「自然派ワイン飲み放題」に行ってみた
「自然派ワインが飲み放題の店があるから行きます」と言われたので「私も行きます」と応じて行った。会の趣旨その他は親しくさせていただいている安ワイン道場師範の日記をご参照いただくとして、私は飲んだワインについて集中的に書きたいと思う。
水天宮前の人気ショップ「アフリカー」で待ち合わせし、徒歩で向かったのは人形町の「ユニオンサンドヤード」という、キャッチコピーが「自然派ワインと野菜の食堂」というお店。ここに自然派ワイン飲み放題のコースがあるのだそうな。なにそれ斬新。
入店するとそこはやや無機質寄りの空間に木のテーブルが並んだイマドキおしゃれ空間。満席の店内にオジサン属性持ちの人間は私と安ワイン道場師範の2名のみで、他のゲストはすべて20〜30代の女性二人のグループやカップルという全体的にあなたがた発光してませんかねという今を謳歌する若者のみなさん。
オジサンとしてはさぞかし肩身が狭い……かと思いきや、そこはオジサン特有の厚かましさ、別にたいして気にもせずさっそくスプマンテで乾杯である。
【乾杯】「スプマンテ」(銘柄不明)
同行のゆうこりンファンデルさん(以下、ファンデル)がスプマンテみっつくださいとオーダーすると、ポン! と景気のいい音が響き、ほどなくして小ぶりなグラスに注がれたスプマンテが到着。
「……開けたてにしては泡が弱いね」(師範)
「……おそらく温度、ですかね。冷え切っていないような」(ファンデル)
わ、ワイン好きめんどくせえ〜!
反省反省てへぺろ、みたいなことを言いながらも、まだ蒸し暑さの残る中を歩いてたどりついた1杯目の泡はなんだかんだおいしく、「旅館の夕食で出る自家製の梅酒みたいな感じっすね」とかなんとか適当なことを言いつつキュッと飲み干し、臨戦態勢が整った。
改めてメニューを見ると、飲み放題には白4種赤4種の8種類のワインがラインナップされている。次はなに飲みますかと師範に水を向けると「上から下まで全部もらおうか……」との回答。さすが師範、懐と心に余裕のある大人は一味違う。飲み放題だけど……!
ともかくこうして8杯のワインを飲むこととなったので、1杯ずつ見ていこう。ちなみにワインの名前はお店のメニューとキャプションから私・ヒマワインが「これだろう」と推定したもので、確実にそれであるという保証はありません。
【1杯目】ゴールドシール フレッシュ ドライ ホワイト
1杯目は「ゴールドシール」というワイン。調べてみると、どうやらオーストラリアの大規模生産者デ ボルトリのゴールドシール フレッシュ ドライ ホワイトというワインであるようだ。4000ml入のバッグ・イン・ボックスってやつですね。
めんどくさいワイン好きとして正直に言おう。私は思った「箱ワインか〜」と。思っちゃったんだから仕方ない。「自然派とは……?」とも思った。栽培においても醸造においても自然派的な要素が表立ってはないような……?
とはいえこのワイン、味わいはとっても良かった。師範いわく「ミュスカでしょうな」という味わい。私は「ゲヴュルツ……とかピノグリとか?」という味わいで正解は「セミヨン、シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン他」というブレンド。ふたつ挙げたのに見事にカスリもしてないのすげえな自分。
ワインはさわやかで香りが良く、イージー・トゥ・ドリンクな味わい。全然悪くなかった。
【2杯目】ヴァルディベッラ カタラット
さて、2杯目は「ヴァルディベッラカタラット」というワインで、お店のメニューにはオレンジワインと書かれている。これはヴァルディベッラが生産者名、カタラットが品種名のシチリアのワインで、ちょっと調べると、ヴァルディベッラにはカタラット ニンファ センツァというオーガニック栽培でSO2無添加のオレンジワインがある。
一方で、品種名だけのワインは3リットル入りのバッグ・イン・ボックスのようで、お店のワインの説明文はそちらをコピペしているっぽい。そう考えるとこのキュヴェはどうやら箱ワインのほうだと考えたほうが妥当な気がする。
そうなるとそもそもオレンジワインですらないということになるのだが、ここは楽しいワイン飲み放題。細かいことは放置して楽しもうそうしよう。
ただ、色も含めてオレンジ感は私にはあまり感じられず、結論を言えば4杯飲んだ白のなかでもっともピンとこなかった。
【3杯目】ボンぺシェ ブラン
続いてはフランスはラングドックのワインで、ボンぺシェは直訳すると「良い釣りを」。転じて大漁・豊作を表す言葉だそう。2020年に造り手が変わったようで、ボトルのヴィンテージを確認していないため生産者は不明。
師範がふたたび「ミュスカですな」と口にして、今回は大正解。ミュスカ・プティ・グランとソーヴィニヨン・ブランのブレンドとのことだ。生産者の変わった2020年ヴィンテージからBIO認定された畑のブドウで造られているという「ビオワイン」だ。
「1杯目もこれもそうだけど、若い女性が『飲みやす〜い』っていうタイプのワインが揃えられてますな」と師範。本当にその通りだと思った。「女子ウケ」という言葉自体は個人的にあんまり好きじゃないが、間違いなくそういうタイプではあると思う。ラベルもかわいいし。
【4杯目】ブラッケンブルック ネルソン シャルドネ
4杯目はお店表記ブラッケンブルックというワインで、調べるとどうやらニュージーランドの造り手、ブラッケンブルックのネルソン シャルドネというワインのようだ。
ニュージーランドのワインながら思いっきりバター味のシャルドネ。ひらがな表記の「たるどねっ」という感じのたぷんたぷんしたワインで、私は樽のきいたシャルドネが好きなので、これは全然アリ。おいしい。
これを飲んだファンデルさんが「これは……シャルドネっ!」と「犯人は……あなたねっ!」みたいな感じで言っていたが、うん、おれもそう思う。って思いましたまる。
【5杯目】ゴールドシール スペシャル・ドライ・レッド
赤の1杯目は白の1杯目と同じ「ゴールドシール」の赤(ゴールドシール スペシャル・ドライ・レッドと思われる)。オーストラリアのバッグインボックス、グラスから立ち上る香りは果実&スパイス。こりゃもうどう考えてもシラーズでしょあなた、と調べるとシラー、カベルネ・フラン、メルローのブレンドとのこと。
これが白に引き続きわかりやすくチャーミングなワインでほんとに全然悪くない。価格を書くのは野暮だが書くと、このワインは3278円とかで買えるようだ。4000ml入りなのでボトル換算すると1本614円。バッグインボックスの保存性について私は知見を持たないが、ガンガン飲む人なら全然アリなんじゃ? という気がする。小ビックリ。
【6杯目】ジャン・プラ・セレクション サングラン
赤2杯目はサングラン、という表記でおそらく「ジャン・プラ・セレクション サングラン」というフランスはルーションのワイン。カリニャンとかグルナッシュとかの感じかなあ南仏だしと思ったら珍しく半分正解で品種はカリニャン・ノワール。リュット・レゾネ(減農薬栽培)されているそうな。
めちゃくちゃうまい! というワインではないが、4種のなかでもっとも食事を邪魔しない(果実が主張しすぎない)赤ワインはこれだったと思う。赤白ともに、リストの2番目にフードフレンドリーなワインが置かれてる印象だ。
【7杯目】コンティ・ゼッカ ドンナ・マルツィア プリミティーヴォ オーク樽熟成
さて、7杯目、8杯目は立て続けにイタリア・プーリア州の赤が続く。プーリアの赤といえばわかりやすくおいしい濃い甘ワイン。7杯目に飲んだお店表記ドンナマルツィア、おそらくコンティ・ゼッカの「ドンナ・マルツィア プリミティーヴォ オーク樽熟成」だと推定されるワインもご多聞に漏れずしっかり甘く、しかし酸味もあって飲みやすさ抜群のワイン。
師範が「甘すぎないから、ネグロアマーロ主体かな?」とおっしゃっていたがこれも半分正解で、プリミティーヴォとネグロアマーロのブレンド。真夏には少ししんどいけど、少しずつ涼しくなってくるというこういった濃くてトロリとした甘さのワインがおいしくなってきますよね。
【8杯目】ポッジョ・レ・ヴォルピ プリミティーヴォ・ディ・マンドゥーリア
さて、いよいよ棹尾を飾るのはポッジョ・レ・ヴォルピのプリミティーヴォ・ディ・マンドゥーリア 。実は初めて飲むのだが、安うまワインとしてめちゃくちゃ有名でお噂はかねがね、というワイン。
ポッジョ・レ・ヴォルピはハズレがないが、このワインも甘味を中心に渋み酸味もあってとてもおいしく、期待通りを10%上回るような味わいだった。
これまだの方ぜひ↓
飲み終えてみると、このお店、白はフレッシュなアロマ系中心、赤は濃い甘中心と、とことん「飲みやすい」を揃えている印象。徹底的にお客目線で選ばれた、いい飲み放題リストだと感じた次第だ。
そんなこんなで1軒目では9杯のワインを飲んだ。2杯目か3杯目以降はハーフでグラスに注いでもらったので(いやな顔せず細やかにサービスをしていただいた)、「まだ全然、ほろ酔いですね」などと言っていたが私は酔いが顔にも態度にも出ないけどアルコール耐性は低いというわりと珍しいタイプ、この時点でバッチバチに泥酔している。(すっかり忘れていたがなぜかシメにキリン ハートランド(中瓶)も飲んだ)
それにしても4杯目のブラッケンブルックは2000円台後半だし、飲む人にとってはこのお店の飲み放題はかなりお得と言えそう。「自然派とは…?」みたいな面倒なことを考えず、ふつうに「ワインの飲み放題」があるお店として全然アリだと感じた次第だ。
白赤ベストは以下↓
2軒目:亀戸の名店・デゴルジュマンへ
さて、気がつけば我々はタクシーに揺られていて本日の終着地・亀戸に向かっている。2軒目は、シャンパンバー・デゴルジュマンだ。
いつものように店主の泡大将、助手のソムリエたまごさんに迎えられ、カウンターに座る。余談だがソムたまさんは出勤前に7杯飲んできたのだそうで、「史上もっとも出勤前に飲んできたバイト」と呼ばれてたパねえ。
さて、そんなデゴルジュマンで頼んだのは月替わりのシャンパーニュ3杯セット。今月(2022年9月)は上の写真左からポワルヴェール・ジャック、パイパー・エドシック、シャルル・エドシックの定番シャンパーニュ3杯だ。
パイパー・エドシックもおいしいが、なんといってもシャルル・エドシックは私がもっとも好きなスタンダードシャンパーニュ。うまいうまいと飲んでいると事件が起きた。
安ワイン道場師範絡みで同席した方からシャンパーニュを1本ご馳走になるというイベントが発生したのだ。しかもですよみなさん、出てきたのがジャジャジャ、ジャック・セロスのいいいイニイニ「イニシャル」じゃないですかこれ! マジか! ありがとうございます!
ジャック・セロス「イニシャル」の衝撃
シャンパーニュのご相伴に預かる、ということは長く生きてりゃあるかもしれないが、超高級シャンパーニュであるところのジャック・セロスのご相伴に預かるなんてことはさすがに人生で期待することリストに載せてない。こんないいお酒いただけません! 水道水ください! みたいなことはもちろん言わず、がっつりグラス1杯飲ませていただいたのだが、これはちょっとビックリするほどやべえやつだった。
ワインの製造工程は一般に「まずブドウを収穫します」からはじまると思うがこのワインに関しては「まず黄金を溶かします」からスタートしてんじゃないかという印象。
とにかくワインとしておいしいのだ。すごくおいしい飲む黄金系白ワインがまず存在し、それに炭酸ガスまで含まれちゃってるといった印象。グスタフ・クリムトの「接吻」を液体で表現したらこうなりますといったような華やかさと官能的なムード、そしてどこかはかなさみたいなものまであるワインだったやべえ。
イニシャルはブラン・ド・ブラン。樽発酵樽熟成を経たシャルドネはこんなにおいしい液体に変化するのか……。自分の好きなシャンパーニュの味の方向性はこれです。と断言したくなるような味だったのだった。
やはりワインは価格という名の階級制で論じるべきで、シャルル・エドシックは自身の階級(5000円台)では最強の一角だと思うが、価格が10倍以上は余裕でするであろうイニシャルといういわば無差別級のワインと比較すると、やはりけっこう全然まったく違う。やっぱり強いよ、無差別級。
iPhoneのカメラロールを見ると、その後ドメーヌ・ジャン・マルク・ミヨの「ブルゴーニュ・アリゴテ2021」を飲んでいるのだが大変申し訳ないことに記憶があんまりない。潰れる寸前まで酔っていることもあるが、それだけイニシャルがすごすぎたということだと思う。イニシャルがすごい。すごイニシャル(あっ)。
そんな感じで集合時間17時半、デゴルジュマンを出たのは23時過ぎだっただろうか? 時間は一瞬で溶けた。時間の溶ける夜はいい夜だ。みなさん、またご一緒しましょう。