ボルドーの「格付け」ってなんだっけ?
ボルドーの格付け3級、シャトー・ボイド・カントナック2017を飲んだ。貴様ごときがなんでそんないいワイン飲んでんだ泣かす、みたいに思われるかもしれないが、これは「うきうきワインの玉手箱」が毎月1日に発売する高級ワイン福袋に入っていた1本だ。たしかに高級ワインだが、実質の購入額は3000円ちょい。
とはいえせっかくいいワインを飲むのでそもそもボルドーの「格付け」ってなんだっけ、みたいなところから簡単に調べておこうと思うというのが本項の趣旨。ワインにおける知識はカレーにおける福神漬。あるいはうどんにおける七味。なくてもいいが、あるともっといい。
ボルドーの「格付け」と「グランクリュクラッセ」
で、まずはグラスを眺めてみると、「グランクリュクラッセ」って書いてあるわけですよ。あれこれどういうことなんだっけとボルドーワイン.jpで調べてみると、そもそもパリ万博のときにナポレオン3世の要請により制定されたメドックの格付け、そこに選ばれた61シャトーは全部グランクリュクラッセってことみたいですねこれどうやら(違ってたら教えてください)。全部グランクリュクラッセで、その中で1〜5級に分かれるみたいな。
ではどうやって1〜5級の格付けはなされたのか? 詳しく調べるために、今回は「gcc-1855.fr」という1855年の格付けについての公式サイトを参考にした。そこには格付けに至る歴史がこんな風に紹介されている。長くなるので箇条書きでいってみよう。
ボルドーワインの格付けの歴史
17世紀、ボルドーワインの主な買い手は英国とオランダだった
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そのうち英国はワインに「品質」を求めた
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当時から「メドック」は高品質の代名詞だった
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時代とともに客の注文も細かくなり、特定の地域(例:グラーブ地区のペサック村)に注文が集まるようになった
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さらに時代が進み、客の注文は「特定の生産者」へと移っていった
(『ぺサックのワインをくれ』から『オー=ブリオンのワインをくれ』へ)
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英国におけるワインのブランド熱。そこで人気となったのが、オー=ブリオン、ラフィット、ラトゥール、マルゴーだった。
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この4シャトーが「格付け1級」として知られるようになる
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4シャトーの成功を見て、他のシャトーのなかにも一定の人気を獲得するものが現れる。それらは、「格付け2級」として知られるようになる
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1787年ごろには「格付け3級」が登場
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1820年代には「格付け4級」が誕生
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1850年代にはこのような明確な5つの階級が生まれ、約60のシャトーがそこに含まれていた
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これらの順位は、すべて「市場価値」に従って決定されていた
うーんなるほど理解できた。正直に申し上げて、私は1855年のタイミングで当時のボルドーにおける横綱審議会みたいなのが招集され、これが1級だ、あれが2級だ、おれは前からアンタが気に食わなかったんだと侃侃諤々の議論をして決まったと思い込んでいたが、実際は違った。ボルドーの高級ワインには5つの価格帯があり、その価格帯が“格付け”ということだったのだ。なにこれ超面白い。
1855年、ボルドーワインの格付け誕生
そして、1855年、パリ万博がやってくる。ふたたび箇条書きに戻る。
ボルドーは特産品のワインを万博に展示しようと計画
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ただ似たようなボトルが並んでるだけで面白くもなんともないことが判明
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品質をよりわかりやすく伝えるためワイン地図をつくることに
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前述したように、格付けが「すでに存在していた」ため、仲買人によって1カ月でリスト作成
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「1855年の格付けに登場しているシャトーがなぜ選ばれたかというと、理由はただひとつ、登場する資格があったからだ。」
それから150年。1855年9月16日にカントメルルが5級に入ったこと、1973年6月にムートン=ロートシルトが一級に昇格したことを除いて、このリストには変更が加えられていない。それはワインにおける世界最強のランキングシステムであり、格付けに選ばれたワインは、「主人役が誇りを持って客に薦められるワイン」だと書いてある。うーんたしかにそりゃそうだ。
以上の内容は、「1855 ボルドーワイン格付けの歴史」の著者であるデューイ・マーカム・ジュニアが書いた「150年目の誕生日」という記事が元になっている。元記事めっちゃ面白いし日本語なのでぜひ読んでみてください長いけど。いっやー、それにしてもすごく面白かった。司馬遼太郎に小説にしてもらいたかったってレベル(『菜の花の沖』のテイストで)。
ちなみに、なぜメドック格付けと呼ばれるかといえば、グランクリュクラッセに選ばれた61のシャトーのうち、60がメドック地区の生産者だから。残りの1つがグラーブ地区のシャトー・オー=ブリオンだ。
格付け3級、シャトー・ボイド・カントナックについて
さて、今回飲んだのはシャトー・ボイド・カントナックなのでその歴史もかいつまんで記すと、ときは1754年。スコットランド・ベルファストの商人・ボイド家の当主ジャック・ボイドがカントナックの畑を手に入れ、シャトー・ボイド・カントナックと命名したのが歴史のはじまり。それから所有者を変えつつも、クラシカルなマルゴーのスタイルを守り続けてる生産者だそうです。
公式サイトにテクニカルシートとかはなかったので、購入ショップの商品ページを見ると、使っているのはカベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロ25%、カベルネ・フラン8%、プティ・ヴェルド7%。新樽率30〜60%のオーク樽で約12~18カ月熟成されてるとのこと。1855年から続く格付け3級の重み、いざ味わってみよう。
シャトー・ボイド・カントナック2017を飲んでみた
今回は格付けについて調べるのがメインの記事なのでアレなのだがこのワインめっちゃくちゃうまいですね。2017ヴィンテージだからまだ飲むには早いのかもしれないけれども全然余裕でおいしい。ひさしぶりに超絶うまい液としか言えないやつが我が家の食卓にある。
土とか皮とか鉄とかの、なんかこう革ジャン着たバイク乗りみたいな香りも甘さはないけどたしかな果実の存在を感じる味わいも端的に言って最高。とくに2日目、3日目にかけてのパフォーマンスの上がり方はさすがだった。初回はストレートが走ってなくて先頭打者ホームランを浴びたけど終わってみればその1失点のみの完投勝利。ストレートの球速は9回裏に最速の155キロを計測、みたいな印象ですよ野球でいうと。
いいワインには理由がある。それを改めて思い知った次第。メドックのグランクリュクラッセ、これは飲み進めていかなくちゃなりませんな!
うきうきワインの玉手箱の1日限定福袋はまもなく販売開始。売り切れ必至なのでお早めに!