ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

日本酒の「氷温熟成」ってなんだ!? ワインブロガーが“氷温熟成スパークリング日本酒”を飲んでみた[PR]

ワインブロガーの僕が氷温熟成日本酒に出会うまで

この秋、関西のとある酒蔵を訪ねた。いろいろとお話を聞かせていただくなかで、個人的に興味を惹かれたのが「氷温熟成」の話だった。

なんでも、お酒は氷温(-1〜-5度)で長期間熟成させると、アルコール分子と水分子が結合し、口当たりがまろやかになるのだそうだ。それを「クラスタ効果」と呼ぶ、ということも教えてもらった。 

今回の記事は日本酒の「温度」がテーマです

クラスタ効果自体は氷温環境でなくとも起こるが、氷温環境であれば色や香りの変化はほぼ起きない。日本酒ならではのフレッシュな香り、水のような透明さは保ったまま味だけがなめらかになっていくのが氷温熟成ならびにクラスタ効果の真髄なのだという話はとても興味を引かれるものだった。

ワインの熟成に関する議論で「クラスタ効果」の影響に関する話は聞いたことがなく、そもそも日本酒と熟成がうまく結びついていなかったこともあり、長期氷温熟成酒、いつか飲んでみたいものだなあと願っていたら「長期熟成日本酒を飲んで感想をレポートせよ」という指令が舞い込んできた。願ってみるものである。

待つこと数日。送られてきたのは「Ondo 001 Sparkling Sake 2019」という聞き慣れない名称のお酒だ。結論を先に言おう、日本酒観が根底から覆されるとんでもないお酒だったんすよこれが。

 

Ondo  001 Sparkling Sake 2019はどんなお酒か?

調べてみると、「Ondo」は氷温熟成に特化した日本酒ブランドで、「001 Sparkling Sake 2019」はそのファーストプロダクト。さらに調べてみると、「こんな日本酒見たことない!」という驚きに溢れていた。こんな感じだ。

Ondo 001 Sparkling Sake 2019。見た目はまるでシャンパーニュ

・“ヴィンテージ”は2019

・瓶内二次発酵

・栓は天然コルク

・-2度の氷温で4年間熟成

・ドサージュゼロ

なにこれシャンパーニュという製法なのだ。むしろここまできたらお米で造ったシャンパーニュ、と言ってもいいんじゃないかっていうレベル。熟成期間は4年と長く、ミレジメシャンパーニュの規定が36ヵ月なので、それよりもさらに1年長い熟成期間だ。

ただ、シャンパーニュと「Ondo 001 Sparkling Sake 2019」との間には決定的な差分がふたつある。ひとつは原材料が米と米麹である点、そしてもうひとつは長期熟成を氷温環境でおこなっている点だ。

シャンパーニュの熟成は通常13-15度程度で行われると思うわけだが、それはその環境がゆっくりと熟成が進むベストの温度だから。しかし、フレッシュな味わいを良しとする日本酒においてはその“温度”は高すぎるということになる(日本酒でも常温熟成をよしとする場合はあるが、それは色が黄色っぽくなったり、ときにヒネた香りが出たりするそうな)。前述したように、色と香りを変えずに口当たりのなめらかさと味の深みを出すためには、氷温環境がベストなのだそうだ。

-2度で何年も保管したらそれはもちろんお金がかかる。ゆえに販売価格は決して安価ではない。長期氷温熟成酒、ましてや“スパークリング氷温熟成酒”は初体験だが、高価格に値する味がするのか、いざテイスティングしてみよう。

 

「Ondo 001 Sparkling Sake 2019」をテイスティング

Ondoのロゴが入った箱に入り、もちろんチルド便で届けられたOndo。

クロージャーはコルク栓で、ミュズレで固定。ここだけ見たら日本酒だと思う人はいないはず…!

箱からボトルを取り出してみると、その佇まいはシャンパーニュそのものだ。ボトルはシャンパーニュボトルのそれだし、コルクで打栓され、ミュズレ(ワイヤー)でそれが固定されているのもシャンパーニュと同じ。

アルコール分子を水分子が取り囲む様子をイメージさせるラベルには高級感がある。これが日本酒……? と脳がだまされるというか認識が揺らぐビジュアルだ。日本酒の蔵元が造る高級シャンパーニュ、って言われたら秒で信じる。

ラベルには-2度で熟成された旨、ドサージュゼロである旨が記されている

さていよいよテイスティングのお時間だ。ポンと抜栓してグラスに注いでみるとグラスの底からは繊細な泡がふつふつと湧き上がる。これはどう考えても、明らかにコップで飲む酒ではなくワイングラスで飲む酒だろう。一部のワイングラスメーカーからは日本酒用のグラスもリリースされているが、そのようなものも合うかもしれない。

グラスから漂うのは抑制の効いた果実の香り。熟す直前のほんのわずかに青みを残したメロンのような、爽やかで、しかし口に入れたあとの甘美さを予感させもする香り。ワインで2019ヴィンテージであれば、2024年末の今飲んだら多少の熟成感は感じると思われるが、2019年に収穫されたお米で造られたこのお酒の場合、熟成感・熟成香はまったくないと言っていい。香りの印象は非常にフレッシュ。

ちょっと衝撃的な味でした

飲んでみると、まずは細く、柔らかいが量の多い泡の感触が出迎えてくれる。続けざまにレモンやスダチのような果実感を伴う酸味が舌を貫き、液体が過ぎ去ったあとにはふくよかなお米の旨みが余韻として残る。

特筆すべきは口当たりにおける角のなさだ。これ以上ないほど磨き込まれたガラスの球体のように、唇から喉に至る器官のどこにも引っかかることがなく、スルリと液体が通り抜けていく。粘性こそまったくないものの、まるで極めて滑らかなゼリーのような丸みを感じる。

飲んだことがないお酒だ、これは。私の感想はこの一言に尽きる。おいしいのはもちろんおいしい。とてもうまい。だが、それ以上に味わい、口当たり、絶妙な泡の具合があいまって「こんなの初めて…!」という感覚が先に来る。

春の高山の雪解け水のような清らかさ、夏の森で採れた和柑橘の酸味、秋の里で栽培されたお米の旨み、そしてそこはかとなく感じる冬の海のミネラルと微かな塩味……山があって森があって里があって海がある、日本の風景のような、そして日本の四季のような味わいを、弾ける泡が包み込んでいる。これが氷温熟成スパークリングか!

 

新しい体験としての「Ondo  001 Sparkling Sake 2019」について

考えてみると、私は日本酒スパークリング=甘めのシュワシュワ、という先入観をどこか抱いていた。「Ondo 001 Sparkling Sake 2019」はノンドサージュだけに、砂糖的甘さの要素はまったくない。お米由来の甘みもほぼ削ぎ落とされたストイックな造りに私には感じられたが、それでも果実はしっかりと感じられる。

私が知っている日本酒とは少しだけ、だが決定的に異なるし、もちろんシャンパーニュともまったく違う魅力を持っている。

たからこそ、「おいしいですね、マグロの刺身と合わせたいです」みたいな、通り一遍のコメントでは到底語れない多面的な魅力を感じる。なんていうか、日本酒の可能性そのものの味、という印象なのだ。

氷温熟成、ノンドサージュ、瓶内二次発酵といった様々なチャレンジングな要素が絡まり合って、きっとこの味は生まれているのだろう。このチャレンジは明らかに成功している。開けたてもおいしいが、少し温度を上げて飲むと甘酸っぱさがさらに際立ち、ものすごくおいしかったことを蛇足ながら追記したい。

どこまでが氷温熟成ならではの要素なのかは、正直初体験の私には判定ができないが、ここまで「違い」を感じるということは、きっとどこかに決定的に影響しているのだろう。少なくとも、この口当たりの滑らかさは、冒頭の関西の酒蔵で聞いた「クラスタ効果」の発露なんだろうなあと感じるに十分なものがあった。

Ondoは本数限定でリリースした「001 Sparkling Sake 2019」のあとも次々に商品をリリースしていく予定なのだそうだ。「002」以降はいったいどんな驚きの“体験”をもたらしてくれるのか? ちょっと気になってしょうがない!

公式サイトはこちら↓

ondosake.com