ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

興味のない方にワインを勧める方法を考えつつ、「刺さった」ワインを振り返る

ワインに興味を持ってもらうためには?

お友だちのとりゅふさんと「花よりロゼ会」を開催した。

とりゅふさんはXおいしいもの界隈で知らぬもののないインフルエンサー。彼女が東京・田原町のオールデイダイニング「101 ichi maru ichi」の運営に関わっている関係から、同店でイベントを開催するようになって今回が3回目なのだが、とりゅふさんの恐ろしい集客力により毎回70名前後のゲストをお招きする大盛況のイベントとなっている。

イベントのクリエイティブもとりゅふさん作

私はワインを選び・提案し・注ぐ係として参加。飲み物はワインがメインであるため、30本近いワインが毎回空になる一方で、必ずしもワインに興味のある方だけが来るわけではない、なんならワイン苦手という方もおられる会なのが大きな特徴。そんな方にもワインに興味を持ってもらい、できれば楽しんでもらうのが私のミッションとなる。

 

デコイ ピノ・ノワールをどうプレゼンするのか

たとえば「デコイ ピノ・ノワール」というワインを紹介する際に、「アメリカ、カリフォルニアのピノ・ノワール」です、と説明したとする。ワイン好きはそこから多くの情報を汲み取る。アメリカ、かつカリフォルニアならばきっと果実味にあふれたチャーミングなスタイルの赤ワインだろう、味わいは濃いめで酸はちょっとゆるいかもね、みたいな感じだ。銘柄の味そのものを知っている方も多いだろう。

ワインリストがこちら

だが、ワインに興味のない方は当然そんなことを1ミリも考えない。「アメリカ」も「カリフォルニア」も「ピノ・ノワール」もワインに対する修飾語にならないのだ。なので、「大谷翔平選手の愛犬のデコピンって、元々はデコイって名前だったんですけど、それと同じ名前なので今爆売れしているワインです。おいしいですよ」といった説明のほうが正しいということになる。

「サクランボや熟したザクロのアロマ、中程度の酸、タンニンは少なめでほんの少し樽由来のナッツ入りチョコレートのような香ばしさもあります」みたいなのは求められない。先の説明で言えば味の説明は「おいしいですよ」しかないがそれでいいのだ。犬の話のほうが良い。プレゼン時間は15秒くらいしかないし。

一方、そうかと思えばWSETやワインエキスパートといった資格をお持ちだったり、「北海道のワインおいしいですよね、去年ラフェト(チケット入手困難な余市で開催されるイベント)行ってきました」みたいなガチ勢の方にも来場いただくのがこのイベントの恐ろしいところ。そういった方に大谷翔平の犬の話をするのもアレなんですよ今度は。

もちろんその方の見た目からワイン度を測ることは不可能なので、カウンターのこちらと向こうでリアル人狼ゲームみたいになる。この中に……ワインガチ勢がいる!

 

ワインを紹介する粒度を考える

話がそれた。ともあれ、目の前には70名ほどのゲストの方がおられ、その方々のワイン習熟度はカオス的にさまざまだ。ただ、とりゅふさん(一部私)フォロワーの方々なので、おいしいものやお酒への興味は一様に高い。なので、1本のワインに対して粒度の異なる複数の説明を用意し、それを目の前にいる方の興味レベルとワイン解像度に応じて当てていくことが求められる(ような気がする)。

大谷翔平の犬の名前のワインです!
・濃すぎない赤ワインで、チェリーっぽさがあって飲みやすいですよ!
・中程度の酸を持つサクランボやダークチョコっぽいニュアンスのあるカリフォルニアのピノ・ノワールです!
・デコイってのは「囮」って意味でして、鴨猟の際に使う囮の鴨の意味なんですよ! 池に浮かべて仲間と思った鴨がやってきたところを撃つ…!(もはやワイン関係ない)

みたいな感じだ。間違ってもインポーター資料を朗読するようなことはしない。これを現場でやるのが楽しく、4時間が一瞬で過ぎる。プレゼンが上手くいくとすんなりそのワインを選んでもらえるし、気に入ってもらえる確度も高まる。そうして数十分後に空になったグラスを手に「次はなにがおすすめですか?」とカウンターを再訪してもらえるのはこのイベントを開催する個人的な醍醐味のひとつだ。(もちろんすべてうまくいくわけではない。ワインの味が説明と違っていたり期待値を下回ったら当然次の1杯にも手が出ないはずで、そういった方も中にはおられたはずだ)。

盟友・沼田店長のセレクトワイン。どれも一癖あって素晴らしかった

この弾み車が上手く回ると、人間誰しもリストがあるとそれを埋めたくなるもので、「全部の味を試してみたい!」みたいなサイクルに突入、たくさんリピートをしてもらえる状態になるような気がした。全種コンプリートしてくれた酒ガチ勢の方と「次は一体何を飲みましょうね…? 日本酒…? いっそビールで締めますか…?」と頭を悩ますのも楽しい時間だった。(ちなみにたくさんワインを飲んでもらうと歩合で私にお金が入る、とかではない)

 

イベントで人気だったワイン5選

今回は顔見知りの割合が少なく、目の前にいる方がどれくらいのワイン解像度を持っているかがわからない、というスリリングな状況でのプレゼンとなった。非常に難しく、その分やりがいが感じられたが、30本前後のワインが空になったという結果からも、一定程度喜んでいただけたのではないかなあと思う。

というわけで、ここからはイベントでとくに人気だった(良い評判が聞こえてきたり、すぐに売り切れてしまった)ワインをご紹介したい。

 

モルトポワレ N.V

まずスパークリングワインではダントツでこれ。カルヴァドス(フランス・ノルマンディー地方で造られるアップルブランデー)の蔵元が造る洋梨のスパークリングワイン、という説明が問答無用でキャッチー過ぎ、1杯目から指名で注文される方が多数いた。ワインマーケット・パーティ沼田店長にセレクトしてもらった1本なのだが、まさか洋梨を出してくるとは……! 味わいにも洋梨感がたしかな輪郭で存在し、とてもおいしかった。沼田さんありがとう!

 
98WINES 霜 SOU 2022 ROSE

山梨で人気の生産者、98WINESのロゼ。「ロゼ会」なのでロゼを多めに用意したのだが、98WINESってやっぱり人気あるんだな〜と実感する売れ行き。白の甲州と赤のマスカット・ベーリーAのブレンドで、甲州の下地の上にマスカット・ベーリーAの化粧を乗せたようなすっきりチャーミング味。ワインに詳しい方からの指名買いがとくに多かった1本。

 

マックマニス ヴィオニエ

桃みたいなニュアンスが割としっかりとある個人的に大好きなワイン。「赤ワインは飲めないけど白ワインなら飲める」「炭酸の入った(発泡性の)ワインは無理」「フルーティなのがいいけど甘口はイヤ」といった方は少なくない割合でおられ、そういった方々への受け皿として用意した銘柄だったが見事に役割を果たしてくれた感がある。わかりやすいは正義だ。みなさんぜひ“ヴィオニエ”という品種を覚えて帰ってください。

 

ダブル・ダイヤモンド カベルネ・ソーヴィニヨン 

他のワインが約500円の(まとめ買いだと安くなる)チケット1枚で飲めるのに対し、チケット2枚が必要で、かつ注ぎ量も30ccと非常に少なかったのだが文字通り瞬殺だったワイン。「高いワイン」のすさまじさを非常にわかりやすく感じられるワインとして選んだのだが、それが伝わっていたらいいなと思っている次第。あまりに売れ行きが良すぎてテイスティングできなかったの誤算すぎる(状態は前日にお店のソムリエさんに確認してもらってます)。

 

サブミッション カベルネ・ソーヴィニヨン

そして今回のMVPといえるのがサブミッション カベルネ・ソーヴィニヨンだったと思う。「フルボディのワインは渋くて苦手と思っていたけど、これはおいしかった」というご意見をいただいた。ワインマーケット・パーティで売り上げ1位に君臨するワイン、複雑さはないかもしれないが、わかりやすいさおいしさではそうそう比肩するものはないと思う。

 

個人的には乾杯用に用意したドメーヌ・シャンドンのロゼが想像よりずっとおいしかったのと、沼田店長が用意してくれた「メリーニ キャンティ ゴヴェルノ アッルーゾ トスカーノ」が素晴らしかった。今度買いに行こ。

というわけで、ご来場いただいた皆様ありがとうございました。「あのワインおいしかったな」と記憶に残るようなものがもしもあったら、ワインを選び、注がせていただいた立場としてはなにより嬉しく感じる次第だ。ぜひぜひ、ワインという素晴らしくて奥深い、一生をかけても楽しみきれない世界に足を踏み入れてみてください!