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プロセッコとは? イタリアを代表するスパークリングワイン徹底調査

イタリアにおけるプロセッコの存在感について

2022年の大みそか、私はイタリア・ローマの友人宅にいた。年を越した瞬間、花火があちこちから上がり、人々は家の外に出て家族や近所の人と新年を祝い合う。ワインが開けられ、みんなのグラスに注がれる。そのときに使われるお酒が、プロセッコだ。

「プロセッコなんだ」

と私は思った。高価なフランチャコルタやシャンパーニュではなくて、大衆的なプロセッコで新しい年を迎える。それがなんともイタリアらしいなと友人がマグナムボトルから注いでくれたプロセッコを飲みながらしみじみ思ったのだった。

実際、イタリアにおけるプロセッコの存在感は圧倒的だ。「食事の前にちょっと一杯」というときの選択肢としては、アペロールというリキュールから作られるアペロ・スプリッツなる飲み物、あるいはプロセッコがメインの選択肢となる。

アペロ・スプリッツ自体がアペロールをプロセッコとガス入りの水で割ったもの。なので、イタリアで“とりあえず”飲むものはプロセッコか、プロセッコが入った飲み物なのだ。

テレビで「プロセッコのCM」が流れまくるのも印象的だった。年末に日本でビールのCMが流れまくるように、イタリアではプロセッコのCMが流れまくる。プロセッコはイタリアを流れる血液のようなものなのかもしれない。

 

プロセッコのシェアとその成長

イタリアだけの話ではない。EFA(ヨーロピアン・フード・エージェンシー)のWEBメディア、EFA NEWSの「Prosecco beats champagne in EU exports」というそのものズバリなタイトルの記事によれば、2021年の欧州域外への輸出量はプロセッコが2億7300万リットル(シェア43%)で首位に立っている。2位はシャンパーニュで9400万リットル(シェア15%)、次いでカヴァ(6500万リットル、シェア10%)という並びになる。

プロセッコとカヴァという廉価泡に挟まれて高級泡ながら15%のシェアを占めるシャンパーニュもすさまじいが、プロセッコの43%というシェアはちょっと肌感覚を超えているのではないだろうか。EUから域外へと輸出されるスパークリングワインの半分近くはプロセッコなのだ。

そして、近年はスパークリングワインの市場が拡大を続けている。なかでも伸びているのが前述の通りにイタリアのスパークリングワインで、その牽引役となっているのが言わずもがな、プロセッコだ。

 

シャンパーニュとプロセッコはなにが違うのか?

私はシャンパーニュが大好きなので、味わいにおいてはもちろんシャンパーニュが好みだが、それでもプロセッコはプロセッコでとてもおいしいと思う。シャンパーニュは安くても3000円くらい。プロセッコは安ければ1000円でお釣りが来る。安くておいしい。つまりプロセッコは偉い。

この記事を書くために私はたくさんの資料を読むことになったのだが、ある記事にこんなひと言が書いてあったので引用したい。

プロセッコはシャンパーニュとは違う。泡はあるが、似ているのはそこだけだ。

これいい言葉。多くのスパークリングワインは王であるシャンパーニュを模倣してつくられる。しかし、プロセッコは違う。安くておいしいりんご味のスパークリングワイン、というのが私の定義だ。つまりおいしい(りんご味のものは大概うまい)。

シャンパンは四角い泡、プロセッコは丸い泡

偉大なシャンパーニュは非常に洗練された複雑な二次的アロマを持つが、プロセッコは強烈な一次的アロマを持つ

こんな言葉とも出会った。シャープさではなく丸み。複雑さではなく果実味。熟成がもたらす香りではなく、醸造がもたらす果実の芳香。それがプロセッコの魅力なのだろう。

というわけでこの記事では、そんな偉いプロセッコについてある程度網羅的に調べていきたいと思う。まずはプロセッコの歴史から見ていこう。

 

プロセッコの歴史

プロセッコとはなにかといえば、それは村の名前だ。現在はイタリア北東部トリエステ県にある小さな村は、13世紀半ば以降「プロセク」または「プロセカム」と呼ばれ、ブドウとワインの名産地としての評判を確立していく。

その地のワインは「プチーノ」と呼ばれ、皇帝・アウグストゥスの妻がその薬効を賞賛したことで「飲むと長生きできる」みたいな評価をされていた。21世紀を生きる我々はアルコールに基本薬効などないことを理解しているが、酒は百薬の長であると信じたいのは古今東西酒飲みみんなが考えることのようだ。わかる。

ともかくそのプロセッコ村で生まれローマに運ばれて皇帝の妻にも愛された「プチーノ」が、のちにプロセッコという名で呼ばれるワインの原型だ。

 

プロセッコの発祥の地と発展の地

さて、そんなわけでプロセッコはプロセッコ村が発祥の地なのだが、めちゃくちゃ面倒くさいことに現在の生産地はプロセッコ村から150キロくらい離れた場所にある。

プロセッコの醸造法、そしてプロセッコというブドウ品種はイタリアの東の果てであり長く他国の領土だったりもしたトリエステから、少しずつ西に進む感じで伝播していったようだ。プロセッコ村のプチーノは、やがてプロセッコと呼ばれるようになっていく。

そして、ヴェネト州トレヴィーゾ県のコネリアーノと隣接するベッルーノ県のヴァルドッビアーデネにまたがる丘、のちに世界遺産にも登録されるこの冷涼な土地が、1969年にDOCと認定されて以降、現代のプロセッコの本拠地となっている。

発祥の地(左)と現在の中心地(右)

そもそもプロセッコプロセッコと気軽に呼んでいるが正式名称はプロセッコ・ディ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネなのだ。ちなみに画家のパブロ・ピカソの本名はパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソだ。

レオナルド・ダ・ヴィンチがヴィンチ村のレオナルドであるように、プロセッコはコネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコなのだ。

ヴァルドッビアーデネのご様子(写真はwikipediaより)。いいとこだなあ

歴史的にはプロセッコ村が発祥だが、イタリアのプロセッコ公式サイトを見ると「物語はコネリアーノとヴァルドッビアーデネからはじまった……」みたいに書いてあってプロセッコ村が完全になかったことにされてるの諸行無常の響きがありすぎる。

 

プロセッコはどんなワインか

そして、原産地保護のなどの整備が進められていく過程で、「プロセッコという品種から造られたプロセッコという名前のワイン」は原産地名と品種名が同じで紛らわしいという理由から、2009年にプロセッコはグレラへ品種名を改め、「グレラという品種で造るプロセッコという名前のワイン」となって、今に至る。

 

さて、このあたりで「プロセッコとはなにか」を定義しておこう。どの記事にも書いてあることなのでさらりと済ませるが、それはフリウリ・ヴェネツィオ・ジュリア州とヴェネト州で造られ、85%以上がグレラ、15%以下がその他のブドウ(ビアンケッタ・トレビジアナ、シャルドネ、ペレラ、ピノ・ビアンコ、ピノ・グリージョ、ピノ・ネロを白く醸造したもの)が使われる。ロゼはグレラが85-90%、ピノ・ネロが10-15%と決められている。

また、シャンパーニュや同じイタリアのフランチャコルタとプロセッコは製法そのものが異なる。前者が瓶内二次発酵であるのに対し、プロセッコはステンレスタンク内で発酵を行うマルティノッティ方式(シャルマ方式のイタリアでの呼び名)。そのため、大量に早く低コストで生産することができるのだ。

 

プロセッコ6の階層:ヴァルドッビアーデネ・スペリオーレ・ディ・カルティッツェDOCG

さて、プロセッコは、実は6層の階層に分かれている。その頂点にあるのが、ヴァルドッビアーデネ・スペリオーレ・ディ・カルティッツェDOCG。107ヘクタールの畑から採れるブドウだけで造られるのだそうだ。

プロセッコのグランクリュとも言われるこれらの畑は近年価格が高騰しており、イタリアでもっとも高額な畑とも言われているのだそうで、さらにはただのプロセッコとは違うという矜持から「プロセッコ」と記載しないケースもあるのだそうだ。にも関わらず調べてみたら、プロセッコのトップ・オブ・トップは2023年現在3000円台で買えるのすごい。

 

コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレ・リヴDOCG

その下にあるのがコネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレ・リヴDOCG。リヴは「斜面」みたいな意味なのだそうで、当該地域の特定の斜面の畑から採れたブドウで造るワインを指すそうだ。

 

コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG

そのさらに下にあるのがコネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG。ここまでが、プロセッコの本拠地で造られるワインということになる。

イタリアのワインショップには「ピエモンテ」「トスカーナ」なんかと並んで「ヴァルドッビアーデネ」がありました。

裏付けなしで雑なこというとブルゴーニュでいうコート・ドールみたいなもんですかねこれイメージ的には。ブルゴーニュワインはかなり広い地域にまたがるけれどもやっぱりコート・ドールのワインは特別だよね、みたいな意味で。

ちなみにスイ・リエヴィティDOCGというのもあるのだそうで、リエヴィティ=酵母のことで、つまりこれはシュール・リーを行うスタイルを保護する名称のようだ。

プロセッコに特徴的なリンゴ的な香りが抑えめで、パン的なイースト香がするそうで、つまりシャンパーニュ的なのかな。これは確定的に述べてる文献がないのでなんともだけど、このスタイルに関しては瓶内発酵をおこなっているみたい(一次発酵か二次発酵かは不明)。プロセッコにも多様なスタイルがあるんだなあ。

 

アソロ・プロセッコDOCG

さて、コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCGの下というかおそらくは並列に存在するのがアソロ・プロセッコDOCGがある。

ちなみにプロセッコには微発泡のフリッツァンテ、スティルのトランキーロというスタイルもある。泡が出ないプロセッコもあるのだ。

トランキーロも売ってた! プロセッコワイン会したいなー!

プロセッコDOCトレヴィーゾ、プロセッコDOCトリエステ、DOCプロセッコ

また、トレヴィーゾ県内、トリエステ県内で収穫、ワイン醸造、瓶詰めのすべて行われる場合、プロセッコDOCトレヴィーゾとプロセッコDOCトリエステを名乗れる。発祥の地・トリエステはこんな感じで保護されてるわけですね。そして、これらの下にはフリウリ・ヴェネツィオ・ジュリア州とヴェネト州で造られる広域名のDOCプロセッコがあるというわけだ。

 

プロセッコ スペリオーレはおいしいのか?

いやーすっきりした。歴史に産地と品種、醸造方法など知りたかったことがだいたい調べられた気がする。すっきり。

あらかた調べ物も終わったし、というわけで、イタリアを旅した際に買ってきたプロセッコ スペリオーレDOCGのワインを飲んでみたのだが、これがやっぱり非常においしかった。

ducca di dolleの「エクスペリエンス」というワイン。大変おいしかったです。

グレープフルーツに砂糖をかけたような香り、味わいはレモンのような酸味がありながらふくよかさもあって、あまり甘くないハチミツとあまりすっぱくないレモンでつくったハチミツレモンをとてもおいしい水で割って発泡させました、みたいな味がする。とてもキレイ。

現地価格が18.9ユーロだったので、日本円換算2500〜3000円くらいだろうか。やっぱり、普段飲んでるおそらく現地価格5ユーロいかないくらいのDOCプロセッコとは一味違う。

プロセッコの魅力は華やかな香り、そして味わいにおいては甘味と酸味のバランスにあると思う。

 

プロセッコの糖度について

プロセッコは残糖度によってブリュット、エクストラドライ、ドライブリュットに分類される。以下のような感じだ。

0-3g/L ブリュットナチュール

0-6g/L エクストラブリュット

〜12g/L ブリュット

12〜17g/L エクストラドライ

17〜32g/L ドライ

32〜50g/L ドゥミセック
 

ブリュットの規定はシャンパーニュと同じMAX12g/L。なのだが、プロセッコは同じブリュットでも残糖が多めに残っているケースが多いのだそうだ。

なぜか。それはやはりグレラという品種に答えがあって、どうやらこの品種、糖度が25%くらいと、シャンパーニュ地方のブドウより5%くらい高いみたいなのだ。

詳しいことはわからないが異なる糖度のものを同じアルコール度数に合わせようと思ったら(スパークリングワインはたいてい11〜12.5%くらいですよね。ちなみにDOC/DOCGの規定で最低のアルコール度数は10.5~11.5%と決まっているそうだ)、元の糖度の高いブドウのほうが残糖が多くなるのは必然だろう。そんなわけで、12g/Lのブリュットの規定ギリまで残糖が残ってるケースが多いみたいだ。

それだけ糖度が高いのに、酸も残るのがグレラの特徴。そして、その特徴を活かせるのがヴェルドッビアーデネでありコネリアーノなのだ。

プロセッコはシャンパーニュとは違う。泡はあるが、似ているのはそこだけだ。

やはりこれに尽きるのだろう。

 

プロセッコの未来はどっちだ!?

というわけで、日本ではプロセッコは全然まったく盛り上がっていない感があるが、安くておいしくてほかのスパークリングワインと異なる味がするプロセッコが私は好きだ。

引き続き、ちびちびゴクゴク飲んでいきたいと思う。私からは以上です。

 

<参考サイト>※一部
https://en.wikipedia.org/wiki/Prosecco
https://en.wikipedia.org/wiki/Glera_(grape)
https://italianwinecentral.com/
https://proseccodoc.jp/
https://www.prosecco.it/
https://www.prosecco.wine/en