光風リースリング2022 メディアお披露目会に参加
米国カリフォルニアはソノマコーストの生産者「フリーマン」の最新キュヴェ「光風 リースリング2022」のメディアお披露目会に参加してきた。
オーナーでワインメーカーのアキコ・フリーマンさんの解説を聞きつつ、神楽坂でミシュラン三つ星に輝く「虎白」の大将がこのイベントのために考案したペアリングフードを食べるという贅沢すぎるイベントだ。
私は8カ月ほど前に、まだリリース前だった「光風 リースリング2022」を飲ませていただいたことがある。まさしく木漏れ陽を切り裂いて森を駆け抜ける風のような鋭利で伸びのある酸に圧倒された記憶があるが、それから8カ月と少し、ワインがどう変化しているのかをすごく楽しみに会場に向かった。
「光風リースリング2022」はどんなウィンか?
このリースリングはフリーマンの自社畑で育てられたものではなく、買いぶどう。フリーマンの自社畑・グロリアヴィンヤードのお隣・アビゲイルズヴィンヤードで栽培されたぶどうを使用している。
なんでも、アキコさんの出張中に夫のケンさんがアビゲイルズヴィンヤードのオーナーと飲みに行った際にアキコさんに無断でぶどうの購入を決定、かねてフリーマン夫妻の好きな品種であるリースリングがラインナップに加わることになったのだそうだ。
ちなみにケンさん、先日は趣味のサイクリング中にガレージセールに遭遇、主催者と会話をしたところ「当主が亡くなって家と10エーカーの畑を売却するため、まずは家財道具をガレージセールしているんだ」という事情を聞き、即座にその10エーカーの畑の購入を決めたのだそうだ。ガレージセールで10エーカーの畑買うのすごすぎるんですよ。(ちなみにそれもアキコさんには無断だったそうで、『お願いだから事前に相談して』とお願いしているそうだ。(そりゃそうだ))
「光風リースリング2022」のつくりかた
アビゲイルズヴィンヤードのリースリングは、元々はウエストソノマコーストの名手「コブ」で使われていたものというか今も使われているもので、それをフリーマンが分けてもらっているカタチ。
コブのワインメーカーであるロス・コブさんとアキコさんはマブダチ関係なので、アキコさんは光風リースリングのファーストヴィンテージである22年を造る際、ロス・コブさんに電話して「あなたどうやって造ってるの?」と聞いたのだそうだ。コブとフリーマン、スター生産者同士が電話で「どうやって造ってるの?」と聞ける関係なのすごくいい話だ。
さて、その電話の話の続きをすると、「どうやって造ってるの?」に対するロス・コブさんの答えは「リースリングの酸を活かすなら、マロラクティック発酵はしちゃダメだよ」というものだったそうだ。
ただ、実はフリーマンでは、それまですべてのワインでマロ発酵を行っていたそう。というのもフリーマンのワインはすべてノンフィルター。ノンフィルターで瓶詰めする上で、マロ発酵(『二次発酵』とアキコさんはおっしゃっていた)を行わないと最終的にボトリングした後の瓶内で予期せぬ発酵が起きてしまう可能性があるからなのだそうだ。
そんなわけで光風の2022ヴィンテージはロス・コブさんの助言に基づき、フリーマンとして初めてマロ発酵を行わず、フィルターをかけて瓶詰めしたワインになった。こういう醸造の裏話をあっけらかんと話してくれるオープンさもアキコさんの魅力だ。
ちなみに、セカンドヴィンテージの23年は強烈に酸が高かったので(アキコさん曰く『歯のエナメルが溶けるんじゃないかっていうくらい』酸が高かったそう)マロ発酵を実施しノンフィルターでボトリング。24ヴィンテージは今まさにマロ発酵するかしないか悩み中、とのことだった。
話が逸れるがなぜフリーマンのワインが原則すべてノンフィルターなのかを質問してみた。それは「旨みが残る感じがするから」なのだそう。フリーマンのワインにはたしかに「旨み」としか呼びようのないなにかがあるような気がしていて、それが他のアメリカの生産者とフリーマンを分かつ個性に思えているのだが、その秘密の一旦がノンフィルターへのこだわりにあるのかもな、と感じた。
ともあれ2022はマロなし・フィルターあり、2023はマロあり・ノンフィルター、2024は未定。こんなふうに毎年造り方を少しずつ変えながら、光風リースリングは造られている。
「光風リースリング2022」を飲んでみた
そして、飲んでみて私は結構しっかりビックリした。8か月前と間違いなく同じワイン、なのだが印象は小さく、しかし決定的に異なるように感じられたのだ。リリース前、鋭利な刃物のようだった光る風は、頬を撫でる穏やかなものになっている。同じ気温の日に吹く風でも、11月の終わりの風が4月の終わりの風に変化したような、それは変化だ。
酸の角がまろやかになり、グラスの奥から蜜の感じがじわっと広がっていて、液体の核に丸い球体を思わせる旨みがある。丸くなったとはいえ、あくまでも主体は酸。その魅力が保たれたまま他の要素も立ち上がってきている印象なのすごい。マロあり&ノンフィルターの23はどんな味わいなのか、そちらも俄然気になってくる。
ちなみにこのワイン、ペアリングフードとして提案いただいた神楽坂・虎白のフィンガーフード2種のうち、とくに「あん肝、梅と紫蘇の香り」との相性が異次元だったことも追記しておきたい。
あん肝の旨みと甘みとリースリングの酸が完全に調和し、地面に描いた三角形がピラミッド状に立ち上がってくるような、三次元的な美味しさを獲得していた。アキコさんの言葉を借りれば「酸が脂を切る」ペアリング。酸を活かした造りが異様にうまいフリーマンの真骨頂感がある。
ちなみに、アキコさんはシンガポール滞在中にこのワインを松茸とノドグロの土瓶蒸しを合わせたそうで、それも素晴らしいペアリングだったそうだ。なにそれやりたすぎる。ちなみにソノマでも雨の降った後などに松茸が生えてくるそうな。(香りは日本産のほうがはるかに上とのこと)
フリーマンのワインたちについて
というわけで光風リースリングをテイスティングしたのだが、この日は他にも、
・2020 ユーキ・エステート ブラン・ド・ブラン ソノマ・コースト
・2022 涼風 シャルドネ グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー
・2021 アキコズ・キュヴェ ピノ・ノワール ウエスト・ソノマ・コースト
の3本もテイスティングできた。
これらの3本は、先日の大統領選で惜しくも敗れたカマラ・ハリス副大統領が主催した、岸田文雄前首相を招いての昼食会でサーヴされたワインたち。
フリーマンのワイン、スケールがデカすぎて話の中にすぐ「大統領」とか「首相」とかが出てくる。普段の私は「町内会長」とか「PTA役員」とかそれくらいのレベルの会話しかしていないので脳がバグる。
上記3つのワインについても語り始めればキリがないのだが、やはりどれにも美しい酸があり、たっぷりとした果実があり、奥に核となる旨みがある。味の輪郭が強いのに、フードフレンドリーでもある。
「涼風」は個人的にNO.1クラスに好きなシャルドネだし、アキコズ・キュヴェは本当にエレガントで素晴らしいピノ・ノワールで、これらはいつも通り素晴らしいと感じたのだが、初めて飲んだブラン・ド・ブランがおいしくて驚いたことを付記しておきたい。なんかこう、これからさらに良くなりそう。
というわけでフリーマンのワイン、今回もどれも大変美味しかったのだった。そしてアキコさんにお会いするといつも元気を分けていただけるのが嬉しい。フリーマンのワイン、みなさんもぜひ一度試してみてください。