「ワイン一年生」はなぜ名著かを分析してみる
書籍「図解 ワイン一年生(以下、ワイン一年生)」の新刊が7月8日に発売されるというニュースを聞いて、「ワイン一年生」を改めて読み返してみた。
私は2019年1月にワインを飲み始めたので、2020年7月の今、物理的な時間ではワイン二年生になっているはずである。しかし、今回改めて読み返してわかったことがある。「私はまだワイン一年生だ」ということだ。まさかの留年。ダブってた。というのも、「ワイン一年生」の内容が、想像以上に深いものだったことに気がつかされたからだ。
そこで、今回は「ワイン一年生によるワイン一年生のための『ワイン一年生』研究」と題し、名著「ワイン一年生」をアナライズしてみたい。その手始めとして、本のなかの言葉をピックアップしつつ、その論理展開を追ってみよう。著者は、主に3つのことを主張している。
【主張A:ワインを楽しむのに、知識や能力は必要ない】
「ワインの世界を理解するために必要なのは、正しい知識や歴史的背景ではなく“ときめき”」(P004)
「ソムリエの資格を持つ筆者も、味覚についてはまったく自信がありません」(P005)
「『主要キャラの特徴』さえつかめば、ワインの違いはちゃんと楽しめるようになります」(P005)
こういったことが冒頭に書いてあるので、「ああ、これならやさしくワインの世界に入っていけそうだ!」と読者は思う。
ただ、ここで著者が言っているのは、あくまでも知識や能力はワインの味わいを楽しむ上で必要がないということ。実はそれら以外に絶対に必要なものがふたつあることが、後段で明かされる。次の主張を見てみよう。
【主張B:ワインには“ふたつの種類”が存在する】
「ワインにも(中略)『わかりやすくおいしいワイン』と『わかりにくくおいしいワイン』があります」(P032)
「舌のレベルがお子様の状態で、高級ワインを飲んでも、たぶんイマイチに感じると思います」(P069)
著者の主張で非常に鮮やかなのは、この世界に存在するワインをふたつに分類している点にある。それすなわち「わかりやすいワイン」と「わかりにくいワイン」。そして、初心者は基本的に「わかりやすいワイン」を飲むべきであり、そのようなワインは新世界の単一品種のワインに多いと書いてある。
ゆえに、初心者は新世界の単一品種から飲むのがベター。私はこの著者の主張を100%信じ、文字通りワイン一年生だった2019年はほぼ新世界の単一品種だけを飲んで過ごした。
実際のところ、「ワイン一年生」というテーマであれば、ここまでの内容だって十分だと思う。しかし、ここから先がガチの著者の主張だと私は再読して感じた。著者の主張Cを見てみよう。
【主張C:フランスワインこそがワインである】
「フランスワインをおさえておけば世界のワインがなんとなくわかった気になれる」(P107)
「誤解をおそれず言ってしまえば、他の国のワインは『フランスのどこかの地域のパクリ』と言ってもいいくらい」(P107)
「フランスワイン」はせめてお値段三千円くらい出さないと、ハズレが多い」(P067)
ワインの真の魅力に触れようと思えばフランスワインを飲むことが必須であり、フランスワインを楽しむためには舌の経験値と、それなりの投資が必須である。と、著者は遠回しにではあるが、1ミリも妥協はせずに読者に伝えている。フランスワインこそがワインである、と著者は書いてない。しかし、行間にはそのメッセージが隙間なく書き込まれていると私は読んだ。
なにより重要なのは舌の経験値だ。それがなければフランスワイン(ボルドーやブルゴーニュのわかりにくいワイン)を楽しむことができないからだ。
舌の経験値を高めるには?
そして、舌の経験値をあげるために、
・新世界の単一品種のワインを飲む
・グラスだけは良いものを購入する
・ソムリエと会話をしてみる
・温度や料理との組み合わせを考える
・テロワールを想像する
・注ぎ方、嗅ぎ型、味わい方を知る
といったTIPSが紹介されている。
このあたりはまさに初心者向けといった内容だが、その実、本の中での役割はコラムの域を出ないともいえ、著者の真の主張は前述したものだと言って大きく外れていないと思う。すべての道はフランスに通じており、それを楽しむためにはそれなりの経験値とお金が必要ですよということだ。いやでもホント、ド正論だと思います。
約280ページで構成される本のうち、およそ1/3の90ページ超が「フランスワイン」の章で占められている。それ以外の要素は「ワインの基本」の章が70ページ、日本を含めた「新世界」の章は7カ国でわずか40ページほどしか紙幅を割かれていない。
私は2019年1月以来、ほぼ毎日ワインを飲む暮らしを続けているが、フランスワインはたぶん20本くらいしか飲んでない。ボルドーの右岸と左岸の違いも、ブルゴーニュの村やら畑による違いもさっぱり1ミリもわからない。ゆえに「あ、おれダブりだわこれ……」となったというのがことの次第だ。今年もぼくは一年生です!
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旧世界(非フランス)と新世界のワインたち
ちなみに、フランス以外の国を著者がどう評しているかといえば、このような感じ。
・イタリア=個性的
・スペイン=情熱的
・ドイツ=アルザスに似てる
・アメリカ=単純
・オーストラリア=気軽
・ニュージランド=ソーヴィニヨン・ブラン飲んどけ
・チリ=初心者向け
・アルゼンチン=ジェネリックチリ
・南アフリカ=「意外と悪くない」が見つかるかも
・日本=和食と合わせてどうぞ
これくらいのざっくりのまとめ方なのに、「フランス」という大項目のなかには「ボルドー」という中項目があり、それはさらにメドック、サン・テミリオン、ソーテルヌ……といった小項目に分割されている。フランス推しがガチ。
読むたびに発見がある=名著
このフランス推しは、「ワイン」を「日本酒」に置き換えると一発でハラオチすることができる。昨今では日本国外で日本酒が造られるケースもあると聞く。きっとおいしいものもあるはずだ。しかし、本当に日本酒の魅力を知ろうと思ったら……ということだ。そりゃそうだよね、言われてみると。すみませんフランスワイン飲みます。すみませーん、フランスのワインくださいっ(注文)!
というわけで、「ワイン一年生」を読み返してみたら、想像以上にその内容がディープであり、自分自身がまだ「ワイン二年生」に到底なれていないことがわかった。多分来年も無理。まさかの二留濃厚。
いずれにしても、ワインの世界の入り口として素晴らしく、すっかりどっぷりハマってしまった人間の再読にも余裕で耐える。そして読むたびに発見がある。改めて、名著だなあと思った次第。新しいのも読む!