外でワインを飲むのがおいしい季節になってきた
2月とは思えない天気の良いある日、友人たちを誘って近所の公園へピクニックに出かけた。わざわざ来てもらうのでワインは私が用意。3本のワインを開けたのだがそれがどれも大当たりという小さめの奇跡が起きたので記録しておきたい。
アラン・ルナンダ・ファッシュ「ビュジェ・セルドン・メトード・アンセストラル」
まず1本目は、公園にレジャーシートを敷いてテイクアウトのピザと一緒に開けたアラン・ルナンダ・ファッシュの「ビュジェ・セルドン・メトード・アンセストラル」。購入価格は約3000円。
以前試飲会で飲み、その際にサクッと調べてまとめているのだが、ピジェ・セルドンとはガメイとプールサールでつくるサヴォア地方の伝統的なロゼ泡。メトード・アンセストラルは二次発酵を行わず、アルコール発酵時に発生するガスをそのまま利用する方式だ。「田舎方式」とか言われるやつで、ペティアン(ペット・ナット)とかは大抵この作り方とのこと。そしてこの造り手はビュジェ・セルドンだけを造る人物なんだそうだ。渋いぜ。ワインは甘いけど。
アルコール度数は8%、残糖40g/ml。ガス圧弱め。「すあま」とかいちご大福(あんこ抜き)とかを思わせる和菓子系のやさしい甘味が特徴的で、甘いだけじゃなくてすっぱみもあるから料理にも合う。
少しだけ暖かい2月の終わりの公園で、友人とおしゃべりしながら乾杯するためのワインとして適材適所の感があった。これはいい先発投手。
アルザスのうますぎ白。マルセル・ダイス「アルザス コンプランタシオン」
続いて、ピクニックからヒマワイン宅へと河岸を変えての1本目はマルセル・ダイスのアルザスコンプランタシオンをチョイスした。購入価格は3344円。
以前、恵比寿のワインマーケットパーティでそのフラッグシップ、アルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュを飲み、そのあまりのおいしさに即身仏になりかけた生産者のスタンダードライン的なワイン。twitterで尊敬する方に教えていただいて即購入した1本だ。
そしてこれがですね奥様、やべえやつだったんですよホント。3000円台前半とは思われぬ爆発力だった。このワインはアルザスで認められた13種類の品種の混植・混醸(コンプランタシオン)で造られるというワイン。っていうとなんかこう、オレンジっぽい見た目の濁った感じのワインかな? と思ったりするわけなのだがグラスに注いでみると極めて美しい薄ゴールド。
で、飲んでみると味わいはいよかんみたいなジャパニーズ柑橘系のじんわりとした旨み。私は和柑橘のなかではデコポンをギリギリ抑えていよかんがいちばん好きで、いよかんは剥くのが手間なのだけが難点だが、ただグラスに注ぐだけでそのもっとも美しいエッセンスを味わうことができた。原料は13種類のブドウなのに。
このワイン、友人の一人がだまってワインのボトルをつかみ、ラベルの写真を撮影していた。友だちがおいしいと思ってくれることがワイン好きとしてはなによりハッピーだ。これは良かった。
3本のワインをつなぐ中継ぎ投手としては実力がありすぎる、ソフトバンクホークスの中継ぎ陣みたいな1本。えっ、このレベルの投手が同点の6回に投げんの!? みたいな。
スペインのキレイな赤、アルバロ・パラシオス「カミンス デル プリオラート2018」
日も暮れかける頃、友人が持ち込んでくれたファルネーゼのノヴェッロ2020を挟み(これもすごくおいしかった!)、最後に抜栓したのがアルバロ・パラシオスのカミンス デル プリオラート2018。
これは、先月別のスペインワインを飲んだ際にtwitterに「おいしいスペインワインを教えてください」と書き込んだところ教えていただいたワイン。皆様の善意で「ヒマだしワインのむ。」は運営されております。
ちなみに購入価格は3124円。この記事を書いて思ったが、はからずも3本ともほぼ同じ価格帯のワインだった。3000円を超えるとワインはまたひとつ上のステージにいくことがよくわかった。
アルバロ・パラシオスはシャトー・ペトリュスやスタッグスリープで修行したあとスペインはプリオラートでワイナリーを開業、英誌デキャンターのマン・オブ・ザ・イヤー2015に過去最年少で選ばれたという人物だ。
その早飲みタイプのワインであるカミンス デル プリオラートはガルナッチャ、カリニャン、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロなどをブレンド、40日間の醸しの後、8カ月間少しずつ樽を回転させて澱に長く触れさせて造ったというワイン。
渋みと果実味が二人三脚してる感じの「ぼくのかんがえるおいしいボルドーブレンド」的な味わいで、普段ワインを飲まない、というか普段お酒自体を飲まない友人が「これ、ワインが好きな人が好きなワインの味だね」と評価した一方、普段はバイスサワーとかハイボールをメインで飲む大衆居酒屋好きの友人(酒飲み)は「これはうまいわ」と独りごちでいた。ワインに限らず普段からアルコールに親しんでいる人ほど楽しめるお酒なのかもしれない。
渋みと酸味、果実味のバランスのなかにスパイシーさもあって、生ハム、豚リエット、牛厚切り肉のステーキなどと合わせて実においしかったのだった。とてもキレイで、なめらかなワインだった。うっとり。
これを飲んで改めて思ったが、スペインワインって価格に対して味わいが良く、それでいて問答無用の旧世界なのでクラシカルな良さも併せ持っていてひょっとしてコスパ的には世界最強なんじゃ? みたいになってます今更ですが最近。個人的には南アフリカと並んで味と価格がもっともバランスしているのがスペインワインな気がしています。
このワインも見事な味で、試合(飲み会)を締めるクローザーの役割を見事に果たしてくれた。ストレートの球速は150キロに満たないけどなんだか抑えるベテラン投手的な味わい。プロ野球はもうすぐオープン戦の季節です。
というわけでどのワインも大変おいしかったのだった。ごく少人数&換気環境で20時解散という健全過ぎる会だったが、おいしいワインを少しずつ、料理と会話とともに楽しむのはやっぱり最高だなあと思った次第。ワインしか出ない家での飲み会に付き合ってくれた友人たちに感謝である。