- イングリッシュスパークリングとシャンパーニュを飲み比べてきた
- イングリッシュスパークリング<1> :ハンブルドン「クラシックキュヴェNV」
- ワイン造りin UK
- イングリッシュスパークリング<2>: ガズボーン「ブラン・ドゥ・ブラン2015」
- シャンパーニュ:R&L ルグラ「ブラン・ド・ブランNV」
- イングリッシュスパークリングとシャンパーニュの飲み比べを終えて
イングリッシュスパークリングとシャンパーニュを飲み比べてきた
新宿伊勢丹で開催中の「世界を旅するワイン展」に行ってきた。そこでイングリッシュスパークリングとシャンパーニュの飲み比べという興味深い試飲があったのでレポートしたい。
さて、遡ること約半年、2022年2月に亀戸のシャンパンパー・デゴルジュマンで「シャンパーニュってなんだ!? 会」という会の末席を汚したことがある。その際、シャンパーニュと非シャンパーニュのブラインドでの飲み比べもさせてもらったのだが、その際に用意されていたのはカリフォルニアのスパークリングワインだった。
その日の模様はこちら↓
店主・泡大将いわく、カリフォルニアを選んだ理由は、「シャンパーニュに匹敵する酸を持つイングリッシュスパークリングだと、(味わいの違いを感じるのが)難しすぎるから」とのことだった。イングリッシュスパークリングは、だからそれくらいのレベルにあるということだろう。それを飲み比べる機会、こんなもん絶対に見逃せないわけなんですよ。
イングリッシュスパークリング<1> :ハンブルドン「クラシックキュヴェNV」
というわけでベリー・ブラザーズ&ラッド日本支店が運営するバーカウンターに着席し、イングリッシュスパークリング2杯とシャンパーニュの飲み比べ(1杯30ml×3杯で1650円)を注文した。
ワインは以下の3種類。
英泡 ハンブルドン「クラシックキュヴェNV」定価7150円
英泡 ガズボーン「ブラン・ドゥ・ブラン2015」定価9174円
シャンパーニュ R&Lルグラ「ブラン・ドゥ・ブランNV」8624円
おお、どれも高いやつ。30mlかける3杯で1650円は一瞬高い感じがするが定価を知ればむしろお得感ある。安心して、いざ3杯を注いでもらおう。
目の前にワインの説明が書かれたシートが敷かれ、そこに置かれたグラスに3杯いっぺんにワインを注いでもらえる仕組み。左端のグラスに注がれたのは英泡の「ハンブルドン」なのだがこれがいきなり香りがやべえ。
私は思ったことをそのまま口に出してしまうタイプなのでスタッフの方に「香りがやばいですね」とガチでそのままお伝えしたところ「そう言っていただく方、多いです」という大人の返し。とにかく花びら白い系の花の香りがすごい。
ハンブルドンの所在地はイギリス南東のハンプシャー。外交官としてパリに駐在していた創業者がブドウを植えたのは1952年。ポル・ロジェの助言を受けて、石灰質の斜面にさまざまな品種を植え、その後英国初の商業用ワインシリーズを発売するに至ったと公式サイトにあるから英国におけるワイン造りの歴史が意外と“浅い”ことがわかる。英国といえばワインの輸入国だし、気候変動以前は寒すぎたみたい。
ワイン造りin UK
Wikiで調べてみても、ローマ時代からワイン造りは総じてあまり盛んにはならず、1980年代にブームが来てブドウ畑の数が400を超えたものの、それも2000年までに1/3が放棄されてしまったのだとか。
英国でワイン造りの気運が高まるのは21世紀を迎えてから。「シャンパーニュの40年前と同じ気候」に英国の一部がなっていること、欧州の審査会でイングリッシュスパークリングが高い評価を得たこと、他の作物に比べて儲かりそうなことなどから、現在ワイン用ブドウの畑が爆増しているのだそうだ。
ハンブルドンのクラシックキュヴェに話を戻すと、品種はシャルドネとムニエとピノ・ノワールのブレンド。そしてなんていうんですかねこれは。結婚式の教会の香りというかなんというか、白い建物、白い花、白い衣装の新郎新婦、みたいな全体に「白さ」をイメージする清潔なブライダル香みたいなのがガツンと香る。
飲んでみると酸が非常にシャープで、そこに強いて言えばイングリッシュ感があるのかもしれないが、全体にシャンパーニュとの違いを述べるのは私には不可能で、普通にいいシャンパーニュとしか思えないと思う。1杯目から衝撃的な英泡体験だなあこれはと思ったらこれ醸造に敏腕コンサルタントのエルヴェ・ジェスタンが関わってるんですって。やるなあエルヴェ・ジェスタン。
エルヴェ・ジェスタンについてはなぜかこの記事に詳しい↓
イングリッシュスパークリング<2>: ガズボーン「ブラン・ドゥ・ブラン2015」
続いては2杯目のガズボーン「ブラン・ドゥ・ブラン2015」。「ロンドンから南に1時間ほど行ったケントにある生産者。さまざまな土壌から生まれる200種類くらいの原酒をブレンドして造っているそうです。JALのファーストクラスラウンジで採用されたり、エリザベス女王の70周年式典でも採用されています」というワイン。
なんでも英泡三大巨頭的なブランドのうちのひとつなのだとか。もうひとつはナイティンバーで、もうひとつは聞き忘れた。オーナーは南アフリカ人のお医者さんだって。
ガズボーンBdBはもちろんシャルドネ100%(ブドウはブルゴーニュのクローンのみ使用とのこと)を使い、発酵はステンレスをメインに少量を樽発酵。100%マロラクティック発酵させて、澱とともに最低42カ月熟成されているそうな。
個人的にはブラン・ド・ブランをまろやかな感じに造るのが好みな気がしているので、これは非常に良さそうなデータ。残糖度は8.2g/lでPHは3.15。
香りは古き良き「洋酒」というイメージ。金持ちの友人の家の戸棚に飾られたウイスキーなのか、ブランデーなのか、あるいは他のお酒なのか不明の「とにかくいい洋酒」というボトルのキャップをみんなでこっそり外してクンクン匂いを嗅いだときのような香り。そこに熟成感がある気がするんだけれども飲んでみると果実がしっかりと感じられてクリーミーな甘みがあり、同時に青リンゴみたいな酸味もあって印象は総じてフレッシュ。
これもシャンパーニュですって言われたら「これはいいシャンパーニュですね」って言うなー普通に。
シャンパーニュ:R&L ルグラ「ブラン・ド・ブランNV」
そして最後はシャンパーニュで、R&L ルグラの「ブラン・ド・ブランNV」。R&Lルグラはシュイィ村で200年続く生産者で、なんでもトゥール・ダルジャンのオリジナルシャンパーニュも造っているそうな。すごい。
シュイィ村はシャルドネがグランクリュ格付けなんだそうで、このワインはそのブドウを使ったブラン・ド・ブランなのでボトルに控えめに「グランクリュ」と書いてある。
飲んでみるとこれが非常に素晴らしい。イングリッシュスパークリングの噛ませ犬みたいには1ミリもなっておらず、むしろ横綱相撲感のある王道うまシャンパーニュ。たった30mlの液体とは思えないほどの香りのボリュームがあり、桜桃のような果実感をピシッとした酸が支えるバランスの良さだった。
イングリッシュスパークリングとシャンパーニュの飲み比べを終えて
というわけで3杯それぞれが個性的。わずか30mlずつではあったけれども大満足な試飲となったのだった。個人的な好みでいえば、NO.1はR&Lルグラのブラブラ。ただし香りだけならハンブルトンに軍配が挙がる。そしてガズボーンもおいしくなかったわけではまったくなく、むしろとてもおいしかった。今回の試飲に関しては、残りの2種が傑出していた印象だ。
そうだ、今回の試飲はイングリッシュスパークリングがメインのものだったのだった。断言できるが私の味覚ではシャンパーニュとの区別は不可能だ。どれが好みだは言えるけど、3種ブラインドで出されたら当てられる可能性は33.3%を1%も超えないと思う。
イングリッシュスパークリングはシャンパーニュと同じくらいおいしい。そして、同じくらいの価格がして、下手すると英泡のほうが高い。スタッフの方もおっしゃっていたがやはりそこが売り手としては悩ましいところなのだそうだ。同じ値段ならブランドのあるシャンパーニュを買っちゃうのが人の世の常だもんなあ。
ただ、可能性を感じたのはやはりハンブルドンの「香り」だ。すげえいい香りだったんですよ本当。イギリスのワイン用ブドウ産地はすべて北緯49.9度以北なのだそうで、つまり他の産地に比べてより極地に近いため、日照時間が長くなる。それでいて冷涼なため、ブドウが豊かな香りを獲得しやすいみたいなことが言われているのだそうだ。香り訴求、アリかも…?
イングリッシュスパークリングはイギリス国内でもよく消費されているそうで、その背景にはフードマイレージという考え方がある。食料の移動距離をなるべく減らし、CO2排出量を削減しようということですね。地産地消ってやつ。いい試みだと思います。
というわけで大満足の試飲だったのだった。「世界を旅するワイン展」に行かれたら、みなさんもぜひ。
これはまた飲みたい↓