バローロの造り手にバローロについていろいろ聞いてみた。
バローロの造り手「ジャンニ・ガリアルド」
バローロの造り手が来日するので一緒に食事をどうですかと、輸入元・セパージュのAさんからお招きいただいたので「行く一択ですね」と返事をし、ご馳走になってきた。ブロガーやっててよかった。
さて、来日されたのはイタリア・ピエモンテはバローロエリア「ラモッラ村」が本拠地のポデーリ・ジャンニ・ガリアルドの当主でありワインメーカーのステファノ・ガリアルドさん。

さて私はバローロの解像度が著しく低い。
・品種はネッビオーロ
・樽熟成
・若いうちは硬い
といったような、典型的な「バローロのことは知っているが、全然詳しくない人」という感じ。
ステファンさんはワイナリー生まれワイナリー育ちだが、決して親から強制されてワインの仕事をしているわけではなく、「ワインは仕事じゃない、人生なんだ」と語る極めて柔和な物腰の方。15歳の娘にどんなお土産を買うべきか悩み、娘はスシが好きだからと、「SUSHI」と書かれたTシャツを購入したというやさしいお父さんだ。(Tシャツなら最悪パジャマになるから、とおっしゃっていた。どうか娘さんが気に入ってくれますように)
この日飲んだジャンニ・ガリアルドのワイン
いきなり脇道に逸れてしまったが、まずはこの日飲んだジャンニ・ガリアルドのワインを整理しておこう。

テヌータ・ガレット デルトーナ ティモラッソ 2022
ジャンニ・ガリアルド サン・ポンツィオ 2019
これがまあ、ご馳走してもらったから言うわけではなく、ため息が出るほどどれも素晴らしいワインだったのだった。
テヌータ・ガレット デルトーナ ティモラッソ 2022
まず、白のテヌータ・ガレットだがこれはジャンニ・ガリアルドが2017年に取得したワイナリー(ステファノさんの醸造学校時代の友人の実家なのだそうだ)で、バルベーラの名産地・ニッツァDOCGに位置する。品種はティモラッソ。で、このティモラッソが注目なんですよみなさん。

「今日は最高の白ワインを飲もう、と思ったときに選ぶのはフランスのワインですよね。そもそもイタリアでは赤がファーストチョイスで、白はセカンドチョイス。でも、ティモラッソは最高の白ワインになるポテンシャルがあるんです」とステファノさん。
どんなもんかと飲んでみると、これが非常にクリーミーで果実たっぷり、酸味もかなりハイトーンでなるほど素晴らしい。樽のようなニュアンスを感じたのだが樽は使っておらず、酸化的に造ることでこのような味わいになるのだそう。
「ティモラッソは繊細なので、樽を使ったら木のニュアンスが強くなりすぎてしまいます」とのことだった。私が今まで樽由来だと思っていたニュアンス、実は酸化だった……?

私のポンコツ味覚はどうでもよい。ティモラッソはジャンニ・ガリアルドだけが推しているのではなく、ロアーニャ、ヴィエッティ、ボルゴーニョ、その他諸々、バローロの有名生産者たちはこぞってティモラッソで最高の白ワインを造るチャレンジを近年はじめているそう。ピエモンテっていうとアルネイスのイメージだけど、トレンドはティモラッソみたいだ。熟成ポテンシャルも高いとのこと。
ジャンニ・ガリアルド サン・ポンツィオ 2019とハバナシガー
続いては赤で、「サン・ポンツィオ2019」というワイン。品種はネッビオーロ(今日飲んだ赤ワインの品種はすべてネッビオーロ)このワイン、実は裏ラベルには「ネッビオーロ・ダルバ スーペリオーレ」という表記がある。

「サン・ポンツィオはバローロから2キロ北に位置する砂質の特別な区画なのですが、ネッビオーロ・ダルバと書いてしまうと、そのイメージだけで飲まれてしまう。なので、最近裏ラベルに記載するようにしたんです」とのこと。
でもってこれがちょっとウソだろっていうくらい香る。ステファノさんいわく、ジャンニ・ガリアルドのワイン造りは、
・エクストリームクリーン
・エクストリームバランス
・エクストリームシンプル
なのだそう。とにかく基本に忠実にクリーンなワインを造ることで、結果的に土地の個性が表現されるのだという考えのようで、難しいことはわからないがとにかく香りがすごい。
私は、この後で飲む2本のバローロも含めて、ハバナシガーの香りだと思った。
かつて謦咳に接したある作家はシガーとウイスキーを愛していて、その事務所に打ち合わせにいくとよくシガーとシングルモルト、つまみにチョコレートを振る舞ってくれたものだが、この日飲んだネッビオーロの構成要素はほぼその作家の事務所に染みついた香りそのまんま。
甘く、スモーキーで、どこか香ばしさもある甘心地良い香りに、味わいは毛足の長い絨毯のようにどこまでも柔らかい。うーん、素晴らしい。
ジャンニ・ガリアルド バローロ 2020とバローロ・クラシコ
続いて飲ませてもらったのが「バローロ」。現地では、村名や区画名がつかないバローロのことを「バローロ・クラシコ」というんだと教えてくれた。バローロ・クラシコ、いい言い方すぎるな。少なくとも「無印バローロ」と呼ぶより粋だぜ。

ジャンニ・ガリアルドはバローロエリアの5つの村の9つの区画からワインを造っているが、「バローロ(あるいはバローロ・クラシコ)」はその9つの区画すべてを使って造るというワイン。
これは、今回飲んだ3つのネッビオーロでもっとも陽のオーラをまとったワインで、「サン・ポンツィオ」よりもさらに輪をかけて香りのボリュームがデカい。
ヴィンテージは2020で、たしか当日の昼に抜栓したと伺った気がするが、もうバッチリ飲みごろを迎えている。もっと熟成もするんだろうが、少なくとも今飲んで「まだ早い」みたいなことはまったく1ミリもないと思った。
バローロはどんな生産地なのか?
そしてラ・モッラだが、そもそもラ・モッラとはなにか、というところから改めて調べてみた。
この食事会に参加するまでの私のバローロ理解は以下のような感じ。
イタリア(国)
↓
ピエモンテ(州)
↓
バローロ(村)
↓
クリュ(畑)
だいたいこんな感じですよねと思っていたが実は違う。わかりにくいのは、バローロという名前がエリアの名前でもあり、同時に村(コムーネ)の名前でもあるという点で、バローロエリアにはバローロを含むいくつかの村がある。
すなわち、先ほどの例でいえば、
イタリア(国)
↓
ピエモンテ(州)
↓
バローロ(エリア)
↓
バローロ、ラ・モッラなど(村)
↓
クリュ(畑)

みたいな感じがどうやら正しい理解っぽい。そして、バローロを形成する村はバローロを含む11村あるのだが、主要なのは1896年にバローロの生産地域として最初に認められた5つの村、すなわちバローロ、ラ・モッラ、カスティリオーネ・ファレット、セッラルンガ・ダルバ、モンフォルテ・ダルバ。主要なクリュもだいたいこの5村にあるようだ。
コート・ド・ニュイにおけるヴォーヌ・ロマネ、ジュヴェレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー……みたいな感じなんすかね。
ジャンニ・ガリアルドの本拠地があるラ・モッラはバローロ最大のコムーネで、wikipediaによれば「バローロとラベルされたワインのほぼ3分の1を占め、次に生産量の多いセッラルンガ・ダルバの2倍のワインを生産」しているという。へー。
というわけで以上のようなところでだいぶバローロの解像度が高まった。行きたくなってきたな、バローロ。今度イタリアに行ったら友達にクルマで連れて行ってもらおう。
ジャンニ・ガリアルド バローロ ラ・モッラ2020
さて、話はジャンニ・ガリアルドの「バローロ ラ・モッラ 2020」に戻る。

香りは他の2種と同じ傾向で、ステファノさんいわく「ストロベリー&チョコレート」。とにかく酒質が柔らかく、「ベルベットのような」「シルキーな」といったように表現されることの多いネッビオーロのタンニンだが、さしずめもっふもふのねこと言いたくなるような柔らかさ。
「ソフト&シルキーなタンニンはバローロのDNAです。クオリティ・オブ・タンニンがバローロと他のワインを差別化しています」とステファノさん。
タンニンの柔らかさ、繊細さの一点において、(たとえばブルゴーニュをも凌駕して)バローロこそがNO.1であるという矜持を感じる。
これはただの個人の感想だが、私はワインにおける最大の価値のひとつは「やわらかさ」だと思っている。素晴らしいワインには例外なく「やわらかさ」があり、それは赤ワインからしか感じない概念なのでおそらくタンニンのこと。そしてこの「ラ・モッラ」には極上の柔らかさがあると感じた。素晴らしい。
※
というわけでこの日のジャンニ・ガリアルドを飲む食事会は終わった。ステファノさんの素晴らしい人柄とホスピタリティ、そしてワインに触れて大満足かつバローロに対する解像度がだいぶ高まったのだった。
末筆となってしまうが、会場の神楽坂リストランテ・ラストリカート(Ristorante LASTRICATO)のサービスとお料理も素晴らしかった。

とくにイカスミとウニのパスタは忘れられない味であり、バローロのタンニンと融合して異次元のマリアージュを構成、思わず立ち上がって「ブラボー!」と叫びたくなる感動の味わいだった。10人前食べたい。
お招きいただいたAさん、そしてステファノさんに感謝。またお会いしましょう。
