シラーとギガルとコート・デュ・ローヌと私
twitterで「3000円以下のシラー単一ワインを対象とした『安うまシラーMAP』を作ろうと思う」と表明したところ、まずは味の基準としてギガルのコート・デュ・ローヌを飲んでみては? と、尊敬する賢人からご意見を頂戴した。
新たに「安うまシラーMAP」という企画をはじめました。安くておいしいシラー/シラーズを探すのがコンセプトであります。
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2021年5月19日
ルールは以下。
✅価格は税込3000円以下
✅品名に「シラー」と入る、あるいは単一品種のものが対象
✅生産国は問わない
うーん楽しみ。 pic.twitter.com/5HDWe8vyhF
賢人からのご意見にはノータイムで従うべきなので、愛車(チャリ)を駆って近所の酒屋へ直行、無事確保した。あとついでに蕎麦食べた(関係ない)。
ギガルは、「コート・デュ・ローヌ」のwikipediaに「この地方では有名なネゴシアン」として名前が挙げられる生産者。もちろん私も名前は知っているが飲んだことはなく、なんなら若干避けていた。ブルゴーニュもボルドーもシャンパーニュもロクに知らないのにローヌにまで興味を持っていかれたらもう死ぬんじゃないか、みたいな危惧があったからだ。
しかし、仕方がない。シラーを知るためにはまずはローヌを知らねばならぬ。というわけで今回はローヌという地方をギガルという生産者を切り口に調べてみたい。「えっ、そんなことも知らなかったのかよ」みたいな記述が多数出てくると思うがお許し願いたい。ガチのマジで知らないんです。
「ローヌ」とはどこのこと?
まず、ローヌワインはどこで造られているのか問題からだ。そこからなんですよ私の場合。フランスの地理に明るくない私にとってこれは大きな問題だ。ほら「地域圏」とか「県」とか「郡」とかいろいろあるじゃないスかフランスって。さらに、それらを横断してフランスワインのAOCがあるわけですよ。わかるかっ、ってなるんですよ。
ちなみにwikipediaの「ローヌワイン」の定義はこうだ(読み飛ばしてください)
ローヌワインは、フランス南部のローヌ川流域で生産されるワインで、広域AOCのコート・デュ・ローヌ(Côtes du Rhône)地域に相当する。北は、イゼール県のヴィエンヌ市(フランス語ではVienneという地名がほかにもいくつかあり、ヴィエンヌ県というのがあるほか、オーストリーの首都ウィーン(Wien)もVienneと呼ばれる)の対岸にあるコート・ロティー地区から、ヴォクリューズ県の県庁所在地アヴィニョンの周辺まで広範囲に及び、ローヌ=アルプ地域圏のローヌ県、ロワール県、アルデシュ県、ドローム県と、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏のヴォクリューズ県、ラングドック=ルシヨン地域圏のガール県まで、南北200km、南部で東西が100kmあまりに及んでいる。
わかるかっ
というわけでいろいろ調べてもっともわかりやすいと感じたのが「ローヌ川流域」という考え方だ。
ローヌ川はスイスに端を発し、ジュネーブから西に国境を越えてフランスへと入る。それがリヨンで進路を南に変え、地中海へと注ぐ。この流域がローヌワインの産地。ローヌ川が流れるところにローヌワインあり。
地理的には、ブルゴーニュの南からプロヴァンスに至るエリア。
ひとまずこう理解しておく(間違ってたら教えてください)。
で、さらにややこしいことに北部と南部に分かれるんですよローヌ。さらにローヌ川の右岸と左岸にも分かれちゃうわけですよ。右岸と左岸とか、コート・ド ・ニュイとコート・ド・ボーヌとかRMとNMとかなんなんですかフランスワインは。なんだってこう分かれたがるんだよ。互いを探し求める引き裂かれた魂かなにかか。北池袋と南池袋しか知らないんですよこっちは。
北ローヌと南ローヌの産地について
と、愚痴を言っても始まらない。では北ローヌと南ローヌとはどのように分かれるのか。土地感がない以上地名で言われてもサッパリわからない。なのでここはもう超ザックリ有名産地でくくってしまおう。
【北ローヌ】
コート・ロティ
エルミタージュ
クローズ・エルミタージュ
コンドリュー
サン・ペレイ
サン・ジョセフ
【南ローヌ】
シャトーヌフ・デュ・パプ
タヴェル
ジゴンダス
なんだかんだ知ってる名前だらけなのでなんかわかった感が出てきたぞ。ちなみに、北と南を分かつのは「プロヴァンスの入り口」と呼ばれるモンテリマールで、モンテリマールはヌガーで有名だそうです。ヌガー食べたい。
さて、ローヌワインの歴史はフランスでもっとも古いのだそうで、紀元前600年頃にはぶどう栽培が始められていたとwikipediaにある。でもって、シラーはこの地北ローヌの原産なのだそうだ。その意味で、シラーマップを作ろうという試みの最初にローヌのワインを飲むのは正しい。
北ローヌと南ローヌでワインの味わいはどう違う?
では、北と南でワインにはそれぞれどのような特徴があるのだろうか? これもまとめてみた。
【北ローヌ】
赤:シラーを中心にヴィオニエをブレンド
白:ヴィオニエ
【南ローヌ】
赤:シラー、グルナッシュ、カリニャン、ムールヴェードル、サンソーなどをブレンド
白:グラナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、マルサンヌ、クレレットなど
シラーとヴィオニエが北ローヌ。南仏っぽい品種が出てきたら南ローヌということのようだ。ここ急にわかりやすいな。
では、今回飲んだギガルのコート・デュ・ローヌはどんなワインなのか。コート・デュ・ローヌのwikiによれば、AOCコート・デュ・ローヌは「いわゆるローヌワインの生産地の内、地区名や村名AOCのないワインに与えられ」るとあるが、「栽培面積で南部が地域が圧倒的に多い」ために、「ほとんどが南部の特徴を持ったワインといってよい」と書いてある。
guigal.jpという日本語公式サイトの商品ページを見ると、使われているのはシラー45%、グルナッシュ52%、ムールヴェードル3%とあるからやっぱり南ローヌのスタイルなんですかね。オークの大樽で1年半も熟成してると書いてある。1000円台のローエンドワインなのに? マジか。
「ローヌの盟主」ギガルはどんな生産者?
ギガルは、1946年創業のこの地の盟主的存在。どのくらい盟主的かといえば、自分のサイトに「新たな挑戦を続けるローヌの盟主」って書いてあるくらい盟主。うーんすごいなこの自信。なんでも、造ったワインがロバート・パーカーから高評価を得たことで、ローヌワインの地位自体を向上させたみたいなことがギガルのwikiには書いてある。
「私がワイナリーやブドウ栽培者を訪ね歩いた過去26年間で、マルセル・ギガルほど品質に狂信的な生産者は見たことがない」(ロバート・パーカー)
“狂信的(fanatical)”ってすごい。
そのラインナップは幅広く、「ブドウの樹は花崗岩質土壌の急斜面にしがみつくように植えられている」という北ローヌの畑から、温暖で「プロヴァンス文化圏に属す」るタヴェルのような南の地方のロゼまで幅広い。
つーかこれローヌ全域って感じですねワインのラインナップを見ると。いま勉強してきた地名とかが全部出てくる。
フランスでもっとも古いワイン生産地であり、シラーのふるさとでもあるローヌ。そして、その地を代表する生産者であるギガル。その両者のスタイルを代表するのが今回飲むコート・デュ・ローヌということになる。いざ、飲んじゃいましょう。
ギガル「コート・デュ・ローヌ」を飲んでみた
グラスに注いでみると、濃い目の紫色。いい香りするなあこれ。スミレの花を蜜でコーティングしたお菓子みたいな甘華やかな香り。そこに茶色系スパイス(そんな言葉はない)の香りも加わる。これが南ローヌの香り……(真偽不明)!
で、飲んでみるとこれむっちゃくちゃうまいな。これはシラー云々置いといて1000円台最強クラスなんじゃないでしょうか。え、なんでこれを今まで飲んでなかったのおれは?
果実味がはっきりあって、渋み酸味も強くはないけれど必要最小限にあり、思わず飲み干しちゃう坦々麺のスープみたいにスパイシーさが後を引きまくる。ラーメンでいえば旨シビ系。ブラインドで出されたら2000円台の南アフリカのシラーズとか言いそう。圧倒的にコスパが良い南アフリカワインに対してコスパの良さを感じるくらいのコストパフォーマンスの良さがある。
とつぜんビールの話をすると、正直に申し上げて私はほとんどのクラフトビールよりぶっちゃけプレモルが好き。つまり洗練された最大公約数的な味が好き。ローヌ最大の大手がつくるワイン、考えてみれば好きじゃないはずがない。
しかし、こうなると「北ローヌのスタイル」も知りたくなるな。調べると、ギガルの「クローズ・エルミタージュ・ルージュ」はシラー100%で、かつ3000円を切る値段で買える。すなわち、「安うまシラーMAP」のレギュレーションに収まる。これは飲むしかないな。
それにしてもおそるべきギガルのコート・デュ・ローヌ。1000円台で買えるおいしい赤ワインとして、記憶に留めおきたい1本となった。