ジルヴァーナーと醸造家・Nagiさん
ドイツからお友だちで醸造家のNagiさんから帰国されている。国内で流通していないNagiさんのワインを飲む会を開催するにあたり、その打ち合わせを兼ねてワインを飲むことにした。
集まったのはNagiさん、私、恵比寿のワインマーケット・パーティ店長の沼田さん、そしてゆうこりンファンデルさん。ジルヴァーナー(品種)が好きだというゆうこさんにNagiさんがドイツからとっておきのジルヴァーナーをハンドキャリー。それをみんなで味わう会でもある。
この日はほかにもさまざまなワインを飲んだのだが、本ブログではNagiさんがドイツから持ち帰ってくれたジルヴァーナー、そしてNagiさん自身が造ったワインに絞って書きたい。
醸造家・Nagiさんとミヒャエル・テシュケ
さて、そのジルヴァーナーはラインヘッセンのミヒャエル・テシュケ(MICHAEL TESCHKE)という造り手のワイン。Nagiさんいわく「師匠のワイン」なのだそうだ。師匠とは? となるのだが、なんでもNagiさんの卒業校であるドイツ・ガイゼンハイム大学はワイナリーでの半年間の実務経験がないと入学が許されないのだそうだ。
学ぶ前に、まず現場。これすごい話だよなあ。
ともあれドイツに留学したNagiさんがガイゼンハイム入学前に半年間の現場経験を積んだのがミヒャエル・テシュケ。そのため、ミヒャエルさんがNagiさんの「師匠」にあたるということのようだ。ドイツにわたって初めて門を叩いた醸造家、そのインパクトは想像に難くない。
Nagiさんいわくミヒャエルさんは軍隊式というほど仕事に厳しい人で、「一般の人のイメージする職人気質を鼻で笑うくらいの職人気質」なのだそうだ。
たとえばブドウに触れるときは手袋厳禁でつねに素手。それは「赤ちゃんを触るのに手袋をつけないから」なのだそうだ。ブドウは自分の子どもと一緒ということですかね。
ミヒャエルさん、今はワイン造りをやめてしまったのだそうで、Nagiさんが持ってきてくれた2012ヴィンテージはもちろん、もうそのワインを購入するのは難しい。貴重なワインだ。ありがてえありがてえ。
Nagiさんが持ってきてくれたワインをブラインドで飲む
スクリューキャップで封がされているため過度に還元的な状態である可能性があったことから飲む数時間前に抜栓。それを乾杯のタイミングで開けてもらったのだが、Nagiさんいわくもう少し時間が必要とのことで、ちょっと味わって放置。その間に、Nagiさんが持ち込んだもう1本の「謎のワイン」を飲むことになった。
リースリング用の細長いボトルではなく、ブルゴーニュ用のなで肩のボトルに入れられ、靴下でラベルを隠されたこのワインが実に面白いワインだった。
非常に香りが良く、ドイツのワインらしく豊かな酸味がありながら果実味もあってチャーミング。とても飲みやすくおいしいこのワインを、沼田さんは「シャブリで造るソーヴィニヨン・ブランとか、サンセールで造るシャルドネといった印象」と評していた。さすが上手いこというんだよなー!
果たしてその正体はグラウブルグンダー。つまりはピノ・グリだ。
プリンツ・ザルム「グラウブルグンダー」
機械収穫で乾燥酵母使用、ステンレスタンクと1300リットルの大樽で発酵・熟成を行ったというワイン。格付けは一番下の「グーツワイン」で価格も10ユーロちょっとというNagiさんの造るワインとしては最安レンジながらこれがちょっと異様にうまい。汝は10ユーロの白ワインを今後一生ひと銘柄しか飲めぬぞと神に言われたら選択肢に入ってくるレベルだ。
ドイツのVdP格付けはグーツワインの次が村名相当のオルツワイン。その上に一級畑相当のエアステ・ラーゲ。さらにその上に特級畑相当のグローセ・ラーゲがある。来週のNagiさんワイン会ではグローセ・ラーゲの辛口ワインに与えられる称号「グローセス・ゲヴュックス」のワインが3本出る。
スポーツ漫画で主人公チームが死闘の果てにギリギリで勝利した相手が実は強豪校の2軍チームでしたみたいな展開があるがそれだ。胸熱だ。「ククク、やつは四天王でも最弱…」のリアル版とも言える。あっ、あんなに強敵(うまいワイン)だったのに…!? うーん、企画してよかった。
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プリンツ・ザルムのグラウブルグンダー
Nagiさんの、というかプリンツ・ザルムのグラウブルグンダーに話を戻そう。造っているご本人いわくもっとも工業的といっていいやり方で造られているというこのワインだが、その異様に親しみやすい味わいが人気を呼んで、非常によく売れるワインでもあるのだそうだ。
もちろんそれは良いことなのだが醸造家的に味わいはもう一工夫したいようで、どの方向性に向かうべきか、ブラインドで我々に飲ませて忌憚ない意見を聞きたいとのことだった。
ただ、本当に10ユーロちょっとの白ワインとして完成している感があって「これを……改良だって?」みたいに私レベルではなる。沼田さんが強いて言えばと提案したのがもう少し果実味があってもいいのではという意見で、Nagiさんもそれに同意していた。
思ったより発酵が早く進んだ結果残糖が残らず、やや線が細い仕上がりになったのだそうで、「このワインなら、残糖が5〜6グラムあったほうが全体のストラクチャーは良くなると思う」みたいなことを造った張本人に教えてもらいながら飲むワインより贅沢なワインがあるだろうかいやない。
ミヒャエル・テシュケ ジルヴァーナー2012
うまいやばいガチで甘露、ちなみに甘露とは天地陰陽の気が調和すると天から降る甘い液体のこと、みたいなことを言いながら飲んでいるとNagiさんから「待て」がかかったミヒャエル・テシュケのジルヴァーナー2012が飲みごろを迎えている。
これが時間を経てすごいワインになっており、Nagiさんいわく「奥行きがすごい。これに比べると自分のは薄っぺらい」とのことで(価格がミヒャエルさんのは30ユーロ超とのことなので当然だしそもそもNagiさんは自分のワインに異様に厳しいが)、なるほど巨大なホテルの客室フロアの長い長い廊下を思わせるような味の奥行き、深みが感じられる。適度にエッジのとれた丸みを帯びた液体で、定規で引いた線のような酸と透明な果実味が実においしい。
ジルヴァーナーは大衆的な品種という印象があったが、このワインは端的にスケールがデカい。聞けばミヒャエルさんはドイツでもジルヴァーナーの名手として知られる造り手なのだそうで、ジルヴァーナーの中心的な産地がドイツなわけだからこれは下手するとジルヴァーナーの世界最高峰の一角なのかもしれず、それがほどよく熟成されているのでおいしいのも当たり前だったのかもない。すっごくおいしかったしNagiさんがこんなにワインを褒めるのはじめて見た。
ミヒャエル・テシュケのサイトを見ると、こんな言葉が掲げられている。
"ワインメーカーがクリュである”
もちろん土壌も大切なのだろうが、最終的に味を決めるのは醸造家。そりゃそうだ、と納得がいくし「Nagiさんのポリシーです」と言われても余裕で納得のいく言葉だ。
というわけでほかにもおいしいワインをたくさん飲んで、とても有意義な1日だったのだった。来週Nagiさんワイン会ご参加のみなさん、どうぞお楽しみに!
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