御徒町1軒目:羊香味坊
御徒町で飲む、という機会があった。御徒町といえば海鮮が安くて充実していることで有名なスーパー・吉池。学生時代は吉池でハマグリ、アナゴ、サンマなどを買って友人宅に行き、七輪で炙りながらビール飲んでたなあ学生になりたい。
さて、そんな懐かしの御徒町で飲もうと思ったのは行ってみたいお店がふたつあったからだ。ひとつめが一軒目にお邪魔した羊香味坊。春に訪問した羊料理が名物の町中華の名店・味坊のさらに羊に特化した店舗だ。
駅からは徒歩2、3分だろうか。羊香の名に恥じず、店内はガチで羊の香りが充満している。中国の西のほうで嗅いだことあるな、この匂い。
季節は夏、時刻は夕方5時、のどはカラカラということで選ぶは泡一択だ。味坊は冷蔵庫にパンパンに詰め込まれた自然派ワインを勝手に引っ張り出し、店員さんに抜栓してもらうというスタイル。この日冷蔵構内に泡は一種類だったので、迷うことなくその1本をオーダーすることにした。
ヴァンサン・リカール「ムスー」
選んだのはフランス・ロワールはトゥーレーヌの自然派生産者、ヴァンサン・リカールの「ムスー」(泡)というそのまんますぎる名前のワイン。ビールでいえば「一番搾り」「スーパードライ」「ザ・プレミアム・モルツ」と並んで「ビール」っていう商品が置いてある感じでなんとも潔くていい。
品種はソーヴィニヨン・ブラン。農薬や化学肥料は用いずにブドウを育て、自然酵母で発酵、酸化防止剤は最低限だそうで、フィルターもかけてないのか味坊名物のグラスっていうかコップに注いでみるとちょっと濁りがある。
プチプチした泡にソーヴィニヨン・ブランらしいさわやかな香りに果実味もたっぷり。旨みのドラもしっかり乗ってかなり良い。パクチーがたっぷり入った押し豆腐のサラダと合わせるとパクチーの香りをさらに鮮烈にしてくれ、羊串と合わせるとクミンの香りをブーストしてくれてなんつーかこう、キレイ系とカワイイ系両方得意な凄腕メイクさんみたいな芸能人受けの良さ、じゃなくてフードフレンドリー具合だった。そしてボトルの底のほうは濁りが濃くなり、それに応じて旨みも増した気がした。
ひとつ解(げ)せないのは、このワイン調べると希望小売価格2970円って書いてあるわけなんですよ。なのに羊香味坊での売価は3850円。これおかしくないすか超ありがたいけど。
御徒町2軒目: ポポロマーマバル御徒町店
これを2人で1本飲み干して、サクッと1軒目終了。続いて向かったのは、ポポロマーマバル御徒町店だ。ポポラマーマが存在しない生活圏でこれまでの人生を過ごしてきたので知らなかったのだが、パスタが主役のファミレス的お店なんだそうで国内なんと114店舗もあるそうだ。この御徒町店はそのバル形態で、「ワインの品揃えがヤバい」というお噂をかねがね聞いており、ぜひ行ってみたいと思っていたのだった。
ポポロマーマ・バル御徒町店は駅を出てすぐのビルの2階。店内はシックな雰囲気で、ファミレスみを残しつつ大人が飲めるみたいな雰囲気もある。実際、ベビーカーと一緒に来店しているファミリーもいれば、男女でガチ飲みしてる人もいた。
まずはメニューを眺めてみると、「特選グラスワイン」なるものが3種用意されている。まず白はファネッティ ビアンコ ベッティ2012。これは後から調べたことなのだが、セメントタンクで10年熟成され、2022年に瓶詰めされていたというイタリア・トスカーナはモンテプルチアーノの生産者が造るワイン。いや後から考えるとこれも気になるなかなり。
ヤウマ「ティッカ ザ コズミック キャット」
ただちょっと驚いたのは赤で、オーストラリアの有名自然派生産者・ヤウマのワインがグラスで飲める。バル形態とはいえ元はファミレスだっつってんのに。「お冷やはセルフサービスでお願いします」とかっていう空気感(もちろんなんの問題もないけど)のなかでグラスワインがヤウマっていう世界の歪み感が楽しい。もうひとつのグラスワイン、これまた有名生産者・フォンタナフレッダのバローロなわけなんですよどうなってんだいいぞもっとやれ。
ワインバーとかだったら別に驚いたりはしないけど、向かいのテーブルではベビーカーに乗った赤ちゃんがバブバブいってる環境でこれはすごい。バグニティ(バグりの度合い)が高い。
私はヤウマ ティッカを注文。なんかラベルの感じ変わった? と思って調べたらなんでも2015年に生産者が離婚したそうで、奥様がアートワークを担当したワインはすべて生産終了となったんだそうだ。諸行は無常です。
このワイン、正式には「ティッカ ザ コズミック キャット」っていう最高すぎる名前らしいのだが、シラーズ85%とグルナッシュ15%で造られたド紫の液体で、飲むとズガンと濃くてジューシー。甘酸っぱくて渋みもあって、毛皮みたいな香りもあるいかにもという味わいでおいしい。
VT違い↓
コルトラーダ「rouge3」
さて、もう1本飲もうということで冷蔵庫を表敬訪問すると、自然派ワインに日本ワインが本当に充実している。なかなか見かけないドメーヌ・ポンコツやラ・グランドコリーヌ、よくみるとルーシー・マルゴーまであるな。高まるな。
同伴者がソムリエの方に相談してんでもらったのが、岡山の生産者・コルトラーダの「rouge3 2017」というワイン。恥ずかしながらコルトラーダという名前は存じ上げなかったのだが、イタリアを旅したことをきっかけに岡山県で2014年にワイン造りをスタート(2015年初リリース)した生産者なのだそうだ。
岡山といえば有名生産者ラ・グランドコリーヌの名前が思い浮かぶけど「rouge3」というワインはそのラ・グランドコリーヌで委託醸造されたワインなんだそう。品種はメルロー。
さてこのワインは樹齢4年と若い自園ブドウを使ったワインだそうで、野生酵母で発酵、「ブドウ以外なにも入れず」樽で2年半熟成させて2020年に瓶詰めしたというワイン。
味わいは不思議と前に飲んだヤウマに似ていて、アルコール度数は12%なのだがブラインドで出されたら少なくとも日本の岡山のワインとは絶対に答えないくらい強靭な、パワフルといっていいと思うワインだった。果実味が豊かにあり、渋みと酸味となんていうんですかあれ。自然派ならではのムワンとした香りが調味料的に全体を引き締める。飲み進めると、温度の変化や空気に触れ具合の影響なのか味わいがグラスに注ぐたびに違って感じられるのも面白い。
恵比寿とか、西麻布とか、裏渋谷とかじゃない、ここは御徒町の駅前だ。私たちがいるのはワインバーでなく、気の利いたビストロとかでもなく、ファミレスチェーンのバル形態なのだ。こういうの大好きだ。
そんなこんなのポポラマーマバル、つまみもちょっとだけ頼んだけど普通においしく、会計は驚嘆すべき安さ。2軒続けて安いうまい楽しいの三拍子が揃って非常に満足度の高い御徒町ナイトだったのだった。この日はサシ飲みだったが、言わずもがな大人数で行ったらより楽しめるだろう。とくにポポラマーマバルはやべえので近々行きましょう、みなさん。
本編とは関係ないけどシャンパーニュは大幅値上げ間近。今のうちに買っておきましょう。