神楽坂「すしざんまいS」でモロッコワインと出会う
東京・神楽坂にある「すしざんまいS」に行った。すしカウンターを廃してタッチパネルを導入した、「回りそうで回らないすし」の異名を持つとか持たないとか言われる低価格帯の店舗である。
さて、ワイン好きがレストランに行ったらやることはひとつで、ドリンクメニューのワインの項目をチェックすること。というわけでタッチパネルを操作してみると意外な選択肢が提示された。
ハウスグラスワイン(赤)350円+税
ハウスグラスワイン(グリ)350円+税
ちょっと待った。
ハウスワイン(赤)はわかるんですよ。でも、(赤)っつったら(白)でしょうふつう。つーかそもそも寿司屋といえば白と泡じゃない? なのに(グリ)って。そもそもなんなんだろう(グリ)って。ピノ・グリ? グリ・と・グラ? なにかヒントがないものか……と店内を見回すと、ワインボトルがデザインされたポスターを見つけた。というわけで凝視してみるとさらに意外なことがわかった。
モロッコワインだった!
そう、すしざんまいSで頼めるグラスワインは、フランスでもイタリアでも、なんなら日本ワインでもなくマイナー国・モロッコのワインだったのだ。攻めてるなすしざんまいS。すしざんまいSのSは「SEMETERU」のS(違う)。モロッコワインは飲んだことがなかったが、まさかすしざんまいで飲めるとは……!
ともあれポスターが見つかったことで情報量は一気に増えた。ワインの銘柄名は「メダイヨン」というようだ。そしてヴァン・グリとは黒ブドウから造る白ワインのこととあるという説明もある。
シャンパーニュでいうブラン・ド・ノワール。つい最近ピノ・ノワールから造られる白(ロゼ )ワイン“ホワイト・ピノ・ノワール”を飲んでおいしかったので味のイメージがこれでできた。白ワインとロゼの間くらいの感じの味ってことだろう。
すしざんまいでモロッコワインが飲めるのはなぜなのか?
さて、この後私はこのヴァン・グリを飲み、続いて赤もいただいたのだが、その話は本稿後半にまとめるとして、先にこの疑問を解決しておきたい。なぜ、すしざんまいでモロッコワインなのか? である。
この疑問、おそらくいくら考えても答えが出ない。なので今回は大人しく「築地喜代村すしざんまい」を運営する株式会社喜代村の公式サイトのお問い合わせページから問い合わせをかけてみたら、丁寧な回答をいただいた。
実際は問い合わせフォームからメールを送り、それに対してメールで回答を得たわけだが、読みやすさを考慮して質問と回答をインタビュー風に起こしてみよう(注:あらかじめ掲載の許可を得ています)。
ヒマ:どうしてまた、モロッコワインを選ばれたのでしょうか?
すし:モロッコ大使館と弊社とは友好な関係がある為です。
ヒマ:なるほど、では「白」や「泡」ではなく、「グリ」をチョイスされたのは?
すし:モロッコのグリは日本では大変珍しく美味しい為に日本の皆様にも
ヒマ:たしかに珍しいですよね。では、このワイナリーを選ばれたのは?
すし:モロッコ大使館からのお勧めであるからです。
ヒマ:最後の質問です「赤」と「グリ」それぞれ合うネタを教えていただけますか?
すし:グリは白身やサーモン・貝類、
いやーよくわかった。ありがとうございました。
後日調べると、モロッコは水産資源に恵まれた国で、globalnote.jpによれば1975年から2018年にかけての大西洋クロマグロの漁獲高は25カ国中5位。そしてこの大西洋クロマグロこそが、いわゆる「本マグロ」であるようだ。
そこに注目した株式会社喜代村の木村清社長は、マグロを獲るだけでなく、現地の人にマグロを解体・処理するノウハウを授けるなどして同国との関係を深めていったようだ。モロッコ大使館主催のゴルフコンペで木村社長がマグロ解体してる写真とか出てきた。
木村社長にはソマリアの海賊を壊滅させたという伝説があるが、それももちろん武力をもってしたのではなく、海に生きる現地の人々にマグロを獲って加工するノウハウを授けることで生活を豊かにし、「海賊行為をする必要をなくす」ということをしたようだ。
そういう情報を知ってから目の前にある一貫のマグロを眺めると、表面を優しく撫でて「You、どこから来たんだい……?」とやさしく問いかけたくなるワインの話だった。
モロッコワインの歴史
Wikipediaの「Moroccan wine」の項目を読むと、そもそもモロッコではローマ時代からワインが造られていたのだそうだ。そして、フランスの占領下でアルジェリアに次ぐ、アラブ世界第二位の生産量を誇る一大ワイン産地として栄えるが、1956年の独立後、徐々にブドウ畑は面積を減らし、また荒廃していく。
モロッコのワイン産業が復活するのは1990年代に入ってからで、外国からの投資とノウハウが流入するようになり急回復。2005年時点で栽培面積は5万ヘクタールにまで拡大しているんだそうだ。「マイナー国」とか言っちゃってすみませんでしたッ!
なぜ「すしざんまいS」のハウスグラスワインは「赤とグリ」なのか
そして、「すしざんまい」でなぜ白や泡ではなく「赤とグリ」なのかの答えも見つけることができた。モロッコでは赤ワインが生産量の75%以上を占めており、次いでロゼとヴァン・グリが約20%、白ワインは約3%にとどまっているんだそうだ(2005年時点)。赤とロゼ(グリ)で95〜97%を占めてるとなれば、そりゃ「赤とグリ」だわ。
ちなみにすしざんまいのハウスワインはそれぞれ「メダリオン ルージュ」「メダリオン グリ」という名前。生産者はDomaine des Ouled Thaleb、だというところまでは判明したが、今回はここに至るまでの経緯でわりとお腹いっぱいなのでワイナリーとワインについてのディープな調査は行わなかった。いずれまた、機会があれば調べたいと思う。
「すしざんまいS」でモロッコワイン(赤/グリ)を飲んでみた!
さて、いろいろあったが私はいま神楽坂の「すしざんまいS」にいる。なぜ「すしざんまい」でモロッコワインなのか。そして、なぜ「赤とグリ」なのか。ふたつの疑問はふたつとも氷解した。うーん気持ちいい。ピュアリサーチって本当に楽しいですよね。
ということを席に着いている時点で私はまだ知らないのだが、まずビールで喉の渇きを癒し、続いて頼んだハウスグラスワイン(グリ)を飲んで驚いた。これ、おいしいですよ普通に。
グリ=ロゼと白の中間くらいの味わいで、酸味と果実味がしっかりとある。私はサーモンと合わせたときにとくに最高に合うと感じた。サーモンの脂の甘さと色味、そしてシャリの酸味がワインと呼応してこれは本当においしかった。
続いて頼んだ赤、メダリオン ルージュも全然悪くなく、果実味がかなりくっきりとあり、スパイシーさもどこかにある南仏っぽいような味。モロッコではカリニャンやサンソーがよく栽培されているので、それらのブドウが使われているのかもしれないなあと思うような味だ。
これはアナゴと合わせたがツメの甘さとよく合って、おいしかった。かなり小ぶりのグラス&冷え冷えでの提供だったが、大ぶりのグラスで適温で供されたらもっとおいしく飲めそうなポテンシャルを感じた。おいしいワインですよこれ絶対。さすがモロッコ大使館お墨付きである。
というわけでワインもおいしく、大満足で「すしざんまいS」を後にしたのだった。神楽坂は東京のなかでも個人的に好きなエリアのひとつ。みなさんも神楽坂にお出かけの際にはぜひ「すしざんまいS」で、モロッコワインを!
メダイヨンルージュ売ってた‼︎