでもっとも新しく、もっとも冷涼なAVAのひとつ」とも呼ばれるそうで、太平洋の寒流の影響を受けて冷涼で、そこにはピノ・ノワールシャルドネが中心に植えられている。

関係者の方いわく「ふだんはなかなか飲めない」9の生産者が来日し、ワインを注いでくれて解説もしてくれるという。私はそのうち4つのの生産者のワインを試飲しつつ話をさせていただいた。

なかでもオーナー兼ワインメーカーのロス・コブさんにがっつり対応していただいた「コブ・ワインズ」での会話が印象的だったので、以下に記していきたい。

 

コブ(COBB)とウエストソノマコースト

ロス・コブさんはウイリアムズ・セリエムで修行したのちフラワーズやハーシュといった有名どころのワインメーカーを務めつつ、自身のブランドであるコブをはじめたという人物。

ロス・コブさん、とてもフレンドリーで素敵な方でした。

コブさんにソノマコーストとウエストソノマコーストの違いについて聞くと、こんな答えがかえってきた。

「ソノマコーストは、たとえるならばこの会場すべてのようなものです。つまりすごく広い。同じソノマコーストでも内陸部は暖かいのですが、ウエストソノマコーストは冷涼です」(コブさん)

「コースト」と名がつくので海岸線に沿ってあるという印象のあるソノマコーストAVAだが、南のエリアは内陸部に食い込んでいる。

それに対してウエストソノマコーストAVAは、いわばソノマコーストAVAから内陸部を除くように、海岸線にそって境界が引かれている。

カリフォルニアは北からの寒流の影響を受けるため、海沿いに行けば行くほど冷涼になる。カリフォルニアといえばビーチでサーフィン、みたいなイメージがあるが、海は冷たく、夏でもウェットスーツは欠かせないという。

だからこそ、海沿いの地域と内陸部では産地としてわりとくっきりとした違いが出るようだ。

 
西から東にかけて暖かくなるのがウエストソノマコーストの特徴

なるほどー、みたいに言っていると、コブさんが手元の地図を90度回転させ、地図の海側を北に見立ててこう言った。

ソノマの地図を時計回りに90度回転させた図。画像の上から下に向かって暖かくなる(画像はwikipediaより)

「これをフランスだと思ってください。上から下に向けてシャンパーニュ、シャブリ、バーガンディ(ブルゴーニュ)、ローヌ……」

つまり北から南にかけて暖かくなるのがフランス、西から東にかけて暖かくなるのがカリフォルニアというわけだ。てことはあなたの畑があるあたりはコート・ドール? と聞いてみると「その通り!」とのことだった。カリフォルニアの人、ノリがいい。

実際、この日に飲んだウエストソノマコーストのワインはどれもブルゴーニュ的エレガントさがあった。

「カリフォルニアのワイン=ビッグ&ボールドというのは、昔の話です」という言葉も別の方から聞かれたとおり、この日飲んだウエストソノマコーストのワインはすべて繊細で複雑で精妙な香りと味に仕立てられていた。

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ブルゴーニュのエレガンスとカリフォルニアのチャーミングさの融合

ただ、だからといってカリフォルニアはブルゴーニュのプランBではない。エレガントだし、ブルゴーニュみたいな印象を受けるけど、やっぱりどこかが(そして決定的に)違うのだ。

これに関してもコブさんがすごく印象的なことをおっしゃっていた。「(ウエストソノマコーストのワインには)、バーガンディのエレガンスとカリフォルニアのチャーム、両方があるんです」というもので、いい言葉すぎるし本当にその通りだと飲んで思った。エラガンス8:チャーミング2くらいの割合。これ私的には最高の配合なんですよマジで。 

この日飲んだキュヴェは見つけられなかったが、コブのシャルドネむちゃくちゃおいしかった↓

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こうして記事を書く段階になって改めて考えるとあれひょっとしてすげえ失礼な質問してないか自分? と青ざめるのだが「コブさんのつくるワインはとてもおいしいが、これはアメリカ人の好みの味なのか?」という質問もぶつけてみた。

改めて考えなくても失礼な質問なわけだが、「グッド・クエスチョン」と受け止めてくれた上でコブさんはこう言った。

「ソムリエやレストランのオーナー、そしてヨーロッパの人は僕のワインをとても気に入ってくれます。もちろんあなた方日本人も。でも、ふつうのアメリカ人はもうちょっと甘いワインが好きかもしれないね(笑)」

なるほど……! たしかにバーベキューに合わせて、とか、ビーチで太陽を浴びながら、って感じじゃないもんなコブさんのワイン…! むしろ精密に調理された料理と丁寧に合わせたい繊細な味わいをしている。

カリフォルニアが西から東にかけて冷涼になっていくように、カリフォルニアワインは価格帯が高くなるほどエレガンスを増していく、みたいなことは(すごく雑にだが)言えるかもしれない。

 

エストソノマコーストの魅力的な生産者:フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー

さて、コブさんとの印象的な会話を終えて、続いてはウエストソノマコーストのほかの生産者も紹介しておきたい。素晴らしい生産者がたくさんいたんですよ。

まずウエストソノマコーストの地で日本人女性アキコ・フリーマンさんが造る、フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー。

フリーマンのピノ・ノワール3種を試飲しました。どれも素晴らしかった…!

ニューヨーク留学中に現在の夫であるケン・フリーマンさんと出会ったというアキコさん。銀行員だったケンさんがワイナリーを開くとなった際にワイン造りをスタート。専門の教育機関で学んだ経験はないものの、有名醸造家のエド・カーツマンさんの元で修行し、現場叩き上げでワインを造っていると教えてくれた。

スタンダードキュヴェ、ユーキ・エステート、アキコ・キュヴェという3種類のピノノワールを試飲させていただいたのだがこれがどれも素晴らしかったんですよほんとに。

3キュヴェとも日本人女性が造るピノ・ノワールと言われてすごく納得のいく味。いくら飲んでも飲みつかれなさそうな滋味深い味わいで、目の前にいるアキコさんのバイタリティと女性らしさが液体中に溶け込んでいるように感じた。(ワインを『女性的』と評するのは時代遅れと言われるが、造り手の印象を投影するのは許されるはずだ。さすがに)

ユーキ・エステートはアキコさんの甥っ子さんの名前を冠したシングルヴィンヤード。その選抜に漏れたものがスタンダードとなり、アキコ・キュヴェはその年に仕込んだ樽のなかから選抜されたものが詰められる「樽選抜」だそう。

「素晴らしいブドウをつくることに集中して、あとは放任です。ワインヴィネガーにならないように助けてあげるだけ」というアキコさんのワインはスタンダードでも十分以上においしく、アキコ・キュヴェの複雑さは目を見張るものがあったが、個人的にはユーキ・エステートの味がとてもチャーミングで好きだった。「特上」よりも「上」くらいのほうが好きな場合が多い私は骨の髄から日本人である。

これは本当に素晴らしかった↓

アキコさんにウエストソノマコーストってどんなところですか? と聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「海に近くてブドウがつくりにくいところです。なので大量につくるのには向かないけど、本当においしいものができるんです。ちょっと変わった生産者が集まる土地かもしれません(笑)」

カリフォルニアの日照×冷涼の組み合わせは、果実の熟度を高めつつ、糖度の急激な上昇を抑える。誰が言ったかを失念してしまったのだが「もはやブルゴーニュより涼しいくらいだよ」という方もいた。

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エストソノマコーストの魅力的な生産者:リトライ(Littorai)

ジョルジュ・ルーミエなど名だたるワイナリーで修行を積み、ギィ・ルーロでアメリカ人として初めてのコート・ドールの栽培&醸造責任者となったというテッド・レモンさんが率いる「リトライ」も素晴らしかった。

これは布袋ワインズの資料に書かれていることだが、1993年にスタートしたリトライのワインは、濃厚なピノ・ノワールが求められた当時、あまり高い評価を受けなかった。

それが時を経て「食事とともに愉しむエレガントなファインワインを探し求めるカリフォルニアの新世代のソムリエたちに見出され」、評価を高めていったのだそうだ。

レモンさんいわく、ウエストソノマコーストは「ピノ・ノワールシャルドネを植えてほしい土地」なのだそうで、同AVAの他の生産者もやはりこの2品種をメインに出展していたことからも、カリフォルニアのなかでブルゴーニュ的な品種を造ろうとした場合に選ばれる土地であることがわかる。

そんな土地でブルゴーニュ品種を作らせたら全米トップみたいな人が造るワインがおいしくないはずがあるわけがなく、試飲なので少量しか口に含んでいないのだが、木1本分のブドウを10mlに凝縮したような旨味が爆発した。すごいなこれ。それでいてフレッシュで、軽快さまで感じられる。重いのかと思いきや軽やかで、液体が重力に逆らっているような印象だ。

レモンさんにブルゴーニュとウエストソノマコーストでの味わいの違いを聞いてみると「少しのシトラスやマンダリンがソノマにはある」とのことだった。コブのワイン、アキコさんのワイン(フリーマン)にも感じたチャーミングさ、なるほど“少しの柑橘”は言い得て妙だ。

 

エストソノマコーストの魅力的な生産者:アーネスト・ヴィンヤーズ

もう一箇所、フラワーズで醸造長を務めていたジョセフ・ライアンさんが造る「アーネスト・ヴィンヤーズ」のワインも素晴らしかった。スタンダードもいきなりおいしかったのだが、ワイナリー側の厚意で持ち込まれていたトップキュヴェが驚くようなおいしさだった。

アーネスト・ヴィンヤーズのトップキュヴェ。

もともとブルゴーニュで働きたかったそうで、シャブリもムルソーもモンラッシェも大好きだという醸造家のジョセフさんが造るワインは、まさにブルゴーニュの有名産地をブレンドしたような味わい。シャープな酸、果実味の厚み、上品な樽使い……これも本当に素晴らしい。

ジョセフさんに限らず、この日話した多くの造り手がブルゴーニュで働いていたり、ブルゴーニュ的なものを目指したりしていると公言されていたが、その経験や思いはワインに見事に表現されていると感じた。

 

カリフォルニアワインとサスティナビリティ

最後に、サスティナビリティに取り組むワイナリーにフォーカスした「Wines on a Mission 〜 カリフォルニアワインの使命」ブースについても触れておきたい。

なぜカリフォルニアでサスティナブルな取り組みが先進的になされるのか。それにはいくつか理由があるようだ。

カリフォルニアはフランス、イタリア、スペインに次ぐ、アメリカのひとつの州にして世界で4番目の規模を誇るワイン産地。そしてナパ・ヴァレーにはアメリカンドリームを実現した裕福な人々がワインを造る文化があり、そこに投資するグループもいる。つまり資金が潤沢にある。

もちろん企業イメージ向上といったマーケティング的側面もあるとは思うけど、規模と資金が揃った土地だからこそ、インパクトのある取り組みが可能になるという考えから、サスティナブルに取り組む生産者が多いようだ。ただ有機農法というだけでなく、再生可能エネルギーを使ったり、水資源を守ったり、周辺環境や、働く人の環境や地元のコミュニティの維持にまで配慮したワイン造りが、そこでは行われている。

環境意識が高く有機栽培を実践しているとなれば自ずと造るワインも自然派的なのかなと思うわけだがサスティナブルブースで試飲したワインはどれもクリーン。

聞けば、無理にSO2使わないみたいな造りはどこもしていないそうで、この日試飲したなかにも“自然派感”のある造りのものはなかった。

有名なシルヴァーオークもサスティナブルに取り組むワイナリーのひとつで、そのティスティングルームは人や環境について考慮した建物を評価する国際認証制度・LEEDの認証をカリフォルニアのワイン生産者として最初に取得したりもしているそうだ。しかし、その味わいは言わずもがなクラシック。

LEEDの認証を取得したシルヴァーオークのテイスティングルーム

これはサスティナブースではなくお隣のケンダル・ジャクソンのブースで聞いた話なのだが、ケンダル・ジャクソンは濁ったワインを良しとせず、クラシックなワイン造りを実践している。

サスティナブースの隣では、ケンダル・ジャクソンの敷地内にあるというワインの香りを実際の植物で表現した「センサリー・ガーデン」が再現されてました。

一方で、そのクラシックの基準は時代によって変化し、クラシックだからといって昔と同じ味わいというわけではない。変化をさせないためには、変化が必要なのだ。環境を変えないためには、ワイン造りのやり方を変化させなければならないように。

ちなみに、サスティナブースでもいろいろ飲ませていただいたなかでは、高額なシルヴァーオークも当然素晴らしかったのだがもっとも手ごろな価格のハイブ&ハニーのゲヴュルツトラミネールが価格に対してすごく良かった。残糖2.6%と甘さの残るスタイルで、春の花畑にワープしたような香りに、ハチミツのような甘やかさとフレッシュな酸。定価2420円税込だし素晴らしい。

というわけで、ウエストソノマコーストの産地について学び、カリフォルニアにおける持続可能なワイン造りについて学び、あとなんかもういろいろ学んで脳がパンク寸前となった「カリフォルニアワインAlive Tasting2023」は、大いに学びに満ちたイベントだったのだった。

カリフォルニアワイン、やっぱりすごい。これからも積極的に飲んでいきたいなあと思った次第だ。

 

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