ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワイン歴2年のワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ワインバーふたみとは!? 東京・三軒茶屋の超絶ワイン空間に潜入した

ワインバーふたみに行ってきた

かねて伺いたいと思っていた東京・三軒茶屋の「ワインバーふたみ」に行ってきた。ワインバーふたみは2022年4月開業。twitter経由で知遇を得、「この人はガチ中のガチ」と思う方がやられているバーだ。

最初に言っておこう、このお店はすごい。本当にすごい。語彙力根こそぎ持っていかれるレベル。私の筆力でどこまでこの日の感動を再現できるかわからないが、それでもともかく書いてみよう。

 

ワインバーふたみの驚きの空間美

私がワインバーふたみを訪問したのは土曜日の午後6時。駅から徒歩20分、とか、住宅地のど真ん中、とかではなく普通に繁華街の一角といっていい駅近の便利な場所にあるのだが、都会の死角というか盲点みたいな場所にあり、どこだどこだとキョロキョロしていると店主(仮にSさんとしておきます)自ら出迎えてくれた。

黒と白のコントラストで構成された店内は、ワインや器の色彩だけが際立つ

店内に一歩足を踏み入れて驚く。店内は色彩が存在しないといったほうがいいような黒一色。そこに、ダウンライトに照らされた白木のカウンターが鎮座する。黒と白、あるいは闇と光のコントラストが織りなす内装は西麻布や麻布十番にある会員制の高級寿司屋かなにかかな? といきなり脳が誤作動を起こす。庶民的な三軒茶屋の街並みとのギャップで発電できるレベル。

Sさん含めスタッフの方々の衣装は和をイメージさせる黒。寿司屋の板前が着ている前が合わせになった白い作業着の色合いを陰陽反転させたような服だ。椅子も黒。棚も黒。上着をかけるラックも黒。ワインバーなのにグラスは見えない。ボトルの1本も視界に入らない。奥の棚には一輪挿しに活けられたあじさいだけが、空間に色彩を添えている。

すいません間違えましたと思わず言いそうになる洗練を極めた異空間なわけなんですよ。要人が集う会員制のバーかなんかにうっかり一見で入っちゃったみたいな感じなのだがたしかにカウンターの向こう側でニコニコしているSさんは私の知人であるし、カウンターのこちら側には私と同行者2名分の席の設(しつら)えがされてある。

オレ、ココニイテモ、イイノカ…? と、やさしい心を取り戻した村はずれに住むモンスターみたいな心境で席に着く。マスクケースがあり、おしぼりが用意され、ナプキンが丁寧に丸められた状態で置かれている。着席して目の前に展開するのは高級フレンチ的な景色だ。ワインと出会う前の酒飲みライフのほとんどを低級飲み屋で過ごしてきた私だが、こういうもてなしは嫌いじゃない……! 否、大好き……!(ちなみに写真は根こそぎ撮り忘れた)

 

ワインバーふたみと「ふたみセット」

と、冷静に状況を見渡していたかのごとくに書いているが、実際は「あっ」「えっ」「ひゃっ」みたいなワードしかこの段階で現実には発語していない。全然地に足が着いていないがなにはなくとも注文しなければはじまらない。

ともあれ私はかねてTwitterで見ていた「ふたみセット」を注文すると決めていた。シャンパーニュ、白、赤の3杯4500円のセットで、私が訪ねた日のその内訳は以下のようなものだった。

泡:ポル・ロジェ ブリュットNV
白:ルイ・ジャド ベルナン・ベルジュレス レ・コンポット2019
赤:ダヴィッド・デュバン ニュイ・サン・ジョルジュ2013

この3杯とともに驚きの90分間がスタートしていくことになる。

 

ある日のふたみセット【1杯目】ポル・ロジェ ブリュットNV

まず出されたのはポル・ロジェのスタンダード。そういえば飲んだことなかったなあと思いながら飲んだのだがこれが実においしい。シャルドネ、ムニエ、ピノ・ノワールが1/3ずつ使われているのだそうで、それも納得のバランスの良さ。果実がしっかりと感じられ、酸味と調和している。

このあたりから「そうか、写真だ!」となった。1杯目はポル・ロジェ

そして驚くべきはつまみとして出されたきゅうりの漬物だ。異様なまでに旨みが強く、それでいて旨みが強い漬物にありがちなケミカルな感じが一切ない漬物ナチュール。これと合わせることにより、ポル・ロジェに唯一欠けている旨みの部分が補われて超絶うまい液へと変貌を遂げる。

きゅうりとしゃんぱんをいっしょにたべたらおいしかったですおわり。と作文能力が7歳児レベルまで退潮してしまう驚きのおいしさだ。決して気をてらったペアリングじゃなく、自然に寄り添ってる感じがいい。

 

ある日のふたみセット【2杯目】ルイ・ジャド ベルナン・ベルジュレス レ・コンボット2019

泡がまだ少し残っているタイミングでSさんがサーヴしてくれたのがルイ・ジャドのベルナン・ベルジュレス レ・コンボット。単独のワインとしては3杯のセットのなかでこれが一番好みだった

2杯目はルイ・ジャドのペルナン・ベルジュレス。むちゃくちゃおいしい。

香りはクレームブリュレそのもの。口に含むとほっくりとした、遠い昔にパリで食べた焼き栗みたいなやさしい甘さがあり、時間が経つとなぜかヤクルトみたいな甘酸っぱさもやってくる……とかなんとかわかったようなことを書いているが、現実にこれを飲んだときの私のリアクションは「うわうっま」という喉が渇いた人がホッピーを飲んだときのそれだったことを告白しておく。おいしくてびっくりしましたおわり。

きゅうりの漬物がそうであったように、「ふたみセット」は3杯のグラスそれぞれに小さなつまみがつくのだが、このつまみが厳選に厳選を重ねられたエクストリーム小鉢というべきもの。この日の白に合わせて出されたのは“ガリ”だった。ガリですよガリ。まさかの2連続漬物。薄く切られたものではなく、円柱状に切断された切り株系ガリ。スッキリとした酸味にシャープな辛味があって甘さはほとんどないストロングスタイルのガリで、これがふくよかな白ワインとまあ合うこと。

ガリシャン、ガリ白はほんとにいいですよ」とSさん。「ガリシャン」ならびに「ガリ白」なるワードを大脳新皮質に刻んだのはおそらく人生初だが、ガリシャンが自明のものとして存在するのがワインバーふたみという名の小宇宙だ。宇宙って広い。

 

ワインバーふたみとチーズとトリュフハニー

さて、この日はこの後に食事の予定があったためフードは頼んでいないのだが、さりとてつまみをなにも頼まないのも悪いというかおつまみにも驚きが待っているに違いないという確信がある。というわけでチーズを頼んだ。

チーズを頼んだら出てきたトリュフハニーの香り、写真見るだけで脳内再生される。

飲んでいるワインに合わせて選んでもらったのはブルーチーズと薄くスライスされたバゲット。そしてトリュフ入りの蜂蜜だ。トリュフ入りの蜂蜜なんてものがあるんだから宇宙ってひろ(略)

ブルーチーズに蜂蜜はオーソドックスなペアリングだが、そこにトリュフの要素が加わるとちょっと香りの複雑性が段違いになり、白ワインと合わせると液体の酸味と香りだけを純粋に楽しむような印象に変化する。このチーズ、メニューに500円って書いてあったような気がするけど本当にこの値段で合ってますかね……?

 

ある日のふたみセット【3杯目】ダヴィッド・デュバン ニュイ・サン・ジョルジュ2013

泡、白ときて最後の赤がダヴィッド・デュバンのニュイ・サン・ジョルジュ2013。2013は雨の多いヴィンテージだったのだそうだが、Sさんいわく「ヴィンテージが良すぎると造り手の個性が消されてヴィンテージの味になってしまうこともある」とのことで、雨の多い年はかえって生産者の個性が味わえるという。実際、ダヴィッド・デュバンに関しては2013がその周辺の数年間でもっとも良いヴィンテージだと造り手が言っているそうだ。

ダヴィド・デュバンのNSG。雨の多かった年のソフトでやさしい味わい。

外の雨を眺めていたら雲間から太陽が顔を出して花や草木の香りが地面から立ち上がってくるような、陰りのなかに豊かな果実や花の存在を予感させるワインで、雨の多い年でもワインはおいしくなることを教えてくれるような一杯だった。店に飾られた唯一の装飾である花瓶に生けられた一輪のあじさいと相似形を為して、ここに一座建立の感がある。

 

ワインバーふたみとハイエンドかんぴょう

そしてこのワインに合わせるつまみが「かんぴょう」だ。かんぴょう巻きのかんぴょう。私がこの日口にしたもののなかでもっとも驚かされたのはもしかしたらこのかんぴょうだったかもしれない。きしめん状の幅広の状態のまま、5センチ程度の長さに切り揃えられた「かんぴょうのハイエンド」だというその味わいをどう表現すればいいのか。アルデンテここに極まれりといったパスタの歯応えと、薄く伸ばされたモチの柔らかさ、そしてかんぴょうが植物であることを思い出させてくれる繊維の弾力が三世帯同居し、ほのかに沁み込んだ甘みが雨の多い年のピノ・ノワールに唯一欠けた甘味の部分をやさしく手を添えるように補ってくれる。

人は人生の途中でかんぴょう巻きから卒業していくわけじゃないですか普通。子どものころ玉子、エビ、とかと一緒に楽しんでいたかんぴょう巻きと、ワサビの辛さが許容できる年齢になったくらいのタイミングで決別していく。一部高級寿司屋などではかんぴょう巻きが出るみたいな話は知識としては知ってはいても、私が暮らすスシロー的世界観には存在しないわけなんですよハイエンドかんぴょう。ましてやそれをブルゴーニュワインと合わせるなどというのは発想そのものがない。ここでしか味わえないお見事なペアリングだった。

 

ワインバーふたみと侘び茶

さて、以上のように3杯をいただき、90分ほどの滞在を終えた。驚くほど安い、なにかの間違いなんじゃないかという会計を済ませてお店に別れを告げ、雨の三軒茶屋を駅に向けて歩きつつ、今経験したのは一体なんだったのかと考えて、私はワインバーふたみは、つまりSさんという方の美意識が詰まった「茶室」ではないかと感じるに至った。

千利休wikipediaには以下のような記述がある。

・(利休は)茶道具を前もって飾っておかず、すべて茶室に運び入れるところから点前を始める「運び点前」を広めた

ワインバーふたみにはすでに述べたようにボトルも、グラスも飾られていない。まさに「運び手前」。

・茶室内の光を自在に操り必要な場所を必要なだけ照らし、逆に暗くしたい場所は暗いままに(することを可能にした)

ワインバーふたみは基本的に暗く、ワインが乗るカウンターのみが照らされている。

・それまでは単なる通路に過ぎなかった空間を、積極的な茶の空間、もてなしの空間とした

ネタバレ(?)になるので伏せるが、この記述もワインバーふたみとの共通性がある。

もちろん間に支払いが介在しているので私が行ったのはお店にほかならないのだが、自分が自分の意思で足を運んでいるはずなのに、気がつくとSさんの自室に招かれてもてなされているような感覚に陥っている。その感覚を生み出しているのがワインバーふたみの装飾をそぎ落とした茶室的空間であり、どこか茶人的なSさんのもてなしにあるように思うのだ。いや、もちろんワインバーとしてむちゃくちゃ素敵なんですよ。それは前提として。安土桃山の茶人が令和にワインバーをやっていたらこんな感じなんじゃないのひょっとして、みたいな想像をするのは楽しい。これはいま行ける待庵(国宝)。

Twitterのアカウント情報を見る限り、ワインバーふたみは少なくとも2022年6月20日現在は会員制でも紹介制でもないようだ。事実「twitterを見て特攻してくる方もいる」とのことだった。多人数でわいわい楽しむというよりは、静かに楽しくワインと向き合うのに適した空間だと個人的には思うが、Sさんいわく「ワインを気軽に楽しんでもらいたくてつくった」とのことなので(ほんとすか)、ぜひ気軽に予約の連絡を入れてみるといいと思う。ちなみに予約は必須。支払いはカードのみ。詳しくはTwitterのアカウント@Winebar_Futamiをチェックするのがいいと思う。

ワインバーふたみの「ふたみ」はシャンパーニュブルゴーニュ「ふたつの魅力」の「ふたみ」。ふたつ+αの魅力を味わいに、私も必ずまたお邪魔するだろう。次はいつ行こう。早く行きたい。すぐ行きたい。

今度はもっとたくさん飲みたい。