ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

フランス・ローヌの帝王「ギガル」のワインを飲む会開催! なにがおいしかった?

ローヌとギガル

「避けて通れない道」みたいなものがこの世にはある。日本映画ファンなら黒澤と小津は避けて通れない、みたいな。ワインだったらブルゴーニュボルドーシャンパーニュはどこをどう考えても避けて通れない。ではジュラやサヴォワは? これは避けて通れるっちゃ通れそう。ロワールは……ギリいける。間一髪縫っていける気がする。

しかしローヌはダメだ。どうしても避けて通れない。シラー単体、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードルのGSMブレンド、さらにはヴィオニエと魅惑の品種(ブレンド)が多すぎるし、それらの世界的広がりがありすぎて、避けて通ろうにもどうしてもブチ当たる。

そのローヌを代表する造り手がギガルだ。北ローヌの主要なアペラシオンを網羅し、どれを飲んでもハズレがなく、またアペラシオンの個性も忠実に表現されていると言われる。

ならば、ギガルを飲めばローヌがわかるということになるまいか。ということで、ギガルのワインだけを飲む会、「きがるにギガル会」を企画したところ、ど平日にも関わらず7名の方にお集まりいただいた。

ちなみに今回は私が発案者であり幹事でもあったため会の最中はなにかと忙しく、写真は一枚もない。文字ばっかりで読みにくくて恐縮だが、興味のある方はぜひ読んでみてください。

 

ギガル会のワインリスト

まずワインリストがこちら。

泡に加えて白と赤それぞれ3本ずつの構成で、広域名→アペラシオン名→区画名的なやつ、と段々価格が高くなっていく構成。ちなみに、白は2020、赤は2017とヴィンテージも揃えた(どちらもローヌの良年)のだが、これは結果的にすごくいい結果につながった。

というわけで、ボトルバイボトルで会の模様を振り返っていこう。

 

【1杯目】ドメーヌ・ド・キュイロン「ヴィオニエ・メソッド・トラディション2021」

さて、このギガル会は最初の1杯だけが非・ギガル(ギガルは泡がない)で、ドメーヌ・ド・キュイロンのヴィオニエ・メソッド・トラディション2021。「標高が高すぎるという理由でコンドリューが名乗れない」というなんとも気の毒な畑で造るワインで、会はこの泡で乾杯するところからスタート。

ヴィオニエの泡は初めて飲んだが、2021VTとわずかに熟成していることもあってかスティルのヴィオニエの印象とは異なり、クリーミー。メソッド・トラディショナルであることもあり、まるでほんのちょっと熟成したシャンパーニュのブラン・ド・ブランみたいなワインだった。

こちらのワイン、提供時の温度が少し高かったかもと反省している。もっと冷やして飲みたいワインだったかもしれない。

 

【2杯目】コート・デュ・ローヌ・ブラン2020

でもって次に飲んだのがギガルのコート・デュ・ローヌ・ブラン2020。ヴィオニエ、ルーサンヌ、マルサンヌ、クラレット、ブール・ブラン、グルナッシュ・ブランがブレンドされたややこしいワインだが、これがまあほんとに安い白ワインのお手本とはこれか、という仕上がり。

私はギガルのワインは赤ばかり飲んで白をほとんど飲んでなかったのだがこのクオリティには改めて驚愕。1000円台最強まであんじゃないすかこの白。

味わい的には「いいシャルドネ」以外のなにものでもない。マコンの3000円前後の白、とか言われたときに「なるほどね」みたいに言いそうな味筋だ。その半分くらいの実売価格でこのクオリティはお見事。

このあといいワインをたくさん飲んでどれも素晴らしかったのだが、不思議なことにこの広域ローヌ白の良さは最後まで色褪せなかった。普通「比べちゃうとしょぼい」になるところ、ずーっと「これはこれでうまい」だった。

 

【3杯目】コンドリュー2020

続いて飲んだのがコンドリュー2020だ。これは、今回飲んでみたかったワインの一つであるコンドリュー ラ・ドリアーヌ2020と飲み比べてみたくて用意したワインで、ヴィオニエ100%で造られている。コンドリュー は新樽1/3で8か月熟成、コンドリュー ラ・ドリアーヌは新樽率100%で8か月熟成+マロ発酵という違い。ちなみにギガルの新樽は自分たちで造っているのだそうだ。こだわりがエグい。

ヴィオニエの特徴は、アロマティックなのに酸が高くないところ。その印象が白桃などのストーンフルーツ感につながっているのだが、このワインの印象はズバリ最上級のポカリ。ポカリプレミアム。ポカリプレミアムDX。

新樽で熟成させているからなのか、アロマティックな印象は薄れ、シャルドネ的な厚みが感じられる。香りも桃感はあまりなく、むしろ紅茶のような印象になっている。参加者のみなさんのコメントは「放課後に飲んだ午後の紅茶」で、それもよくわかる。集まった善男善女みなしばし思い思いの郷愁に耽るの図となったのだった。

 

【4杯目】コンドリュー ラ・ドリアーヌ2020

だが、その印象を超えてきたのがやはり「コンドリュー ラ・ドリアーヌ2020」だったのだった。これはブラインドでヴィオニエと言い当てるのは私のレベルではほぼ不可能で、ブルゴーニュのすごくいいやつやすごくいいボルドー・ブランにも似た、フランスのおいしい白ワイン味がする。前に飲んだコンドリューよりも、さらにアロマティック感は少なめだ。

新樽で品種の個性が覆い隠されているのかといえばそんなことはなく、言われてみればたしかにヴィオニエ。ヴィオニエが持つ華やかさを樽がブーストし、マロ発酵も経ているからか、黄金色のとろっとろうまい液へと変化している。すごいなヴィオニエ、新樽100に負けない力が君にはあったのだね…!

今飲んでもおいしいが、あと何年か経ってから飲んでもまたおいしそうという素晴らしいワインだった。ありがとう、ラ・ドリアーヌ。

 

【5杯目】コート・デュ・ローヌ ルージュ 2017

そして会は赤ゾーンへと突入していく。まず飲むのは白同様、広域ローヌから。シラー、グルナッシュ、ムールヴェードルのGSMブレンドで、ワイン高騰が著しい昨今でも2000円を切る価格で手に入る安ワインだが、この2017VTはVTからプラス7年の今飲んで余裕でおいしい。

思えばこれは「シラーっておいしいな」と初めて思った3-4年前のころにツイッターでおすすめしてもらったワインなのであった。あの日教えてもらったことが今日のギガル会につながっていて、私は今も1000円台で買える世界でももっとも偉大なワインがギガルのコート・デュ・ローヌ赤白だと思っている。ありがとうございます。

シラーが中心でありながらグルナッシュ、ムールヴェードルが加わることで非常にバランスが良い。果実が主体の味わいなので、とっつきやすさも抜群だ。

2017は2000円を上回るけど、ご興味あれば。味わいに対しては間違いなく安い

 

【6杯目】シャトー・ヌフ・デュ・パプ ルージュ 2017

そして、次に開けたシャトー・ヌフ・デュ・パプ2017がこのイベントの影の主役的存在となった。金額的にはこの会では下から数えたほうが早いワインだが、なんと参加8名中3名が「今日のベスト」に挙げる大健闘具合だったのだ。

グルナッシュ70%、ムールヴェードル15%、シラー10%、その他5%というGSMブレンド。ステンレスタンクで発酵し、36か月大樽で発酵させたというワインだが、まさにピークの絶頂にあるような味わいだったと思う。

たっぷりとした果実があり、それを支える酸があり、おそらくは7年の歳月によって角の取れた渋みが指揮者のように全体を調和させていた。2017という大波の真上に立ったかのような乗るしかないこのビッグウェーブに状態。みなさん、ギガルのCNDP2017は見かけたら買ってください。

 

【7杯目】シャトー・ダンピュイ 2017

シャトーヌフ・デュ・パプが波の真上だとしたら、来るべき波に備えてパドリングしてる真っ最中みたいな状態だったのが、この日私が一番楽しみにしていたギガルのコートロティ、シャトー・ダンピュイ2017だった。ダンピュイ村はギガルの本拠地。本拠地キュヴェにハズレなしの法則に従って、これも大変おいしいワインだった。

セパージュはシラー93%、ヴィオニエ7%という北ローヌならではの感じ。果実は濃く、奥行きや深さもありつつヴィオニエが加わっていることによる独特な清涼感がなんとも良い。

前に飲んだCNDPが完全に調和していたのに対して、こちらはちょっとまだ荒々しい感じなきにしもあらずだがそのポテンシャルは間違いなく感じられるという飲む山下舜平太感のあるワインだったのだった急にオリックス・バファローズの投手にたとえて言うと

私はプロ野球絡みのイベントでいうとキャンプインの次にドラフト会議が好きなタイプの野球好きなので、こういう(ポテンシャルの高い)ワインをこういう(まだちょい早い)タイミングで飲むのが好き。故にこの日のベストはこれだと感じた。すべてが溶け合う前の、まだちょっと青い感じが好きなんです。好きなんです!

 

【8杯目】エルミタージュ・ブラン エクス・ヴォト 2001

さて、これで用意したワインは全部開いた……のだが会はまだまだ終わらない。参加者の一人・DHGさんがとんでもないワインを持ち込んでくれていたのだった。それが良年にしか造られないギガルの白の最高峰「エルミタージュ・ブラン エクス・ヴォト」、それも2001年ヴィンテージ(!)。今買おうと思ったらこれ1本でそれ以外の私の用意した7本より余裕で高額、という恐ろしいワインである。

なんでもDHGさん、コート・デュ・ローヌ(安い)と間違えてコート・ロティ(高い)を飲んで以来のローヌ好きなのだそうで、このエクス・ヴォトはワインにハマった頃に勢いで購入、その後長くセラーで眠り続けていたのをこのギガル会をいい機会だとお持ち込みいただいたのだったありがてえありがてえ。

マルサンヌ90%とルーサンヌ10%を100%新樽発酵、100%新樽熟成させたというワイン。色はかなり褐色に近づいており、23年の時の経過を感じさせる。そしてグラスに接近して驚いた、「ど…ドンペリ!?」というのが第一印象だ。熟成したドン・ペリニヨン的な、ものすごく芳醇な熟成香がする。マルサンヌ(とルーサンヌ)ってこんな感じになんの!?

DHGさん家のセラーで約20年眠っていたこのワイン、四半世紀に近い時を経て、飲んでみても熟成がかなり進んでいる。2020年の白ワインとは明らかに異なる、芳醇・豊穣・爛熟の極み。ワインという領域を逸脱し、エクス・ヴォト(神への供物)に相応しい神性を帯びた味わいになっている。いやはやすごい。DHGさんに改めて感謝したい。

 

ギガル会を終えて

というわけでギガル会は終わった。アペラシオンごとの個性までつかめたかと言われればそんな簡単なものではなかったが、新樽発酵・熟成させたヴィオニエがまるでシャルドネのような味わいになることがわかったし、マルサンヌとルーサンヌのポテンシャルも知ることができた。そしてローヌの2017年は間違いなくいい年だ。2017の赤と2020の白を3本ずつ飲み比べたときに、現時点でおいしかったのは2017年の赤だった。とくにシャトーヌフ・デュ・パプ ルージュは間違いなくコスパNO.1だったと思う。

そしてなにより「ローヌの個性」「ローヌの魅力」は確実にインストールすることができたのだった。

お店は牛込神楽坂のラビチュード。事前にワインを持ち込んでいたこともあり、ワインに寄せた料理をちょこちょこ提供してくださり、終わってみればお腹も満足。いいお店、いい人といい会ができてよかった。

お集まりいただいた皆様に感謝。またきがるにギガル飲みましょう!