ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

グローセス・ゲヴュックスと土壌の神秘。Nagiさんワイン会レポート!

Nagiさんワイン会への道

YouTubeチャンネルをともに運営している醸造家・Nagiさんがドイツから帰国するのでワイン会をやろうということになった。Nagiさんのワインは現在国内で流通していない。それを飲むにはワイン会をやるのが手っ取り早い。

とはいえ私とNagiさんだけでは作業が多く大変。ということで、お友だちのワインマーケット・パーティ沼田店長の協力を取り付け、ワインを手配し(てもらい)、お店を手配し(てもらい)、先日晴れて当日を迎えることができたのでその模様をレポートしていきたい。

さて、この日のために用意したワインは6種類。以下のような感じだ。

ちょっと甘口のカビネットが1本、さらに甘口のシュペトレーゼが1本、そしてドイツ高品質ワイン生産者連盟(VDP)の格付け最上位、ブルゴーニュにおけるグランクリュに相当する畑・グローセラーゲのブドウで造られた辛口ワイン「グローセス・ゲヴュックス(GG)」が3本。さらにブラインド用にと用意された赤ワイン1種を加えた6種12本がドイツからNagiさんによって送られてきている。

 

「同じ畑の区画違い」でなにが違う?

まずはほんのりと甘いカビネットで乾杯となった。Nagiさんによれば、このカビネットは次に飲むGGのうちの1本と同じ「フェルゼンエック」という畑から獲れたブドウで造られたワイン。

今回用意されたワインのなかでは相対的に安価なカビネットと高級ワインであるGG。同じ畑なのになぜアウトプットがまったく異なるのか?

Nagiさんによれば、同じフェルゼンエックでもカビネットとGGでは区画が異なるのだそうで、同じ畑でも区画が違えばできあがるブドウにもやはり違いが生じるようだ。ブドウの質が高い…というか、栽培がしやすいとか、病気になりにくいとか、健全なブドウが収穫しやすいとか、多分そういうニュアンスになると思うわけだがともかく区画による「違い」が存在し、より良い区画がGGには割り当てられる。

フェルゼンエックで造られたふたつのワインでいうと、カビネットに比べてGGの区画はより斜度が急で、より南向き。斜度が急であることで水はけが良く、南向きであることでより日照時間が長いことがブドウの生育に違いをもたらし、その違いが最終的にワインの違いとして表れるのだ。

 

VDP格付けとはなにか?

VDPの格付けはドイツワイン=甘口といったイメージから脱却するため、そしてブルゴーニュワインのように畑などの個性を強調するために制定されたみたいなことのようで、グローセスゲヴュックスが辛口ワインのみが名乗れる格付けであることからも、ドイツには辛口ワインもあるんだかんな! みたいなことを言いたいんだろうなという気持ちが伝わってくる。

VDP格付け。ブルゴーニュ風にいえば、下から地域名、村名、一級畑、特級畑。

知ってました? 1985年くらいまで、ドイツワインは日本への国別輸入量NO.1だったらしいんですよ。それが2019年現在では7位なわけなんですよ。割合なんと2%。2パーにまでなってしまっているのは、辛口ワインが市場の専有率を高める中でドイツ=甘口みたいなイメージが根強く残っていることも原因のひとつなのだろう。

特級畑(グローセラーゲ)の辛口ワイン。それがGG(グローセス・ゲヴュックス)だ。

そういった意味で、この日いただいたNagiさんが造ったGGの3本は、ドイツの辛口ワインの深淵みたいなものを覗かせてくれる内容だったと思う。

 

同じ畑で採れたブドウでもスタイルで味は大違いになる理由

ワイン会レポートに戻ると、まず飲んだカビネットがいきなり非常においしかったのだった。「ほのかな」と「豊かな」の中間くらいのほどよい甘さ。そしてこれぞドイッチュラントだよという澄み渡るような酸。ははは、うめえ。

収穫時の果汁糖度によって分かれるドイツワインの「肩書き」。詳しいことはお調べください。

そしてこのワインと同じ畑で採れたブドウで造るGGを飲み比べられるのがこの会の贅沢さだ。

前述したように斜度が高く、日当たりの良い畑から採れたブドウで造るこのワインは、Nagiさんが正式に醸造責任者に就任する1年前の2019年ヴィンテージ。前任の醸造責任者の方の意向も大いに反映されているというこのワインは、残糖度Negative(≒ゼロ)というワインで、なるほどたしかに非常にシャープな味わいだ。カビネットとGG。造りの違いで同じ畑で採れた同じ品種(リースリング)の味わいがこんなにも変わるものなのだ。当たり前の話なのだがやっぱりなんか感動する。

果汁糖度が高くなければ甘口ワインは造れない。しかし果汁糖度が高すぎると辛口ワインの場合アルコール度数が高くなりすぎる。さりとて早く収穫するとブドウの熟度が上がらずに香り豊かなワインにならなくなってしまう。ならばと収穫をギリギリまで遅らせれば雨が降ったり病害が出る。どうすりゃいいのこれ。現場のことはなにひとつわからないけどワイン用ブドウ造りが大変な仕事だよなということはわかる。

収穫についてはこちら↓

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目の前に並べられた6本は、いま目の前にいる人物がそんな面倒くささと難しい判断と苦労の果てに造り上げたワインたちなんだなあと思うと感慨深い。ありがてえありがてえ。飲むだけの身は気楽なものである。

 

グローセス・ゲヴュックスと「土壌」による味の違いについて

会は進み、ここからはGG3種の飲み比べという豪華な趣向となるのだが、結論を先に述べれば参加者のみなさんから圧倒的に評価されたのが2杯目のヨハニスベルクだった。「(聖)ヨハネの山」を意味するこの畑は、先に飲んだフェルゼンエックより暖かい畑だそうで、フェルゼンエックが緑色粘板岩に対しヨハニスベルクは赤色粘板岩と土壌も異なっている。

土壌についてはこちら↓

www.youtube.comなんでも赤色粘板岩のほうが多少地熱を蓄えやすい傾向があるそうで、それもあってブドウが熟しやすい傾向があるのだそうだ。蓄えられた地熱の影響なのか、どうなのか、GG3本のなかでこのヨハニスベルクがもっとも残糖度が高く(4.0g/L)、もっともとっつきやすい味わいになっていた。

Nagiさんいわく、この残糖をわずかに残すスタイルは最近のトレンド。ドイツのリースリングは酸は十分にあることから、多少糖を残したほうが味わいのバランスがとれる。つっても辛口の基準が9g/L以下とのことなので4.0g/Lは十分以上に辛口で、甘さを感じるわけではない。

1リットルに対してほんの数グラム。そんな違いがわかるもんなんですかねえ、人って。みたいなことを質問してみたのだが、これは明確にわかるのだそうだ。「これは残糖が1グラムほど多いみたいですね…!」みたいな感じにはわからないとしても、「なんとなくちょっとボリュームを感じるかも」みたいなことはたしかにわかる。

最後のGGであるシャーラッハベルクは残糖2.9g/Lとヨハニスベルクの4.0g/Lに対して1グラム弱残糖が少なく、私はこちらが好み。「こっちのほうがちょっと酸っぱくて好き」というワイン偏差値30台すぎる理由だったのだが、それでもたしかに糖度1g/Lの違いを感じていた形跡はある。

 

「土壌の違い」と「テロワールの違い」はなにが違うのか

造りはすべて同じというGG3本。それだけに、生産地の違いがなるほど如実にわかる。ただしそれは、いわゆる「テロワールの違い」みたいに言われる言葉のニュアンスとは少し違うと感じた。

たとえば「酸化鉄を多く含む土壌からできたブドウは、ほかの土壌からできたブドウとはちょっと違う」とNagiさんは言う。一聴すると、土壌中にある酸化鉄の成分的ななにかが根から吸い上げられて果実の中にも影響してミネラルがどうしたこうしたみたいな話になりそうに感じるが違う。

Nagiさんいわく酸化鉄の成分的ななにかが根から吸い上げられるようなことはありえない。一方、酸化鉄が土壌中に多く含まれるとどうやら土中の保温効果が高まるようで、その安定した地中温度によってブドウの熟度が変化するようなのだ。

GG3本目となったシャーラッハベルクの畑は、区画ごとに土壌が細かく違う畑。鉄分の含有量もそうだし、砂質であれば水はけが良くなり=水分ストレスが高くなり、粘土質であれば水分ストレスは低くなる=水はけが悪くなる。土壌内の「成分」ではなく、温度・水はけといった要素が土壌によって異なることで、土壌が変わればブドウが変わる、という結果になっていく。そしてその説明がグラスを満たした液体によって即座に答え合わせされていくのがこの夜の真に面白い点だったと思う。

栽培もめっちゃ奥が深い↓

www.youtube.comNagiさんは「テロワール」とか「ミクロクリマ」みたいな言葉は使わない。それは、それらの言葉に含まれるロマンチックな要素が、正当にワインを評価する上で邪魔になるからなんじゃないかなあと私は考える違うかもしれないけど。基本的に定量的・科学的にワインをとらえるNagiさんにとって、その土地に暮らす生き物たちをも含めたテロワールの魅力が云々みたいな話は根本的に相容れないんだと思う。

私がまさにそうだがワインのセンス・オブ・ワンダー含有量の高さに魅了されている方はこのブログを読んでくださる方のなかにも多いと思う。一方、そこに目を奪われすぎて科学的側面から観測することを怠ってしまうと、ワインの本質を決定的に見失ってしまうのかもみたいな気分になる。いっけねえ自戒自戒。

 

ドイツ赤ワイン事情

ワイン会に話を戻そう。続いては赤ワインがブラインドで出た。私は答えを知ってしまっていたのだが、答えはメルロー。ドイツでメルロー植わってるんだ!

Nagiさんいわくドイツは赤ワインの輸入大国。ではドイツ人にどんなワインが人気なのかといえば、それはロバート・パーカー好みのビッグ&ボールドなスタイル、つまり“濃い”ワインなのだそうだマジか。

新樽率40%というこのメルローも、直前までに飲んできたGG3種の薄いガラスだけで組み上げられた繊細な塔のようなスタイルとは打って変わって甘い香りで果実の強いスタイル(ただし残糖はゼロなのだそうだ。わからないもんです)。その生産背景にはなんていうか醸造家はつらいよ的な苦労話もあるみたいだが、ともかく「ちょっと意外だけどおいしいです」みたいな反応をみんなしていたような気がする。ちなみに4、5名の方が正解にたどり着いていた。すげえなみなさん。

そしてこのワインは「ナチュラルワイン」だとNagiさんは解説してくれた。野生酵母で発酵、ノンフィルター、そしてSO2添加は30ppmと「分析機関に怒られるレベル」の極低量。

Nagiさんは、収穫されたブドウに対して必要な処理を必要なだけする、みたいなことをよく言う。一方で、「自然派」であることを目的にワインを造ることはたぶんない。だからフィルターもSO2添加も必要であればもちろん行うと思うので、結果的にできたワインが「自然派」になったということは収穫されたブドウがいい状態だったのだろうきっと。樽のお化粧の下地にある果実の良さを感じられるおいしい赤ワインだった。

ナチュラルワインってなんなのかについてはこちら↓

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甘露の極み・シュペトレーゼ。そして二次会へ。

そんなこんなであっというまに2時間弱が経過している。締めには残糖63.2g/Lのシュペトレーゼを飲み、その甘露具合が骨身に染みわたったところで会は中締めとなった。冒頭付近でドイツワイン=甘口のイメージがあることをややネガティブなニュアンスで書いたが、ドイツの甘口ワインうめえ〜とこういうワインを飲むと心底思う。

解説するNagiさん。後頭部は私。

NagiさんのGoogleアースを使っての畑の解説が非常に興味深く、沼田さんによる沼田さんが何人かに分裂したんじゃないかと錯覚するほど行き届いたサービスもあり、手前味噌ながらすごく充実した会になったんじゃないかと思う。とくにワインの保管、グラスの運搬、お店の手配、二次会のワイン提供、さらに当日のサーヴィスと八面六臂の大活躍をしてくれた沼田さんがすごかった。改めて感謝です。

二次会では、そんな沼田さんが自店舗で取り扱うワインの中から5種を厳選して持ち込んでくれた。こんな感じだ。

ワインマーケット・パーティ沼田店長作成の二次会ワインリスト。最高。

これらのワインをフリーフローで(!)提供してもらったのだが、まず素晴らしかったのはパスカル・ポンソンのマグナムシャンパーニュ。2012ヴィンテージがベース、2018デゴルジュマンのこのワインが「美しく熟成したシャンパーニュ」というラベルをつけて額縁に入れて飾っておきたくなるような美しく熟成したシャンパーニュだった。熟成したシャンパーニュ展が観たい。上野の森美術館で。

続いてブランクキャンバスの「リード シャルドネ」は、沼田さんが「擦ったマッチの香りがしますよ」と話していた通りに本当に擦ったマッチの香りがしてそれが非常に面白かった。好きな味。

ラングドックの自然派、アラン・アリエがサンソーで造るロゼ「ムレシップ ガレジャード ロゼ2021」は軽快で飲みやすく、以前から飲みたいと思っていた“ルーチェの隣の畑”で造られるサンジョヴェーゼ・ロゴノーヴォ サンジョヴェーゼ ブラックラベルも素晴らしかったのだが、ちょっと驚くほどおいしかったのがニュージーランドはマウントフォードエステートのピノ・ノワール2014。会話しながらするする飲んでしまったのだが、「あれこれヤバえやつじゃない?」と一瞬グラスを回す手が止まったのを覚えている。今度沼田さんに詳しく聞いてみよ。

 

2011年のリースリングと2021年のリースリング

そして、参加者のおひとりであり、ワイン界隈で私がこの人はすごいと思う方のうちのひとり・stormさんからはモーゼルの造り手、ヘイマン・レーヴェンシュタインの2011ヴィンテージをご協賛いただいたのだが、このワインとNagiさんのワインとの比較が非常に興味深かった。

Nagiさんが醸造責任者になったのは2020年。そのため、「Nagiさんが造った熟成リースリング」は基本的にこの世に存在しない。stormさんが持ち込んでくれたワインはヴィンテージ+12年が経過して、黄金色の輝きと蜜のようなボリュームがたっぷりとあり、ボトルの内部からあふれるような強いエネルギーをおそらくは熟成によって獲得していた。

今日いただいたNagiさんのGGたちは、12年後にどんなワインになっているのだろうか……そんなことを想像すると楽しい。stormさん、改めて感謝です!

 

Nagiさんワイン会を終えて。

二次会は22時に閉会となり、参加者の方々をお見送りしたあと、グラス洗いまで手伝ってくれたstormさんと主催3人でお疲れ会みたいなのをしたのだが、「いまGGを飲んでみてください」とNagiさんがグラスにワインを注いでくれた。

畑の違いをより明確に感じてもらうために開けたてを提供した一次会から数時間、輪郭がすこし丸くなり、ボトルのなかで深呼吸をして少なからずリラックスした雰囲気のある液体は、すごく華やかで生命力にあふれているように感じた。「明日になるともっといい香りになりますよ」とのことだった。

ならば前日抜栓する選択肢もあったはず。でも、Nagiさんは「畑による違い」を伝えたかったのだと思う。そして、その試みは参加者のみなさんにもきっと支持していただけるに違いない。そもそも開けたてもめちゃくちゃおいしかったのだ。

片付けが終わり、お店への支払いをし……ワインについてああでもないこうでもないと話をして、気がつくともう終電が近づいている。主催側の人間が言うセリフじゃないかもしれないが、本当に楽しい会だった。参加者のみなさん、お越しいただきありがとうございました。また飲みましょう!

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