ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワイン歴2年のワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ピエモンテふたたび! 常識を覆す脅威のワイン特化個人宅を再訪した話

「山下家」とはなにか

山下家、という場所がある。関東南部の某都市に存在する、個人宅だ。個人宅なので山下さんという個人が住んでいる普通のご自宅なのだが、あるじである山下さんのワイン愛が一般常識をややというかかなりというか大幅に逸脱してしまっていることから、とてもじゃないが「普通のご自宅」と呼べる状態ではなくなっており、その様子は以前記事化した。

himawine.hatenablog.com

そんな山下家が2022年に移転。さらにパワーアップしているというその様子を覗きに、最高気温36度の6月とは思えない酷暑のなかを新・山下家へと向かった。

 

新・山下家へ

最寄駅で本日ご一緒する家飲みすこ太郎さんと合流し、タクシーで山下家へと向かう。住所を頼りに住宅街を走り、「おそらくこのへん」という場所で料金を支払いタクシーを降りる。周辺には瓦屋根の一軒家に混じり、落ち着いた雰囲気の集合住宅が見える。おそらくあの建物の一室が新たな山下家であるはずだ。

真夏を思わせる暑さ。しかしまだ6月であることで蝉の鳴き声は聞こえない。山下さんから聞いているのは住所だけで、部屋番号はわからない。準備に大忙しであるはずの山下さんに余計な手間はおかけしたくない以上、どの部屋が山下家なのかを見極めて、自分たちでたどり着くしかあるまい。

「2階じゃないですよね」とすこ太郎さん。思えば旧・山下家も1階であった。大量のワインボトルを貯蔵する上で上層階は危険だし、引っ越しの手間も増える。新居もまず間違いなく1階であるはずだ。

1階の部屋の様子をひとつひとつ見ていく。玄関と通路に面した曇りガラスの様子から、室内に居住する人の生活やパーソナルは思ったよりも見えてくるものだ。一言でいってそれは「生活感」と呼ばれるものだ。この部屋の家族は子育て真っ最中だな……などと失礼にならぬ程度に眺めていってある部屋の前で足が止まる。

外界を隔絶するようにピタリと閉ざされた鎧戸。エントランス付近のどこか投げやりな殺風景さ。それでいて人が住んでいる気配だけは存在する。まだ閉じ切っているグランヴァンのような印象の部屋を前に、初対面10分後のすこ太郎さんと私の間にアイコンタクトが成立する。「ここですね」と。果たしてそれは正解で、その部屋こそが新・山下家なのであった。山下さんご無沙汰してます…!

 

インサイド・山下家

とはいえ目の前にあるのは普通の集合住宅の普通のドアだ。それを開けると、普通の玄関に普通の靴が置いてある。短い通路にはドアが4つ。配置的に左手前のふたつのドアは水回りだろう。それらを除けば奥に続く扉がひとつと、右手にもうひとつドアが残る。

この奥への扉が異界への扉であることがのちに判明するのだが、まずは右手の扉へと案内される。そこにはダイニングキッチンがあり、山下家さんが自作されたという鉄枠と集合材で組み上げられたテーブルが鎮座している。

ダイニングにも大きなセラーがあるのだがご覧のとおりからっぽ。その理由は……?

冷蔵庫があり、ワインセラーがふたつに食材を置く棚がある。窓は閉ざされ、天井からは裸電球が吊り下がっている。照明器具が同じ=光の色が同じなので、内部の印象は旧山下家と驚くほど変わらない。

ダイニングの隣にはもうひと部屋があり、そこには山下さんのもうひとつの専門領域であるウイスキーがおそらく元々は押し入れだったと思われるスペースに並べられている。6畳ほどの部屋には2人がけの小さなソファがあり、そこに掛け布団が乱雑に乗せられている。山下さんの寝床がここだ。小さなソファからは山下さんの体が普通にはみ出すそうだが、山下さんいわく「たまに泊まると快活クラブ(の個室)でも広くて……」とのことでそのソファのその狭さが安眠には欠かせないようだ。忍者ハットリくんは天井で眠り、ザ・ファブルの主人公は浴槽で眠る。人にはそれぞれ熟睡できる場所があるのだ(なんの話だっけ)。

 

山下家の「セラー部屋」へ

さて、この部屋にないものがひとつある。ワインだ。旧・山下家ではダイニングの壁一面がワインで埋め尽くされ、その隣の部屋はワインの木箱が積み上げられたいわば業者の倉庫状態だった。あの大量のワインたちはどこに行ったのだろうか?

「じゃあ、そろそろはじめましょうか」

山下さんが言い、入り口から見えたもうひとつの扉が開かれる。キッチンがあり、ダイニングがあり、ソファの置かれた部屋を仮にリビングルームとするならば、通常の感覚ならば残る一部屋は寝室だが、あいにくここは山下家。眠るのは人ではなく大量のワインであり、ひと部屋まるまるがワインセラーとなっているのだった。

はじまるザマス。

部屋の広さは4畳半ほどであろうか(あとから聞いたらなんと8畳だそうだ。空間のワイン占有率があまりに高すぎることで完全に目測を誤った)。入って正面と右手の壁はワインで埋め尽くされている。部屋の中央には金属製の枠と集合材で組み上げられたテーブルが設置され、その内部にもワインが大量に格納されている。そのすべてが山下さんの自作だというから驚く。

棚もテーブルもすべて主人の自作だ。

本数はと尋ねると「800〜900本くらいですかね」と山下さん。そのうちもっとも多いのはやはりイタリアワインで、「ピエモンテだけで200本」はあるというネッビ率(所有するワインのうちピエモンテネッビオーロが占める率を示す指標)の高さ。

パッと見フランスワインも多くあり、とくにボルドーが目立つ。「ほとんど一人で飲むので」と泡モノの比率は少なく、さらに少ないのが新世界のワイン。1000本近くあるにも関わらず、アメリカワインは「数本あるかないか」なのだそうだ。

山下さんはナチュラルワイン好きでもあるため、オーストラリア(とくにルーシー・マルゴーが好みだそうだ)のワインは多め。日本のワインも多くある。チリやアルゼンチンのワインはほぼないが、なぜか王道中の王道銘柄である「モンテスアルファ」の2014VTが存在し、「面白いから」あと数年熟成させてみるそうだ。熟成モンテスアルファ飲みたい。

見つけるたびに買っているというルーシー・マルゴーの数々。

これだけの本数のワインを一体どのようにして運んだのか。やはりというかなんというかワインを引っ越し業者の手に触れさせることはなく、日中の暑気が払われた夜にクルマを手配、夜陰に紛れてナイトハーヴェストならぬナイトデリバリーしたのだという。

ワインを懐中電灯で探す山下さん(快晴の午後3時)。

ダイニングルームとセラールームは、同じ照明と、同じ素材を使った家具が配置されていることで、レストランと併設のバーのような相似形を為している。そのセラー部屋でまず最初の1杯が開栓された。(ちなみにこの日の会は会費制で、料理もお酒もすべて山下さんにお任せというスタイル)

 

山下家ワイン会のはじまり

「ビール代わりにガブガブ飲みましょう」と出していただいた1杯目はドイツはバーデンの造り手、トラウトワインのペットナット シュペートブルグンダーNV。ドイツのナチュラルなペットナットという珍しいワインで、酸がクッキリとあり、ラベルにあるリンゴをかじったときのような果実味があって、今日のような暑い日の乾杯に最適なワインだった。

ドイツのシュペートブルグンダーのペットナットで乾杯。

このあたりで「ナチュールが生産されやすい産地」の話が出る。山下さんいわくそれは「病気のリスクの少ない土地」であるが、例外といえるのがジュラ。フランスのなかでも多雨な地域ながら、ナチュラルなワイン造りが盛んなんです……そう言い残して席を立った山下さんが1分後にジュラのワインを持って戻ってきた。ジュラの話題が出た瞬間に山下さんコンピュータが起動、自宅のストックからジュラの位置を脳内検索、その後に出すワインの流れまでを計算し、いけると判断して持ってくるまでが1分だ。山下さん、脳にAIかなんか入ってる…?

「ヴァン・ジョーヌまでいかない」熟成期間のジュラのサヴァニャン。個性的でメモラブルなワイン。

「ヴァン・ジョーヌまでいかないやつ」だというそのワインの名前はフィリップ・ヴァンデルのサヴァニャン2016。これが非常に面白いワインだった。

ヴァン・ジョーヌはサヴァニャンで造られるジュラの名物。樽に入れたまま補酒を行わずに熟成させるのが特徴で、結果、液体表面には酸膜酵母と呼ばれる膜が形成される。この状態で熟成させることでワインの酸化熟成が進み、独特のニュアンスをワインに与える。このあたりの解説はこの日の同席者であり、ワインを熱心に勉強されているとらワインさんが教えてくれた。すげえなこの会。

私、ならびにすこ太郎さんは、山下さん、とらワインさんの解説を聞きながら「ほえ〜」「なるほど〜」「うひょ〜」などと感心しつつ合間にワインをすする係。特等席である。

このワインはヴァン・ジョーヌと同じような造りながらヴァン・ジョーヌに規定されたほどの熟成期間を経ない(バリック36カ月)というワイン。シェリーのような独特の風味があって、酸化熟成のニュアンスが強くありながら酸味がきつすぎない面白いワインだった。

 

シャスラとお豆腐

続いて山下さんが出してくれたのがスイスのシャスラで造られた白ワインで、シャトー・ド・マルセールという造り手のキュヴェ名は「Fechy」。シャスラ、「スイスを代表する品種」という痩せた知識はあれど飲むのははじめてだ。

「目をつぶって飲んだら日本酒と勘違いしそうな吟醸香がありますね」と山下さん・とらワインさんが口を揃えるワインで、たしかに米の風味のない日本酒、あるいはブドウの要素を感じないワインといった永世中立国ニュートラルさがあった。

シャスラ初体験。スイスのグランクリュ格付けみたい。

このワインに合わせて出していただいたのが豆腐の味噌漬け。「白和えくらいを目指しました」と絶妙に水抜きされた豆腐に白いほうは麦味噌、茶色いほうは赤味噌を合わせ、それぞれディルとピンクペッパーで風味付けされた恐るべきことに山下さんのオリジナルレシピだという一品だ。

右が麦味噌×ディル、左が赤味噌×ピンクペッパー。

これおそらく、シャスラを日本酒に見立て、それを引き立てる肴として合わせたのではないかと思う。すさまじくないすかこのセンス。スイスだからチーズとかじゃないわけなんですよ異次元。

 

ブレットと重慶大厦と私

続いて山下さんが「参考までに」と出してくれたのが、なんとブレットのワイン。ブレットはブレタノマイセスという酵母が引き起こす欠陥臭で、「馬の汗」とか言われる香り。最近購入したワインがあまりに典型的なブレットだったため保存しておいたのだという。

ときは2000年、バックパックを背負ったハタチそこそこの私は香港の重慶大厦(チョンキンマンション)に宿を取った。薄暗い照明の下を多様な人種がうごめくカオス的空間の、一泊たしか1000円もしないような安宿のベッドのあの〜これって交換してますか? っていうシーツの汗とカビの香りを瞬時に思い出す深夜特急的スメル。これがブレットかー!

程度は違えどこの香りがするワインって意外とあるよね……? という印象で、これを珍重する人もいませんか? とおずおず聞いてみたところ「それはナチュールに(悪い意味で)慣れてしまってる人ですね」と山下さん。やべえ。ブレットの香りは還元でも似た香りが出ることがあるそうで、スワリングして飛ぶのが還元香、飛ばないのがブレットとのことだった。山下家、話題もディープだ。

 

山下さんの日常

ここまでで約4000ワードを費やしているが、会はまだまだ序盤だ。ともあれこの会の模様をはしょる気はさらさらない。畢竟道中は長くなるのでこのあたりで閑話休題、山下さんがこの家でいかに過ごしているのかが気になったので聞いてみた。

訪れる我々にとっては非日常感1000%の山下家だが、山下さんにとっては当たり前だがご自宅だ。ここで一体どんな日常を送っているのだろうか。

朝目覚め、仕事に行き、帰宅する。すると、「夏は涼しく、冬は暖かい」という15度キープのこのセラー部屋に直行し、まずは「ぼけーとする」のだそうだ。テレビもない山下家、21時半くらいまでをワインとともに過ごし、やおら飲み始めるのが山下さんの日常。

山下さんは料理の腕前も尋常ではないが「食べるのに興味ないんです」と言い、「ふだん一番食べるのは松屋。夏はゆで太郎」なのだそうで、「引っ越したら近所にゆで太郎がなかったんですよ……この夏いったいどうしたらいいのか……」と嘆いておられてちょっと総じてつっこみが大渋滞している感じなのだが、ともかく夏の暑さに負けないように栄養はしっかりと摂っていただきたいものである(なんの話だっけ)。

 

リースリングバローロ、そして2軒目感

ワインの話に戻ろう。続いて出していただいたのだが山下さんの好きな産地のひとつであるというアルザスの造り手、ジェラール・シュレールのリースリング・キュヴェ・パルティキュリエール 2012。

アルザスリースリングはいつだっていいぞ。

すこ太郎さんいわく「紹興酒っぽい香り」というワイン。先ほど飲んだジュラのワインに似た印象で、とらワインさんいわく「ジュラはアセトアルデヒド的、こちらは酢酸エチル的」とのことだった。少しツンとするような酸味があるが、スワリングすると丸みをおびた蜜っぽさが顔を出してきて、これもおいしいワインだった。

さて、このあたりから遅れてきた4人目のゲスト・いさみさんも合流。セラー部屋にいるのも(寒さ的に)限界という感じになり、ダイニングルームに移動する運びとなった。ここでも私は驚かされることになる。同じ自宅のなかを数メートル移動しただけなのに2軒目感すごい……!

そんな2軒目、じゃなかったダイニングルームに移動する前後で登場したのは山下家の通称であるピエモンテを代表するワイン、バローロ。「モダンバローロとクラシックバローロの飲み比べです」と出していただいたのが、ルイージ・エイナウディバローロ ルード2015とマッソリーニのバローロ2015だ。

バローロ飲み比べで中盤戦に突入していきます。

ルイージ・エイナウディがモダン、マッソリーニがクラシックという飲み比べ。ヴィンテージが揃い、純粋に製法だけが比較できるという贅沢すぎる飲み比べだ。ちなみにどちらも2日前に抜栓されてこの日を待っていたそうだ。ありがてえ……!

山下さんがそれぞれを注いだグラスにペンで「M」と「C」と目印を書いてくれたので、せっかくだからと手元でグラスをシャッフルし、ブラインド状態で飲んでみた。どちらも素晴らしくおいしいワインなのだが、どちらが好きかと問われれば明確に答えることができる。隠していたグラスの印を確認すると「C」のほう、すなわちクラシックなつくりのマッソリーニが私は好みだった。

私は「C」が好きでした。

あくまで酩酊状態の私の感想なのでアテにはならないが、モダンのほうは果実の香りと味わいが豊かに感じられる一方、お酒自体になんていうんですかね。強さ、みたいなものが感じられた。一方でクラシックのほうは香りと味わいが調和してエレガントさがあり、強いというよりはやさしいワインだなと感じられたのだった。

同じ牛肉でも前者はステーキ、後者はしゃぶしゃぶみたいな印象の違い。同じ工程を踏んで飲んだいさみさんはモダンのほうを絶賛していたし、どちらをとるかは完全に好みの問題だと思われる。

「長期間ブドウを漬け込み、大きい樽で長く熟成させるクラシック派に対し、モダン派はブルゴーニュで使われる小樽を導入。モダン派のバローロが早く飲めて果実味があるのが特徴であるのに対し、クラシック派はモダン派の特徴である樽の香りを嫌います。ただ、最近ではモダン派とクラシックの垣根は下がってきてもいます」と山下さん。

モダンとクラシックの違いは醸しや熟成の期間、使う機材の違いなどに求められるようだ。だから、バローロのモダンとクラシックを飲み比べると「醸しは長いか短いか」「熟成は大樽か、小樽か」の違い、つまり醸造の違いまでを感じることができる。私にわかるのは「大好きか、超大好きか」の違い程度なのが残念だが大変興味深い飲み比べをさせていただいた。

 

山下家とネッビオーロと半熟卵

料理にも言及せねばなるまい。バローロ、すなわちネッビオーロに合わせて出していただいたのが、卵とバターとトリュフペーストで作られた半熟のスクランブルエッグ。これとんでもなくおいしかったんですよ。

半熟スクランブルエッグ(トリュフ味)

20年ぶりの同窓会で再会した幼馴染み(卵)がイタリア人(トリュフ)と結婚して超絶美人になってた級に俺の知ってる卵料理じゃない感がある。卵、幸せそうで良かったね……!

山下家のスペシャリテとして名高いカルボナーラしかり、山下さんいわく「ネッビオーロには半熟卵が合う」のだそうだ。

これにはロジックがある。一般に、(温泉卵をそのまま合わせることを想像するとわかりやすいが)半熟卵とワインを合わせるのは難しい。その理由はワインの果実味と卵の生臭さがケンカをするから。ネッビオーロは基本的に果実味が強く出るタイプの品種ではなく、その果実味のなさが半熟卵と相性がいいのだそうだ。

「牡蠣も同じです。シャブリと牡蠣は合うと言われますけど、シャブリって果実味がないですよね。同じシャルドネでも、果実味たっぷりのカリフォルニアのシャルドネだと合わないんです。同じ理由で、半熟卵にモダンなバローロのバリック(小樽)のニュアンスは合いません」(山下さん)

ゆえに、半熟卵に合うのはクラシックな、果実味が強く出ていないネッビオーロ一択ということになる。ド頭に出てきた豆腐とシャスラしかり、この場所で出てくる料理はすべてペアリングまで考え抜かれているのだ。レストランならわかるわけなんですよ。ポイントはここが個人宅である点だ。最高だ。人間の突出した部分だけが人間が持つ可能性の枠を拡張し、次の時代をつくっていくのだ(なんの話だっけ)。

卵の前に出していただいたジャガイモのガレット。こちらも絶品。

 

山下家マジックと菊鹿シャルドネとドゥラモット

ワインの話に戻ろう。ちょっともしかしたら順番が前後しているかもしれないのだが、バローロと並行して飲んだのが菊鹿シャルドネだったと思う。ノンヴィンテージのほうですね。

菊鹿シャルドネ。日本のシャルドネコスパNO.1はこれな気がする。

これは以前購入して自宅で飲んだことがあるのだが、この日飲ませていただいたもののほうが美味しく感じた。山下家マジックだ。

果実味がたっぷりとありながら、それでいてキレイ。菊鹿は価格帯が上でヴィンテージが記載される「樽熟成」の世評が高いが、この日のメンバーの間ではノンヴィンのほうが好きという声が多く聞かれた。たいして飲んでないのでアレだが、私の飲んだ限り日本ワインのシャルドネではこれがベスト。おいしい。

続いてはこの日の参加者のうちの一人にお祝い事があることが判明したことを受けて抜栓されたシャンパーニュ、ドゥラモット。

ドゥラモットすっごくおいしかった。2年瓶熟で全然変わるんだなー!

ドゥラモットは珍しく何度も飲んでいる銘柄だがこの日この場所で飲んだドゥラモットが過去イチおいしく感じられた。「自宅で瓶熟成2年くらいしています」とのことだったので、それの影響だったのか、たしかに熟成感があり、複雑でふくよかな印象に分厚い花束のような甘やかな香り。非常にいいなこれ。シャンパーニュは1日のどのタイミングで飲んでもおいしい。

 

南アフリカのサンソーと紅に染まりきらない豚

次に出していただいたのがこれも山下家では珍しい印象の南アフリカのワイン。サヴェージのフォロー・ザ・ライン(2018VT)がそれで、ちょっと驚くほど良かった。

ここで南アの有名銘柄が登場。初めて飲んだが大変おいしかった。

南アフリカワインならではのクセがなくわかりやすい味わい。茎っぽい青さと果実の甘酸っぱい感じがグラスのなかで四つ相撲してる感じのこれ自分の一番好きなやつじゃんっていう味わい。ここにきてスイスイ飲めちゃうやつは相当危ないですね……! 

これに合わせていただいた料理が豚肉のロースト。豚の枕詞は「紅の」だが、これが紅にギリギリ染まらない桃色の豚で、つまり火入れが完璧で、箸で切り分けられるタイプのポルコちゃんだった。

見てくださいよこの色。箸で切れるんだぜ、このポルコちゃん…!

それにしてもオーブンから小まめに出し入れし、その都度芯温を計測しながら焼き上がりのタイミングを見極めつつ我々ゲストにワインを注ぎ、同時に会話にも耳を傾けて場も盛り上げてくれる山下さんの場さばきスキル、実は双子の弟がいたっていうミステリでよくあるパターンな気がしてくるレベル。あのときワインを取りにドアから出て行ったのが山下(兄)で、直後に戻ってきたのが山下(弟)だった……!? 

 

ジュラふたたび

さて、次にグラスに注がれたのは本日2杯目にいただいたジュラのワインだった。酸膜酵母熟成を経てシェリーみたいな風味があるって言ってたやつ、まさかのカムバック。もちろんそれには理由があり、次にいただいた料理がジュラの郷土料理、鶏肉のシェリー煮込みだったのだった。ジュラの郷土料理が出る個人宅はじめて。

こちらジュラの郷土料理になります。

鶏肉、きのこ、たまねぎをシェリーと生クリームで煮込んだ料理は当然ながらシェリーの風味があるので、ワインとの相性が本気出した握手級にいいのは言うまでもない。冒頭に貼られたジュラの伏線、まさかの会の最終盤で回収である。山下家、それは飲食可能なタイプのミステリー小説。

そしてここで疑問が生じる。2杯目のワインは「ジュラの話題が出たから」と山下さんがあくまでも話の流れで持ってきてくれたものであったはず。その話題も山下さんが自分から出したのではなく、とらワインさんが「自然派ワインの産地」の話題を振り、その流れでジュラの名前が出たと記憶している。あの会話が偶然ならばあらかじめジュラの料理を仕込んでおくのは難しいはず。ならば完全なる即興でジュラのワインが選ばれ、それに合うジュラの料理が後付けで選ばれた……? それともまさか……とらワインさんも共犯……!?(なんの話だっけ)

 

アルザスピノ・グリとブルーチーズ

与太話はさておいて、この日最後に栓が開けられたボトルはルシアン・アルブレヒトピノ・グリ フィングスベルグ グランクリュ。これまた山下さんのお好きな産地・アルザスの生産者で、山下さんはピノ・グリも好きな品種なんだそうだ。一番好きなのがピノ・グリとおっしゃっていたような気もするが、このあたりになってくると私の記憶もかなり曖昧だ。違ったらごめん。

これがこの日最後の1本。ピノ・グリっておいしい品種だよなあ。

このワインはいさみさんがしきりに「青リンゴ感がある」と言って気に入っていた。とらワインさんは「ピノ・グリもペトロール出ます?」と質問していた気がする。私はといえば「はちみつみたいでうまいなあ」みたいなことを思っていた。この時点で時計の針は午後9時を回り、昼間から6時間飲み続けた私の脳は抽象的思考が不可能となっている。

最後の料理がすごかった。ベースはブルーチーズで具がブラックオリーブ。それを少しのクリームで伸ばしたソースのロングパスタだったのだがこれが今グラスに入っているアルザスピノ・グリと合うof the 合う。

このパスタめっちゃくちゃおいしかった。おかわりしたい!

ブルーチーズと甘口ワインを合わせる感じのペアリングに、ブラックオリーブの塩味が実にいいアクセントになっている。この一皿、「オリジナルレシピでつくってあとから調べたらイタリア・ヴェネトの郷土料理だった」んだそうですよそんなこと起こり得るんだ……!

 

山下家のワインペアリングまとめ

料理はこの一皿が最後の皿。文章の展開上の理由から本文で言及していないものも含め、料理とワインをまとめてみよう。

とうふの味噌漬け×シャスラ
じゃがいものガレット×シャルドネ

トリュフ風味のスクランブルエッグ×ネッビオーロバローロ
豚肉のロースト×サンソー
鶏肉のクリーム煮×サヴァニャン(ジュラ)
ブルーチーズとオリーブのパスタ×ピノ・グリ

以上に加え、万能おつまみ的に山下家定番のポークリエット&レバーテーストwithバケットが供されている。なんだこれ最高。改めて料理とワインを並べてみると、即興感がありながらもしっかりとワインと料理が寄り添っていることがよくわかる。大満足だった。

このようにして、結局私は7時間山下家に滞在した。すこ太郎さんが「7分に感じましたね」という名言を発しておられたが同意だ。ただ現実のニュートン力学的世界では体感時間を大幅に上回る7時間分の時がキッチリ流れている。その間山下さんは目視できる範囲では一度も席に座ることなく、自分で作った料理も食べず、ゲストにはワインに合わせたグラスを選びつつもご本人はひたすら小ぶりなテイスティンググラスで飲み続け、それでいて酔っている様子はまったく見受けられなかった(私はひさびさに完全なるポンコツ状態=完ポコ状態になり果てました)。すげえな山下さん。

山下家と山下さんの底はまだまだ見えず、興味は尽きない。願わくばまたお邪魔して、さらに深く掘り下げていきたいと思う次第だ(暗に誘ってもらうことを期待しつつ)。

必要なのは「よいときOne」ただひとつ。

こちらはAmazonで買えるピエモンテセット(そこそこおいしい)

 

 

 

 

 

 

 

 

オー・メドックはどんな産地? 歴史や品種、特徴をワインを飲みながら調べてみた

オー・メドックってどんな意味?

ボルドーワインを集中的に飲もう週間みたいなことを個人的にやっている。とはいえ格付けシャトーを飲むわけでもなんでもなく、飲むのはもちろん安ワイン。今回は「やまや」の店頭で推されていたシャトー・カロンヌ・サント・ジェム2016を飲んでみた。これがなかなかよかったんですよ。

シャトー・カロンヌ サント・ジェム2016を飲みました

このワインのアペラシオンはオー・メドックオー・メドックのオーってなんなんだろうと兼ねて思っていたので調べてみると「上、高地、上流」みたいな意味があってこの場合は上流。オー・メドックは「ジロンド川左岸上流の地域」を指すのだそうだ。

いきなり脇道に逸れるがオー・メドックのオーは「haut」。似た響きの言葉にオート・コート・ド・ニュイとかの「オート」があるがこちらは「haute」で高いとか高級な、みたいな意味になるんだってわかりにくっ。と「高い」と「お高い」みたいな意味の違いがあるようだということがわかったところでhautは形容する対象が男性名詞、hauteは形容する対象が女性名詞の際に使うそうで意味は同じなのだそうだ。

オー・メドックの話に戻ると、オー・メドックは非常に広いAOCで、サンテステフAOCポイヤックAOC、サン・ジュリアンAOC、マルゴーAOCなんかはオー・メドックのサブリージョンで、オー・メドック自体はさらに広域のメドックAOCのサブリージョンなんだそうです。メドックのなかにオー・メドックがあり、オー・メドックのなかに村の名前のAOCがあるわけかなるほど。気候は海洋性、土壌は砂利、チョーク、粘土、畑の数は392。栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨンを中心に、メルロー、プティ・ヴェルド、マルベック(コット)、カベルネ・フラン、カルメネールなど。

 

オー・メドックと17世紀オランダ人商人

さて、元々は放牧地だったというこの地を改造したのが17世紀のオランダ商人たち。湿地帯を排水し、英国市場で主流となっていたグラーヴやポルトガル産ワインに代わるワインを生産しようとしたんだとか。

彼らの試みは奏功し、マルゴー、サン・ジュリアン、ポイヤック、サン・テステフといった産地が形成され、フランスを代表するワイン産地となっていく。すげえなオランダ人商人。

ここちょっと「なんでオランダ人がフランスの土地を改造とかしてるわけ?」とモヤるのでほんの少しだけ調べると、17世紀のオランダは東インド会社がアジア貿易を独占した“黄金時代”。ヨーロッパ諸国間の貿易も支配しており、フランスやポルトガルからバルト海地域へワインを運び、穀物を積み込んで戻ってきていた。その船の数が年間およそ1000隻というからすごい。ワインは貿易のタマとしてあればあったほうがありがたい、みたいな状態だったんだと思う。

ちなみに南アフリカでワイン産業を確立したのもオランダ人です↓

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「世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った」という言葉がある。オランダは海岸沿いに広がる湿地や泥炭地や干潟を埋め立ててつくった干拓地(ポルダー)の上に発展してきたという干拓名人。つまり、必要があり、そのための手段も持っていたことから世界は神が作ったが、オー・メドックはオランダ人が作ったということになる。歴史〜。

というわけで21世紀の日本の我々がオー・メドックで造られたシャトー・カロンヌ・サント・ジェムが飲めるのは17世紀オランダ人商人のおかげであることがわかった。ダンキュウェル!(オランダ語で『ありがとう』の意)

 

オー・メドックとシャトー・カロンヌ・サント・ジェム

そんなわけでシャトー・カロンヌ・サント・ジェムに話は移る。まさに17世紀、1648年にはすでにワインが生産されていた記録が残るというから、オー・メドックのなかでも古参の生産者なのかもしれない。その土地を1900年にエミール・ボリーが購入。ボリー家っていうのが「サン・ジュリアンのラフィット」こと格付け2級のデュクリュ・ボーカイユのオーナー一族だそうです。

公式サイトはかなり詳細で、ブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニヨン60%、プティ・ヴェルド3%、メルロー37%。収穫は70%が手作業。30%が機械収穫。アルコール発酵後、フレンチオーク樽で12カ月熟成。卵白で清澄。卵白で清澄まで書いてあるところ珍しいな。

150ヘクタールの畑はラグランジュ、グリュオー・ラローズ、ベルグラーヴ、ラ・トゥール・カルネなどに隣接しているとのこと。有名シャトーに隣接していることを自ら謳うところも珍しいな。ともかく、良き畑に隣接していて、丁寧に醸造していることは伝わってくる。

 

シャトー・カロンヌ・サント・ジェムとクリュ・ブルジョワなのか問題

格付けに関しては、1966年にクリュ・ブルジョワ・エクセプショナルに認定された、と公式サイトにある。そして「Cru Bourgeois」のwikiを見ると、シャトー・カロンヌ・サント・ジェムは2003年時点ではクリュ・ブルジョワ・シュペリウールに認定されていたことがわかるし「Haut-Médoc AOC」のwikiでもクリュ・ブルジョワ格付けだと紹介されている。

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ところが2020年発表のリストには私の目視なので確実ではないけれどもどうやらシャトー・カロンヌ・サント・ジェムの名前がないようで、クリュ・ブルジョワをめぐる近年あったっぽい混乱の過程で格付けの外にいることを選んだのかもしれないっぽい感じがする。わかりにくいんだよなあ、クリュ・ブルジョワ

こういうときは日本語の情報に限る、と輸入元のコルドンヴェールの親会社であるイオンの商品ページを見ると「スーパー・セカンド『デュクリュ・ボーカイユ』と同じクリュブルジョワ級名門ボリー家が所有するオー・メドックのシャトー。」と書いてあって「あなたがそう信じるならば、クリュ・ブルジョワだ」みたいな感じなんだよなあ(正確な情報を知っている方いたらご教示ください)。クリュ・ブルジョワはちょっとわかりにくすぎるので、今度改めて調べてみたい。

 

シャトー・カロンヌ・サント・ジェム2016を飲んでみた

さて、シャトー・カロンヌ・サント・ジェム2016なのだが冒頭にも述べようにこれが非常においしかったのだった。森の中の木工所でベリー系のジャムを煮ています、よく晴れた秋の日に。みたいな濃密かつさわやかな香り。味わいもそれに負けておらず渋みと酸味と果実味がうまいこと調和していて、今飲んでしっかりおいしいボルドーだと感じた。

カベルネ・ソーヴィニヨンが果実味のなかに内包する爽やかさがしっかりと感じられ、樽の効果がバター的方向ではなく新築の木造家屋の棟上げ式的方向に作用していて非常に香りが良い。

なんというか、ワイン初心者のころ(今もだけど)はボルドーワインのなにを選べばいいのかさっぱりわからずむしろボルドーだけは避けるべしみたいに思っていたが、考えてみるとボルドーの玉石混交感は選ぶ側からすると宝探しみたいで楽しい。今回選んだワインは石か宝石かでいえば宝石寄りだったと思う。格付けの外にこういうのがあるのはたまらんですよ安いし。

vivinoの評価は3.9と高い。わかる。

値段といえばこのワインはやまやで2200円で買った。一方、ネットで調べるとイオンで4378円と、ほぼ倍値で売られている。輸入元のコルドンヴェールはイオンとやまやが共同出資する会社。それなのに販売チャネル違いでこの価格差はいろいろ事情はあるんだろうけれどもさすがにすごい。

ちなみに楽天でも2772円で買えて、この価格だと品質に対して妥当な感じ。2200円だとかなりお得感があるので、近くにやまやがある方はお散歩がてらぜひ。

なんと私の生まれ年ヴィンテージもあった↓

 

 

ワインバーふたみとは!? 東京・三軒茶屋の超絶ワイン空間に潜入した

ワインバーふたみに行ってきた

かねて伺いたいと思っていた東京・三軒茶屋の「ワインバーふたみ」に行ってきた。ワインバーふたみは2022年4月開業。twitter経由で知遇を得、「この人はガチ中のガチ」と思う方がやられているバーだ。

最初に言っておこう、このお店はすごい。本当にすごい。語彙力根こそぎ持っていかれるレベル。私の筆力でどこまでこの日の感動を再現できるかわからないが、それでもともかく書いてみよう。

 

ワインバーふたみの驚きの空間美

私がワインバーふたみを訪問したのは土曜日の午後6時。駅から徒歩20分、とか、住宅地のど真ん中、とかではなく普通に繁華街の一角といっていい駅近の便利な場所にあるのだが、都会の死角というか盲点みたいな場所にあり、どこだどこだとキョロキョロしていると店主(仮にSさんとしておきます)自ら出迎えてくれた。

黒と白のコントラストで構成された店内は、ワインや器の色彩だけが際立つ

店内に一歩足を踏み入れて驚く。店内は色彩が存在しないといったほうがいいような黒一色。そこに、ダウンライトに照らされた白木のカウンターが鎮座する。黒と白、あるいは闇と光のコントラストが織りなす内装は西麻布や麻布十番にある会員制の高級寿司屋かなにかかな? といきなり脳が誤作動を起こす。庶民的な三軒茶屋の街並みとのギャップで発電できるレベル。

Sさん含めスタッフの方々の衣装は和をイメージさせる黒。寿司屋の板前が着ている前が合わせになった白い作業着の色合いを陰陽反転させたような服だ。椅子も黒。棚も黒。上着をかけるラックも黒。ワインバーなのにグラスは見えない。ボトルの1本も視界に入らない。奥の棚には一輪挿しに活けられたあじさいだけが、空間に色彩を添えている。

すいません間違えましたと思わず言いそうになる洗練を極めた異空間なわけなんですよ。要人が集う会員制のバーかなんかにうっかり一見で入っちゃったみたいな感じなのだがたしかにカウンターの向こう側でニコニコしているSさんは私の知人であるし、カウンターのこちら側には私と同行者2名分の席の設(しつら)えがされてある。

オレ、ココニイテモ、イイノカ…? と、やさしい心を取り戻した村はずれに住むモンスターみたいな心境で席に着く。マスクケースがあり、おしぼりが用意され、ナプキンが丁寧に丸められた状態で置かれている。着席して目の前に展開するのは高級フレンチ的な景色だ。ワインと出会う前の酒飲みライフのほとんどを低級飲み屋で過ごしてきた私だが、こういうもてなしは嫌いじゃない……! 否、大好き……!(ちなみに写真は根こそぎ撮り忘れた)

 

ワインバーふたみと「ふたみセット」

と、冷静に状況を見渡していたかのごとくに書いているが、実際は「あっ」「えっ」「ひゃっ」みたいなワードしかこの段階で現実には発語していない。全然地に足が着いていないがなにはなくとも注文しなければはじまらない。

ともあれ私はかねてTwitterで見ていた「ふたみセット」を注文すると決めていた。シャンパーニュ、白、赤の3杯4500円のセットで、私が訪ねた日のその内訳は以下のようなものだった。

泡:ポル・ロジェ ブリュットNV
白:ルイ・ジャド ベルナン・ベルジュレス レ・コンポット2019
赤:ダヴィッド・デュバン ニュイ・サン・ジョルジュ2013

この3杯とともに驚きの90分間がスタートしていくことになる。

 

ある日のふたみセット【1杯目】ポル・ロジェ ブリュットNV

まず出されたのはポル・ロジェのスタンダード。そういえば飲んだことなかったなあと思いながら飲んだのだがこれが実においしい。シャルドネ、ムニエ、ピノ・ノワールが1/3ずつ使われているのだそうで、それも納得のバランスの良さ。果実がしっかりと感じられ、酸味と調和している。

このあたりから「そうか、写真だ!」となった。1杯目はポル・ロジェ

そして驚くべきはつまみとして出されたきゅうりの漬物だ。異様なまでに旨みが強く、それでいて旨みが強い漬物にありがちなケミカルな感じが一切ない漬物ナチュール。これと合わせることにより、ポル・ロジェに唯一欠けている旨みの部分が補われて超絶うまい液へと変貌を遂げる。

きゅうりとしゃんぱんをいっしょにたべたらおいしかったですおわり。と作文能力が7歳児レベルまで退潮してしまう驚きのおいしさだ。決して気をてらったペアリングじゃなく、自然に寄り添ってる感じがいい。

 

ある日のふたみセット【2杯目】ルイ・ジャド ベルナン・ベルジュレス レ・コンボット2019

泡がまだ少し残っているタイミングでSさんがサーヴしてくれたのがルイ・ジャドのベルナン・ベルジュレス レ・コンボット。単独のワインとしては3杯のセットのなかでこれが一番好みだった

2杯目はルイ・ジャドのペルナン・ベルジュレス。むちゃくちゃおいしい。

香りはクレームブリュレそのもの。口に含むとほっくりとした、遠い昔にパリで食べた焼き栗みたいなやさしい甘さがあり、時間が経つとなぜかヤクルトみたいな甘酸っぱさもやってくる……とかなんとかわかったようなことを書いているが、現実にこれを飲んだときの私のリアクションは「うわうっま」という喉が渇いた人がホッピーを飲んだときのそれだったことを告白しておく。おいしくてびっくりしましたおわり。

きゅうりの漬物がそうであったように、「ふたみセット」は3杯のグラスそれぞれに小さなつまみがつくのだが、このつまみが厳選に厳選を重ねられたエクストリーム小鉢というべきもの。この日の白に合わせて出されたのは“ガリ”だった。ガリですよガリ。まさかの2連続漬物。薄く切られたものではなく、円柱状に切断された切り株系ガリ。スッキリとした酸味にシャープな辛味があって甘さはほとんどないストロングスタイルのガリで、これがふくよかな白ワインとまあ合うこと。

ガリシャン、ガリ白はほんとにいいですよ」とSさん。「ガリシャン」ならびに「ガリ白」なるワードを大脳新皮質に刻んだのはおそらく人生初だが、ガリシャンが自明のものとして存在するのがワインバーふたみという名の小宇宙だ。宇宙って広い。

 

ワインバーふたみとチーズとトリュフハニー

さて、この日はこの後に食事の予定があったためフードは頼んでいないのだが、さりとてつまみをなにも頼まないのも悪いというかおつまみにも驚きが待っているに違いないという確信がある。というわけでチーズを頼んだ。

チーズを頼んだら出てきたトリュフハニーの香り、写真見るだけで脳内再生される。

飲んでいるワインに合わせて選んでもらったのはブルーチーズと薄くスライスされたバゲット。そしてトリュフ入りの蜂蜜だ。トリュフ入りの蜂蜜なんてものがあるんだから宇宙ってひろ(略)

ブルーチーズに蜂蜜はオーソドックスなペアリングだが、そこにトリュフの要素が加わるとちょっと香りの複雑性が段違いになり、白ワインと合わせると液体の酸味と香りだけを純粋に楽しむような印象に変化する。このチーズ、メニューに500円って書いてあったような気がするけど本当にこの値段で合ってますかね……?

 

ある日のふたみセット【3杯目】ダヴィッド・デュバン ニュイ・サン・ジョルジュ2013

泡、白ときて最後の赤がダヴィッド・デュバンのニュイ・サン・ジョルジュ2013。2013は雨の多いヴィンテージだったのだそうだが、Sさんいわく「ヴィンテージが良すぎると造り手の個性が消されてヴィンテージの味になってしまうこともある」とのことで、雨の多い年はかえって生産者の個性が味わえるという。実際、ダヴィッド・デュバンに関しては2013がその周辺の数年間でもっとも良いヴィンテージだと造り手が言っているそうだ。

ダヴィド・デュバンのNSG。雨の多かった年のソフトでやさしい味わい。

外の雨を眺めていたら雲間から太陽が顔を出して花や草木の香りが地面から立ち上がってくるような、陰りのなかに豊かな果実や花の存在を予感させるワインで、雨の多い年でもワインはおいしくなることを教えてくれるような一杯だった。店に飾られた唯一の装飾である花瓶に生けられた一輪のあじさいと相似形を為して、ここに一座建立の感がある。

 

ワインバーふたみとハイエンドかんぴょう

そしてこのワインに合わせるつまみが「かんぴょう」だ。かんぴょう巻きのかんぴょう。私がこの日口にしたもののなかでもっとも驚かされたのはもしかしたらこのかんぴょうだったかもしれない。きしめん状の幅広の状態のまま、5センチ程度の長さに切り揃えられた「かんぴょうのハイエンド」だというその味わいをどう表現すればいいのか。アルデンテここに極まれりといったパスタの歯応えと、薄く伸ばされたモチの柔らかさ、そしてかんぴょうが植物であることを思い出させてくれる繊維の弾力が三世帯同居し、ほのかに沁み込んだ甘みが雨の多い年のピノ・ノワールに唯一欠けた甘味の部分をやさしく手を添えるように補ってくれる。

人は人生の途中でかんぴょう巻きから卒業していくわけじゃないですか普通。子どものころ玉子、エビ、とかと一緒に楽しんでいたかんぴょう巻きと、ワサビの辛さが許容できる年齢になったくらいのタイミングで決別していく。一部高級寿司屋などではかんぴょう巻きが出るみたいな話は知識としては知ってはいても、私が暮らすスシロー的世界観には存在しないわけなんですよハイエンドかんぴょう。ましてやそれをブルゴーニュワインと合わせるなどというのは発想そのものがない。ここでしか味わえないお見事なペアリングだった。

 

ワインバーふたみと侘び茶

さて、以上のように3杯をいただき、90分ほどの滞在を終えた。驚くほど安い、なにかの間違いなんじゃないかという会計を済ませてお店に別れを告げ、雨の三軒茶屋を駅に向けて歩きつつ、今経験したのは一体なんだったのかと考えて、私はワインバーふたみは、つまりSさんという方の美意識が詰まった「茶室」ではないかと感じるに至った。

千利休wikipediaには以下のような記述がある。

・(利休は)茶道具を前もって飾っておかず、すべて茶室に運び入れるところから点前を始める「運び点前」を広めた

ワインバーふたみにはすでに述べたようにボトルも、グラスも飾られていない。まさに「運び手前」。

・茶室内の光を自在に操り必要な場所を必要なだけ照らし、逆に暗くしたい場所は暗いままに(することを可能にした)

ワインバーふたみは基本的に暗く、ワインが乗るカウンターのみが照らされている。

・それまでは単なる通路に過ぎなかった空間を、積極的な茶の空間、もてなしの空間とした

ネタバレ(?)になるので伏せるが、この記述もワインバーふたみとの共通性がある。

もちろん間に支払いが介在しているので私が行ったのはお店にほかならないのだが、自分が自分の意思で足を運んでいるはずなのに、気がつくとSさんの自室に招かれてもてなされているような感覚に陥っている。その感覚を生み出しているのがワインバーふたみの装飾をそぎ落とした茶室的空間であり、どこか茶人的なSさんのもてなしにあるように思うのだ。いや、もちろんワインバーとしてむちゃくちゃ素敵なんですよ。それは前提として。安土桃山の茶人が令和にワインバーをやっていたらこんな感じなんじゃないのひょっとして、みたいな想像をするのは楽しい。これはいま行ける待庵(国宝)。

Twitterのアカウント情報を見る限り、ワインバーふたみは少なくとも2022年6月20日現在は会員制でも紹介制でもないようだ。事実「twitterを見て特攻してくる方もいる」とのことだった。多人数でわいわい楽しむというよりは、静かに楽しくワインと向き合うのに適した空間だと個人的には思うが、Sさんいわく「ワインを気軽に楽しんでもらいたくてつくった」とのことなので(ほんとすか)、ぜひ気軽に予約の連絡を入れてみるといいと思う。ちなみに予約は必須。支払いはカードのみ。詳しくはTwitterのアカウント@Winebar_Futamiをチェックするのがいいと思う。

ワインバーふたみの「ふたみ」はシャンパーニュブルゴーニュ「ふたつの魅力」の「ふたみ」。ふたつ+αの魅力を味わいに、私も必ずまたお邪魔するだろう。次はいつ行こう。早く行きたい。すぐ行きたい。

今度はもっとたくさん飲みたい。

 

 

 

シャトー モン・ペラ ルージュはおいしい? 当たり年は? 調べた!

神の雫』とシャトー モン・ペラ

今さらながら漫画『神の雫』を読んでいる。アルプスの少女ハイジのアニメを観れば溶けたチーズを乗せたパンを食べたくなるなるように、神の雫を読むとシャトー モン・ペラを飲みたくなるというのはあるあるを超えたもはや摂理と呼ぶべきもの。

ヴィニョーブル・デスパーニュの公式サイトで売られているシャトー モン・ペラBOX。『神の雫』フランス版のコマがデザインされている

神の雫』第三話でオーパス・ワンと比較され、とくになんの留保もなく(ヴィンテージによっては、とか、熟成させたものであればとか、合わせる料理によっては、とかのエクスキューズなしで)「俺はこの『モン・ペラ』とかって方が全然美味く思えたぜ」と判定されるシャトー モン・ペラ ルージュ。いかなるものかと「酒のやまや」に向かって1本買ってきた。

シャトー モン・ペラは「デスパーニュ家」が造るワイン。まずはデスパーニュ家について調べるところからスタートしていこう。

 

シャトー モン・ペラとデスパーニュ家

ヴィニョーブル(葡萄園・葡萄畑の意)・デスパーニュはボルドーのアントル・ドゥー・メール地区で200年以上の歴史を持つという生産者。アントル・ドゥー・メールは海の間という意味を持ち、ガロンヌ川とドルドーニュ川の間というそれ川の間なのでは……? っていう土地。

アントル・ドゥー・メールの図。上の青線で示されるドルドーニュ川と、下の青線で示されるガロンヌ川で区切られた三角地帯を示す。ちなみにガロンヌ川のガロンヌの元の意味は「川」だそうです。

デスパーニュ家のサイトによれば、「アントル・ドゥー・メールはボルドー最大の地域でありながらもっとも知られていない」とある。wikipediaによれば、アントル・ドゥー・メールの総面積はボルドーのサブリージョンとして最大の3000ヘクタールあるが、森林が多いため総栽培面積は1500ヘクタールもあるのだそうだ。広い。

ただしAOCアントル・ドゥー・メールを名乗れるのは白ワインのみで、基本的には生牡蠣と合う安めの白ワインの産地。赤ワインはAOCボルドー、あるいはボルドー・シュペリウールとなるそうな。そりゃ無名にもなるよなぁ。綺羅星のごとき右岸と左岸のアペラシオンに囲まれた名もなき三角地帯、それがアントル・ドゥー・メールみたいな印象だ。

 

シャトー モン・ペラとカディヤック・コート・ド・ボルドー

シャトー モン・ペラは元々ル・ペラという名前だった。一瞬だけ歴史を整理しておくと、デスパーニュ家が「ル・ペラ」の100ヘクタールの畑と醸造所を取得したのが1998年のこと。それをシャトー・モン・ペラ(ペラの丘)と改称し、品質改善に努め続けて今に至る。

シャトー モン・ペラ2018を飲みました

元ル・ペラ、現在シャトー・モン・ペラが位置するのがアントル・ドゥー・メールのカディヤック・コート・ド・ボルドーと呼ばれるアペラシオン。ガロンヌ川右岸の長さ60キロ、幅5キロの帯状に広がる土地だ。

整理すると、モン・ペラはボルドーの>アントル・ドゥー・メールの>カディヤック・コート・ド・ボルドーのワイン、ということになる。

カディヤック・コート・ド・ボルドーは恥ずかしながら初耳のアペラシオンだったのだがボルドーワインの懐の広さは恐ろしいもので、カディヤックコートドボルドードットコムというオフィシャルサイトが存在する。詳しく見ていこう。

 

カディヤック・コート・ド・ボルドーとキャデラックの意外な関係

さて、カディヤックの綴りは「Cadillac」で、アメリカの自動車メーカーと同じ。そしてなんと、キャデラックの語源はカディヤックだった。

なんでもデトロイトを開拓したフランス人冒険家アントワーヌ・ドゥ・ラ・モテ・キャディラック伯爵という人物に敬意を評し、キャディラックはその名前と紋章を社名とロゴに採用したのだとか。

himawine.hatenablog.com

ところが調べるとラ・モテ自身は貴族ではなく、新天地に移住するにあたり自分の好きなワインの産地である「カディヤック」を勝手に名乗り、紋章も自作したみたい。すごい時代だなあ。

ともかく自動車のキャディラックの名前は、ボルドーワインの産地名由来だったっていうのはいつか使える豆知識。ワイン好きのみなさん、アメ車に乗るならキャデラックですよ。

カディヤック・コート・ド・ボルドーのブドウ畑は南や南西向きの斜面にあって日当たりが良く、水はけも良くて気候は温暖とのこと。栽培品種はメルローが中心(55%)で、以下、カベルネ・ソーヴィニヨン(25%)、カベルネ・フラン(15%)、マルベック(5%)と続いていくようだ。

 

モン・ペラと醸造コンサルタント ミッシェル・ローラン

さて、モン・ペラの話に戻ると、このワインは産地の特徴を反映してメルローカベルネ・ソーヴィニヨンカベルネ・フランブレンドで造られるようなのだがその比率がわからない。

ワインショップソムリエのページによれば、栽培比率はメルロー80%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%、カベルネ・フラン10%とのことなので、その比率をベースに年によって微調整、みたいなことなんだと思うけど、詳細は不明。ただ、メルローが主体なのは間違いないところ。

そしてこのワインの説明文に登場するのが、醸造コンサルタントで「空飛ぶ醸造家」「MR.メルロー」の異名を誇るミッシェル・ローランだ。

ついでなのでローランについても調べていこう。1947年、ワイン生産者の家に生まれたローランは、ポムロールのシャトー・ル・ボン・パストゥールで育つ。ボルドー醸造学校を卒業後、1973年にボルドー右岸リボーヌの町の醸造研究所を買い取り、テイスティングルームを併設するまでに拡張。このあたりいきなりスケールがデカいんだよなあ。

Wikipediaによれば、ローランの「特徴的なスタイルは、果実味に富み、オークの影響を受けていること」であり、「影響力のある評論家ロバート・パーカーも同じ好み」だと指摘している。パーカー好みのワインが世界中で人気を集める流れに乗ってパーカー好みのワイン造りのノウハウを世界中に伝えて回ったみたいなイメージで大筋合ってると思う。

ちなみに、神の雫の原作者である亜樹直氏がローランにインタビューした記事が「神の雫ワインサロン」のアーカイブに残っており、そこではこんなやりとりが交わされている。

亜樹:パーカーポイントの高いワインを作るため、パーカーの好みを意識していますか?

ローラン:私はパーカーさんのためにワインを作っているわけじゃない(笑)。彼とは25年来の付き合いですが、意識はしていない。

ただ「結果的に」ということになるのだろうが、ローランはパーカリゼーションの立役者みたいな評価をワインの歴史に残している。“パーカー好み”を追求したわけでないとしたら、ローランのワインの特徴なんなのか。ふたたび亜樹直氏のブログから引用してみる。

亜樹:あなたのワイン作りのモットーは?

ローラン:まず、自分の好きなワインを作ること。2番目に熟成させてなくてもおいしく飲めるワインを作ること。15年待って飲むワインはコレクターのものだからね。そして3つ目が、飲んで楽しいワインを作ること。


このなかで具体的な記述はひとつ。「熟成させてなくてもおいしく飲める」という点だ。それはすなわち酸味、渋みが少なめで、果実味が強いということだと思われる。

それにしても、08年に執筆された元記事のなかで亜樹氏はローランのワイン造りに対し、「彼の作るワインは、年齢とか体格は違うけれど、どれも似た顔をした兄弟のようだった。」と否定的に書いていて、「20年後、ワインはコカ・コーラのような標準化された飲み物になってしまうのではないか」とまで言っていて興味深い。

そんなローランは2020年に引退。パーカーは2019年に引退。ワイン業界は新たな時代に突入してるわけですね。

とにかく、モン・ペラも若いうちから、そして開けたてから楽しめる果実味豊かなワインであることが期待される。(公式サイトに製法その他記載なし)

 

シャトー モン・ペラの当たり年は?

さて私がシャトー モン・ペラを購入したのは「酒のやまや」でヴィンテージは良年といわれる2018、購入価格は2750円だった。いざ飲む前にモン・ペラの当たり年はいつか? をたしかめるべく、ヴィンテージごとの評価をvivinoで調べてみた。まずは2010年から14年の5年間をみてみよう。

2010 3.5
2011 3.5
2012 3.5
2013 3.5
2014 3.5

ぜんぶ3.5だった。産地などにもよる(vivinoは甘めのワインの点数が高く、すっぱいワインが点数が低くなりがち)のだが、3.5はおいしいかおいしくないかを判定する分水嶺。2010年代前半のモン・ペラはそのエッジを歩み続けている。では2015年以降はどうか。

2015 3.7
2016 3.6
2017 3.6
2018 3.7
2019 3.6

なんか評価が上がってきてる……! そしてやっぱりボルドーの良い年だった言われる2015と2018の評価は高い。ともあれ、評価からは年による品質の上下の少なさを感じる。2010年以降最高評価の2018ヴィンテージのお味はいかがなものか、いざ飲んでみよう。

 

シャトー モン・ペラ ルージュ2018を飲んでみた

スポンと抜栓してグラスに注いでみると、おお、香りがすごいなこりゃ。これぞボルドーと言うべきカベルネ・ソーヴィニヨンの香り……(注:メルロー主体)! あれおかしいな。めちゃくちゃカシスとかの香りがするんだけどな困ったなと思っていると、一拍遅れてバラとラベンダーを合わせたような静かなのに華やかな香りがやってきて、これはメルロー感がすごくある。

いずれにせよとにかく香りが本当にいいワインだ。それに対して味わいは、渋みと酸味がしっかりあって、開けたてからめちゃくちゃおいしい! というわけではあれまじか、必ずしもないな。

香りの良さからはもっと豊かな果実味を想像したんだけどそこまでではなかったし、おいしいワインであるのは間違いないと思う一方、2750円という価格を考えるとほかにもっとおいしいワインはあるよなあというのが正直な感想だった。もう少し熟成させたりしたほうがいいのかな。でもなあ。

評価3.7はおおむね妥当な感じか

ネットの賢人の意見を見ると、「モン・ペラは白もいい」という意見も散見される。次回はシャトー モン・ペラ ブランを買ってみよう。

ともあれ飲めてよかった。 そしてネットだと1000円近く安いのかよ!

2015も飲んでみたいなこうなると

 

 



 

ボルドーワインでワインカクテル!? 材料は? どんな味?

ボルドーワインカクテル&フードペアリング」イベントに参加した

ボルドーワイン委員会主催の「ボルドーワインカクテル&フードペアリング」プレスイベントに参加してきた。貴様のようなブロガー風情がなんでプレスイベントに呼ばれてんだ泣かす、と思われるかもしれないがなんとちゃんとしたメディアからライターとして派遣されての参加だ。生きてるといいことがあるものだ。

アペリティフ、そしてカクテルのベースとして登場した今日のワインのみなさん

会場は東京・外苑前のモダンベトナム料理店「AnDi」。オーナーでワインテイスターの大越基裕さんが考案した5つのカクテルとそれに合わせた5皿の料理とのペアリングを楽しむというイベントだ。

一般メディアからの派遣だったので、そちらの記事はワイン好きでない方が読むことを想定してライトにまとめた。このブログはワイン好きの方しか読まないことを想定し、ややマニアックかつ詳細にまとめていきたい。おヒマな方は併せて読んでいただけると会の全貌がより立体的にわかると思う。

 

ワインカクテルと「若者のワイン離れ」問題

大越さんの名前で思い出すのは2021年10月に渋谷にオープンしたワインカクテルバー「swrl.(スワァル)」。大越さんは、そのバーの立ち上げにも参画しているという人物だ。とはいえ私は「swrl.」を訪ねたことも本格的なワインカクテルを味わったこともない。一体どんな世界が広がっているのか、非常に楽しみにして会場に向かった。

会場は外苑前の「AnDi」

ボルドーワイン委員会主催のイベントなので、現地の関係者・生産者を中継で結んでのウェビナーが冒頭で行われた。各生産者のワインを試飲しながら話を聞く、その中で印象的だったのがこんな言葉。

「(ボルドーでは)若年層をつかむという意味でも、複雑さを取り除いたカジュアルな飲み方を提案している。ワインカクテルが出てきたことで、今までアクセスできなかった層にもアクセスできるようになってきた」

フランスでも“若者のワイン離れ”は進んでいる。一方で、年齢を重ねると「そろそろワインを飲みたいな」と思うようにもなる。日本とあんまり変わらないわけですね。ビールとかチューハイとかで仲間とガンガン盛り上がっていた20代を過ぎ、落ち着いてテーブルに座って食事をするようになると、「あ、ワインかも」みたいになるのはおそらく万国共通だ。

前半はウェビナー形式でした

そこで直面するのがワイン好きなら誰もが一度は通過してきたであろうワインなにを飲んだらいいのかわからない問題。

赤か白かシュワシュワかを選べばいいのかと思ったら品種に産地にさらに細かいアペラシオンに製法にヴィンテージ、開けたらしばらく置け、その日のうちに飲め、翌日に持ち越すなら中の空気を抜け、室温で飲め、いや冷やせってどっちなんだよっていうかなんなのまじで、となるのがワイン初心者あるある。

フランス人も感じるのだからおそらく人類すべてが感じるであろうワインに対するハードルを下げるための試み、それがワインカクテルというわけだ。

といっても、今回提案されたのはキールスプリッツァー、ワインクーラーみたいなお馴染みのものではなく、大橋さんによるかなり“尖った”といって良さそうなレシピのもの。ひとつひとつ紹介していこう。

 

ボルドーワインでアペリティフ。ミラディー クレマン・ド・ボルドー ロゼ セック

その前にまずはアペリティフから。着席と同時に注がれた「ミラディー クレマン・ド・ボルドー ロゼ セック」はカベルネ・ソーヴィニヨン100%で造られるほんのり甘いロゼ泡で、これがすごくおいしかった。

カベルネ・ソーヴィニヨン感のない外観

カベルネ・ソーヴィニヨンの印象をいい意味で裏切るチャーミングで甘酸っぱい味わい。クレマン・ド・ボルドーはハズレが少ない印象があるけどこれも気に入った。ブリュットばかりじゃなくてセック(薄甘)もいいわと思わせてくれる1本で、市場価格1000円台はお値打ち。

 

ボルドーワインカクテル1:ジャイアンス・クレマン・ド・ボルドー・ブリュット・エリタージュ

ここからが本番で、怒涛のワインカクテルペアリング5連発がスタート。その一発目が、ジャイアンス・クレマン・ド・ボルドー・ブリュット・エリタージュ+ほうじ茶、ローズウォーター、食用薔薇のカクテル。合わせるフードはゴマが香ばしいライスクレープ(生八ツ橋的なやつ)。

なんでも今回のカクテルは食事と合わせることが前提であるため、大越さんいわく「甘さを足したくない」のだそうで、「香りがあって甘味がない」お茶を上手く使いつつ、スパイスやその他の材料を使って香りのレイヤーを作っていくことにこだわったのだそうだ。

このカクテルはなにしろバラの香りと、スパークリングワインの中にバラが浮かんでいるというビジュアルが素晴らしく、その甘やかな雰囲気と甘いライスクレープがよく合っていた。ゴマなどの香ばしいものはスパークリングワインによく合うという説明があったが、たしかに、と思った。

お茶→甘くないけど甘やか

ゴマ→甘くないけど甘やか

バラ→甘くないけど甘やか

クレマン・ド・ボルドー→甘くないけど甘やか

という徹底したペアリングだった。

 

ボルドーワインカクテル2:シャトー・ラ・ローズ・ベルヴュー2019

続いて供されたのが、シャトー・ラ・ローズ・ベルヴュー+レモングラス、煎茶、穂紫蘇、木の芽、ライムの皮のカクテル。ニョクマム風味のキャロットサラダと一緒に提供された。

このカクテルはとにかく香りが良かった。レモングラスの爽やかな香り、穂紫蘇の華やかな香りが心地よい、なんかこう、生花とかハーブとかレモンとかを布巾でくるんで風呂に入れましたみたいなぐっすり眠れそうな感じの香りだ。

キャロットサラダにもレモングラス的な香りのするオイルが使われており、ドリンクの香りとフードの香りがレモングラスという接点で連結されて走り出すといった印象。運動会の親子二人三脚で異様に息の合ってるそっくり親子、みたいなペアリングだった。

グラスの中に草花が浮かぶモネの睡蓮を思わせるようなプレゼンテーションも非常に良い。ワインはそれ自体とても美しいお酒だが、カクテルにするとより装飾的になって見た目に楽しいんだなあという気づきを得た1杯だった。これを高原の庭の木漏れ日の下かなんかで飲んだら最高でしょうなぁ。

 

ボルドーワインカクテル3:シャトー ブルトゥス ボルドー・クレレ2018

続いてはロゼより濃くて赤より薄い赤ワイン「クレレ」がベースのカクテル。シャトー ブルトゥス ボルドー・クレレ+ルイボスティー、ジンジャービア、ラズベリー(飾り)。ハイビスカスティーを思わせるハイトーンな色合い。ルイボスティーの特徴的な香りにジンジャービアのジンジャー感が強く作用して、どことなく健康に良いデトックス系のお茶みたいな感じ。

生春巻きには柴漬けがゴロリと入っていて、それが味わいにおいても食感においても強めのアクセントになっていて大変おいしかったのだが、この柴漬けの風味とワインがよく合った。ジンジャーの香りと、ラズベリーの酸っぱい香りが掛け算で柴漬け感を出してきたのかもしれない。よく考えられてるなあ、と感じられる飲むおもてなし感が心地よい。

 

ボルドーワインカクテル4:シャトー オー グルロ ブラン2018

辛口ワインがベースのカクテルのラストはシャトー オー グルロ ブラン+麦焼酎、カカオパウダー、ブラウンシュガー、クミン、チリペッパー、胡椒というもの。合わせるフードは揚げ春巻き。

シャトー・オー・グルロは単体で試飲した際によくできたボルドーブランだなおいしいなと感じたワインだが、このカクテルは個人的には正直に申し上げて少し苦手だった。麦焼酎の風味がかなり強く、グラスの縁を飾るスパイスの印象を凌駕して、センサー感度の著しく低い私の味覚レベルではワイン感をあまり感じられなかったのだった。

どうやら、ここ数年飲んでいないことで麦焼酎耐性がダウン、香りに苦手感を覚えてしまったようなのだ。

ただ揚げ春巻きはちょっと異様においしかった。この揚げ春巻きを食べにまたこのお店に行きたいってレベル。AnDiはワインペアリングディナーも楽しめるようなので改めて訪問したいお店だ。

 

ボルドーワインカクテル5:カステルノー・ド・スデュイロー2013

最後のワインカクテルは、ソーテルヌのカステルノー・ド・スデュイロー+レモン果汁、オレンジピールソーダ、氷、ミックススパイス(シナモン、アニス、クローブコリアンダー、ペッパー)というもの。

カステルノー・ド・スデュイローはシャトー・スデュイローのセカンドラベルの極甘口ワイン。単体で飲んだ際も酸味があって大変おいしいワインだと感じたのだが、デザートではなくあくまで食事と合わせるため、レモン果汁、オレンジピール、スパイス類で徹底的に甘味を封じ込められている。

誤解を恐れずいうならば、キンキンに冷えたジョッキで飲みたい贅沢ワインサワーみたいな感じで、5種のカクテルのうち単独の飲み物として一番おいしいと感じたのはこれだった。

合わせたのはソーセージのラープ。ラープって「肉とハーブのサラダ」みたいなものなんですね。さわやか×さわやかの寄り添い系のペアリングでおいしかった。

 

ボルドーワインの魅力は再発見できたのか?

さて、この日のイベントを終えて思ったことに「赤ワイン、出なかったなあ」ということがある。ボルドーといえば色の名前にもなっている赤ワイン。格付けシャトーのフラグシップもすべて赤だしボルドーワインの代名詞的に使われる「クラレット」って言葉は正確には「ボルドーの赤ワイン」を指す言葉だっていうしボルドー=赤という印象は決して間違っていないはず。

にも関わらず赤ワイン(および赤ワインを使ったカクテル)がひとつも出ないというところにボルドーワイン委員会の意志を感じる。それを言語化するならば「ボルドーワインは赤だけでない」ということだろう。赤だけじゃなく白も当然ある。甘口もあるしロゼもある。クレマン・ド・ボルドーもおいしい。その多様性とか可能性を、カクテルという切り口から見せるというのが趣旨だったような気がする。

もちろん「気軽に楽しむ」が会のメインコンセプトだったとは思うのだが、多様性をブーストするツールとしてカクテルが選ばれたという側面もあったように思えた。いやもちろんただの私の曲解で、いや全然そんな意図ないですけど? 熱あンじゃない? と言われるかもしれないけれども。

ワインカクテル、デートなんかに最高なんじゃないすかね。

また、今回登場したワインはすべて1000〜4000円の価格帯のもので、「ボルドーワインはコスパもいいよ!」というメッセージも同時に発せられていたように思う。

この日誰かが言っていたが、ワインは家族や友だちとの食卓をより楽しくするためのツール。食卓の中心にドドンと置いてドボドボ注いでガハガハ飲む、椎名誠的世界観で飲めばいいし、気が向いたらカクテルにしちゃってもいいのだ。ボルドーワインはもっと気軽に楽しんでいい。ボルドー=赤なんてことも、もちろんないのだ(当たり前なだけど)。

とはいえこの日飲めなかったのでこの記事を書きながら無性にボルドーの赤ワインが飲みたくなったのも事実。記事も書き終えたし、ちょっとワインショップ行ってきますね……!

※写真はすべてボルドーワイン委員会提供のもの

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「ノンアルでワインの休日」はどんな味? ノンアルコールワインとは?

「ノンアルでワインの休日(白)」を買ってみた

前日に飲みすぎてしまった翌日、仕方がないのでワインを飲まない日を設けることにした。さりとて夕食に合わせるのが水では味気ないということで、人気の「ノンアルでワインの休日(白)」を試してみることにした。

「ノンアルでワインの休日(白)」を飲みました。

「ノンアルでワインの休日」はサントリーが3月1日に発売したノンアルコールワイン。公式サイトには「『ワインらしい味わい』を目指してワインを蒸留し脱アルコールしたワインエキスを使用することでワインらしい“味わいと香り”を実現」したと書いてある。

 

「ノンアルでワインの休日」と脱アルコールについて

ワインを蒸留して脱アルコール。しれっと書いてあるがこれは一体どういうことなのかが気になったので、困ったときのジェイミー・グッド『新ワインの科学』で調べてみると、13章「アルコール除去とマストの濃縮」のなかに「減圧蒸留法」についての説明があった。

これは真空下で発酵前のブドウ果汁を熱して温度を上げる手法。真空にすることで気圧が下がり、気圧が下がれば沸点も下がるため、約25〜30度(……はどうやらカタログスペックで、実際は約46度くらいになるみたい)でアルコールを蒸留できるんだそうで、EUで許可されてる手法なんだそうだ。低い温度で蒸留することで風味を損なわずにアルコールだけを取り出すことができるんだって。

そして脱アルコールの方法は、ほかにも逆浸透法、スピニングコーン・カラムという装置を使う方法など、いろいろやり方があるようだ。

 

なぜ出来上がったワインからアルコールを除く必要があるのか?

話は盛大に逸れるが、なぜアルコールをワインから除く(減らす)かといえば、そこには気候変動の影響がある。平均気温が高くなったことによってブドウの糖度が以前よりも早い段階で上昇するようになり、収穫時期も年々早まっている。

しかし、収穫時期を早めると、ワインの香りをつくるブドウの風味成分が十分に成熟できていないうちに収穫を迎えるということが起こる。ならばと収穫時期を遅らせると、今度は糖度が高まりすぎてアルコール度数が異様に高くなってしまったり酸がなくなってしまったりして、これまた良くない。

そこで、高まりすぎたアルコールを取り除く手法として、脱アルコール技術の需要が高まっているようで、本には「カリフォルニア産の高級ワインのうち四五%が(中略)アルコールを除去されている。今や世界中のワイン産地にアルコールの除去が広まりつつある」とある。

ちなみに、マストに水を加えることでアルコール度を減らす生産者もいるそうだが、ズバリ違法だそうだ。このあたり闇が深そうな匂いがしますね……。

以上はアルコールをゼロにするのではなく、高まりすぎたアルコールを減らすための手法のようだが、要するに「ワインからアルコールを除く」ことは技術的に可能だということだ。『新しいワインの科学』は役に立つ本だなぁ。

 

「ノンアルでワインの休日」の原材料

なんの話だっけ。「ノンアルでワインの休日」の話だった。「ワインから脱アルコールしたワインエキスを使用した本格的な味わい」だというこの商品は、果汁21%という表記。続いて、その主原料を見てみよう。こんな感じだ。

液体の中身はさてなんだ。

果実(ぶどう)
糖類(砂糖、水あめ)
ワインエキス(ノンアルコール)
酸味料、炭酸、香料、乳酸Ca、酸化防止剤(ビタミンC)、カラメル色素、増粘剤(キサンタン)
※改行は筆者

果実(果汁)に糖類を加え、酸味量などで味わいを整える。そこにワインエキスでワイン固有の風味を加え、炭酸ガスで発泡させているっぽい感じが想像できる。どんな味なのか、いざ飲んでみよう。

 

「ノンアルでワインの休日(白)」を飲んでみた

グラスに注いでみると、炭酸飲料っぽいシュワーッという音で表現されるような泡立ち。香りは弱めながら、うん、飲むとたしかにちゃんとワインっぽい。ジュース感はあるけど酸味もあるし、なにしろ甘ったるさがないのがいい。スパークリングワイン的感覚でアペリティフにいいし、甘くないから食事とも合わせやすい。なるほど休肝日の選択肢としてはアリだ。

ただ、これは言っても仕方がないことだがやはりアルコール度数ゼロは寂しい。寂しいなあ、と思っていてふと思いついたことがある。

これ、ワインを足したらどうなるんだろう。

思いついてしまったならば仕方ない。冷蔵庫で休日をエンジョイしていた白ワイン選手を急遽呼び出し、ノンアルワインの現場にヘルプで入ってもらうことにした。

 

「ノンアルでワインの休日(白)」に白ワインを足してみた

スパークリングワイン用グラスに注いだ「ノンアルでワインの休日(白)」100に対して20くらい入れてみたところ、あれ、意外と変化がない。さすがになんていうんですかね。ボディ感みたいなものは出るのだが、本質的にはさほど変化しない。

Amazonで買ったロワールの白を投入してみました。

加えたのはロワールの安ソーヴィニヨン・ブランだったのだが、「ノンアルでワインの休日(白)」の味わいの方向性がそもそもロワールのソーヴィニヨン・ブランっぽいっちゃぽいので、なんていうか美少年を女装させたら普通に美少女になってしまったのだが予想通りすぎて逆につまらん、みたいになってしまった。

 

「ノンアルでワインの休日(白)」に赤ワインを足してみた

これだと初めっから普通にスパークリングワイン飲めばいいじゃん感がすごい。というわけで二の矢として赤ワインを足してみることにした。打ちてしやまん勝つまではの精神だ。

続いて赤ワインを投入。色きれいだな。

で、赤ワインを入れてみたところこれが意外なヒット。赤ワインの渋みと甘味が加わったことで味の厚みと複雑さが一気に増した。これはなかなかおいしいぞ……と思ったのだが、そもそもノンアルコールワインにワインを足すシチュエーションが今後の人生でどうも想像できないのが難点だ。無念。

ただ、ノンアルコールワインにワインを足したことで、ワインにおけるアルコールの役割みたいなものはわかったような気がする。「ノンアルでワインの休日」には増粘剤が加えられているが、ワインを足したことで液体の粘度が少し上がったように感じられ、味わいにおいては甘味とか厚みとか、繰り返しになるし専門用語っぽくて使いたくないのだがこれはもうボディ感としか言いようのないものが加わる。

というわけで、もし驚異的にヒマを持て余している人がいたら、試しにやってみてください。ワイン好きならやって面白くないことはないです、たぶん。

 

 

「いいワイン」ってなんだろう? じっくり考えてみた

「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。」で話したこと

お友だちで醸造家のNagiさんとYouTubeチャンネルを立ち上げた。「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。」というもので、ワイン造りのプロであるNagiさんに、素人である私が素人質問をぶつけまくる様子を楽しんでいただく、といった趣旨のチャンネルだ。

ぜひチャンネル登録してください↓

www.youtube.com

その第1回のYouTubeLiveを先日行った。テーマは「畑、栽培、醸造。知っておきたいワインの基本」というもの。とても面白かったので、その感想をまとめておきたい。

 

いいワインって、なんだろう。

今回のYouTubeLiveでは、「いいワインとはなにか?」という問いを冒頭に発した。私の答えは「なるべく安くておいしいワイン」で、もっと突き詰めれば「おいしいワイン」だけでもOKだ。なのでまずは「いいワイン≒おいしいワイン(仮)」という仮説を立ててみよう。

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我々消費者は、当たり前だがワインを造ったことがない。そのため無意識に「このワインがおいしいのは、きっとXXXXが理由であるに違いない」という妄想を脳内で行いがちだ。

オーガニック栽培のブドウだから、
野生酵母で発酵させたから、
いい区画のブドウを使っているから、
良いヴィンテージだから、
長期間樽で熟成させたから、
おいしい。
ついそんなふうに考えがち。実際、インターネットでワインを購入しようと思ったら、販売ページには上記のような文言が太字で赤字で書き立てられている。それは真実だろうか?

 

醸造家の仕事」って?

Nagiさんは上に挙げたような要素ひとついひとつを否定することはもちろんない。ただ、それらはどれも数ある要素のうちのひとつ。ワインの味を決定づける“たったひとつの要素”はなく、畑、栽培、醸造、それらひとつひとつの要素が複雑に絡み合い、ワインはひとつの味わいを獲得していく。無数の変数のカオス的交わりの果てにワインは生まれてくるのだ。考えてみればそりゃそうだ。

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自然そのままの土地にブドウを生えるままにし、収穫したブドウを容器に入れて放置するだけでもワインはもしかしたらできちゃうかもしれないが、結果できるものの味わいは誰にも予想できないものになるだろう。そして、その状態で毎年同じような品質のワインを安定的に供給するのは難しいかもしれない。

「いいワイン」とは?

予測不能に思える要素を予測し、コントロール不能に思えることをできる限りコントロールし、求められている味を実現するために必要な糖度や酸を持つブドウを収穫し、つねに安定した「おいしい」を供給することが、ちょっぴり主語が大きすぎるかも知れないが、どうやら醸造家の仕事であるようだ。

造るのが1000円の定番品なら1000円の定番品に求められる味わいのなかで品質が高いもの。1万円の高級キュヴェならその価格に見合った品質のものが「いいワイン」ということになる。「最高の区画の畑で徹底した収量制限を行い、新樽で長く熟成させたワイン……=いいワイン」といったほうに、特定の畑、特定の栽培方法、特定の醸造方法あるいはそれらの掛け合わせを、「=いいワイン」と単純に等号で結ぶことはできないのだ。

 

「おいしいワイン」の正体

たとえばNagiさんがいるドイツでは、最高級のリースリングはステンレスタンクで熟成させるケースも多くあるそうだ。栽培においては収量制限をして凝縮度を高めることがワインに求められるスタイルにとってマイナスに働くこともあるし、畑において最良の区画は気候変動の影響でブドウが過熟しやすい土地になってしまっているケースもあるという。そうでなくとも、濃厚で凝縮感の高いワインが好きな人もいれば、酸の多いワインを好む人もいる。

最高級のステーキ肉でも焦がせばおいしくない。それは論外としても、レアが好きな人に芯まで良く焼けたステーキを供しても、それはそれで喜んでもらえない。財布に1000円札一枚しか入っていない客しか来ないのであれば、切り落とし肉をなんとかおいしく調理せねばなるまい。霜降り肉が好きな人もいれば、赤身が好きな人もいる。「いいステーキってなんだろう」に答えはあるが、その答えは人によって違う。

YouTubeの動画はこのサムネが目印です。

結局、「いいワイン≒おいしいワイン(仮)」という仮説は正しかったのだろうか。おそらくイエスだが解像度が低い。ぼくたち私たちはもっとワガママを言うべきなのだ。「3000円以内で買えて、果実味があって、酸味もあって、アルコール度数は12〜13.5度くらいで香りの良い赤ワイン」とかがおそらく私にとって「いいワイン」。それはこれを読んでくれているあなたの「いいワイン」とはおそらく違う。100人いたら100人の細かすぎる「おいしい」があり、「おいしい」と「いいワイン」が等号で結ばれるとき、いいワインの数は人の数だけ存在することになる。

つまりいいワイン≒おいしいワインなのだがその数は無限であるため、たったひとつの「いいワイン」を定義することはできない。する意味がない。ここまでを理解してはじめて、土地、栽培、醸造の話になってくる。

上に挙げた私の好みのワインは、太陽が燦々と降り注ぎ気温も高い土地ではかなり造りにくいはずだ。人の数だけ好みがあり、その大まかな傾向から濃い、薄い、甘い、酸っぱいといったワインのスタイルは生じる。それぞれのワインのスタイルにはそれを生み出すのに適した土地があり、適した栽培があり、適した醸造がある……みたいな話を、40分の予定が70分くらいになってしまったYouTubeLiveでは話したような気がする。

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以上は私・ヒマワインの解釈なので、Nagiさんがこの駄文を読まれたならば苦笑いで「ちょっと違うんだよなぁ」と言うだろう。Nagiさんの意見と上に述べた私の考えはまったくもって等号で結ばれないことはご留意いただきたいし、細かいところはアーカイブが残っているので、そちらをぜひご覧になっていただきたい。もっと具体的で面白い話がたくさん聞けるはず。

そして、次回のYouTubeLiveも、ぜひご覧いただけたら幸甚だ。