「樽ドネ」=樽の効いたシャルドネ
樽の効いたシャルドネ、略称「樽ドネ」と呼ばれるワインがある。飲んだ瞬間にそれとわかるバニラやパン、バターとかナッツみたいな香り。ブドウだけで造ったお酒なのに「ぶどう味」どこいった! と衝撃を受けてから早いものでもう2年、私は樽の効いたシャルドネが変わらず好きだ。
樽ドネと人の間には彗星の軌道のような関係があるようで、ある時期それしか飲みたくない級に飲んだかと思えば、もう当分見たくもない! ABC(Anythin But Chardonnay)! みたいな厭樽ドネ気分になり、そうかと思えばひさしぶりにまた飲みたいな、みたいなタイミングが来たりするドルチェ&ガッバーナの香水的存在だといえる旬をはずしきったたとえで恐縮ですけど。
最近の私は樽ドネ熱が高まっているタイミング。せっかくなので「樽」と「シャルドネ」の関係について調べてみることにした。
樽の効いたシャルドネとオーク樽
まずは「樽」だ。樽とはオーク樽のこと。ワインはアルコール発酵後、オーク樽で熟成させることが多くあり、その過程で樽由来の風味がワインに移る。
ジェイミー・グッドの書籍『新しいワインの科学』によれば、古来、オーク材には水を漏らさない性質があることからワインの貯蔵・運搬に「たまたま最適」であり、それらを行うのに「樽に代わる選択肢はなかった」とある。「たまたま」適していた消去法の素材。それがワインに他では代え難い風味をもたらすのだからワインって本当に奇跡でできてますよね。
とはいえ樽の影響は変数が非常に多く、フレンチオークかアメリカンオークかによっても風味は異なり、樽への焼き入れ(トースト)の度合い、樽の産地や種類、自然乾燥か否か、製造者によってもその影響は変化するらしい。すごい世界だよなあ。「熟練したワイン生産者は、原料となるブドウの出来と同じくらい樽に神経を使う」(前掲書)のだそうだ。もちろん、新樽を使うのか何年か使った樽を使うのかによっても大違いだ。
『イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン入門』によれば、オーク樽は微妙に空気を通すことから中のワインがほんのわずかに酸化する。そのことがワインの熟成に与える影響も大きいのだそうだ。
樽の効いたシャルドネとオークチップ
また、オークチップ、板材などを浸して樽の香りをワインに付与するパターンもある。
ジェイミー・グッドは、オークチップや樽板をワインに浸したり、液体のオークエキスを加えることで「樽本来の持ち味を再現できることはまずない」としていることも付記しておきたい。液体のオークエキスはさすがにちょっと抵抗あるなぁ。
そして、樽は微量の酸素を透過することで熟成中のワインにいい影響を与えたりもする。それを再現するために、ほんのわずかに酸素を透過する容器にワインを入れ、そこにオーク材を漬け込むといった技術も存在する。
たとえばこれ↓
himawine.hatenablog.com「これはオークチップ使ってるな…!」みたいに見抜けたらカッコいいのだが、樽熟成を経ているのか、オークチップを浸漬しているだけなのか、私には正直さっぱりわからない。
ちなみにオーク樽に関してはアメリカのETS研究所のサイトにめちゃくちゃ詳しく書いてあるのでご興味のある方は参照してください。
https://www.etslabs.com/library/43
樽の効いたシャルドネと樽とシャルドネの関係
さて、続いてはこのワインに欠かせないオーク樽が、なぜシャルドネに強く影響するのかを考えたい。「樽ドネ」という言葉は(言葉自体への好き嫌いはあるにせよ)存在するのに、「樽ビニヨン・ブラン」とか「樽スリング」みたいな言葉はないのはなぜなのか。
wikipediaの「シャルドネ(英語)」のページでは、シャルドネの性質を「malleability」という言葉で説明している。これは柔順な、とか順応性のある、といった意味なのだそうで、それあるがゆえに「世界中で造られるシャルドネに適用できる明確な普遍的『スタイル』や定型文は存在しない。」のだそうだ。わかる。同じシャルドネ100%で造られたフランスのシャブリとアメリカの樽ドネ、同じ品種とは到底思えぬ。
Wikiからの引用を続ければ、シャルドネの仕上がりにもっとも大きく影響するのはマロラクティック発酵を行うか否かと、出ました「オーク」。MLFを行うとシャルドネはバターっぽさを獲得し、オーク樽はトースト感やキャラメル、クリーム、スモーク、スパイス、ココナッツ、シナモン、クローブ、バニラなどの風味を与えるとある。
Wikipediaの「ワイン」ページの“芳香成分”の項を見ると、ワインの香りのうち、バニリンやケルカスラクトン(=ウイスキーラクトン、オークラクトン)といった成分は樽由来だと書いてある。
バニリンはその名の通りバニラの香り。ケルカスラクトンはラテン語の樽=ケルカスに由来して、つまり樽の匂い。ほかにも樽由来の成分は多くあるようだが、とにかくそれらの香りを反映しやすいのが「順応性の高い品種」であるシャルドネだということなのだろう。彼氏が変わると服装が変わる女の子か。
樽の効いたシャルドネとカリフォルニアワイン
また、樽ドネといえばカリフォルニアという印象があるが、その背景には1976年の仏米ワイン合戦「パリスの審判」で、シェトー・モンテレーナのシャルドネが白部門1位となったことが遠因となっているようだ。
その後カリフォルニアのシャルドネ需要は急増。2005年時点では世界のシャルドネ栽培面積の25%近くをカリフォルニアが占めるまでになり、その過程でよりリッチな“バターやオークを使ったスタイル”へと移行していったのだそうだ。なんかわかる。
もちろん当然すべてのカリフォルニアワインが“樽ドネ”なわけではもちろんなく、めちゃくちゃエレガントなシャルドネも作られているが、カリフォルニアのとくに安ワインは樽ドネの宝庫、という印象だ。
私の生涯ベストシャルドネはこの会で飲んだオーベールのシャルドネ↓
樽の効いたおいしいシャルドネ5選+α
というわけで、なんとなくわかったようなわからないような感じだった「樽」と「シャルドネ」の関係がざっくりと理解できたような気がするので、以下、私が過去に飲んでおいしかった「樽ドネ」をまとめておきたい。
まず、私が初めて「樽ドネ」を認識したのが「ブレッド&バター」という名前のワインだ。ブレッド&バターですよ名前がそもそも。ブドウで造った液体がバターを塗ったパンの味になるわけないと思うじゃないですかなるんですよこれが。
初めて飲んだとき、私はこのワインをおいしいと感じなかったのだが、白ワインにおける「樽感」っていうのがイマイチわかんないんだよな〜というタイミングで飲んで、問答無用で「これが樽です」というのを教えられた記念碑的ワイン。まだの方は一度体験すると面白いと思います。
カリフォルニアの安樽ドネのなかで、私の一押しは「イントゥ・シャルドネ」だ。ちなみにこれシャルドネの内部という意味ではなく、シャルドネに夢中! みたいなスラングだそうです。「イントゥ・シャルドネ」の「好きです、つぼ八」感は異常。
ラベルの派手さに相反して味わいはキレイで、たるたるしてないのが心地よく、よく冷やして夏に飲みたい樽ドネという印象。
また、カリフォルニアの樽ドネでは1000円台半ばで買える、クリムゾン・ランチ シャルドネもおいしい。
[rakuten:wineuki:10040170:detail]
もう少しお値段を出して、2000円台前半にはザ・クラッシャー シャルドネ、というすさまじい名前のワインがある。業界の古い体質とか固定概念を打ち砕くぜおれたちは、みたいなパンク的アティテュードかと思いきや違って、破砕機(クラッシャー)を通る瞬間にブドウはワインに変わる、みたいな意味がこめられているんだそうで、強い果実感と樽感、両方を味わうことができる。
1000円を切る価格であれば、カルディで売ってるレッドウッド シャルドネを推したい。適度な樽香があって飲みやすいです。
また、本文中にリンクで紹介したポリマー製容器に入れたワインにオーク材を浸すことで樽熟成の効果を再現しているという南アフリカの「バリスタ シャルドネ」はめちゃくちゃおいしい樽ドネとしてオススメだ。価格も安い。
1000円台で買えるワインでいうと、2022年3月現在バーゲン価格で売られている「ヘス シャーテイルランチシャルドネ」もキレイな味わいでおいしい。
というわけで安くて美味しい樽ドネは定期的に飲みたくなるものだ。ぜひ、みなさんのオススメも教えてください!