ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ドメーヌ・ルロワ ロマネ・サンヴィヴァン1997を飲んできた

ルロワのロマネ・サンヴィヴァン97を飲みに行った

ドメーヌ・ルロワのロマネ・サンヴィヴァン 97が飲めるワイン会に誘われたので貯金箱を叩き壊して参加することにした。

あのさあ、ふだん「この598円のワイン大発見! ウヒョー!」とか言ってる野郎がなんでそんな偉大なワインを飲めるんだよと思われる方もおられるかもしれぬがその秘密が参加した加州塾、というワイン会にある。

加州塾は2010年からスタートした歴史ある会。主催者のMさんがアメリカ駐在時代に買い集めたワインを月に2度みんなで集まって飲むという会で、その名の通りカリフォルニアワインを飲む「本編」と、それ以外の国のワインを飲む「番外編」が交互に開催されており、今回は「番外編」の“年末スペシャル”的位置付けの会。

今回のルロワは2000年頃にMさんがアメリカで購入したものだそうで、当時の価格で買っているからこその会費で提供してくださっている。そのため、普段はスーパーで78円の納豆と98円の納豆のどちらを買うかで長考するみたいな暮らしをしている私でも参加が叶ったという次第だ。つまりすべてはMさんのおかげである。

最初にあえて野暮なことを書くと、ルロワのロマネ・サンヴィヴァン 97は本稿執筆時点で楽天に商品ページの登録があり、その販売価格は202万1250円だ。もう一度言おう、2021250円だ。なんですかこの住宅ローンの頭金みたいな値段は。

私は普段だいたい1250円くらいのワインを飲んでいるので、今回飲ませていただいたワインは私の普段飲みのワインよりも202万円高い、ということになる。もちろん私の過去飲んだ最高額のワインだ。

価格はともあれドメーヌ・ルロワのワイン自体飲むのがはじめて。四半世紀の熟成をしたトップ生産者の特級畑、一体どんな味わいなのか…と期待に胸を弾ませつつ会場のイタリアン、ピアット・デル・ベオーネに向かった。ちなみにピアット・デル・ベオーネは東京・新橋にあり、ソムリエールの素敵なサービスとワインに合いまくるシェフの料理、そしてアットホームな雰囲気が最高なお店だ。

この日のラインナップは以上のような感じ。11本のワインを12人で飲む。このうち、ドメーヌ・ローランとルロワ、そしてロキオリのシングルヴィンヤード4本はMさんがリリース当時に購入されたもの。そこに会の趣旨に沿って適宜買い足して人数-1本で構成されている。まずは乾杯の泡から、グラス・バイ・グラスで会の模様をレポートしていきたい。

 

1. Bollinger Brut Champagne Special Cuvee N.V. 

乾杯の泡はボランジェ スペシャル キュヴェ。

ボランジェスペシャルキュヴェは私が一番好きなスタンダードシャンパーニュだが今回飲んだボトルももちろんおいしく、ミルキーな感じ、焚き火のような少し焦げた感じ、そこに切ったばかりの杉のような爽やかな香りが漂う飲む森林組合感をたっぷり楽しめる。何度飲んでもやっぱり好きだ。

 

2. Bollinger Brut Champagne PN VZ16 N.V. 

開幕はボランジェ2連発。続いてはボランジェが2015VTからリリースをはじめたという「PNシリーズ」で、これはピノ・ノワールで造るブラン・ド・ノワール。VZはヴェルズネ村のブドウを主としていることを示しているそうだ。

ほんの少しピンクがかっていて、味わいに果実の厚みがあり、リザーヴワインをふんだんに使っているというだけに複雑味や熟成感も加わって非常においしい。

前菜はワカサギのエスカベッシュ。南蛮漬け的な甘酸っぱい味がシャンパーニュに合う。

ちなみにこのキュヴェの17ヴィンテージは「VZ」から「TX」へと変わっており、この「TX」ってなんだろうという話になった。調べてみると正解はトーシエール村のブドウを主としているの意だったのだが、「うーん、なんでしょうか。テキサスかな?」というMさんのカリフォルニアジョークが最高だったことを付記しておきたい。

 

3. J. Rochioli Chardonnay Russian River Valley Sweetwater 2011

泡を飲み干すと、会はロキオリのシングルヴィンヤード4連発のシャルドネゾーンに突入していく。同一生産者の同一ヴィンテージの畑違いの飲み比べで、ここだけ普段の加州塾本編のイメージだ。

「ロキオリはもともとはウィリアムズ・セリエムなどにブドウを供給していた人で、1980年代から本格的にロキオリの名前でワインを造り始めています。ロシアンリバーヴァレー右岸のウエストサイドロードっていう道沿いにはいくつかワイナリーがあるのですが、ロキオリはなかでもオススメのワイナリーです」(Mさん)

畑の地図を示しながらのMさんの説明で解像度がグッと上がる。なるほどなあ、ロシアンリバーヴァレーにも右岸とか左岸とかあるんだよな。

その一本目はロキオリの畑のなかでもっとも標高の高い位置にある「スウィートウォーター」で、飲んでみると蜜りんごのような果実感、黄金糖のような甘みで全体に甘露系の味筋。これをベンチマークに、続く3本を飲んでいくことになる。

 

4. J. Rochioli Chardonnay Russian River Valley South River 2011 

続くのはサウスリバー。これがちょっとビックリするくらい色が濃い。同じ年の同じ生産者のワインでも10年超の熟成を経ているとこんな違いが出るんだ、という印象だ。

「樽が控えめで、酸がキレイに出ていますね」とMさん。私はカラメルのような甘苦さを感じて、最後飲み干すときには焼き栗みたいな香ばしさも感じた。

ポルチーニのポタージュはシャルドネにピッタリだった

Mさんいわく、このような畑違いを飲み比べる場合、熟成による個体差が出る前、リリースから3-4年後に飲むのがベストなのだそうだ。勉強になるなあ。

 

5. J. Rochioli Chardonnay Russian River Valley River Block 2011 

つづいては「リヴァーブロック」で、こちらは明確に色が薄い。ストレートな酸が残るすごくキレイでフードフレンドリーなシャルドネという印象で、すべてが90点といったようなバランスの良さがあった。

カリフォルニアのシャルドネ=樽みたいなイメージは、この会に参加させてもらうといつも思うことだが一側面にしか過ぎず、実際はこういうエレガントなものもあるから面白い。

 

6. J. Rochioli Chardonnay Russian River Valley Rachael’s Vineyard 2011

最後に出てきたのがレイチェルヴィンヤード。問答無用の本命だ。なぜなら娘の名前がつけられた畑だから。娘の名前キュヴェにハズレなしの法則である。生産者、手持ちの最良の区画・最良のキュヴェに娘の名前をつけがち。

みたいなことを話していたら「娘の名前をつける生産者は多くいますが、妻の名前をつける生産者はほとんどいません。離婚のリスクがありますからね……」とMさん。余談だがキスラーの「キャスリーン」は妻の名前キュヴェかつトップキュヴェ。キスラー、男の中の男だぜ……!

さてこのワインだが法則に則り非常に素晴らしいワインだった。個人的にはロキオリの4つのボトルのなかで抜けて素晴らしいと感じた。

ブドウの樹にストローをブッ刺して流れるプラチナ色の樹液をそのまま飲んでいるようなクリーンさとリッチさが共存し、果実のフレッシュさも残っていて、これはもう私が飲んだ限りのシャルドネの究極系のひとつという印象だった。すごいなレイチェル。娘の名前のキュヴェにハズレ、ガチでない。

以上、ロキオリの畑違いのシャルドネ飲み比べは大満足で幕を下ろしたのだった。いやー、素晴らしい会でした。良いお年を! と帰宅できるレベルだが夜はまだまだこれから。会はルロワに向けてさらにじんわりと熱を帯びていく。

 

7. Charles Noellat (Cellier des Ursulines) Bourgogne Pinot Noir 2009

会はこの後2009年のブルゴーニュ2本を経て、1997年のブルゴーニュ3連発へという流れ。トップバッターがシャルル・ノエラのブルゴーニュ09だ。

シャルル・ノエラはかつてはドメーヌの名前だったが現在は屋号だけが残っている。ドメーヌ時代の畑はラルー・ビーズ・ルロワに売却しているそうなので、ルロワつながりといえばルロワつながりだ。

「ワインを買ってきてシャルル・ノエラの名前でリリースするのですが、その目利きは悪くないと思っています。すごい! はないけど、悪くないのを飲ませてくれるんです」

キャベツとウナギのリゾット。以前もいただいたこの料理、非常においしい。

とMさんが解説をしてくれたのだが運ばれてきたグラスからはあんまり香りがこない。あれおかしいな。ロキオリで鼻が麻痺した…!?

味わいも普通においしいのだがちょっぴり果実が弱くて渋みが強め。でもまああれですよ。ちょっと期待値に届かなかったみたいなワインのほうが印象に残ったりするのもワイン会の妙なんですよ。イチローだって6割以上の確率で凡退するんですよ急に野球の話をすると。次行きましょう。

 

8. Domaine Jacques Cacheux et Fils Bourgogne-Hautes Cotes de Nuits Rouge 2009

09の2本目がジャック・カシュー

「ちょっとタンニンが浮いた感じ」「全体にちょっと薄い」といった声が会場からは聞かれて私も大筋同意だがラッシャー木村vs永源遙の前座があってはじめて三沢光晴vsスタン・ハンセンのメインイベントが輝くんですよ急に平成初期の全日本プロレスの話をすると。ワイン会でも全部のワインが大当たりなんてことはむしろ少なく、多少の凹凸があったほうがよりメモラブルになるというものだ。いやホントに。

 

9. Lou Dumont Nuits-St.-Georges Lea Selection 1997

09年という名の第3コーナーを駆け抜けて、会はいよいよ最後の直線へと入っていく。先頭を切るのは日本人醸造家・仲田晃司さんが買い付けたワインを自社ブランドとしてリリースするルー・デュモンの「レア セレクション」からニュイ・サンジョルジュ97。

で、これがブルゴーニュ3本目にして素晴らしいワインだったのだった。よかった。

ブルゴーニュのワインらしい薔薇の香り。飲んでみるとオレンジの皮を剥いたあとの部屋みたいな酸味とフレッシュさ、それに青畳みたいなボタニカルな香りもしてとてもよかった。熟成してくたびれた感じ、枯れた感じはほぼなく、熟成香的なものもとくに感じない非常に健全な状態だったと思う。

 

10. Dominique Laurent Mazis-Chambertin 1997

続いてはドミニク・ローランのマジ・シャンベルタン97。ドミニク・ローランといえば買い付けたワインを新樽に移し、しばらくのちにまた別の新樽に移すという“新樽率200%”で知られる醸造家。(現在は畑を取得し、ドメーヌものはエレガントな造りとのこと)

このワインにも新樽率200%が採用されているか否かはさだかでないが、マジ・シャンベルタンというよりガチ・シャンベルタンと言いたくなるようなパワフルな味わいなのは間違いなかった。繊細ではなく強靭。

以前、カリフォルニアの果実味もタンニンも力強いスタイルのことを現地では「ビッグ&ボールド」と呼ぶのだとMさんに教えていただいたが、このワインはまさしくビッグ&ボールドなブルゴーニュ、という印象。

牛ホホ肉の赤ワイン煮は冬のご馳走って感じがする。

「僕は好きですが、ブルゴーニュ好きの人にはこのタンニンの感じが好きじゃない人がいるのもわかります。ただ、ロバート・パーカーは好きだったんですよ、こういうワインが」というMさんの話がまた面白い。

90年代、パーカリゼーション華やかなりし頃、私はワインを飲んでいなかった(なんとまだ10代だった)。その当時の話は人に聞いたり本で読んだ知識しかないが、ワインの世界ではなんと教科書を飲むことができるのだ。この97年のマジ・シャンベルタンは「当時はこういう味が流行ってたんだよ」と教えてくれているみたいな印象だった。

 

11. Domaine Leroy Romanee St.-Vivant 1997

そして我々はついにドメーヌ・ルロワのロマネ・サンヴィヴァン1997へとたどり着いた。

そしてやっぱりこれはすごいワインだったのだった。まず驚かされるのはとにかく凄まじい香り。過去に類似する香りを味わったことがないのでたとえようがないのだが強いて言えば天国香、みたいな香りだ。気持ち悪いたとえをすると少女に手を引かれて森の中を歩いて行って気がついたら宇宙でした、みたいな脈絡のないスケール感がある。ダッシュしてジャンプしたら月に手が届いてしまったような感覚と言ってもいい。ちなみに自分でもなにを言っているのかさっぱりわからない。

味わいにおいては果実もしっかりとあり、旨味がそれと拮抗している。おいしく熟成したピノ・ノワールには出汁感があるなんてよくいうが、これは出汁を超えてスープ感がある。

さらにもっといえば、けつえき。みたいな感じもする。体液を経口補水している感覚というか、異様なまでに体に馴染むのだ。私がこのワイン会の帰り道に事故にあって大量出血したら輸血はこのワインでやってください、みたいなことを真顔で考えてしまうような感じがする。おいしいワインは科学リテラシーを破壊する。

ブルゴーニュのお手本」

「これだけ飲んでいたい」

「寝てたわけじゃないが目が覚める」

みたいな声が会場からは聞こえて、そのすべてに同意だ。最初はわずかに閉じていように感じたが、少しずつ、じんわりと、その大輪の花を咲かせていった。

ただしかしここは加州塾。最高のカリフォルニアワインで己の味覚を鍛え上げたみなさんのなかには、このワインに無条件に100点を付けない方もおられた。

「まだ少し若いと思います。5年後くらいに本領を発揮するのでは?」

「ルロワのスタイルは意外と濃いめ。この薄さは議論が分かれると思う」

といった意見も聞かれ「ドミニク・ローランのマジ・シャンベルタンのほうが好み」という方もおられた。

1本のワインに対して抱く感情は100%自由だ。それってワインの素晴らしさだと思いませんかみなさんッ(ネクタイを頭に巻き付け、机に突っ伏した状態で)。

そしてたしかに、そう言われてみると、香りは100点満点ながらもしかしたら味わいにはまだ先があるのかもみたいな気がしてくるといえばしてくる気がするような気がしないでもないような気もする。ワインの道に果てはないですなぁ。

「いずれ、ドメーヌ・ルロワの前後のヴィンテージもお出しします」とMさん。その日がくるまで、また豚のカタチの貯金箱に小銭を放り込む暮らしをせねばなるまい。と思った加州塾番外編だったのだった。Mさん、いつもありがとうございます!

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