「土とワイン」と大岡弘武さん
大岡弘武、という人物の名前を初めて知ったのは書籍『土とワイン』(X-Knowledge)を読んでいるときだった。なるほどなー、表層土の下にある基盤岩、これがワインの味に影響を及ぼすのかー、ホントかよ、みたいに読み進めていったら、急に日本人の名前が出てきたのであった。
この本は、ニューヨーク在住のワインジャーナリストが書いた、ワイン用ブドウを育む土壌の特徴と、それぞれの土地でいわゆる自然派的な造りをする生産者を紹介するといった内容の本。大岡弘武さんは、その第1章「火成岩(変成岩を含む)」のなかで、ローヌ北部を代表する造り手の一人として紹介されている。450ページを超える厚い本だけど、それでも8ページにわたり紹介されているからすごい。本によれば、現在は岡山県でワイン 造りしているという。
スポーツで日本人選手が海外で活躍しているニュースを見ると自分とはなんの関係もないにも関わらずなぜか誇らしい気分になるという奇妙な現象があるが、その現象が本を読んだ私の心中に生じ、私はさっそく大岡弘武、という名前をGoogleの検索クエリに入力していた。すると、ラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンの公式ページがヒットしたのだった。
ラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンと醸造家・大岡弘武さん
その時点でラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンのワインはネットには出回っていなかった。しかし、公式サイトによれば会員登録をするとその年の年末にワインが発売される際に案内してもらえるということ。こんなもん登録一択だわと即座に会員登録。しばしの時間が経過した2020年末、差出人「大岡弘武」というメールが私のメールボックスに飛び込んできた。待ちに待ったラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンからの発売開始の案内であった。今回飲んだのは、そのときに買ったうちの1本だ。
大岡弘武さんは1974年生まれ。明治大学卒業後渡仏。北ローヌの生産者・ギガルのエルミタージュ地区栽培長を務めたのち北ローヌを代表する自然派生産者、ティエリー・アルマンの栽培長を任せれたのち独立、2016年に帰国し、2017年1月に岡山市北区にワイナリーを設立して今に至るという人物。
さて、朝日新聞の2018年3月8日の記事によれば、東京生まれの大岡さんが岡山を拠点に選んだのは「雨が少なく、ブドウ産地としての実績があり、土壌が仏ローヌと似ていたから」。「使われていない米蔵を改装し、タンクなどはネットオークションで購入」して経費を節減したという。畑は近隣の耕作放棄地。
費用は計600万円で、これは「醸造家への夢を持つ若者の手本のためにも、初期投資を極力抑えた」(2018年1月18日/朝日新聞関西版夕刊)とある。ワイナリーって初期投資600万円ではじめられるんだ! という驚きと、タンクってネットオークションで売ってるんだ! という驚きがある。世界は驚きで満ちている。600万円ほしい。
さて、大岡さんは「有機農法を行い、一切の添加物をいれずにワインを造る。100%葡萄からできたワイン」を造っているのだと公式サイトには書かれている。自社畑ではヤマブドウ系品種の小公子とローヌ原産のシラーを栽培しているそうだ。
ラ ・グランド・コリーヌ「S12」はどんなワインか
そんなラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンのワインが2020年12月10日、メルマガ登録者限定で販売された。私が購入したのは、マスカットオブアレキサンドリアで造られた白の微発泡、「ル・カノン ミュスカ・ダレクサンドリー2020(2800円税込)」と、今回飲んだシラーで造られた赤ワイン「S12(4600円税込)」だ。
「S12」は大岡さんのフランスの畑、の隣の畑の生産者が譲ってくれたブドウを使い「自分の畑とどのような違いがでるのか見たくて」造ったというワイン。ブドウを丸ごとタンクに入れて10日おき、足で潰すと野生酵母による発酵がスタート、1日1回タンクに入って足でブドウの皮を沈め、10日ほどしたらワインを抜いて1日かけてゆっくりプレス。小樽にいれて、72カ月の長期熟成を経ているそうな。もちろんノンフィルター、無清澄、亜硫酸無添加の「ブドウ100%」。瓶詰めは2018年11月「まさに今が飲み頃」と商品説明ページにはある。
「人生もワインもいつだって今がピーク」(by田邉公一ソムリエ)ということで、木曜日の夜にワインを我慢したことを記念して金曜日の夜に開栓することとした。フランスが認めたナチュラルワインの味はいかがなものか。さっそく飲んでみよう。
ラ ・グランド・コリーヌ「S12」を飲んでみた
というわけでグラスに注いで飲んでみたわけですが……これは……すげえうまい。なんだこりゃ。感想がのどが乾いてるときにファンタオレンジを飲んだときの中学1年生みたいになってるぞ。改めてもう一度飲んでみよう。うん、超おいしい。ヤバい。ダメだこりゃ。おいしすぎて語彙が崩壊しているのでテイスティングノートをコピペします。
色調は深いガーネット
香りの強さは強いです。果実味が主体でブラックベリー、少しスミレの花の香りもあります。そこに、スパイス(ヴァニラ、シナモン、丁子、なめし皮、コショウ)が加わり、複雑さを出しています。時間が経つとブルーベリーに変わります。
口に含むと、綺麗な酸が全体をすっきりとさせながら
果実味がふくらみます。バランスがとても良く、熟成させたシラーの良さが素直に感じられます。余韻も長いです。
これは個人的に感じていることなのだが「公式のテイスティングノートと味の印象が一致するワインはおいしい」という気がする。「え、全然そんな味しないけど」ってワインもあるじゃないすかどれがとは言わないけども。
このワインに関しては、本当にテイスティングノートそのものの香りと味。色が濃いわりに味は甘酸っぱ系。シラーらしいスパイシーさもあって、鶏肉の香草焼きと鬼アージュ(鬼のようにマリアージュしたの意)した。これは端的に言って最高。めちゃうまい。アルコール度数12%と軽いこともあってこれは好みof好みだ。4600円と高いけど、おいしさでしっかりと元が取れている。濁ってもいないし、澱もまったく気にならないし「ブドウだけ」という感じも変な話だが全然ない。
なにかしらAOCの規定から外れているのか、どうなのか、ワインの格付けはヴァン・ド・ターブル。でもほんと、このワインに関しては格付けなんて関係ないですまったく。
というわけで、ラ ・グランド・コリーヌ・ジャポンのワインのファンに私は一発でなってしまったのだった。このワインはフランスで造られたものだから、正確にいうとラ ・グランド・コリーヌのワイン、ということになるのかな。
大岡さんが自社畑で育てているのはヨーロッパブドウのビティス・ヴィニフェラ種ではないヤマブドウ(ビティス・コアニティー種っていうんだそうですよ)の「小公子」。公式サイトに書かれている、ヤマブドウにこだわる理由もすごく納得がいくし「小公子」、がぜん気になるなー!
強くオススメのスペインのナチュラルワイン。