ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ドメーヌ・デ・テンゲイジのワインを飲みながら、生産者のお話を聞かせてもらった。

ドメーヌ・デ・テンゲイジのワインと二人のワインメーカーに出会った

過日、山梨は北杜市の生産者ドメーヌ・デ・テンゲイジの代表で醸造責任者である天花寺弓子さん、そして栽培責任者の下川真史さんのお話をうかがいながらそのワインをいただくという貴重すぎる機会を得た。

いただいたのは「ドメーヌ・デ・テンゲイジ キュヴェ・テンゲイジ エスポワール甲州2019」と同「マスカット・べーリーA 2019」の白赤2本。「農家さんが自慢したくなるようなワイン」をモットーにした、契約農家のブドウで造るシリーズなのだそうだ。

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ドメーヌ・デ・テンゲイジのキュヴェ・テンゲイジ マスカット・ベーリーA 2019(左)とエスポワール甲州 2019(右)を飲みました。

どちらも非常に素敵なワインだったのだが、ワインについて書く前に、なにしろドメーヌ・デ・テンゲイジのお二人がとても素敵な方々だったので紹介したい。

 

ドメーヌ・デ・テンゲイジの天花寺さんと下川さんの歩み

天花寺弓子さんは大学卒業後、インポーター・木下インターナショナルに勤務。もともとはシングルモルトやスピリッツがお好きだったというが、「当時社販で4000円くらいで買えた」というシャンパーニュ、ジャック・セロスの味に感動、ワインの道に進んでいったという方だ(今も手首には当時社員に配られたというセロスのブレスレットをしておられた)。

ジャック・セロスが4000円で買えたのか。めぐるめぐるよ時代はめぐる。思わず中島みゆきの『時代』が脳内で再生されるレベルの隔世の感。はっきり言おう。うらやましい。

天花寺さんはその後、ワインを造りたいという情熱に衝き動かされて2010年に山梨県に移住。山梨大学の大学院で酵母とマスカット・ベーリーAの研究を2年間した後、2017年に山梨県北年明野にワイナリーを開設するに至る。すごい行動力!

一方の下川さんはもともとは理学療法士だったというが、ブドウ栽培を学ぶために山梨県に移住。甲府のベテラン農家での3年間の修行を経て、天花寺さんとともにワイン造りに勤しんでいる。

 

ドメーヌ・デ・テンゲイジが山梨県でワインをつくる意味

自社畑は北杜市明野(明野小笠原圃場)と韮崎市上ノ山にあり、明野では垣根でシャルドネピノ・ノワールピノ・グリ、ピノ・ブラン、リースリング、ゲヴェルツ。韮崎市上ノ山ではマスカット・ベーリーA、甲州シャルドネ、生食用のサニー・ドルチェを栽培。いわば国際品種と日本ならではの品種の二刀流状態。

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「山梨は日本のワイン発祥の地。だから絶対に山梨でワイン造りをしたかった」と天花寺さん。下川さんは、「山梨には甲州やマスカット・ベーリーAの栽培とワイン造りの歴史がある。それを受け継いでいきたい」と言う。日本ワイン発祥の地で、国際品種も育てつつ、日本伝統の品種を使った世界で通用するワインを造る。ドメーヌ・デ・テンゲイジのコンセプトはすごく明快だと思った。

おふたりとも物腰はめちゃくちゃ柔らか。なのだが、なんというか胸の奥にワシらウマいワインを造るんじゃという気合と情熱の炎が静かに燃えている感じがする。

 

「キュヴェ・テンゲイジ エスポワール甲州2019」はどんなワインか

さて、今回飲ませていただいたのは2019年の甲州とマスカットベーリーA。それぞれどんなワインか、まずは甲州のほうから見てみると、上ノ山地区のベテラン契約農家の栽培したブドウを使い、全房で搾汁。搾汁後の果皮の5%を果汁に5〜6日浸漬した後、1年間フードル(大樽)でシュール・リー熟成させているという。

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甲州をフードルで1年熟成させるというエスポワール甲州2019

で、これが私の乏しい経験の中での話ではあるものの、ともかく甲州観を覆される味わいだったんですよ本当に。

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すごく厚みがあって、トロリと擬音を当てたくなるようななめらかな質感がある。甲州よ、樽で熟成させるとこんなに表情を変えるのかあなた!

 

「キュヴェ・テンゲイジ マスカット・ベーリーA 2019 」はどんなワインか

そしてもうひとつはベーリーAだ。ベーリーAは天花寺さんが大学院で研究した品種だけに、「2015年のファーストヴィンテージから、樽で3年間寝かせてフルボディに近いスタイルを確立させました」と独自のこだわりを持つ品種。

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キュヴェ・テンゲイジ マスカット・ベーリーA2019

ベーリーAといえば、イチゴのようなキャンディのような香りがなんといっても特徴的。それをもたらす物質は「フラネオール」というらしいのだが、ベーリーAでのワイン造りはこのフラネオールとどう付き合うか、どう向き合うかがポイントになるようだ。

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下川さんは、ベーリーAをめぐる状況をこう解説してくれた。

「かつてはベーリーAでは美味しいワインはつくれないという認識でしたが、樽で3年熟成させるベーリーAが登場し、ワイン用品種として見直されました。現在ではフラネオールを抑えたワインも登場し、各ワイナリーさんの努力により(品種としての)地位が上がってきています」

天花寺さんは、このフラネオールを“活かす”造りをこのワインでしている。あえて樽を使わずに樹脂タンクで熟成させることで、「ほぼ狙い通り」のワインになったという。

「うちのワインはレストランで合わせてもらいたいお料理ありきのワイン。フラネオール香も良い塩梅で引き出せれば、日本人らしい奥ゆかしい香りになり、お料理との相性も良くなります。ガツンとフラネオール香が出ちゃうとお料理に勝ってしまう。どちらがいい悪いではなく、多様なスタイルがあって面白いと思います」(天花寺さん)

で、飲んでみるとこれが実に面白い。たしかにイチゴのような香りはするけれど、キャンディのようにベッタリした感じはない。逆に樽を使ってないのが驚きというほどリッチで、薄さや軽さはまるでなく、むしろパワフル。ヌーヴォーじゃないボジョレーみたいな印象を個人的には受けた。ベーリーAちゃん、あなたこんな風にもなれるのね……!

 

ドメーヌ・デ・テンゲイジが目指すもの

というわけで、いただいた2本はそれぞれ「甲州っぽくない甲州」「マスカット・ベーリーAっぽくないマスカット・ベーリーA」という印象(とくに甲州)となった。

そのことで、とくにベーリーAに関してはこんな言い方をされることもあるという。

「人によっては、誤解もあり、フラネオール香を出したくないのであれば、ベーリーAじゃなくていいのでは? とか、(樽で)マスキングしているのでは? と言われることもあります」(天花寺さん)

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それでも甲州で、ベーリーAでワインを造るのは、山梨に根付くワイン造り、そしてブドウ栽培の歴史へのリスペクトに加え、伝統を次世代につなぐのだという使命感、そして天花寺さん自身がかつて外国に持ち込んだベーリーAのワインを海外の仲間に酷評されるという経験を経て「いつかベーリーAから世界に通用するワインを造る!」という決意を抱いているからなのだろう。

おふたりとも、日本でワインを造る意味、甲州やマスカット・ベーリーAでワインを造る意味を真正面から見据えてワインを作られているという印象を受けた。カッコいいなあ。こんな大人になりたい。私はもうオジサンだけど。

というわけで天花寺さん、下川さんのおふたりに、そしておふたりとお話できるチャンスをいただけたことに感謝。いつかワイナリーにもお邪魔したいなあと思った次第なのであった。