「天ぷらにぃーよ」とは?
「天ぷらにぃーよ」というワインがある。その名の通り日本のソウルフード「天ぷら」に合わせることに特化したワインで、甲州を主体とした「天ぷらにぃーよ 塩」と、マスカット・ベーリAを主体とした「天ぷらにぃーよ つゆ」がある。
それぞれ塩で食べる天ぷら、つゆで食べる天ぷらに合う、というものだ。通常であれば「白」と「赤」になるところ、「塩」と「つゆ」なのが良い。
このふたつのワイン、ちなみに単体で飲んでもうまい。「塩」のほうは甲州を主体にデラウェア、マスカット・ベーリーA、シャインマスカットをブレンドしたもので、甲州のスッキリ感に加えて芳醇な香りと厚みのある味わいが魅力。「つゆ」はマスカット・ベーリーA100%で香り良く、たっぷりふくよかな果実感が楽しめる。
以上を踏まえて私は考えた。エビやイカなどの食材ごとに、「塩+天ぷらにぃーよ 塩」と「天つゆ+天ぷらにぃーよ つゆ」をそれぞれ組み合わせ、どちらがより合うかを検証したら面白いんじゃないのか? と。あらやだ楽しそう。楽しそうってことにしてください。
ともかく、思いついたら即実行である。早速某天丼チェーンに向かいお持ち帰りの天ぷらを注文。熱々を持ち帰って、自宅で検証することとした。
まずはエントリーを発表しよう。以下の5食材である。
・エビ
・イカ
・インゲン
・舞茸
・レンコン
どのようにセレクトしたのか? と問われたならば「私の好きなやつ」という答えになるのが恐縮だが、王道のエビ、イカを中心に、キノコ、根菜、野菜(豆)とバランス良くセレクトしたつもりである。果たしてこれら5食材の天ぷらには天ぷらにぃーよの塩とつゆ、どちらが合うのか? ていうか、「天ぷらにぃーよ」はそもそも本当に天ぷらにいいのか? いざ5番勝負のスタートである。
天ぷらにぃーよ×舞茸の天ぷら
まず食べたのは舞茸だ。
外はカリッと、中はジュワッとした旨味あふれる舞茸の天ぷらを、まずは塩&レモンで食べ(塩にレモンを合わせるのが公式推奨の食べ方なのだ)、天ぷらにぃーよ 塩を追っかけてみると……うん、うまい! 油をワインがスッキリ流してくれ、舞茸の旨みが余韻として残る、よいペアリングだ。
これは「チーム・塩」が勝利か? と思われた次の瞬間、とんでもないことが起こる。舞茸の天ぷらをつゆにつけて食べてみた結果、「天ぷらにぃーよ つゆ」と驚異のマリアージュ! 舞茸の旨味がワインにコクを与え、ワインの甘やかさが舞茸の天ぷらに奥行きを与え、つゆが全体をまとめ上げるという抜群の相性を示した。
舞茸の天ぷらをつまみに1本飲める級のペアリング。チーム・塩も悪くなかったが、初戦で勝利を揚げた、じゃなかった挙げたのは「チーム・つゆ」となった。
天ぷらにぃーよ×インゲンの天ぷら
続いてはインゲンだ。
インゲンの独特の濃い味わい、ワインに合うんですよね。というわけで大いに期待しつつまずは「天ぷらにぃーよ 塩」を合わせたところ、これがまた実においしい。レモンの酸味、ワインの果実味、インゲンの苦味が調和してアペリティフに最高だ。インゲンの天ぷら、ワインバルの定番メニューになってもらいたいレベル。
今度こそ「塩」の勝利かと思われたのだが、恐るべきは「天ぷらにぃーよ つゆ」のポテンシャルである。
インゲンの絶妙な苦味とマスカット・ベーリーAの甘やかな果実味が鍵と鍵穴のように合致。「インゲンの天つゆ赤ワイン煮」みたいな、別の料理が立ち上がってくる感覚がある。うーん、これも合う。というわけで、意外や意外「チーム・つゆ」が二連勝となった。5番勝負なので次も「チーム・つゆ」が勝てば早くも勝敗が決まってしまう。あわや企画倒れの危機である。
天ぷらにぃーよ×レンコンの天ぷら
そんな「チーム・塩」の苦境を救う食材となったのが「レンコン」だ。
これは圧倒的に塩レモン+天ぷらにぃーよ 塩がマッチした。天つゆ+天ぷらにぃーよ つゆの組み合わせはレンコンの滑らかな表面をつゆとワインが流れ落ちてしまう感覚だったのに対し、「チーム・塩」はレモンの酸味とワインの果実味がレンコンのクリスピー感を増幅。いつまでもシャリシャリカリカリ食べていたい無限レンコン状態へと導いてくれた。
これでチーム・塩の1勝2敗となり、いよいよ勝負の大ネタ、イカとエビに突入していく。
天ぷらにぃーよ×イカの天ぷら
まずはイカだ。
これは大激戦となった。正直イカはチーム・塩の圧勝だろうと私は予想していたのだが、チーム・つゆが大健闘。淡白さの中に秘められたイカの旨味をつゆの旨味とワインの果実味が引き出し、洋風イカ天丼的満足感を味わわせてくれたのだった。
ただし、チーム・塩も非常によく合い、最終的に淡白なイカの身の淡白さそのものを美味しく引き立たせてくれ、イカ自体の甘みもより感じられたというのが理由から、チーム・塩に軍配を挙げた。盛り上がってきたぞ。
これにて勝負は2勝2敗のタイ。勝負は5番勝負へともつれ込んだ。
天ぷらにぃーよ×エビの天ぷら
というわけで最後はエビだ。
主役級の食材であるエビを攻略するのはレモン塩+天ぷらにぃーよ 塩の「チーム・塩」なのか、あるいは天つゆ+天ぷらにぃーよ つゆの「チーム・つゆ」なのか!?
この戦いもほぼ互角だったと言っていい。「チーム・つゆ」が引き出したのはエビの複雑さ。エビ自体の甘み、塩味、殻のクリスピーさなど、エビ自体の味わいにワインのコク、甘み、わずかな渋みが足され、エビの天ぷらというシンプルな料理の要素を増やすことに成功していた。一方、甘さや淡白な上品さといったエビがそもそも持っている良さを限りなく増幅させたのが「チーム・塩」。さすがは「天ぷらにぃーよ」を名乗るワイン、塩でもつゆでもよく合うのだ。
ここは両者あっぱれ! 引き分け! とお茶を濁したくなるが、それでは読者諸兄姉が納得すまい。あえて勝者を決めるのならば、やはりエビそのものの良さを引き立てた「天ぷらにぃーよ 塩」となるだろう。
これにて3勝2敗、見事「チーム・塩」の勝利となった。おめでとう、「チーム・塩」! 「チーム・つゆ」は惜しくも敗れたが、たしかな実力を発揮してくれた。食材の組み合わせ次第では勝利を収めていた可能性も十分にあったはずだ。
天ぷらにぃーよ5番勝負を終えて
今回の検証を通じて感じたのは「天ぷらにぃーよ 塩」の完成度の高さ。おそらくマスカット・ベーリーAが隠し味程度に入っているのがポイントで、黒ブドウの果皮の渋みがわずかながら混入していることが野菜や魚介類との相性をさらに高めていると思われる。そこにデラウェアの香味、シャインマスカットの甘味などもアドオンされることで、どんな食材の天ぷらにも対応できる自在性を獲得している。そして、甲州の高い酸が油を洗い流してくれるから、次の一口へと手が伸びるのだ。
一方の「天ぷらにぃーよ つゆ」は、正しく天つゆと相似形を成す味わいなので、似たような味わいを持つ肉じゃが、焼き鳥(タレ)、すき焼きなどとも確実に合うであろう汎用性を感じた。冷やしめで飲めるのもいい。
ていうか、わざわざ検証しなくても天ぷらをつゆで食べるのが好きなら天ぷらにぃーよ つゆ、塩で食べるのが好きなら天ぷらにぃーよ 塩を合わせて間違いがない。天ぷらにぃーよ、天ぷらにいいよ!