サン・テミリオンの生きる伝説、ステファン・フォン・ネイペルグ伯爵
ワイン界には(たとえばロバート・パーカーのように)知っておいたほうが良い人物名がいくつもあるが、ステファン・フォン・ネイペルグ伯爵の名前もそのうちのひとつだ。すごいんですよこの伯爵。
1957年、ドイツで800年続くフォン・ネイペルグ伯爵家に生まれたネイペルグ伯爵は、1983年にボルドー右岸のサン・テミリオンに移住すると異様なまでのワイン造りの才覚を発揮。
当時品質の低下に苦しんでいたカノン・ラ・ガフリエールやシャトー・ラ・モンドット(ラ・モンドットに改名)の品質を劇的に改善し、サン・テミリオンの格付けで12シャトーしか選ばれていない「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB」にまで超短期間で導いたことで世界的に知られたという人物だ。
伯爵が半端ないのは、カノン・ラ・ガフリエールやラ・モンドットみたいな高級ワインだけじゃなくて、安ワインを造るのも鬼のように上手いという点。コート・ド・カスティヨンの「シャトー・デギュイユ」や、ブルガリアに所有するベッサ・ヴァレーの「エニーラ」などは私でも購入できる価格だが、価格に対して異様に旨い。
私は東欧のワインが好きだが、そのきっかけとなったのがまさにエニーラだしシャトー・デギュイユも下手な格付けワインよりうまいんじゃないですかこれってくらいおいしい。いずれも果実味ドッカンな味わいで、とっつきやすさ・飲みやすさに関してはほぼボルドー最強クラスだと思っている。
そう、なにを隠そう私はネイペルグ伯爵のファンなのだ。最近飲んでなかったけど。(そして肝心カナメのカノン・ラ・ガフリエールもシャトー・ラ・モンドットも飲んだことないけど…!)
「ネイペルグ・コレクション ルージュ2014」の価格がエグい
そんなネイペルグ伯爵ブランドを冠したワインに「ネイペルグ・コレクション2014」というものがある。ネイペルグ伯爵が手がけるワインの多くに採用されている伯爵家の紋章入りボトルに入った10年熟成ボルドーだが、これがラッキーなことに「よかったら飲んでみませんか」と自宅に送られてきた。そしてこのワイン、価格がエグすぎるのだ。
その価格、3850円(税込み)。いや普通じゃん。むしろちょい高くね? と思ったみなさん、友よ、話は最後まで聞いていただきたい。このワイン、定価は3850円なのだが、1ケース(6本)まとめて買うと、なんと57%オフの1本1650円になるのだ。ちゃんと計算しましたか(利益率とか)? ってレベルの値引き率。
なんでも蔵在庫をすべて買い取ったからこその価格なのだそう。蔵在庫全購入なので、このヴィンテージは他では買えず、店舗販売、卸販売もなし。ネットショップ専売だからこそのキャンペーン価格というわけだ。こういう話大好き。
「ネイペルグ・コレクション2014」を飲んでみた
ただもちろん、いくら安くともおいしくなければ意味がない。2014年のボルドーはまあまあいいくらいのヴィンテージだったはずだし、10年も熟成させちゃって大丈夫かなあと不安になる人も多かろう。
というわけで安ワイン愛好家を代表して1本飲んでみたのだが、結論を言おう。大丈夫だ。大丈夫っていうか1650円じゃ絶対買えない感じの味だった。
香りは清涼感のある杉の木のような爽やか系。消し炭みたいな深みのある香りと、明るい色のレザーのような香りが複雑に混じり合う。ボルドーらしさ溢れる香りがする。
液体はタンニンが柔らかく溶け込んでいて非常にスムーズ。酸もたっぷりと残っているけど角がとれてまろやか。そこに熟成したメルローらしい柔らかい果実が加わって、全体が調和している。
もしこのワインを自販機で売るとしたら「あたたか〜い」(HOT)とか「つめた〜い」(COLD)ではなく「やわらか〜い」(SOFT)っていう分類になるんじゃないかレベルのお日さまポカポカの日に干したタオルを思わせる柔らかな果実味。この果実がしっかりいる感じがいかにもネイペルグ印という印象で、3850円で価格相応と感じる味が1650円で買えちゃうのは強い。我が家のハウスワイン、これでいい説。
そんなわけで、サン・テミリオンのプルミエ・グラン・クリュ・クラッセに通じるネイペルグのエッセンスをこの価格で味わえるチャンスは後にも先にもこの1回限りとなることが濃厚。ネイペルグ伯爵ファンも、まだ飲んだことがないという人も、これを機に味わってみてはいかがか。