アルダリンはどんな生産者?
南アフリカの生産者「アルダリン」をご存じだろうか。南アフリカの「トップ10ワイン生産者」にも選出されたというプレミアムワインに特化した家族経営のワイナリーで、日本でも人気が高い。そのアルダリンのワインが網羅的に楽しめる「アルダリン6本セット」が楽天市場でめちゃくちゃ売れているらしく、そのセットを飲んでレポートしようという指令が届いた。
これはみんなでワイワイ飲み比べたら楽しそうだと思い立ち、募集をかけたところ私を含む6人のワイン愛好家が都内のレンタルスペースに集まった。アルダリンセットの人気の秘密はどこにあるのか? 早速レポートしていきたい。
アルダリン6本セットの中身
まずはセットに含まれる6本のワインを眺めていこう。以下のような感じだ。
1:ピノタージュ
2:レディーM
4:シラーズ
5:ピノタージュ・ブラン
以上6本。1〜4の4本が赤ワイン、5〜6の2本が白ワインで、2の「レディーM」は樽を使っていないタイプのピノタージュ。5の「ピノタージュ・ブラン」は赤品種のピノタージュを白ワインのような色合いに仕上げたブラン・ド・ノワールタイプだ。このピノタージュ・ブランが珍しくて面白いので、まずは5の「ソーヴィニヨン・ブラン」も加えた白2本をブラインドで提供してみることにした。
「ソーヴィニヨン・ブラン」と「ピノタージュ・ブラン」を飲み比べ!
アルダリンの「ソーヴィニヨン・ブラン」はグレープフルーツを思わせる酸味とフレッシュさ、そこにハーブのニュアンスが加わって、教科書に載せていいレベルの王道ソーヴィニヨン・ブラン味で非常においしいワイン。それだけに、みなさんこれはあっさり「ソーヴィニヨン・ブランですよね?」と正解。うーむ、やりますな。
ただ、ピノタージュ・ブランはブラインドで正解に辿り着く難易度が一気に跳ね上がる。なにしろ赤品種を白に仕上げた変化球、さすがに正解までは辿り着けないだろうというのが私の予想。「ジャジャーン、正解はピノタージュのブラン・ド・ノワールでしたーっ!」とドヤ顔で正解発表しようというドス黒い意図とともにグラスに注いでみたのだが、これが思ったより薄ピンク色をしている。
「あれ、ちょっとピンクっぽくないですか? 赤品種…?」
と、1名が一瞬で正解の2メートル手前くらいまで肉薄。あれおかしいな。
その後も、
「グリ系のブドウなんじゃないですか?」(惜しい)
「ホワイト・ジンファンデルっぽいね、味わいも含めて」(ほぼ正解)
※ホワイトジンファンデル=赤品種のジンファンデルを使用したロゼ
「そういえば南アにはサンソーの突然変異の白品種、ホワイト・サンソーなんてのもあるよね」(鋭すぎる)
といった指摘が続出。最終的には「サンソーで造ったブラン・ド・ノワール」っていうもうそれ正解でいいですっていうところまで迫られてしまった。すごいなみんな。正解発表後は「白タージュ(白いピノタージュ)だったかー!」と新たなワイン用語まで誕生していた。
アルダリンの「ピノタージュ・ブラン」がすごい
そしてこの白タージュことピノタージュ・ブランだが、参加者6名のうち2名が「今日のベスト」に挙げたことからもわかる通り、ただの変化球ではなく素晴らしいワインだった。
赤ワインを造る際、果皮や種などを液体に(ほぼ)浸さずに透明に仕上げるのがブラン・ド・ノワールだが、本質的には白ワインではなく「非常に薄いロゼ」。だからこそ、このピノタージュ・ブランも白ワイン的な酸味とフレッシュさがありながら、ピノタージュならではの赤いフルーツの果実感、さらにはわずかな渋みや、そこから派生する旨みも感じられる。いわば白に擬態したロゼ。だからこそ、色味に対してギャップを感じるほど深い旨みがある。
もちろんソーヴィニヨン・ブランもおいしいのだが、このピノタージュ・ブランは「これを飲むためにセットを買う価値がある」レベルのワインだと感じた。
ピノタージュの「樽あり」「樽なし」を飲み比べ!
さて、続いては「ピノタージュ」と「レディーM」を飲み比べてもらった。どちらもピノタージュ100%のワインだが、「ピノタージュ」は新樽率40%のオーク樽で22カ月熟成させたリッチな造り。それに対して「レディーM」はステンレスタンクで発酵・熟成させたピノタージュだ。つまり同じ品種の樽あり・樽なしの比較テイスティングということになる。
この2本は品種を明かした上で、造りのどこが違うかを隠して飲み比べてもだったのだが、
「樽ですよね」
とみんな合唱するレベルで一瞬で正解に辿り着かれてしまった。あれ、これ企画倒れしてる?
私も味わってみたのだが、なるほど割と一目瞭然の違いがある。樽由来のバニラ感が豊かな果実味と調和し、挽きたてのコーヒーのような甘みを伴うスパイシーな香りも漂うのが樽ありの「ピノタージュ」。
それに対して「レディーM」のほうは非常にフレッシュで、どこかボジョレー・ヌーボーを思わせるような甘やかな香りも漂う。「ブラインドだったらガメイって言うと思います」という方がおられたが、たしかに! となるような味わい。
品種は同じピノタージュ。造り手も同じ。なのに樽のあり・なしでこんなにも味の方向性が違うのか! と驚かされる、興味深い飲み比べとなった。
アルダリンの「ピノタージュ」もすごい
そして、樽の豊かな風味が魅力の「ピノタージュ(通称・樽タージュ)」はこの日の一番人気。参加6人中3人が「今日のベスト」に挙げていた。ちなみに「レディーM」のほうはほんの少しだけ余ったものを参加者のうちのおひとかたに持ち帰ってもらったが、次の日は熟成感と甘みが出てきて別人のような表情を見せたそうだ。なにそれ聞いてない(嫉妬)。
「カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー」と「シラーズ」を飲む!
さて、セットで残るのは「カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー」そして「シラーズ」だが、参加者のうち「南アのボルドー・ブレンドが大好き」というコアな嗜好を持つ方が前者を絶賛。
カベルネ・ソーヴィニヨンの特徴香のひとつといえるピーマンやシシトウのような青野菜っぽい感じがあって、それがたまらないとのことだった。
一方、なにを隠そう私がベストと感じたのが「シラーズ」。シラーズといえば黒胡椒のようなスパイシーなニュアンスが特徴の品種だが、これはスパイシーさはほどほどに、ボヨヨンとした果実味が前面に出ているタイプ。ピノタージュとどちらがNO.1かめちゃくちゃ迷ったのだが、ギリギリでこちらを1位に推した。ローストビーフとめっちゃくちゃ合ったんだよなあ。
人気投票結果発表。アルダリンセットはピノタージュがうまい!
各人にベストを投票してもらった結果をまとめると以下のようになる。
1位:樽タージュ(ピノタージュ) 3票
2位:白タージュ(ピノタージュ・ブラン)2票
3位:シラーズ 1票
アルダリン6本セットを飲んだ印象として特筆すべきは、やはりピノタージュというぶどう品種を扱う手腕のたしかさだろう。ピノ・ノワールと、この地でエルミタージュと呼ばれていたサンソーを交配して生まれたから「ピノタージュ」。だが、意外なほど「ピノ・ノワールっぽさ」がないのがこの品種の特徴な気がしている。どっちかっていうとサンソー似かな?(お母さん似? みたいな意味で)
色が濃いのに味わいはチャーミングで酸味と渋みはおだやか。かと思えば香りはときにワイルド。ピノタージュにはそんな印象を個人的に持っているが、その特徴を際立たせつつ飲みやすくキレイにまとめあげている印象。それは、「ピノタージュ・ブラン」においてもそうだし、樽をかけていない「レディーM」にも同じことを感じた。なんというか、ピノタージュという品種を熟知していないと造れない味という印象だ。
アルダリンセットはお買い得か?
これだけで大満足なのだが、タイミングが良ければこのセットには“おまけ”が2本ついてくる。それが「フローレンス レッド バイ アルダリン ケープブレンド」と「フローレンス ホワイト バイ アルダリン」の2本。前者はピノタージュ、カベルネ・ソーヴィニヨン。メルロー、シラーズブレンド。後者はシャルドネとソーヴィニヨン・ブランのブレンドで、どちらも飲みやすくておいしい単品価格3190円のワインだ。
アルダリンセットは以上計8本で19800円(税込、送料無料)。おまけを含めれば1本あたりの価格は2475円と2500円を切るが、メインの6本は単品価格が1本5000円前後のワインたちであり、本来2500円を切る価格で買えるクオリティではない。というわけで、「こりゃ売れるわけだわ」というのが今回の結論となる。こりゃ売れるよ、だって飲んだばっかりなのにもう欲しいもの。蛇足ながら、仮におまけがついてこないとしてもこのセットはお得だと思う。
そして、ワイン愛好家目線でこの日のワイン会を振り返ると、「白の品種」や「ピノタージュの造りの違い」をみんなでワイワイ議論する過程がもっとも盛り上がり、同時にピノタージュという南アフリカで生まれた品種への解像度を高めることにもつながって非常に有意義だった。
南アフリカワインについての理解を深めたい方、そしてなによりちょっと贅沢なおいしいワインが欲しい方にオススメできるセットだと思う。