ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

チリの伝統品種「パイス」はいつどこからやってきたのか? 調べてみた!

パイスについて知っていること

歩いていたら喉が乾いたのでヴィノスやまざきの新カウンターに座った。スパークリングワインで喉を潤そうという魂胆だ。私の喉はスパークリングワインで潤すためにある。

シャンパーニュが飲みたいものだと思ったが、この日開いていたのはチリ産の「パイス」のスパークリングワインだった。こりゃ珍しいと注文してはたと思った、私はパイスについてほぼなにも知らない。

飲んだのはプンティ・フェレール「スパークリング・パイス」

というわけでパイスについて調べてみようというのが本稿の趣旨である。

さて、パイスに関して私が知っていることは以下だ。
・黒ブドウ品種
・チリの土着品種
ガチでこれくらい。

 

パイスとコンキスタドール

いつどこからやってきたどんなブドウか調べてみると、パイスは16世紀にスペインのコンキスタドールが持ち込んだとwikipediaに書いてある。

コンキスタドールの図(画像はwikipediaより)

16世紀以前、チリ北部はインカ帝国が支配し、南部は先住民のマプチェ族が支配していた。その状況が変わるのは1492年のコロンブスの新大陸到達以降。

1532年、インカ帝国皇帝がスペイン人征服者フランシスコ・ピサロに処刑されると、1539年ピサロの命を受けたペドロ・デ・バルディビアがインカ帝国の旧支配地域を征服。

南部もあっさり支配されるのかと思いきやさにあらずなのが歴史の面白いところで、マプチェ族の英雄・ラウタロが征服者バルディビアを破って捕虜とし、拷問の末処刑するなど激しく抵抗。ラウタロ強すぎ。

ペドロ・デ・バルディビア(左)とラウタロ(右)。ラウタロかっこいい

マプチェ族の不屈の闘志により、スペインとの戦争、アラウコ戦争はなんと以降300年間以上にわたり続くこととなる。実に1536年から1883年まで続いたというから豊臣秀吉が生まれたくらいから岩倉具視が死ぬくらいまで。その間徳川幕府が開闢し大政奉還しちゃってますね……。

両者の境界線となったのがビオビオ川。と、ここでワインの話につながるわけなんですよ。ビオビオヴァレーはチリ南部の名産地であり、パイスの一大産地。そして、パイスをペルーから持ち込んだのがスペイン人征服者だったというわけだ。銃・病原菌・パイス状態。

その後パイスは宣教師によってアメリカ大陸全土に広がっていく。ミサでワインを使うから、キリスト教あるところにワインあり。キリスト教とワインと植民地の関係についてはいずれしっかり調べたい。

 

パイスはどんな品種か

ちなみに、なんでペルーからやってきたんだ? となるわけだがペルーのリマは当時南米のほぼ全域を支配していたペルー副王領の首都だったのだそうで、(ペルーには豊かな鉱物資源があった)いわば南米の中心地。

そして当時のチリはペルー向けの小麦の生産が主産業だったのだそうで、それが「地道で手間のかかる農業を厭わない堅実な気質を育」んだとwikipediaの「チリの歴史」のページにはある。そうして農業の伝統が生まれたことが、のちのワイン造りにも関わっているに違いない。歴史〜。

himawine.hatenablog.com

その後なんやかんやあって19世紀、ドン・シルベスタ・エラスリズがボルドーからメルローカベルネ・ソーヴィニヨンをチリに持ち込むまで、パイスはずっとチリの代表的ブドウ品種だったのだ。ちなみに世紀が21世紀に変わる頃にカベルネ・ソーヴィニヨンに抜かれるまで、パイスは栽培面積がもっとも多い品種だった。

パイスの品種としての特徴は栽培しやすさ&高収量。品質の高いワインは収量を抑えて凝縮感を高めないと作れない、というわけでその真逆であるパイスは安ワインの材料と見なされているみたいなのが現状のようだ。がんばれパイス。

 

パイスのスパークリングを飲んでみた

といったところで話は喉が乾いて駆け込んだヴィノスやまざきの試飲カウンターに戻る。のだが私の目の前にはチリの生産者プンティ・フェレールの「スパークリング・パイス」が置かれている。樹齢100年を超える古樹パイスも一部使われているというワインだ。

ほんとは白泡らしいのだが「このロット」はピンクがかってるのだとか。グリ感のある色。

黒ぶどうの果皮の色が強めに出たとのことで、白ながら色はロゼっぽい。楽天での売価は1738円と高いワインではないが、飲んでみるとすごくフレッシュな、さくらんぼみたいな甘酸っぱみがあってこれはもう全然アリ。

大航海時代のヨーロッパは小氷期と呼ばれ、今より気温が低かった。そう考えるとパイスって案外冷涼品種だったりするんですかね。ビオビオヴァレーはチリの中では冷涼な産地のはずだし(このワインはマウレ・ヴァレー産)。アルコール度数が低めで酸が必要なスパークリングを造るには意外といいんじゃのかパイス。いいぞパイス。

というわけで、飲む機会はあまり多くなさそうだが、パイスのスパークリングワイン、また飲んでみたいものである。ビオビオ川を挟んでスペインのコンキスタドールに対し不屈の闘志で戦ったマプチェ族に想いをはせつつ。