ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

南アフリカワインを楽しむ方法。産地、ヴィンテージに注目!

南アワインの伝道師・三宅司さんにインタビュー

20年以上にわたり、南アフリカワインを日本に紹介する仕事をし続けてきた株式会社マスダのバイヤー・三宅司さん。前回、なぜ三宅さんが南アのワインと出会ったのかを聞いたのに引き続き、今回は三宅さんに「南アフリカワインの楽しみ方」を聞かせていただいた。

himawine.hatenablog.com南アフリカってワイン造っているんですか!?」と驚かれてばかりだったという時代から20数年。日本でも南アワインは少しずつ広がりを見せてきている。では南アフリカワインの楽しさをもっと深堀りするには? 三宅さんが持ち歩いていた7本のワインを試飲させていただきながら、ヒントを教えてもらった。

(※三宅さんは関西弁でお話ししてくれていますが、私は関西弁話者でなく、正確にニュアンスが出せないので標準語ナイズドしています)

 

南アフリカワインっておいしいよね」の、その先へ

三宅:ありがたいことに、ここ最近は「南アフリカのワインっておいしいよね」とは言っていただけるようになりました。でも、それって「フランスのワインっておいしいよね」と言っているのと同じですよね。

ヒマ:たしかに。フランスの場合だったら、「ブルゴーニュっておいしいよね」「ボルドーおいしいよね」となりますね。

三宅:たとえば僕はコーヒーが好きですが、産地がどうとか気にしていません(笑)。ワインも一緒で、知らん人から見ればどれも「赤ワイン」。でもコーヒー屋さんはちょっとの違いが大事。

ヒマ:たしかに。「知ってるか、知らないか」もっといえば「気にしてるか、してないか」って大きいですよね。嗜好品を楽しむ上で。

三宅さんの「営業ツール」を試飲させていただきながらのインタビューとなりました。

三宅:美術館に行ってピカソの抽象画を観ても全然わからないですけど、解説を読むとこれは戦争に反対して描いた絵なんやねとか、ちょっとわかる。それと同じで、生産者がどう、産地がどうと知って飲むとワインはおいしい。だから僕は“学芸員”として解説して回っているんです。

ヒマ:ワインの学芸員ってすごくいいですね。今回はぜひ南アワインの“オーディオガイド”をお願いしたいです(笑)。

 

南アフリカワインの「地区」と「小地区」に注目してみよう

三宅:たとえば南アでいえば、エルギンやウォーカーベイ、コンスタンシアっていう土地は冷涼。ステレンボッシュは暑すぎず寒すぎず。パール、スワートランドは温暖な土地です。ステレンボッシュでいえばさらに7とか8つの小地区に分かれます。

ヒマ:フランスにはブルゴーニュボルドーといった産地があり、ブルゴーニュはさらにいくつもの村に分かれ……みたいな話ですね。なんとなくエルギン=標高が高くて冷涼。ウォーカーベイ=海の近くで冷涼、みたいなイメージはありますが、他の地域は正直わからないかも……(無知)。

三宅さんにいただいた資料。本記事の内容と連動しているので、ご興味ある方はぜひじっくりご覧ください

三宅:さらに、たとえばステレンボッシュならそこから7つか8つの小地区に分かれるんですよ。たとえば「シモンズバーグ」っていう小地区はカノンコップ、グレネリーといった生産者が有名ですが、これはタンニンがしっかりした赤の産地。ちなみにバーグは「山」っていう意味です。バーグとついたら斜面で標高が高いと思って間違いない。

ヒマ:ほほぅ……。いきなりディープな話になってきましたが、たしかにグレネリーもカノンコップもしっかりした赤のイメージがあります。

三宅:でしょ? 一方、「ボタラリー」「ポカドライヒルズ」っていう地区は酸やミネラルが豊富。ポカドライでいうとライナカっていう生産者が有名です。この「リザーブ・ホワイト(2016)」なんかおいしいですよ。

ヒマ:うまっ。これはソーヴィニヨン・ブランですよね。むちゃくちゃキレイな酸がありながら樽の厚みも感じてとてもおいしいソーヴィニヨン・ブランって感じがします。

三宅:ポカドライに特徴的なミネラルと酸ですね。南アフリカソーヴィニヨン・ブランはおいしいのがたくさんあるから、もっともっと広げていきたいんです。

ヒマ:シュナン・ブランが有名だけどソーヴィニヨン・ブランも負けてないっすねこれは。

三宅:ボタラリーだとハーテンバーグっていう生産者がいます。この「エレノア シャルドネ(2018)」も飲んでみてください。

ヒマ:おいしすぎる……。めっちゃくちゃリッチで果実たっぷり、なのにキレイな酸があってエレガントさも残っています。いきなりすごいなこりゃあ……。

 

乾燥地帯「スワートランド」でデヴィッド&ナディアが自然派ワインを造れる理由

三宅:ポカドライやボタラリーはステレンボッシュの西側でしたが、東側の「ヘルダーバーグ」っていう地区はさらに冷涼で酸がしっかりとある。生産者でいえば柔らかい印象の赤がおいしいロングリッジとか、キアモントも半分そうなのかな。

ヒマ:ステレンボッシュの中でも小地区によって個性が異なるわけですね。

三宅:そうなんです。小地区によっても個性が異なるので、ましてや地区が異なれば品種から変わってきます。たとえばステレンボッシュの北のスワートランドという地区は乾燥地帯。デヴィッド&ナディアなんかが有名です。

ヒマ:おお、自然派で有名な“デヴィナディ”ですね。そんなにたくさん飲んでるわけじゃないですが、味筋(あじすじ)的には温暖な乾燥地帯の生産者っていうのがなんか意外な気がします。

三宅:乾燥しているからカビが発生しにくくて、農薬を使わない栽培と相性がいいみたいですね。ただ、灌漑もしないでほったらかしだから、ブドウの成長は完全にお天道様まかせ。ようやるなって思います(笑)。このエルピディオス(2019)は僕の大好きなワイン。ぜひ飲んでみてください。

ヒマ:いやー、しみじみおいしいですね。ハーブの感じがあるかと思えばちょっとキャンディみたいな甘やかな香りもして、いろんな味わいが重なり合っている。ちょっとピノ・ノワールっぽいけど、品種はなんですか?

三宅:グルナッシュ、シラー、カリニャン、サンソー、それにピノタージュかな。スペインや南仏にもよく使われる、暑さに強い品種ですよね。ワイン造りは年間降水量が600〜800mlが理想といわれていて、ステレンボッシュはまさにそれくらいなんですが、スワートランドは400mlくらいなんです。

ヒマ:400mlっていうと、最近の東京だと大雨が続くとほんの数日でそれくらいの降雨量だったりしますから、どれくらい乾燥しているかわかりますね。

三宅:枯れた葉っぱが地面の上にマットみたいに敷いて、それによって根を保水したりといった工夫をしていますね。

ヒマ:にしても、このエルピディオスは「暑い土地のワイン」って感じがしませんね。

三宅:暖かい土地で育ったブドウを早めに収穫してるんです。このクローヌのロゼも飲んでみてください。同じく暖かい土地で育ったブドウを早摘みしています。

これ驚異的においしかった

ヒマ:めっっちゃくちゃおいしいですねこれ。なんですかこれは。どうなってるんですか。税抜き価格4200円と価格も安くはありませんが、それにしたってうまい。ちょっと熟成感を感じて、果実と酸が両方豊かなめちゃくちゃいいロゼスパークリングです。

三宅:シャンパンのなかにこのワインを1本混ぜてもみんなわからないですよ。ピノ・ノワールがメインのワインなので、白の役割も赤の役割も果たせる優れものです。

ヒマ:酸が豊かなワイン=冷涼な産地と思っていましたが、暖かい産地で早摘みするという手法もあるんですね。勉強になります。

 

南アフリカワイン屈指の“わかりやすさ”? ヴィラフォンテ シリーズCの衝撃

三宅:デヴィッド&ナディアやクローヌが暖かい土地で早摘みしているとしたら、暖かい土地で普通に収穫しているのがヴィラフォンテです。

ヒマ:出た! 以前試飲会で別のキュヴェを飲ませていただいて異様においしいと感じたやつ。オーパス・ワンの元栽培責任者が育てたブドウで造ってて、南アのオーパスワンと呼ばれてるんですよね。

三宅:前に飲んでもらったのはメルローやマルベックが主体の「シリーズM」でしたが、今日はカベルネ・ソーヴィニヨン主体の「シリーズC」です。

これはすごいワインだと思います

ヒマ:なんですかねこれは。「わかりやすいワイン」の究極って印象があるっていうかうますぎますねこれは。2020ヴィンテージと若いのに今飲んで全然うまい。まったくもっておいしいです。とにかく果実がすごく、甘いだけでない酸とタンニンもあって。「おいしさ」レベルが突き抜けてます。

三宅:シリーズC、おいしいですよね。もうひとつのシリーズMはヴィンテージが古い分、今出回っている分は値段が手頃ですから、そちらもオススメです。ヴィラフォンテはカノンコップやグレネリーがあるシモンズバーグの東側、温暖なパール地区の「シモンズバーグパール」というエリアに属しています。

ヒマ:グレネリーは元々ボルドーの格付け2級、シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランドの元オーナーがやってるだけにボルドー感がある印象ですが、そこと隣接する温暖な地区で南アのオーパス・ワンが造られるのはむちゃくちゃ納得です。小地区の違いによって味わいの個性が思いっきり出るの面白すぎますね。

 

南アフリカワインのヴィンテージや「TAポイント」に注目してみよう!

三宅:ヴィンテージにも注目すると面白いですよ。南アの赤だと2015と2017はグレートヴィンテージなのは覚えておくといいと思います。2020、2021もいい感じ。2022もいいみたい。2016からの3年間は乾燥が続いた年で、果実味が強いヴィンテージです。

ヒマ:南アのヴィンテージ、全然気にしてなかった……! 価格帯はどうですか? おすすめの価格帯とかあったりしますでしょうか。

三宅:本数としてよく売れるのは1000円台、2000円台ですが、南アフリカは2000円を超えるとかなりいいものが揃うので、できれば2000円以上を出してもらえるとありがたいですね。そうするとおいしいものに当たる確率がグッと高くなります。

ヒマ:ほかに南アフリカのおいしいワインを探す指標はありますか?

三宅:ティム・アトキン(※マスター・オブ・ワイン。毎年南アフリカワインのレポートを発表している)の点数はアテになります。ティム・アトキン95点を超えてくるワイン相当うまいと思っていいと思います。このボッシュクルーフの「エピローグ シラー(2020)」は2017年から3年連続で98点以上(99/98/98)を獲得しています。

ヒマ:うまいしか言ってないですけどこれもうっま。南アフリカのシラーっていうと7つの椅子のラベルのブーケンハーツクルーフが有名ですけど、これはそれに匹敵っていうか超えていってない? っていう印象です。税抜き1万円するから当たり前かもしれませんが……。

三宅:ラベルに「不可能に挑戦する」って小さく書いてあるんですが、その通りのシラーの芸術品だと思います。ボッシュクルーフはステレンボッシュのボタラリーというやや冷涼な小地区の生産者。こっちのキアモントの「スティープサイド・シラー」もおいしいですよ。

ヒマ:うーん、ほんとだ。まだちょっと開ききってない感がありますが、すごくポテンシャルを感じます。

三宅:これは2015ヴィンテージ。2015はグレートヴィンテージなのでとくに赤は長期熟成に向きます。火曜日に抜栓して、数日経過してようやく開いてきました。これはティム・アトキン95点です。

ヒマ:いやしかし、今日飲ませていただいた7本のワインを通じて、地区やヴィンテージに注目すると南アフリカワインの解像度がグッと高まってさらに楽しめるのがなんとなくわかった気がします。

三宅:10年後、20年後、フランスワインはワインのピラミッドの頂点にい続けると思うんです。では2番手はどこか。フランスはひっくり返せないけど、南アフリカは2番手の候補だと思っています。

ヒマ:南アフリカワインの未来に、ますます期待ですね!

(おわり)