渋谷ワイナリー東京で試飲会に参加した
渋谷ワイナリー東京で開催された渋谷ワイナリー東京と深川ワイナリー東京の合同試飲会に参加してきた。渋谷ワイナリー東京は、東京・渋谷の商業施設MIYASHITA PARKI内にある都市型ワイナリーでありレストランでもあるという場所だ。
飲んだのは渋谷ワイナリー東京のワイン5種類と、深川ワイナリー東京のワイン9種類の計14種類+α。インポーターが主催する試飲会には、いつの間にか家のなかにいる妖怪・ぬらりひょんかの如くにド素人の身で幾度か参加させてもらっているが、生産者の試飲会に参加するのははじめて(ちなみに取引先以外の参加費は1000円)。本稿では最初に飲んだ渋谷ワイナリーの5種類について書きたいと思う。
渋谷ワイナリー東京で飲んだ5種類のワイン
さてこの日飲んだのは以下。
P015
品種:ピノ・ノワール
産地:ニュージーランド ホークスベイ
収穫年:2019
アルコール度数:13%
価格:3300円
R019
品種:リースリング
産地:オーストラリア 南オーストラリア州
収穫年:2022
アルコール度数:11%
価格:2640円
CM020
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロー50%
産地:オーストラリア 南オーストラリア州
収穫年:2022
アルコール度数:13%
価格:2640円
K021
品種:甲州
産地:山梨県山梨市
収穫年:2022
アルコール度数:10%
価格:3300円
M022
品種:メルロー
産地:長野県安曇野市
収穫年:2022
アルコール度数:11%
価格:3300円
北は長野から、南は南オーストラリア州までというここでしか見られないラインナップがなんとも個性的だ。渋谷ワイナリー東京は自社畑を持たない都市型ワイナリーであり、ワインはすべて買いブドウから造るフランス風に言うところのネゴシアン的業態。
そのため、様々な場所からブドウを調達し、それをワインに仕立てているのが特徴で、訪れるたびに違うワインが飲めるのが面白い。
渋谷ワイナリー東京で飲んだワイン1:「R019」
さて、まず飲んだのはオーストラリアのリースリング。名称は「R019」で、Rはリースリングの頭文字。019は渋谷ワイナリー東京で造った19番目のワインであることを意味する。そして面白いのはラベルだ。なんていうか、思いっきりオーストラリア大陸ですね…!
なんでもこのワインは酒税法の関係で原料がオーストラリア産であることを謳えず、ならばラベルでオーストラリアを(直球で)表現したらどうか……と確認したら大丈夫だったんだとか。その発想なかった。
ちなみに「渋谷」「東京」という土地を表す言葉もラベルには書けないため、「S WINERY T」というH JUNGLE with T感のある表記となっている(なにを言っているかわからない方はその辺にいるアラフォーに聞いてください)。
このあたりいろいろ大変だなあと思うわけだが、このような規則あらばこそ原産地呼称は守られるのだろう。あとこういう裏話大好き。
飲んでみるとかなりしっかり酸があり、レモン味のスポーツドリンク的な旨味があって好みの味。とはいえ昨年仕込んで6か月ほどタンクに入れてレストランでも出していたものを先週濾過して瓶詰めしたばかりとあって、「まだちょっと荒々しい」状態なのだそうだ。
この日は醸造長の村上さん、ソムリエの宮田貴子さんに解説してもらいながら試飲させてもらったのだが、やはりステンレスタンクのなかでワインは日々変化していくのだそうだ。
「醸造から1年経ってからの3か月の変化はそう大きくないが、醸造この3か月の変化はすごく大きい」とのことで、発酵が終わってからの1年間くらいは日々状態が変わり続けていくという。
普通の醸造所であれば、その状態を日々モニタし、飲み頃と判断されたタイミングで瓶詰め・出荷となるのだろうが、ここ渋谷ワイナリー東京はタンクの中のワインをその場で飲めるのがウリ。それが面白い点であり、常連の方はタンク内のワインの時間経過による変化を楽しみに来店されるのだそうだ。いいなそれ。
楽しい反面「ソムリエとしては困るんですけどね(笑)」という宮田ソムリエの言葉も印象的だった。
日々変化するワイン、それに合わせて宮田さんは客への提案を変え、シェフの方は料理の味付けも工夫するというから面白い。主客一体となってのインプロヴィゼーション的な楽しみが渋谷ワイナリー東京の正しい楽しみ方なのかもしれない。
渋谷ワイナリー東京で飲んだワイン2:「K021」
さて、続いては甲州の「K021」を飲んだ。山梨の白百合醸造から分けてもらっているというブドウを使っているというこのワイン、昨年も同じものを醸造し、今年はさらに色を濃く出そうと収穫を少し遅らせたところ、オレンジを通り越してロゼっぽくなったのだそうだが、私はこのワインが5種のなかで一番好きだった。
色はオレンジピンクだが味わいはスッキリ。すっぱすぎず、とろとろしすぎない、ちょうどいい甲州という印象だ。
教えてもらった果汁糖度に対してアルコール度数が高めに出ていると感じたので質問してみたところ、このワインは多少の補糖を行うことでアルコール度数を10%まで高めているとのこと。
村上醸造長はもともとワイン愛好家。愛好家時代は「補糖なんて!」と思っていたそうだが、醸造の現場で補糖を行うことでワインがおいしくなる、さらには香りも豊かになることがわかって補糖のイメージが大きく変わったという。
私は前世は原生生物だったんじゃないかと思われるほど単純な人間なので、こういったお話を聞いただけで「オッケーわかった! 補糖、どんどんやっちゃってください!」みたいになる。シャンパーニュだって補糖してるじゃないですか! ドン(テーブルを叩く音)!
法律の許す範囲のなかで、おいしくなる工夫をやったりやらなかったりしていただけたら幸甚だというのが私の立場だ。
渋谷ワイナリー東京で飲んだワイン3:「M022」
とはいえ次に飲んだ長野の「ぼーのふぁーむ明科 天王原圃場」産のブドウを使ったメルロー(M022)はアルコール度数11度ながら補糖なし。瓶詰めからひと月が経過しており、だいぶ味わいがなめらかになってきたそうだ。
村上さんはそもそも熟成を経てまろやか&エレガントになったワインが好みなのだそうで、そんな村上さんが「造ってすぐ出す」が特徴のワイナリーでワインを造ることになるのだから人生は面白い。
このワインは、やっぱり長野のメルローは安定しておいしいんだなということが確認できる、果実と渋みと酸味のバランスの良いワインという印象。体に沁みるような味わいのこのワインを飲みながら、気候変動に伴ってワインのアルコール度数が高まる傾向にあるなか、度数10度、11度のワインが楽しめるのは日本ワインの個性なのかもな、みたいなことを思ったりもしたのだった。
渋谷ワイナリー東京で飲んだワイン4/5:「P015」「CM020」
今回がラストヴィンテージだというニュージーランドのピノ・ノワール(P015)と南オーストラリアのカベルネとメルローのブレンド(CM020)もそれぞれ面白いワインだった。
ピノ・ノワールは前ヴィンテージに少し渋み・タンニンが足りないと感じたことから少し抽出を強めにかけたというワイン。
カベルネ/メルローのほうは、これを仕入れたタイミングで長野のカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインがタンクに入っていたことから、それとの「カブり」を避け、かつ「よりストーリーがある」という理由から混醸を選んだというワイン。
村上さんはもともと一般企業で営業職をされていた方だけに、こういったマーケティング的視点も醸造に取り入れているのも面白い。たとえばスペイン産のアイレンを仕入れられるチャンスがあった際、ワインを知っている人には『安ワインの品種』と思われてしまうし、知らない人には『なにそれ』と思われてしまうという懸念から仕入れを見送ったこともあったそうだ。
ここは渋谷のMIYASHITA PARK。ワイン愛好家だけが来るわけではないし、デートで来る方も多いはず。わからない、聞いたことのない品種のワインは注文しにくいはず。やはり、カベルネ! ピノ! といった有名品種のほうが「これ、おいしいんだよね!」と注文しやすいというものだ。土地に根ざした売りやすさまで考える。これぞ渋谷のテロワールを反映したワイン造りだと思う。
コロナ禍がひと段落したことで外飲みの需要は急拡大期にあり、国内でのワイナリー数が右肩上がりとなっていることもあって、原料ブドウは奪い合いの状況になっているという。そんななか、流通の中心地である東京でワイナリーをやる意味を感じられたというのが、今回の試飲会の最大の学びだったかもしれない。
誘っていただいた宮田ソムリエ、そして村上醸造長に感謝である。またお邪魔します!
ふるさと納税で渋谷ワイナリー東京の返礼品いろいろありますよ!↓