「田邉鬼コスパセット」とは?
「田邉鬼コスパセット」をご存じだろうか? 楽天市場などで人気の「鬼コスパワインセット」をSNSなどで大人気の田邉公一ソムリエが監修し、独自にワインをセレクトした大人気のセットだ。「田邉公一氏厳選!鬼コスパワイン9本セット+スペシャル特典 第6弾」というのがその正式名称。
毎回数量限定で販売されるためあっという間に売り切れてしまい、恥ずかしながら買えた試しがない。それを哀れんでくれたのか、「田邉鬼コスパセットを飲んでレビューせよ」という依頼を受け取ったので「レビューせ」くらいのタイミングで「やります」と食い気味に承諾させていただいた。
さて、実際に飲む前に、まずはセットの概要を把握しておこう。セット本数は田邉ソムリエ厳選の9本(泡2本、白4本、赤3本)。それにオマケでシードルが1本付いてきて、実質計10本。セット価格は19800円(送料込み)だから、おまけを含めた1本あたりの価格は1980円ということになる。
後ほど詳しく紹介するが、1本1980円ながら4400円とか3850円とかのアラウンド4000円ワインがゴロゴロ入っているのがすごい。そして、選ばれているのは50本の候補ワインを田邉ソムリエがテイスティングし選び抜かれた9本。いわばベストナインと呼ぶべきワインということになる。
ベストナインといえば野球用語だが、そういえば田邉ソムリエは元野球部だ(二塁手だったと以前うかがったことがある)。田邉ソムリエが選んだ9人の選手、じゃなかった9本のワインの実力はいかがなものか。実際にテイスティングした結果を受けて、野球の打順になぞらえて紹介していきたい。
ハーフナー「フリッツァンテ リースリング」
さて、9本のなかから俊足巧打が求められるトップバッターに選んだのはハーフナーという生産者の「フリッツァンテ リースリング」というオーストリアのスパークリングワイン。単品価格は3850円。
オーストリアのスパークリングは初めて飲んだ気がするが、これが素晴らしい! 香りは焼きたてのタルトの皮のような香ばしさ。そこにレモンの皮を蜂蜜で煮詰めたような甘酸っぱさが加わる。飲んでみてもその印象は変わらず、ドライなのだがよく冷やしたレモンタルトにかじりついたような味わいだ。
リースリングのシャープな酸とあふれるような蜜感を2.5バールのやさしい泡(シャンパンは5〜6気圧。1バールはほぼ1気圧)が包み込んで、液体としての完成度が異様に高いのだった。
というわけで先頭打者がヒットで出塁。いいぞいいぞ。
キンタ デ アマレス「ヴィーニョ・ヴェルデ ロウレイロ2023」
さて、送りバントなどの器用さが求められる2番バッターはキンタ デ アマレスの「ヴィーニョ・ヴェルデ ロウレイロ2023」をチョイスした。他のワインが4000円前後中心というなか、全体でもっとも安い2200円。
とても爽やかなレモンやハーブの香り。飲んでみると、舌をわずかに刺激する微微微微微発泡。この感じはヴィーニョ・ヴェルデならではだなあ。アルコール度数も11度と低めだし、休日の16時半くらいから飲みはじめたい軽快な味わい。
キレイな酸に加えて果実味もあり、キリッと冷やしてムール貝の白ワイン蒸しとかイワシのレモンマリネなんかの前菜と合わせたらさぞかし最高だろうという印象。見事送りバント成功だ。
ちなみにヴィーニョ・ヴェルデは直訳すると「緑のワイン」で、その言葉の印象から緑がかって見えるほどフレッシュな白ワインのことだと思われがちだが実は「完熟前のぶどうを使ったワイン」のことで赤もあったりする。以上、豆知識でした。
ドメーヌ・ターナック「ブルゴーニュ シャルドネ グラン レゼルヴ 2021or2022」
さていよいよ打順は中軸へと進んでいく。3番バッターにはドメーヌ・ターナックの「ブルゴーニュ シャルドネ グラン レゼルヴ」を起用したい。ヴィンテージは2021or2022で単品価格は4400円。高騰の続くブルゴーニュが入っているのはお得感たっぷりだ。ちなみに私のところには2022VTがやってきました。
シルバーに近いホワイトゴールドの外観。レモンやライムが漂いつつ、ミックスナッツのような香ばしい香りもする。飲んでみると樽由来と思われるバニラの香りが広がるけれど、意外と味わいは酸が主体だ。
温度が上がってくるとふくよかさが増し、マロンタルトやスイートポテトみたいな雰囲気が出てくるが、全体にシャブリのいいやつを飲んでいるような印象を受けるブルゴーニュ・ブランだ。
なんでもドメーヌ・ターナックはブルゴーニュの中でもシャブリ寄り、つまりかなり北のエリアに畑を持つ生産者なんだそうだ。土壌もシャブリと同じキンメリッジアン土壌とのこと。
コート・ドールにこだわらなければ、1本1980円(セット平均価格)でこんなにおいしいブルゴーニュが飲めることを田邉ソムリエに教えてもらった気分。いいワインセットには学びがある……!
ジー バイ ユリグサ ルージュ 2022
いよいよ打線の最強バッターが選ばれることの多い4番打者の発表だ。そこに選ばれたのはジー バイ ユリグサ ルージュ 2022。ボルドー初の日本人女性醸造家・百合草梨紗さんが監修したワインで、メルロー95%にカベルネ・フラン5%をブレンド、1〜2年使用のフレンチオーク樽で熟成している。
そしてこれは結構かなり、いや、とんでもないサプライズなのではないでしょうか。格付けx級って言われても納得する重厚さと複雑さ、そして圧倒的な果実感。このワイン、おいしいのは知ってたけどこんなにおいしかったっけ。それとも22ヴィンテージが特別良いのだろうか。
深煎りのコーヒーのような香り、花粉が飛んでいない時期の爽やかな杉林の香り、買ったばかりの鉛筆を箱から出したときの香り、よく煮詰めた黒いベリーのジャムの香りが相まって、その香りの印象の通りの味がする。
酸も渋みもあるのだが、果実が少しだけ突出している。王道のストライクゾーンからボール半個分だけあえて外して親しみやすさに振ったボルドーという印象で、私大好きなんですよこういう味。
ジー バイ ユリグサはブラン(白)のほうがおいしいと思っていたが、以降考えを改めたい(両方最高にうまい)。これは文句なしのホームラン。単品価格は2838円で、その値段だとしてもハイコスパワインだと言える。
カナル ディ モリーニ「ラ キウーザ バルベーラ ルビコーネ IGP2020」
続いて強打者が務めるケースが多い5番バッターだが、ここはカナル ディ モリーニのラ キウーザ バルベーラ ルビコーネ IGP2020(単品価格3828円)がパズルのピースのようにピタリとハマる。
バルベーラというとイタリア北部・ピエモンテ州のイメージが強いけれどもこれはちょっと南のエミリアロマーニャ州のワイン。パスタの「ボロネーゼ」でお馴染みのボローニャがあるところですね。
グラスに注いでみるとこの品種らしい紫色の外観。エッジがほんのわずかに煉瓦色に変化していて「熟成、はじめました。」と宣言しているが如し。
飲んでみると予想通りほんのわずかな熟成感がある。渋みや酸味は穏やかで、硬い蕾から花びらが現れるように豊かな果実味が顔を出しはじめている。ブラックペッパーのようなスパイスも感じられて、ちょっと北ローヌのシラーっぽい印象もある。
これぞおいしいイタリアワイン! という親しみやすさがありつつ、ワイン初心者の方の熟成ワインってどんな感じ? という知的好奇心を気軽に満たすための装置としても有効に機能する。ジーバイユリグサに続き、2者連続ホームランだ。
コレル「リースリング トロッケン2022」
6番バッターはドイツのリースリング。コレルという生産者の「リースリング トロッケン2022」。価格はセット最高額の4400円。4000円を超えるワインがセット平均1本1980円で飲める本当にありがたいよなあ。
グラスに注いでみるとリースリングらしい黄金を溶かしたような色合いで、ペトロール香(石油的な香り)はなく、レモンと蜜を感じる爽やかな香り。
外観の印象は蜜っぽいのだが、飲んでみると意外にも高原の岩清水レモン的なダイレクトな酸味が主張してくるタイプ。それでいて果実の甘やかさも同時にあるため、飲み飽きない。結果は粘ってフォアボールで出塁、といったところか。
合わせるならばレモンを効かせた鶏の唐揚げ、ポン酢でいただく水炊きなんかも良さそうで、すごくフードフレンドリーな印象。今回の田邉鬼コスパセットは夏仕様で、田邉ソムリエが暑い時期に飲みたいさっぱりしたワインを中心に選んだのかな? と想像しながら飲むのがまた楽しい。もちろん、残暑の時期にもぴったりだ。
アレンドルフ「イリュージョン2022」
下位打線ながら意外と長打力を求められる重要な打順。それが7番だが、ここはアレンドルフの「イリュージョン2022」でいきたい。単品価格3850円というワインだ。
ゲヴュルツトラミネールとリースリングのブレンドというありそうでなさそうな絶妙な品種構成で、格付けはVDPオルツヴァイン=村名格。ドイツの村名ワインまで入ってるのかよ…!
そしてこのワイン、個人的には今回の田邉鬼コスパセットにおけるジー バイ ユリグサと並ぶ最大のサプライズ。香りは7:3でゲヴュルツトラミネール、味わいは7:3でリースリングの印象で、ふたつの品種の印象が浮かんでは消える。香りはライチにバラ、味わいにはレモンやリンゴの蜜……変幻自在の味わいだ。
このワインの原語での正式名称はILLUSION FRUCHTIG。FRUCHTIGは「フルーティ」という意味だそうで、まさに幻想の果実感。
ワイン自体非常に飲みやすく、酸が豊かで果実感もたっぷり。香りも良い。ワインが苦手な人が忌避する渋み・苦みもないから、ワインビギナーにも自信を持って勧められるワインだと思う。一方、トリッキーなブレンドは愛好家が集うワイン会に持ち込んでも盛り上がるだろう。これは覚えておくといいですよ、みなさん。
ピエール ドレ「ボジョレー ルージュ レ ペピット シスト2019or2020」
さて、8番キャッチーはチームの要的存在と言えるが、その位置を占めるのがピエール ドレのボジョレー・ルージュ レ ペピット シスト2019or2020(単品価格2970円)だ。
ボジョレーといえばヌーヴォーだが、ボジョレー・ヌーヴォーに使われる品種・ガメイは熟成ポテンシャルの高い品種。それだけにちょい熟が予感される2019or2020ヴィンテージなのが嬉しいところだ。チームをまとめるベテラン捕手の感ありである。
私の自宅に届いたのは2020ヴィンテージ。飲んでみると、ベテラン捕手というよりは2020年入団で苦労しながら少しずつ力をつけている大卒4年目捕手、みたいなイメージだった。開けたては酸味と渋みが先行し、肝心の果実味はまだ奥のほうで覚醒の時を今か今かと待っている。
このワインが本領を発揮してきたのは抜栓から1時間ほどが経過したタイミング。酸と渋みの外壁が剥がれ落ち、中からとろりと果実がこぼれ落ちてくる。仮に私と同じ2020ヴィンテージが届いたならば、飲む1〜2時間くらい前に抜栓しておくのが良さそうだ。
ファミーユ ブーグリエ ブーグリエ クレマン ド ロワール ブリュット
そして、投手が務めることが多い9番バッターにはスパークリングワインで“締め泡”を楽しもう。ファミーユ ブーグリエの「ブーグリエ クレマン ド ロワール ブリュット」というワインで、ロワール地方の名物ぶどうシュナン・ブランを中心に、シャルドネ、ピノ・ノワールをブレンドし、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造られているというワイン。単品価格は3850円。
グラスに注いでみるとまず非常に豊かな泡立ちが目を惹く。グラスに注いでくれてありがとう! とワインが言っているかの如く、泡の元気が非常によくて見た目に楽しい。泡が表面で弾けるたびにレモンに似た酸味を思わせる香りも弾けて、早く飲みたい、否、飲む。という気持ちにさせられる。
クレマンとはクリームの意で、包み込むような泡はイメージ的には飲むジャグジー。そして味わいは正しくリンゴだ。甘〜い蜜リンゴというよりは、限りなく青リンゴ寄りの酸味と歯応えで勝負するタイプのリンゴ。少し時間が経過すると、手で割けば湯気が立つ焼きたてのデニッシュの印象が追いかけてきて、だんだん飲むアップルパイみたいになってくる。
個人的な意見だが、2000円前後の価格帯はおいしいスパークリングを探すのが極めて難しい価格帯だ。そんな中、セット平均価格1980円で買えるこれはまさに「そうそうこういうのが欲しいんだよね」という価格と味。さすがだぜ、田邉ソムリエ。
田邉鬼コスパ9本を飲んでみて
というわけで9本のワインを飲み終えた。爽やかでフレッシュなワインを中心に、実にバリエーション豊かで、飲むだけでワインの知識が広がっていくようなセレクト。しかもこうして振り返ってみると9本すべてがヨーロッパのワインなんすよ。新世界のワインを1本も入れずにここまでのバリエーションを作ってくる田邉ソムリエ恐るべし。
最後に、個人的MVPを1本選ぶならばジー バイ ユリグサ ルージュ2022を挙げたい。ボルドー右岸の、というかメルローという品種の良さを十全に味わえる素晴らしいワインだった。
あと、アレンドルフの「イリュージョン」も素晴らしいしハーフナー「フリッツァンテ リースリング」も最高においしかったしカナル ディ モリーニ「ラ キウーザ バルベーラ ルビコーネ IGP2020」もめちゃくちゃ良かった……と結局9本すべての名前を挙げるハメになりそうなのでこのあたりでやめておこう。
このクオリティのワイン群が1本1980円で飲めちゃうのは本当に驚き。しかもこれだけ飲んで、まだおまけのシードルまで控えているのだ。
田邉鬼コスパワイン、在庫数がだいぶ少なくっているようだ。欲しい方、お早めに!
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