ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

リシャール・マニエール エシェゾー2018。「DRCに挟まれた区画」を調べてみた

リシャール・マニエール エシェゾー2018の衝撃

先日参加した「シャンパーニュってなんだ? 会」で参加者のおひとり・TKさんが持ち込まれたリシャール・マニエールのエシェゾーを飲んでちょっと心底ビックリした話は以前書いた。グランクリュっつーのはすごいわ。

himawine.hatenablog.com

それから数日が経ってもその衝撃の余韻が消えない。私が飲んだワインはいったいなんだったのか? それを考えるべく、いろいろ調べたことをまとめてみたのでおヒマな方はご覧になってください。

ちなみに私はブルゴーニュワインの知識・経験がほとんどないため、以下に記す内容にもトンチンカンなところが多々あるかと思うが詳しい方におかれましては広域AOCのような広い心で読んでいただけたら幸甚だ。それでは行ってみよう。

 

リシャール・マニエールはどんな生産者か

さて、リシャール・マニエールだ。公式サイトはどうやらない。ないのだが、調べるとヴォーヌ・ロマネ村の公式サイトに名前を見つけることができた。そこにはこんな内容が記されている。

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このワインについて調べてみました。

・敷地はヴォーヌ・ロマネ中心部に10ヘクタール
・現オーナー(リシャール)は5代目
・畑はニュイ・サン・ジョルジュからフィクサンまで広がる
・100%手摘み収穫、伝統的な醸造、オーク樽熟成。瓶詰めも自ら行う

うーん、なるほどざっくりっスね。というわけで輸入元のフィラディスの資料にあたった。するとこんなことがわかった。

・創業は1795年
・先代はマニエール・ノワロ名義でワインを手がけており、パーカー4ツ星評価
・ノワロは母方家系でその一族はヴォーヌ・ロマネ最大の土地所有者のひとり

少し資料の先のほうを紹介すると、こんな有力な造り手でありながら「無名の存在」だったのは、造ったワインの大半をネゴシアンにバルク売りしていて、ドメーヌ名で世に出すワインの絶対数が少なかったから。

himawine.hatenablog.com

しかし、そのクオリティに感銘を受けたワイン商がリシャールを説得。元詰め本数が増えてきた……のだがそのクオリティから現地でも人気で9割がフランス国内で消費。なので国内では幻みたいになってたみたい。へー。

以下、こんなこともわかった。

・畑は減農薬で、同村の醸造家が「畑ではなく庭園」と評する整備具合
・収穫後、マセラシオンを経てステンレスタンク発酵、樽熟成(エシェゾーは新樽率100%で18カ月熟成)

伝統を重んじる生粋のヴィニュロン気質。そんなドメーヌが所有する最良の畑がエシェゾーということのようだ。興奮してきたな。

 

リシャール・マニエールのエシェゾーとDRC

でもって、ここが最大のポイントだと思うのだが、エシェゾーに関してはこんな注釈が入る。

「所有区画はエシェゾーのリューディのひとつ、レ・プーライエールのど真ん中にあり、DRCの所有区画に挟まれているため、長年同社から区画の交換の申し入れがあるという恵まれたロケーションを誇る」

エシェゾーの、より面積の広い別区画との交換を打診されてるそうなんだけど、この区画が良いのじゃと応じるつもりはないのだそうだ。こんな一文を読んでしまったら気にならずにはいられない。その挟まれっぷりはどんな具合か、見にいくしかないでしょう! というわけで行ってみよう、翔んでヴォーヌ・ロマネだ(Googleマップで)。

 

リシャール・マニエール エシェゾーの区画を探して

まずはヴォーヌ・ロマネの村から見ていこう。リシャール・マニエール、ガチで中心部だな。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティとはスープの冷めない距離とはまさにこのことという近さ。

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リシャール・マニエールとDRC、めちゃくちゃご近所。(画像はGoogleマップのキャプチャ、以下同)

さて、この地図は「北が右」になっている(理由は後述)。目指すエシェゾーの畑へ、Googleマップで北(下画像右)へ向かおう。

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ヴォーヌ・ロマネからエシェゾーまでは1キロちょっとっぽいですね。

ヴォーヌ・ロマネの中心部から北北西に1キロちょっと行った、特級畑グラン・エシェゾーの画面上の上側にあるのが特級畑エシェゾーの「レ・プーライエール」という区画(左上部分はトラヴェルサンという区画になるそうだ)。この区画のどこが「DRCに挟まれた区画」なのだろうか?

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赤線で囲ったのがエシェゾー。

参照したのはファインズのサイトにある、エシェゾーのレ・プーライエールにおけるDRCの所有畑の地図(この地図が『北が右』になってるんです)。それを模式化すると、下記のようになる。

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赤がDRC所有畑。うーん、挟まれてる区画がありますね。この模式図を現実の地図と比較して見てみよう。こんな感じになる。

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現実のほうでもうっすら色違いますね、概念図では水色で示した「挟まれてる」ところ。証拠はないけどここで決まりでしょコレもう。

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ここじゃないかな〜。

この区画が左右の区画とどう違うのか、最後にグラウンドレベルで見てみよう。こんな感じだ。

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これは違うわ。 栽培のことはさっぱりわからないが、この「挟まれてる区画」、「左右の区画」とは明らかに違うロジックで管理されている印象を受ける。断言はできないが、ファインズの資料から「左右の区画」はDRC所有で間違いないと思うので、「挟まれてる区画」がリシャール・マニエールの畑であることの蓋然性は高いと思う。真偽は定かじゃないけど。(ご存知の方がいたら教えてください)

【追記】記事公開後Twitterでリシャール・マニエールが所有するのはもう少し北側の区画ではないかというご指摘を資料とともにいただいた。こちらが正解の可能性も十分にあると思うので、「両論併記」しておきます! いつの日か現地で答え合わせしたい。。

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先程の区画より北側の区画。こちらも「挟まれてる感」すごい!

 

私が飲ませていただいたワインは、(たぶん)この畑で採れたブドウをヴォーヌ・ロマネの中心部にあるドメーヌに運び、そこで醸したり発酵させたり熟成させて造られたのだ。そして瓶詰めされ、日本に運ばれ、TKさんの所有となり、あの日デゴルジュマンへとやってきた。ロマンだなぁ。ロマンしか存在しない世界だな。

ロマンしか

存在しない

世界だな

ーーヒマワイン

と思わず一句出るレベルなのだが、今私の目の前にリシャール・マニエールのエシェゾーのボトルがあるわけではないのでこの記事はこれにて終了。なんかこう、気になる異性(同性)の情報をネット上で調べ上げるような行為だった気がしなくもないが、あの日飲んで感動したワインがどんなワインだったのか、その背景の解像度は大幅に高まり、長く記憶に留めることができるようになった気がする。

またいつの日かリシャール・マニエールのワインが飲めるだろうか。DRCは無理でも、他の生産者のエシェゾーも飲んでみたい。来るか来ないかは定かではないが、そんな未来を楽しみに待ちたい貯金しよ

2021↓