ONE WINEマーケットインとプロダクトアウト
マーケットインとプロダクトアウト、という言葉がある。一般に「顧客が望むものを作って売る」か「作り手が作りたいものを作って売る」かの違いであるとされ、一般的には前者のほうが推奨されるけれども規模と場合と商材の特性によっては後者のほうが良い場合もあったりするよねみたいな感じで使われる。
そして9割方がプロダクトアウトの思想に基づいて生産されている印象のあるワインの世界にあって、マーケ全振りの超マーケットインで世に出たのが2021年10月26日発売のサントリーの缶ワイン「ONE WINE」だ。
ONE WINEの開発背景
この商品、発売元はサントリーワインインターナショナルだが、プロジェクト自体はサントリーのマーケティング業務を担うサントリーコミュニケーションズと広告会社のR/GAが進めたというプロダクト。
この手の開発でよく聞かれるのが「ユーザの課題をプロダクトで解決する」みたいなストーリーだが、ONE WINEの場合「ワインは好きだけど、飲みきれるか不安で、気軽にボトルを開けられない…」(ニュースリリースより)という課題を解決すべく開発されたのだそうで、その課題は、まとめるならば以下のようなものになるようだ。
・飲みきれない/冷蔵庫の場所をとる
・ラベルになにが書いてあるかわからない
・開けるのが面倒(専用のオープナーが必要)
うーん、わかる。超わかる。
ワインには「一度開けたらその日のうちに飲み切らないといけない」という謎の呪いがかけられている上に(注:実際はそんなことない)、コルク栓を引っ張り出すのは激ムズだしラベルには筆記体で英語だかフランス語だかわからん文字が大量に書かれていて解読不能だしええいもうチューハイ飲も。となる。
ONE WINEが解決する課題
この課題を解決するために、ワインを250ml入りの缶に詰めて飲み切りやすくすると同時に開栓の問題を解決。加えて、以下のような顧客価値を提供している。
・デザイン性が高く、わかりやすい
・冷蔵庫内の場所をとらない
・さまざまシチュエーションで飲める
・両親や友人へのプレゼントにもピッタリ
・ホームパーティへの手土産にももってこい
享受できるのはビールやチューハイとは違う、ワインならではのちょっぴり贅沢なひととき。モノ消費よりコト消費。ワタシ時間にオレ時間。みたいなことだろうたぶん。賢い人が考えた感ある。
ONE WINEをどう評価するか
こんな感じでドがつくマーケットインなプロダクトであるONE WINEに対する私・ヒマワインの感想はシンプルだ。「いいぞもっとやれ」である。
そもそも私は雰囲気も味のうちとなる高級ワインを除いてはワインの容器は軽くて環境負荷が少なければ少ないほうが望ましいという立場(重い・大きいボトルは輸送時の炭素排出量が多い)。
缶でも紙パックでもビニール袋でもなんでもいいが、缶はそれ自体から直接飲めるメリットもあるし最良の選択肢だと思う。調べたら令和2年度のアルミ缶の再利用率は94.0%ですってよすげえ(アルミ缶リサイクル協会のHPより。アルミ缶リサイクル協会なんてあるんだね)。持続可能なワイン飲み目標(SWGs)的にもアリだ。
また、もっと個人的なことを言えば私はできれば毎日赤ワインと白ワイン両方飲みたいなんなら泡も飲みたい派。ところが1日あたりの酒量は多くないため、2本3本開けると数日かけても若干持て余し気味になる。なので、白もしくは赤のボトルを開け、250ml入りのONE WINEの赤もしくは白を開ける、というのはほぼベストなソリューションとなるのだ。
ONE WINEはどんなワインか
さて、ではONE WINEはどんなワインなのだろうか。生産者はボジョレー・ヌーヴォーでお馴染みのジョルジュ・デュブッフ。品種はメルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネの4種類が用意され、すべてそれぞれの品種を100%使用。
産地はラングドック・ルーションで格付けはIGP ペイ・ドックとなっている。
お題目がどうであれ、最終的にはおいしいかおいしくないか。4本セットを買って飲んでみることにした。
ONE WINE4種類を飲んでみた
でもって結論を言うとこれがなかなか全然悪くなかった。250ml入り1本550円税込なので、750mlのボトルに換算すると1本1650円。飲んだ感想も「1本1650円の南仏のワインだなあ」という感じの普通においしい安うまワインだった。ものすごくうまい! 驚き! とかではないがこんなんでいいんだよ感がすごくある。
ちなみに、4品種を私の好みの順に並べるならばこうだ。
ソーヴィニヨン・ブラン<メルロー≦ピノ・ノワール<<シャルドネ
ソーヴィニヨン・ブランは酸味が強めで果実味があまり感じられず、香りも弱く感じた一方、シャルドネはふくよかで果実味たっぷりぽよんぽよんのぽっちゃり系で大変おいしかったのだった。赤2品種もいずれも無難においしかった。
250mlという量は少ないようで意外としっかりとあり、なんなら1日これ1本でも私は割と満足できると思う量。価格の550円はやや高く感じるが、店頭に並ばずネット販売のみという数量を考えれば仕方ないのかもしれない。
これがボトル換算約1000円の1本350円、あるいは300円を切るくらいになったら、あるいは地殻変動が起きないこともないよう気がしなくもないのだが。缶に入った飲み物に500円以上を払う、真に解決すべきはその心理的ハードルであるような気がしなくもないのだった。