デントンシェッド ピノ・ノワールとヴュー・ヒルという丘
ソムリエ/ワインディレクターの田邉公一さんが、2021年1月から「タナベスト」として毎月のベストワインをツイッター上で発表してくれている。
ワインメディア等でも大活躍するプロがベストを無料で発表してくれるのはありがたいことこの上なく、さっそく1月の「タナベスト」を注文してみた。それがオーストラリアのデントンシェッド ピノ・ノワール。田邉さんをして「ブルゴーニュのルロワを想わせる」と言わしめるワイン、果たしてどんなワインなのか、早速調べていこう。
ワイナリーのアイデンティティは公式サイトのトップ画像に表れがち。デントンの場合、それは「丘」だ。
公式サイトによれば、「ヴュー・ヒル」という名のこの丘は、3億7000万年前の火山活動により形成された巨大な花崗岩でできている。小型のエアーズロックみたいなもんですかねこれ。いずれにしても平地にそこだけ隆起したような丘自体のビジュアルがすごくいい。「古墳です」って言われたら「なるほどね」って言うレベル。実際、陽当たりが良く、水はけも良くてブドウ栽培にも適しているんだそうで、見た目からして特別な土地感が溢れていて非常に良い。デントン・シェッドはこの地で1997年からブドウを栽培し、2006年からワインを造っている。
ちなみにワイナリーを所有しているのはジョンとサイモンのデントン親子。息子のサイモンのほうは飲食業を長くやっている人物で、オーストラリアで「IZAKAYA DEN」と「IZAKAYA HIHOU」を経営しているそうな。いい名前だなあ。
「Kara-Age」「Tsukemono」「Kiritanpo」などが食べられるみたいですよIZAKAYA DENの公式サイトを本筋と関係ないよなあと思いつつ調べてみると。映画『ブレードランナー』にインスパイアされたというオシャレ空間でKara-Age食べながらワインのみたい。
デントンシェッド ピノ・ノワールはどんなワインか
さて、ワインに話を戻すとデントンシェッドはデントンのエントリーレンジ。「香り、テクスチャー、飲みやすさ」を追求した早飲みタイプ的なワインのようだ。
そのピノ・ノワールは70%を全房のまま野生発酵、野生マロ(wild malo)、を行っているという。野生マロがどういうことなのかは私にはわからないが、野生の麻呂、みたいな語感があって良い。糖をエタノールと二酸化炭素に分解するアルコール発酵、リンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵、ともに自然酵母で行うみたいなことみたいですね。
とにもかくにもワイルドにマロしたワインをフレンチオークの古樽とステレンスタンクで5カ月圧縮し、清澄や濾過をせずにボトリングしたそうで、造りは意外と自然派っぽい感じ。
このワインの現地価格は30オーストラリアドルなので2500円くらい。日本では3000円前後で売られているのでお得感のあるワインと言えそう。輸入元はモトックスで、モトックスの説明によればジョン・デントンは在日オーストラリア大使館を設計した世界的建築家なんだそうだ。ネタが多いなこのワイン。建築家と居酒屋オーナー親子がオーストラリア屈指のピノ・ノワールの産地・ヤラヴァレーの3億7000万年前にできた丘で造るワイン、その味わいやいかに。
デントンシェッド ピノ・ノワールを飲んでみた。
でですね。グラスに注いでビックリしたのだが香りがすさまじいんですよこれ。グラスに注いだつもりでうっかり中身をすべてテーブルにぶちまけちゃったんじゃないかっていうくらい香りの量が多い。質のいい皮とかフレッシュな草みたいないい香りがドカンとする。
で、飲んでみてもめちゃくちゃおいしいなこれ。しっかり果実。しっかり酸味。しっかり樽。全部の要素がしっかり主張する、ハイコントラストで派手な味わい。梅とかアセロラとかの酸味、それを煮詰めてジャムにしたような果実味、キョウチクトウの花みたいな香りがあってこれ本当にいいわ。味と香りがクッキリしてるのに濃いってわけじゃないのがいい。
田邉さんには牛肉の赤ワイン煮と合うとご提案いただいていたので、近所のレストランでそれに似たメニューのエゾシカの赤ワイン煮をテイクアウト。野生のマロ具合とエゾシカのワイルドさが噛み合ってバッチリ合った。料理をテイクアウトしたこともあるけど、ワインの味わいもあって食卓がすごく華やかになった。
田邉さんには以前デントンと同じオーストラリアはタスマニアのピノ・ノワール「ペピック」をご推薦いただいたことがある。ペピックもどこか青々しさがあるワインで、味の傾向としては似ているような気がする。ただ、デントンシェッドのほうがわかりやすくおいしくて、こちらのほうが個人的には好みだった。
私は3000円以下のおいしいピノ・ノワールを探すのが趣味のひとつ。記事執筆時点で3000円以下では買えないが、私はギリギリ2970円で購入した。これを3000円以下のベストピノ・ノワールのひとつとしていいものかどうか、悩んでいる次第だ。ベスト級。