ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ナイティンバー。イングリッシュスパークリングの“最大手”を飲んでみた。

「ナイティンバー」とイングリッシュスパークリングワインの歴史

イングリッシュスパークリングの雄である「ナイティンバー」がワインをあげるから飲め、と言ってくれたので「飲む」と回答したところ送ってきてくれたので飲んだ。ワインブログも3年もやってるとこんなありがたい話が舞い込んでくるものだ。桃栗3年、ブログも3年である。送っていただいたのは、ナイティンバーのクラシックキュヴェ マルチヴィンテージだ。

さて、ナイティンバーを語る前にまずは進境著しいイングリッシュスパークリングの現状について触れておきたい。

英泡の歴史は短い。ビックリするほど短い。なにしろその代表銘柄のひとつと言えるナイティンバーでさえ、畑にブドウが植えられたのが1988年。初リリースは1997年のことなのだ。1997年、割と最近感ある。

にもかかかわらず、2017年にイングランドウェールズで生産される割合の68%をスパークリングが占めたというからいかにこの四半世紀で英泡が伸びているかがわかる。シャンパーニュ3品種(ピノ・ノワールシャルドネ、ムニエ)が植えられたブドウ品種の71.2%を占めるっていうし。その前はドイツ品種で泡を造ったりしていたらしいのだが、90年代以降一気にシャンパーニュ品種に置き換わったようだ。

つまり「シャンパーニュに代わるワイン」はイギリスワイン産業におけるエースで4番。アナーキー・イン・UKならぬシャンパーニュ・イン・UK状態なのだ。

 

イングリッシュスパークリングワインの現在地点

その国で生産するスパークリングワインの割合がスティルワインの割合より多いのってちゃんと調べていないがおそらくイギリスだけのはず。イギリス人がそれだけ泡が好きだということだと思うし、それだけイングリッシュスパークリングの品質が高いということでもあると思う。

himawine.hatenablog.com

最近ではテタンジェがイギリスでスパークリングワインを造り始めてもいるようだ(2024年以降のリリース)。気候変動でフランスのシャンパーニュ地方がどんどん暖かくなり、涼しくて土壌的にもシャンパーニュに近い白亜質だっていうイギリス南東部は、年々泡の産地としての存在感を高めている。とにかくイギリスではスパークリングワインの生産が近年爆増しているのだ。

ちなみに「イングリッシュ」や「イングリッシュ リージョナル」は原産地保護されている呼称で、使用される品種も規定されているようだが、基本、使われる品種はシャンパーニュと同じであるようだ。繰り返しになるが、すなわちピノ・ノワールシャルドネ、ムニエだ。

 

ナイティンバーはどんな生産者か

ナイティンバーに話を移すと、ナイティンバーはスパークリングワイン専門の生産者。イングランド南部のウエスサセックスハンプシャー、ケントの3州に11の畑を持つ英国最大の生産量を誇るイングリッシュスパークリングワインメーカーだ。

エスサセックスハンプシャー、ケントと言われてもどこだかさっぱりわからないが、ロンドンの南でイギリス海峡沿いの地域。シャンパーニュとは海を挟んだ逆側みたいに言えば言える的な地理であり、もともとは同じ土壌だった云々という話があるようだ。

ナイティンバーはシャンパーニュ品種を使い、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵でワインを造った英国最初のワイナリーでもあり、すべてのワインを自社畑のブドウから造るというこだわりを持っている。

 

ナイティンバーと醸造シェリー・スプリッグス

2006年にオランダ人弁護士のエリック・ヘレマにオーナーが代わると、2007年にカナダ人女性醸造シェリー・スプリッグスを招聘。

オーナーのオランダ人弁護士エリック・ヘレマ(左)と醸造家夫妻。この3人が中心人物だそうだ

このシェリーさんが凄腕なようで、2018年にインターナショナルワインチャレンジのスパークリングワインメーカー・オブ・ザ・イヤーシャンパーニュ地方以外のスパークリングワインメーカーとして初めて、さらに女性としても初めて受賞。

himawine.hatenablog.com

シェリーさんはオーストラリアとアメリカで学び、オーストラリア、ニュージーランドアメリカなどでキャリアを積んだという人物。経歴だけ見るとシャンパーニュでは学んだり働いたりしていないという点も、なんとなく新時代の造り手感がある。

そんなナイティンバー、2022ヴィンテージからは100万本の生産を見込んでいるのだそうで、だからつまり英国のワインの生産量の1/10以上をいち生産者が占めるレベルだそうなのだが、その生産量の85%は国内で消費されてしまうのだそうだ。イギリス人、ガチで泡好きすぎ。

そして100万本の生産をすべて自社畑のブドウっていうのがすごいメガRM、みたいな感じか。

100万本すべてを自社畑のブドウで造っているそう。

日本においてもしっかり人気なのだそうで、亡くなったエリザベス女王のプラチナ・ジュビリー(即位70周年)限定デザインのボトルは発売翌日に完売したそう。

その代表作であるクラシック・キュヴェ マルチヴィンテージはシャルドネピノ・ノワール、ムニエをブレンドし、最低36カ月熟成させたというワインだ。おいしそう。

 

ナイティンバー クラシック・キュヴェ マルチヴィンテージを飲んでみた

というわけで飲むことにしたのだが、まずグラスに注いですぐに細かい泡が勢いよく立ち上がるのが目に楽しい。レモン系の酸味を思わせる柑橘系の香りがして、飲むとやっぱり印象的なのは酸味。

プロ野球の投手が力感なく投げたボールがお辞儀せずにスーッと糸を引くようにキャッチャーの構えたミットに吸い込まれていく。そんなイメージで伸びやかでキレ味鋭い酸がグラスの底から液面までを貫いている。

vivinoの評価は4.2。たっか。

リンゴのような白桃のような果実味も豊かにあって、あとなんすかねこの香ばしさ。シャンパーニュのパン的な香りとはちょっと異なるこれはなんだろう。白系ナッツ、みたいな印象だ。

そして全体を標高の高い岩山から滲み出した水、みたいな雰囲気がまとめあげている。そして2日目くらいから紅茶みたいなニュアンスがやってくる。英国すぎるでしょこれ。

イングリッシュスパークリングというと「シャンパーニュと価格帯がかぶる」こと、なんなら英泡のほうが高いまであるってことが最大の問題点と言われがち。今回いただいたナイティンバーのクラシックキュヴェも9000円と、なかなかの値段がする。ただ、その味わいは非常に良く、「あえてこれを選ぶ」価値が十分にあると言っていいと思うんスよ。ブラインドで持ち込んで盛り上げちゃいましょう。

というわけで、いいシャンパーニュを買おうと思ったときに、ちょっと思いとどまって1回こちらを買ってみる選択肢は全然アリだと思う。イングリッシュスパークリング、今のところまったく外れがないです。いや、もらったから言うわけじゃなくて。