ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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ワインを日本に輸入するには? 直輸入してるショップに聞いてみた!

ワインを日本に輸入するには?

ワインにハマった愛好家が海外旅行でワイナリーなど訪問するとつい妄想しがちなのが、「これを日本に輸入できないかな……」といったこと。それを自宅を改装したショップで売って……と妄想は膨らむものの、想像するだに大変そうな実現へのハードルの前に一瞬で諦め、さて日本帰って仕事すっかと現実に戻るまでがテンプレート。

そんな「ワイン輸入」という高いハードルをクリアしたのが南アフリカ専門の人気ショップ・アフリカー店主の小泉俊幸さんだ。もちろん小泉さんは愛好家とは異なる小売のプロだが、それにしたって小売と輸入では空手とカポエイラぐらいの違いはありそう。

「ワインを輸入する」とはどんな仕事なのか。そこにはどんな苦労や妙味があるのだろうか。「インタビューは苦手だけど、直輸入ワインの話ならいくらでもできます」という小泉さんに話を聞いてみた。

 

アフリカー・小泉さんに聞くワイン直輸入への道

ワインを直輸入する二つの理由

ヒマワイン(以下、ヒマ):そもそもなぜワインを直輸入しようと思ったのですか?

小泉俊幸さん(以下、小泉):理由はふたつあります。ウチは南アフリカワインの専門店ですが、ほかにも近いことをやっているショップはあります。商品全部がカブるわけではないですが、お店のオリジナル商品も欲しいなと。ふたつめは単純に利益率ですね。

ヒマ:自社直輸入ならインポーターを介さない分だけ利益率は高くなりますもんね。でも、小泉さんって輸入の経験ってあったんですか?

「直輸入ワイン」について話を聞いてきました。写真はブランクボトルの「オービトーフロンタルコーテックス」

小泉:全然ないっす(笑)。

ヒマ:ですよね! 最初はどうやってワインを探したんですか?

ワインをどうやって見つける?

小泉:2018年にケープワインっていうケープタウンでやるイベントに大使館から招待してもらったんです。これはいいタイミングだというんで、現地に10日くらい滞在しました。

ヒマ:見本市で試飲して「これを輸入したいんだけど……」みたいに言う感じですか?

小泉:そうですね。試飲して、価格を聞いて、よければ「後日訪問します」とアポをとる。それで現地滞在中に訪ねて行って決める感じですね。

ヒマ:どういう基準でワインを選ぶんですか?

直輸入ワインをどう選ぶか?

小泉:アフリカーではマスダさんとかラフィネさん(※いずれもインポーター)のワインを多く取り扱っているのですが、その中間という感じです。マスダさんは原則よく知られている品種のワイン中心。ラフィネはマニアックな品種のワインが多いんですが、ウチはその両方ですね。

ヒマ:わかりやすい……。それでワイナリーに行くわけじゃないですか。するとどんな感じになるわけですか。

小泉:もてなされますよね、やっぱり(笑)。あれも飲めこれも飲め、宿泊施設があるなら泊まっていけと。それで見積もりをもらって帰ってくる。

ヒマ:ワインの価格と最低仕入数とかが書いたリストをもらってくるわけですか。

ワイン輸入のロット数

小泉:ですね。ロットはだいたいどのワイナリーも「ワンパレット」からです。

ヒマ:ワンパレットっていうと……(調べる)。100かける120センチくらいの板ってことですね。

二段積みされたパレット(画像はwikipediaより)

小泉:そうです。だいたいワンパレットで600から800本くらい。たとえば「ボタニカ」という直輸入しているワイナリーがありますが、ボタニカのワインをいろいろ選んで600本を組むわけです。

ヒマ:それを船に乗せて日本に運んでくるんですか?

小泉:パレットはコンテナに積まなくちゃいけないんです。コンテナには20フィートと40フィートがあって、20フィートで5000本くらい。40フィートで1万本くらい積めるんですが、ここで難しいのが、南アフリカは(温度調整機能の備わった)リーファーコンテナの混載ができないんです。なので、自分たちでコンテナをまるまる一個つくらなくちゃいけない。

ヒマ:20フィートコンテナというと……(調べる)。なるほど、だいたい長さが6メートル、横幅と高さがだいたい2.5メートルの巨大な箱ってことですね。内部はおよそ8.5畳とあります。広っ。いずれにしても、南アから日本にワインを輸入しようと思ったら「5000本」が1単位になるわけですね。

コンテナ。(画像はwikipediaより)

小泉:さらに、この20フィートコンテナがコロナ禍で予約できなくなってしまったんです。なので40フィートを使うしかない。空気を運ぶのはもったいないですから、自分が代表者になってほかのインポーターのワインも一緒に運んでいます。

ヒマ:それはオッケーなんですね。しかし、どうやって調べたんですか? そういう南アのコンテナ事情とか。

小泉:物流業者に問い合わせしまくりました。コンテナの手配会社とか、ワイン専門の運送会社とかがありますから。

ヒマ:ともかくそうして1万本を日本に運んでくるわけですね。

小泉:でも、どうしてもコンテナを埋めきれないんですよ。結果、一本あたりの輸送コストは割高になってしまう。せっかく安くておいしいワインを輸入しているのに値段が高くなっちゃったら意味がないし、他社に価格で負けてしまう。そこで通関業務を自社でやろうとなったんです。ここを自社でやるのは稀だと思います。

 

ワインの輸入と通関業務

通関業務とは?

ヒマ:通関業務って全然イメージできないんですが、具体的にどんなことをやるんですか?

小泉:ふたつ大きな業務があるんです。ひとつめが食品届け。ふたつめが通関です。食品届けに関しては、通常のワインの手続きは面倒ですがほぼ問題は起きません。ただ、一番大変だったのが先ほど名前を挙げたボタニカのベルモットです。

ヒマ:あ、以前試飲させていただいたやつですね。紅茶みたいな香りがして甘やかでとてもおいしかった記憶があります。

ボタニカのベルモット

小泉:ベルモットって、ワインにいろいろなボタニカル(※この場合ハーブやスパイスなどのこと)を漬け込んで造るんですが、なにを使ってるかを全部書き出さなくちゃいけないんですよ。

ヒマ:あ、大変そう。

小泉:「なにを使っているか」自体はワイナリーに資料があるので問題ないんです。アブサンってわかりますか?

ヒマ:水島新司の野球漫画……じゃなくて、薬草酒みたいなやつですよね。

小泉:そうです。その主原料のひとつにニガヨモギがあるんですが、ニガヨモギにはツジョンっていう成分が入っていて、これは成分の含有量に規定があるんです。脳の中枢神経に作用する成分らしくて。ボタニカのベルモットには、ボタニカルとしてこのニガヨモギが含まれていたんです。

himawine.hatenablog.com

ヒマ:うわ、じゃあ成分検査にかけなくちゃいけないとかですか。

小泉:そうです。それでもし規定値を超えた場合、破棄しなくちゃいけない上に罰まであるんですよ。

ヒマ:えぐいっすね……。

小泉:それで2週間くらい足止めをくらいました。結果、ツジョンは検出されなかったんですが、その間の倉庫費はかかるし、検査代はかかるしで、もうベルモットを持ってくるのはやめようと思いました。

ヒマ:いやはや大変ですね。ともかくそれが「食品届け」。もうひとつ「通関」があるわけですよね。

関税と酒税

小泉:こちらは税金の話ですね。ワインの場合、仕入れ価格+船賃、つまり日本に来るまでの料金をベースに、1リットルあたり15%または1本あたり125円の低いほうの金額が課税されます。それが「関税」です。

ヒマ:なんかちょっと複雑ですね。てことは……750ml入りのワインであれば、だいたい原価ベースで900円くらいを超えたら一律125円が課されるってイメージですかね。

5000本のワインを輸入、税金はいくらかかる?

小泉:そんな感じです。たとえば今年は5000本くらいを輸入したのですが、5000本は3750リットルなので、125円をかけるとざっくり46万8000円が関税としてかかります。そこに1キロリットルあたり9万円の酒税もかかる。5000本だと33万7000円。プラス消費税もかかります。

ヒマ:うひゃー、いきなり100万円くらい税金で持っていかれるんですね。

小泉:コンテナをシェアしているので実際はそれほどかかりませんが、コンテナをフルに入れて仕入れると、仕入れ代も含めて1000万円くらい使う感じになると思います。そこからさらに国内の輸送費と倉庫代がかかります。

ヒマ:気合を入れて売らないと、となるわけですが、販売価格はいつ決めるんですか?

輸入したワインの販売価格はいつ・どう決めるか?

小泉:僕の場合は、仕入れの総費用が見えてきて、1本あたりの原価がいくらになったかが確認できた時点ですね。

ヒマ:原価に対して何割乗せたのが販売価格、とかそんな感じでしょうか。

小泉:一旦そのように一律で決めます。そのあとは個別に調整です。

ヒマ:そこでようやくショップの代表の顔に戻るわけですね(笑)。

小泉:ウチの場合、小売と卸を両方やっているので、卸価格の利幅を少なく設定しているんです。その分小売価格を安くできるのがウチの強みです。

ヒマ:どういうことでしょう?

小泉:アフリカーの売り上げはネット通販の割合が一番大きくて、次に店舗での小売、その次が飲食店への卸、最後に他の小売への卸なんです。卸の割合が小さいから、そこの利幅は小さくて済む。

ヒマ:たとえば1000円で仕入れたワインを普通だったら2000円を卸価格にするところ、1500円に設定できるみたいなことでしょうか? で、小売は前者を3000円、後者を2500円で売るみたいな。数字は完全に適当ですけど。

小泉:だいたいそんな感じです。ただ、取り扱いのある他のインポーターさんとの関係性もあるし、悩みながらやっている感じです。

ヒマ:直輸入だからこそ安くできるけど、価格破壊的なことをするわけにもいかないですもんね。なんていうか、セルフ板挟みっていうか……。

小泉:だから、既存の卸先様は大事にしつつ、今後はさらに小売に力を入れていきたいんです。小売を増やせばインポーター経由の商品もより多く仕入れられるし、直で取引しているワイナリーのワインもより多く輸入できる。みんなWINですから。

ヒマ:でも「小売を伸ばす」って実は一番難しくないですか?

小泉:そうなんですよ。なので来年もう一店舗出したいと思っています。場所はまだ未定ですが、今回アフリカーをリニューアル(2023年3月に店内を改装、2階をジンの専門店とし、1階には生ハムの量り売りをも行うなど輸入食材などの割合を大幅に増やした)したのもその一環です。ワインショップとしてのあるべき姿とはなんだろう、と考えてリニューアルしたので。

アフリカーは生ハムなどの食品に力を入れてリニューアル。「ワインショップのあるべき姿」を模索しているという

ヒマ:なんかビッグニュースが飛び出しましたね。そうか、そうすればより多くのワインを輸入することも可能になりますね。

小泉:やっぱり、輸入をはじめてみると自社輸入しているワイナリーへの思い入れはすごいものになるんです。もっと売ってあげたい! という気持ちと、売れないと切られちゃうっていう気持ちと両方があって。やっぱり、日本市場の代表としてインポートしているので、生産者を満足させる量を売るっていうのは使命だと思っています。

 

アフリカーのオススメ直輸入ワイン

ヒマ:では最後にオススメの直輸入ワインをいくつか教えてもらえますか?

小泉:これおいしいですよ。ザ・フレッジの「ヴァガボンド」。おいしいブドウを南ア中を放浪して見つけてきてブレンドしたというワインだから、放浪者を意味する「ヴァガボンド」と名付けられたワイン。直輸入だからこその価格になっていると思います。

ヒマ:ザ・フレッジといえば「ならずもののきゅうさい」もおいしいですよね。

小泉:はい。赤ならボタニカのピノ・ノワール。ステレンボッシュとヘメル・アン・アードのブドウで造っているのです少しナチュラルなニュアンスのあるキレイ系。2018ヴィンテージでちょい熟なのがまたいいんです。それとこれ。「ジェネラル・ブージャレー」。

ジェネラル・ブージャレー

ヒマ:一風変わった感じですね。

小泉:ボジョレー・ヌーヴォーをモジってるんですね。サンソーやグルナッシュにシュナン・ブランが混ざったロゼチックな赤ワインで、開けたては少し還元香があるけど自然派入門にオススメです。明日直輸入ワインが40種2000本入荷するので、ぜひお店に遊びにきてもらいたいですね。

ヒマ:Twitterではアフリカーがカルディ化したと評判ですもんね。今日はありがとうございました!

話の流れでアフリカー直輸入ワインのPOPを作ることに。ぜひ店舗でご確認ください!↓

a.r10.to

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