ブルゴーニュの2020ヴィンテージを飲み比べる会に行ってきた
お友だちのかしたくさんが主催する、有名生産者のACブルゴーニュの2020ヴィンテージを飲み比べる会に参加してきた。
かしたくさんはそのワイン蒐集活動が「かしかつ」と称される界隈で名高い方。レンタルセラーを契約しつつ「空気よりも液体のほうが割合として大きい」という部屋に暮らしておられるのだそうだ。「空気よりも液体のほうが多いから室温が安定するんです」という発言は名言。
せっかく買ったんだからまとめて味見をしたいが、一人では難しいのでお前ら付き合えという趣旨に賛同したかしたくさん含め7名の物好きが都内のレンタルスペースに集合。みなさん大ぶりのブルゴーニュグラス二脚を持ち込んで準備に余念がないなか、うっかりグラスを忘れた私はダイソーで220円のグラスを一脚慌てて購入しての参戦だ。意識は低いがワインは好き、それが私です。
まずはかしたくさんから配布された当日のワインリストを見ていこう。以下のような感じだ。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会のワインリスト
<白>
フランソワ・カリヨン ブルゴーニュ・コートドール
フランソワ・ミクルスキ ブルゴーニュ・コートドール
ドメーヌ・トロ・ボー ブルゴーニュ・コートドール
ミシェル・ブーズロー・エ・フィス ブルゴーニュ・コートドール
エティエンヌ・ソゼ ブルゴーニュ
ルシアン・ル・モワンヌ ブルゴーニュ・ブラン
ドメーヌ・バシェ・レグロ ブルゴーニュ・サン・マルタン
<赤>
ジャン・マリー・フーリエ ブルゴーニュ
ドメーヌ・ドニ・モルテ ブルゴーニュ・キュヴェ・ドゥ・ノーブル・スーシュ
クロード・デュガ ブルゴーニュ
デュガ・ピィ ブルゴーニュ
ドメーヌ・ベルトー・ジェルべ ブルゴーニュ・レ・プリエール
ロベール・グロフィエ ペール・エ・フィス ブルゴーニュ
ドメーヌ・トロ・ボー ブルゴーニュ・コートドール
うーん、すごい。私はガチでブルゴーニュの生産者の名前を全然知らないが、それでも知ってる名前ばかり。つまりはブルゴーニュのトップ生産者ばっかりということだろう。
なぜこれだけのラインナップを揃えられるのか。なにがかしたくさんを駆り立てるのか。かしたくさんに聞いてみると、「だって、買わなかったら誰かに飲まれちゃうじゃないですか。だから買うしかないんです」という答えが返ってきた。ちょっとなに言ってるかわからない(心から感謝していますの意)。
ということで会は「おいしいですね、買えないけど」「やっぱりいいよね、買えないけど」みたいな会話が頻発する会となった。かしかつ恐るべしである。
ただ問題は本数だ。実はこのほかに乾杯用+αで3本が開いており、さらには参加者の親方さんが2本を持参されている。つまり合計19本。なのだが、参加者は、神よ、たったの7名なのだ。つまり一人2.7本飲む計算。うん、計算間違ってる。私の適量MAX0.7本ですから。
16時スタート、22時半閉会という量も時間も空前絶後の会、残っている記憶をかき集めてレポートしていこう。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会1:マルク・テンペ アリアンス2011
さて、私用があって私は17時過ぎに到着したのだが、まず「駆けつけに」と注いでいただいたのはブルゴーニュじゃないし泡ですらないアルザスを代表する造り手の一人、マルク・テンペの「アリアンス2011」。
2011VTの情報は見つけられなかったが、2012VTの情報を参考までに記すとシルヴァネール、ピノブラン、ゲヴェルツ、シャスラ、リースリング、ピノグリを混醸したというワイン。
蜜で酸でちょいスパイシーでトロみもあり、「栗や焼いたさつま芋のニュアンスもある」と評されていたようにほっくりとした甘やかさもあっていきなり「これ今日のベストじゃない?」みたいに言われていた。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会2:ベラヴィスタ 「フランチャコルタ アルマ グラン キュヴェ ブリュット」
次が泡。ベラヴィスタの「フランチャコルタ アルマ グラン キュヴェ ブリュット」でこれまた素晴らしかったのだった。
購入して2年半ほど自宅で熟成させたというワインだがそれが見事にハマり、いい感じに熟したシャンパーニュのブラン・ド・ブランみたいな、熟し尽くした桃meets紅茶、みたいな感じがしてうーん、これはいい。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会3:クリスチャン・ビネール「カッツ・アン・ブル リースリング」
続いてはこれまたアルザスはクリスチャン・ビネールの自然派ペットナット、カッツ・アン・ブル リースリングでこれも素晴らしかったのだがいつになったらブルゴーニュが出てくるんだっ。
ちなみにこれは心の叫びではなく実際に「いったいいつブルゴーニュが出てくるんですか(笑)」と聞いているのだが、かしたくさんの返答は「これはまだ序章に過ぎません……(ニヤリ)」っていう敬語で話しかけてくるタイプの敵キャラのセリフみたいなやつ。底の見えない大穴の、私はまだ入り口にもたどり着いていない。
クリスチャン・ビネールに話を戻すと、私は恥ずかしながら存じ上げなかったがすごく有名な自然派生産者なのだそうで、このワインもネガティブな要素がなくアクエリアスそのものの味わいにおでんの出汁みたいな旨味が乗っかった印象で大変うまい。
序章でこれ。私、これからどうなっちゃうの〜ッ! という展開のなか、いよいよ怒涛のブルゴーニュ14連発(+α)の幕が上がる。夜はこれからが本番だ。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会4: フランソワ・ミクルスキ「ブルゴーニュ・コートドール」
まず最初に飲んだのはフランソワ・ミクルスキ。本拠地はムルソーで、天然酵母を使用、新樽率は低めの造り。
これが私は全体を通じてすごく好きだった。ムルソーのブドウをメインに造られるというそれは非常にわかりやすい味わいで、果実味が前面に出ていて飲みやすく、全体を通しても白のベスト3に入ると思った。
なのだが、「厄介オタク的にはわかりやすさが逆に気になる」「ムルソーの雰囲気はあるけれども雰囲気で終わってる」「薄いムルソー」と好き放題に言われてて俺は好きだぜ、フランソワ…(ムルソー村に想いを馳せながら)! ってなった。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会5:ドメーヌ・バシェ・ルグロ 「ブルゴーニュ・サン・マルタン」
続いてはバシェ・ルグロ。ブルゴーニュ・サン・マルタンは本拠地サントネ村のデリエール・サン・マルタンの区画からのブドウで造られたというキュヴェ。新樽率15%で澱とともに14か月熟成。
で、これも非常に良かった。広域ブルゴーニュとは思われぬすごく落ち着きと一貫性のある味わいで、鮎が棲む清流の流れのような青みをともなう岩清水感。そこにリンゴ、蜜、レモンの感じが加わって隙のない味わいだった。
恥ずかしながら知らない生産者だったが、かなりいいなと思った。いつか看板キュヴェだっていうシャサーニュ・モンラッシェ飲んでみたい。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会6:フランソワ・カリヨン「ブルゴーニュ・コート・ドール」
どんどんいこう。次に飲んだピュリニー・モンラッシェ屈指の生産者、フランソワ・カリヨンはかなり冷えた状態で提供されて、聞けば「最初は香りの立ち方がキレイで広がっていたが、酸がゆるかったので少し冷やさない? となった」とのこと。
「価格は5500とか6000円くらい。それが21(ヴィンテージ)で7000突入しています」とかしたくさん。でも、「ちょっと前2000円くらいだった」そうです。
2000円台でこれ買えたらもう一生これでいいわという味。樽発酵、樽で11か月(新樽率15%)熟成後、タンクで半年熟成させたという贅沢な造り。ピュリニー・モンラッシェの造り手だけあってというべきなのか緑の印象があって沁み渡るような味わい。こりゃうまいわ。
このあたりでずいぶん飲んだなあ、という印象があって実際にすでに6杯飲んでいるが、まだまだ序盤戦に過ぎない。上に積んである野菜の量がすさまじすぎてなかなか麺に辿り着けないタイプのラーメン屋を彷彿とさせるワイン会と言えよう。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会7:ミシェル・ブーズロー「ブルゴーニュ・コート・ドール」
というわけで続けよう、ムルソーの造り手、ミシェル・ブーズローのブルゴーニュ・コートドールを次に飲んだ。ムルソーとピュリニー・モンラッシェのブドウから造る贅沢すぎる広域ブルゴーニュ。新樽率15%の樽で12か月熟成後2か月タンク熟成したというワインだ。新樽率15%多いな。
すごく長く続く大理石の廊下を想起するような奥行きのある味わいに非常に豊かな酸で、広域名ながらあと何年か置いた姿を見たくなるような味わいでこれは非常に贅沢な味。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会8:エティエンヌ・ソゼ「ブルゴーニュ」
続いてはピュリニー・モンラッシェ屈指の生産者、エティエンヌ・ソゼだ。どなたかが「ソゼがやる気を出してきた」とおっしゃっていたがこれは一際シャープな酸があり、それがワインに良い緊張感をもたらしている。
ここまでミクルスキがムルソー、カリヨンとソゼがピュリニー・モンラッシェ、ブーズローがムルソーとピュリニーのハイブリッド。その特徴はワインに見事に反映されていると感じる。ウルトラ雑にいうならばムルソーは果実ピュリニーは酸みたいなザ・一般論な感じだがそう思ってしまったのだから仕方ない。
エノテカの記事によれば、ムルソーに対してピュリニーは地下水位が高く、地下深くにセラーを掘ることができなかったことから、「樽熟成によって甘い樽香や酸化による複雑な風味を、ワインが纏う前に瓶詰されていた」のに対し、ムルソーは地下水位が低かったことから十分に樽熟成をさせてから出荷できた……ことが今につながるスタイルの違いを生んでいるという説があるのだそうだ。真偽はわからないが歴史ロマンを感じる、いい話だ。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会9:ドメーヌ・トロ・ボー「ブルゴーニュ・コート・ドール」
さて、白ワイン編もいよいよラストスパート。続いてはショレイ・レ・ボーヌの名門、トロ・ボーが登場した。その広域ブルゴーニュは新樽率20〜30%程度で16〜18か月の樽熟成を経て瓶詰めされるそう。
ここまでムルソー系に果実、ピュリニー系に酸を感じてきたが、トロ・ボーはバランス型という印象。酸と果実が冬場の鹿(オス)のふたつのツノみたいに突出した状態でバランスしていて、「華やかで、コルトン・シャルルマーニュそっくりの味。コルトンの丘周辺のシャルドネという印象」と親方さんが言った言葉に納得がいく。
ショレイ・レ・ボーヌはコルトンと隣接するアペラシオンで、トロ・ボーはコルトン、コルトン・シャルルマーニュで知られる生産者ということで、やはりそのニュアンスがACブルゴーニュにも出ているのだろう。面白〜。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会10:ピエール・イヴ・コラン・モレ「ブルゴーニュ」
さて、ここで親方さんが持参された1本が登場する。PYCMことピエール・イヴ・コラン・モレのブルゴーニュ・ブラン。
サントーバンの生産者で新樽率100%の350リットルの樽で樽発酵、樽熟成。無濾過・無清澄で造る。
これがビックリするような存在感のあるワインで、他のワインが果実が強いな〜とか酸がシャープだな〜とか感じるのに対してこれは究極の中庸という印象。井も床も壁も鏡張りの部屋に吊り下げられた表面が鏡になった巨大な球体のように、とらえどころがないのに存在感は異様にある。
使用しているブドウはムルソー40%、サントーバン30%、ピュリニーとシャサーニュが15%ずつなのだそう。それら産地のブドウを新樽でまとめあげた結果のこの味なのだろうか。
ACブルゴーニュ、単一村・単一畑とはまた異なる産地ブレンドの妙みたいなのを感じるなー。
広域ブルゴーニュは見つからなかったけどモンテリー1erはあった。1万円切るのか…(金銭感覚崩壊)
2020ブルゴーニュ飲み比べ会11:ルシアン・ル・モワンヌ「ブルゴーニュ・ブラン」
さて、ブルゴーニュ・ブランのラストはルシアン・ル・モワンヌだ。なんでもルシアン・ル・モワンヌの当主、ムニール・サウマ氏は元シトー派の僧侶なのだそうだなにそれすごい。
マイクロネゴシアンとして厳選した果汁を樽で仕入れ、そこからワインを造るのだそうでこのブルゴーニュ・ブランはモンテリー、ムルソー、ピュイイ・フュイッセ、モンタニー1級、サントーバン、モレ・サン・ドニのシャルドネをブレンドし新樽率100%で24か月熟成させるという造り。
「ル・モワンヌは樽の魔術師。上手に酸化気味に造り、無清澄でボトリングすることもあって液体としてスポイルされていない」と親方さんがおっしゃっていたがやや濁りとトロみを感じる液体は、ブルゴーニュ全域の個性を集結させたからなのかモザイク模様的カオス的複雑さがある。
味筋としてはPYCMに近いように思う味で、私はこれもとても好きだった。PYCMとこれは階級がひとつ上、という味わいに感じた。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会「白の部」を終えて
というわけでこれにてブルゴーニュの2020ヴィンテージ「白の部」が終了。参加者にベストを聞いてみると、こんな結果となった(複数回答可とした。一番すごいのはAだが好みなのはB、といったように)。
ピエール・イヴ・コラン・モレ 3票
トロ・ボー 3票
ルシアン・ル・モワンヌ 2票
というわけでやはりこの3生産者が頭一つ出ていたのは間違いないと思う。ただ、前述したように私はミクルスキがわかりやすくて好きだった。
ブルゴーニュ素人なので迂闊なことは言えないが、飲んだ印象として調達したブドウの産地が狭いものと広いものでは味の方向性が異なると感じた。
ムルソーのブドウのみのACブルゴーニュはムルソーっぽくなるし、ピュリニーのみならピュリニーっぽくなって、より純粋な味わいになる一方で複雑さには欠ける。他方、多地域をブレンドすると広がりや奥行きやスケールの大きさが出る反面いい意味でのシンプルさが失われるみたいな印象だ。
私はPYCMに1票を投じた(スケールが頭ひとつ大きい気がした)が、一方で好みなのは土地の個性が出たミクルスキ。私はふだん土地の個性なんて考えもしないテキトーな飲み手だが、こうして飲み比べると自ずと考えさせられる。面白いものである。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会12:都農ワイン 尾ノ下 エステート シャルドネ #5
長くなってきたがこの時点で時計の針は20時くらいだっただろうか。夜はまだまだ続き、ここで赤に行く前に親方さんご持参の2本目「都農ワイン 尾ノ下 エステート シャルドネ #5」を飲んだ。
これは私が以前ツイッター(X、と表記すべきか)で「おいしい日本のシャルドネを教えてほしい」と呼びかけた際に親方さんが教えてくれた1本。それを持ってきてくれたということで大変ありがたい。「コシュ・デュリみたいな味なんです」とのこと。
ひさしぶりに飲んだ菊鹿シャルドネ、こんなにおいしかったっけってくらいおいしかった。日本のシャルドネ、飲み始めて数年に過ぎないけどその短い時間のなかでどんどんおいしくなってる気がするので推し日本シャルドネある方ぜひ教えてください! pic.twitter.com/FgibrpQQ0q
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2023年7月19日
一同が同意したのは「これはブルゴーニュの白ワインと殴り合いができるワインだ」ということ。なにより変化球でなく、しっかりと王道の白ワインの味わいを追求している点が素晴らしいという点で意見が一致した。
「牛丼業界に参入するのであればまずは吉野家の味を目指すべきであり、いきなりチー牛(チーズ牛丼)を出すべきではない」はこの日の名言。都農の牛丼、じゃなかったワインは堂々たる“吉野家”の方向性を歩んでいるように感じられた。
夜は深まり、酔いも深まり、会はいよいよレッド(赤ワイン)ゾーンへと突入していく。記憶も曖昧、メモもあやふやという状態に成り果てているが、レポートを続けよう。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会13:ドメーヌ・ベルトー・ジェルべ ブルゴーニュ・レ・プリエール
赤の1本目はマイナー村のイメージがあるフィサンを牽引していく造り手的存在のベルトー・ジェルヴェ。
当代は女性の醸造家なのだが、その夫が元DRCの腕利きらしく、19、20ヴィンテージはその夫が醸造を担当したらしく、そのヴィンテージの評価が高いという説があるのだそうだ。
「本来薄くて酸が強いはずのフィサンでありながら濃くて果実が強いのが意外」という声があり、暑かった2020ヴィンテージの特徴を反映している印象。
そしてその印象は、続くワインにも共通していくことになる。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会14:ドメーヌ・ドニ・モルテ「ブルゴーニュ・キュヴェ・ドゥ・ノーブル・スーシュ」
続いてはジュヴレ・シャンベルタンを代表する生産者のひとり、ドニ・モルテ。ブルゴーニュ・キュヴェ・ドゥ・ノーブル・スーシュはディジョン北東の「デ(Daix)村」のブドウで造られるワイン。標高400メートルと高い位置のワインなのだそうで、暑い印象にわりと終始する2020赤軍団のなかでちょっぴり清涼感のある味わい。
綿菓子や縁日のあんず飴のような雰囲気があって楽しいですね、みたいな話をしながら飲んだ1本。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会15:ジャン・マリー・フーリエ「ブルゴーニュ」
さて、会はこのあたりから一人また一人と参加者が(アルコール量が限界に達し)脱落していくサバイバルレースの様相を呈してくる。
私は酒弱族だが持参したペットボトルの水2本、スポーツドリンク1本を消費しつつ「よいときONE」をポリポリつまみ、1本あたりの注ぎ量を調整することでなんとか乗り切っていった。ワインブロガーとして記録係を拝命している以上酔い潰れるわけにはいかぬが記憶は曖昧だごめん。
お次はジュヴレ・シャンベルタンが本拠地のドメーヌ・フーリエのネゴシアン部門であるジャン・マリー・フーリエ。そのACブルゴーニュは情報がなく、わかるのはステンレスで発酵させたピノ・ノワール100%のワイン、っていうことくらい。ジュヴレ・シャンベルタンならびにヴォーヌ・ロマネのブドウで造っているっぽいが定かではない。
やや濃いめで普通においしく飲めるピノ・ノワール。「昔は早く飲んだらおいしくなかったけど、今はすぐ飲んでもおいしくなった」とのことで、かしたくさんは「おいしいんだけどフーリエじゃないんですよ厄介オタク的には」という厄介オタク発言をしておられた。楽しいなあ。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会16:デュガ・ピィ「ブルゴーニュ」
時計の針はこのあたりで21時を差したくらいだろうか。会のスタートからは5時間、いよいよ残りは4本となった。
すでに酒量が限界を迎えた参加者の方がソファに突っ伏した状態から絞り出すように「こんなに辛い飲み会はない……」とおっしゃっていたのもこの頃だっただろうか、みなさんピノ・ノワールも飲みたかっただろうに……志半ばにして悲しみの飲酒続行不能となったみなさんの思いも胸に、残りのメンバーによるテイスティングは進んでいく。ちなみに、私の短くも愉快なワイン人生で吐器が欲しいと思ったワイン会は初めてだ。
続いてもジュヴレ・シャンベルタンが本拠地のデュガ・ピィだがこれがなかなかの硫黄の香り。「全力で30秒スワリングしてください」とのかしたくさんの指示に従ってグラスをくるくるして飲むと、おお、赤い果実が顔を覗かせる。
全体に自然派ニュアンスはしっかりとあり、「バスケットボールが詰め込まれた鉄の容れ物」という絶妙な意見も出ていた。
ちなみに、お友だちの醸造家・Nagiさんによれば硫化臭は純銅、純銀の棒やスプーンが効果的であるのだそうだ。純銀のコインかなんか用意しておいて、ここぞの場面で出せたらカッコいいかもしれない。
白ではまったく感じなかったが、赤は「自然派っぽいなー」と感じるワインが散見された。このあたりの生産者ごとの栽培・醸造におけるアプローチの違いはさらに深く知りたいところ。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会17:トロ・ボー「ブルゴーニュ・コート・ドール」
お次はこの日唯一白赤両方が出たトロ・ボー。これはこの日もっとも濃いワインだった。
それはもう「カベルネ・ソーヴィニヨン88%、メルロー10%、カベルネ・フラン2%みたいな印象ですね」という声が挙がるほどで、私もスペインとか南仏っぽいなと感じた。
もちろん味はおいしく飲めるのだが、「これをブラインドで出されたらピノ・ノワールとは答えられない味だな」と感じもしたのだった。2020、やはりかない暑い年だったのだろうか。白のコート・ド・ボーヌのワイン群からも感じられたが、コート・ド・ニュイのワインがズラリ並んだ赤からはよりそれを感じる。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会18:ロベール・グロフィエ・ペール・エ・フィス「ブルゴーニュ」
続いては本拠地がモレ・サン・ドニながらシャンボール・ミュジニーの名手として知られるというロベール・グロフィエ。
モレ・サン・ドニとクロ・ド・ヴージョ直下の2か所からのブドウを使っているという村名クラスのブルゴーニュ・ルージュとのこと。ステンレスタンク発酵、古樽熟成。こちらはまだ酸が強く硬く閉じた印象。数年後にまったく異なる表情を見せそうなワインだった。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会19:クロード・デュガ「ブルゴーニュ」
そして、ついに辿り着いたこの日の19杯目はクロード・デュガ。1杯仮に50mlずつだとしても950mlを飲んだことになり、私にとって適量のラインははるか後方に霞んで見えなくなっている状態だ。でも飲むのだ、そこにワインのある限り。任せたぞ、よいとき! 頼むぞ、水! 明日オレ、6時起きだからね!?
「クロード・デュガは2014年以降くらいから薄うま系になってきて、18、19あたりは半端なく薄うまになっているものの、かつては強い・オブ・強いのが特徴だったんです」と親方さんが解説してくれたデュガ・ピィのいとこのクロード・デュガは本拠地がジュヴレ・シャンベルタンで、ブルゴーニュでは数少ないパーカー100点生産者。
その20ヴィンテージはいかがなものか……と語りたいのだが、大変申し訳ない、記録はここで途絶えている。
最後までなんとか正気は保ったものの、記録者としては最後の最後、ここが限界だったようだごめん。こうして19杯の旅路は終わりを迎えた。よく飲んだ、本当に。
2020ブルゴーニュ飲み比べ会を終えて
今回の回、親方さんがまとめ的に言った「普通寒い年は白、暑い年は赤がいいものですが、2020に限っては暑いけれど白がいいですね」という一言に私も完全に同意だ。
もちろん赤のほうが飲みごろを迎えるまでに時間がかかるといったこともあるだろうから一概には言えるわけもないけれど、2023年7月に開かれたこの会の結論として「現状では白のほうが印象的だった」と記録に留めておきたい。ただ、赤を飲む頃にはすでに酒が髪の毛の先まで回っている状態だったので、読者の皆様におかれましてはその点も割り引いて考えていただければ幸甚だ。
というわけで私の推し(価格、入手難易度含む)はミクルスキ↓
そんなこんなで時計の針は22時を回っている。後片付けをして、退去したのは22時半。
ブルゴーニュのことが全然わからない自分にとっては勉強になることが非常に多く、とくに白の解像度は急激に高まった。値段とか入手難度とかを脇に置けば、やはりブルゴーニュのワインは素晴らしいということもよくわかった。
すさまじい量だったが、その量を一気に飲むからこその気づきに満ち溢れていたと思う。あと熟成マルク・テンペと室内熟成ベラヴィスタが素晴らしかった。
というわけでかしたくさん、貴重なワインをご提供いただきありがとうございました。そして異様な本数のハンドキャリー、大変おつかれさまでした。そして参加者のみなさんもおつかれさまでした。また飲みましょう!