マウント・エデン ヴィンヤーズとサンタクルーズマウンテンAVA
中川ワイン主催のマウント・エデン ヴィンヤーズのトレードセミナーに参加してきた。マウント・エデン ヴィンヤーズはサンフランシスコか80キロほど南下したサンタクルーズマウンテンAVA(American Viticultural Area)にあるワイナリー。

サンタクルーズマウンテンは1981年に制定されたカリフォルニア最古のAVA。海側では120メートル、内陸では240メートルという“標高しばり”があり、つまり総じて高標高。ゆえに冷涼な産地。

サンタクルーズマウンテンの有名生産者に「リッジ」がいる。マウント・エデンからリッジまでは直線距離で10キロの近さなのだがクルマで行くと山を降りて登って1時間かかるそうで、そのエピソードからも山がちな地形であることがイメージできる。マウント・エデンはそんな標高600メートルほどの山の山頂付近にあり、テラスからはシリコンバレーが一望できるそうだ。
マウント・エデン ヴィンヤーズとコルトンとシャトー・マルゴー
この土地にワイン造りをもたらしたのは1880年代に移民してきたポール・マッソンという人物。
ブルゴーニュ出身だった彼は、当時誰もブドウを植えようなどと考えなかった山の上の急斜面の土地をブドウに最適だと見抜いて植樹。マウント・エデンの創業者は、そのポール・マッソンから挿し木をもらってヴィンヤードを拓いた。
そして、この日のセミナーで私が面白いと感じたのはクローンの話。ポール・マッソンは、ルイ・ラトゥールの畑から挿し木を持ち込んだ。
それがシャルドネとピノの枝だったのだそうで、当時のルイ・ラトゥールの畑の所有状況と、赤白それぞれの枝が入手できたことを合わせて考えると、それはどうやらコルトンの畑の枝なのではないかと考えられるのだそう。コルトンはコート・ド・ボーヌで唯一の、赤も白も育つ珍しいグランクリュだ。
そのシャルドネは「マウント・エデンクローン」として広がっており、その特徴は小粒で病害に強いこと。

写真を見せてもらった(上写真)のだが大きい粒と小さい粒が混在した一見これ大丈夫? っていう状態のもの。なんでもこういったブドウ(の状態)をアメリカでシャッターベリー、フランスではミルランダージュと呼ぶそうで、房の間を空気が通るため病気になりにくく、むしろ歓迎されるのだそうだ。知らなかった。
小粒のぶどうといえば衝撃的だったのはシュレーダーの「ヘリテージ・クローン」。デラウェアかよってくらい粒が小さいカベルネ・ソーヴィニヨンなんだけれども私はいま凝縮感という言葉の意味を生まれて初めて実感している……! みたいな素晴らしさを感じるワインだったのだった。
よく言われることだが小粒=皮の比率が高いということで、収量は少ないもののエキスの凝縮したジュースがとれる。小粒はいいぞ。

マウント・エデン ヴィンヤーズのワインを飲んだ印象
シャルドネ
そのブドウから造ったワインを飲ませてもらって驚いた。飲ませてもらったのは「シャルドネ エステート サンタクルーズマウンテンズ 2020」と、そのなかから11樽を選抜し、澱ごとステンレスタンクに移し追熟させた「シャルドネ リザーブ エステート サンタクルーズマウンテンズ 2020」なのだが、どちらもまあ厳格な造り。
樽発酵・樽熟成を行っているシャルドネながら、カリフォルニア! 樽! バニラ&トースト! みたいな印象は言ってしまえば皆無。非常に酸が強く、果実味は後景に控えており、シュールリー由来なのか、独特な旨みのようなものがはっきりと残っている。
私はほぼすべてのワインはリリースされている以上つねに飲み頃だと思っており、熟成ワインはあくまでマニアのなかのマニアのためのものという認識でいるのだが、これはもうちょい寝かせたいと感じた。プロ野球でいうところの超素材型の高校生ドラフト1位選手といったイメージだ。開花のときはまだ先であり、開花したときに咲く花はデカい。
会の途中で流されたプロモーションビデオでも「このワインは、ときに忍耐が必要だ」というセリフが紹介されていたが、まさしくその通りなのだと思う。それは、手のひらの上のスマートフォンひとつで、即座にすべてが手に入る時代に対するアンチテーゼにもなっている。
ピノ・ノワール
「ピノ・ノワール エステート サンタクルーズマウンテンズ 2020」も同様で、酸が高くて厳格な印象。カリフォルニアのピノ・ノワール、ヴィンテージは2020って言われたらちょうど飲み頃かなと思いきやおそらくきっとまだ早い。飲みごろを質問すればよかったと今後悔しているところだが、ヴィンテージ+10年くらいは見込んだほうがいいかもしれない。今買って5年寝かせたらやべえことになりそう。
オーナーでワインメーカーのジェフリー・パターソンさんによれば、このスタイルは以前からずっと変わらない、1940年台から造り続けているスタイルなのだそうだ。高標高&急斜面&ブルゴーニュ由来のクローンで造ると、カリフォルニアでもこんな感じのスタイルになるのですなあ。
カベルネ・ソーヴィニヨン
最後に飲ませてもらったのは標高のやや低い畑で育てられているというカベルネ・ソーヴィニヨン エステート サンタ・クルーズ・マウンテンズ2018と2005。
カベルネのクローンはポール・マッソンと同じ時代というから1900年代初頭にシャトー・マルゴーから持ち込まれた歴史あるクローン。つまりマウント・エデンは敷地内にコルトンのクローンとシャトー・マルゴーのクローンが植わっているということになる。クローンのテーマパーク状態。
カベルネに話を戻すと、ジェフリーさんいわくカベルネで造られるのはボルドーのレフトバンクスタイルのワインであり、「理想はカリフォルニアとボルドーのハイブリッド」なのだそう。カベルネは2018と、特別試飲として2005を飲ませていただいたが、やはり果実が前面に出ないストイックかつ冷涼感あるカベルネで、同じカリフォルニアでもナパのカベルネのスタイルとは全然まったく違うと感じた。2005は外殻が柔らかくほぐれはじめており、とてもエレガントだった。
マウント・エデン ヴィンヤーズのセミナーを終えて
というわけでマウント・エデンは、私がここまで飲ませてもらったカリフォルニアワインのなかでも特異と言っていいワインだと思った。なんなら暑いヴィンテージのブルゴーニュとマウント・エデンのワインを飲み比べたら、マウント・エデンのほうをよりブルゴーニュっぽいと感じるまである気がする。
ワイナリーから見えるシリコンバレーは、この地にブドウが植えられた当時はなにもない原野だったそうだ。今はそこにアップルがあり、メタがあり、Googleがある。見える景色は変わったが、造るワインはかわらない。頑固親父の造る昭和のワイン(アメリカワインだけど)。そんな印象を受けた、マウントエデンのワインだったのだった。勉強になった!
