ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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シャンパーニュの「ブリュット」と「エクストラブリュット」はどう違う? ワイン初心者が飲んでみた。【ウィル・アンジェール エクストラブリュット】

シャンパーニュとデゴルジュマンとドサージュ

さて、先週末は9999円で4本セットのお手頃シャンパーニュセットのなかから、ウィル・アンジェール エクストラブリュットを飲んだ。ちなみにこのセットには「ウィル・アンジェール ブリュット」というワインも含まれていて、そちらはすでに飲んでいる。

himawine.hatenablog.com生産者は同じディディエ・ショパン。使用ブドウもピノ・ムニエ60%、ピノ・ノワール40%で同じ。瓶内熟成60カ月も同じ。じゃあブリュットとエクストラブリュットでなにが違うのか。せっかくなので、このあたりを勉強することにした。さっそくいってみよう。

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ウィル・アンジェール エクストラブリュットを飲みました。

さて、シャンパーニュ造りに関して、かねて私には疑問があった。それがデ ゴルジュマンとドサージュだ。デゴルジュマンは瓶口に溜めた檻を瓶内の気圧によって弾き出す作業。でもってそのあとに甘いリキュールを添加するのがドサージュ。

これがよくわからない。デゴルジュマンの工程を具体的にイメージできないし、せっかく手間暇かけて造ったワインに甘いリキュール(門出のリキュールって言うみたいですね)を足しちゃう感じもよくわからない。

わからないことがある場合、昭和の時代図書館に人は向かった。平成の時代はパソコンで調べたが、令和の今はYouTubeである。Degorgementと検索窓にブチこむと、なんだかすごい動画が出てきたぞ。


Degorgement Nature - Champagne Tarlant

うーん、すごい。一発でわかる。王冠を開けた瞬間に弾ける澱。うーん、デゴルジュマン。デゴルジュマンをgoogle翻訳してみたら「解体」って出てきたけどたしかにあるぞ、解体感。「最近近所のビルがデゴルジュマンしててさあ、仕事に集中できないっつーの。」みたいに使っていきたい、日常でも。日常をシャンパーニュ化していきたい。

ドサージュはなんのために行うのか?

さて、このデゴルジュマンの次の工程がドサージュで、要するに甘いお酒を添加する作業のようなのだが、ここでわからないのは、スティルワインはこの作業を経なくてもおいしいのに、なんでシャンパーニュ(スパークリングワイン)の場合それを行う必要があるのか? ということ。

それに関しては、葡萄畑ココスのブログ「用語解説 ドサージュとは? シャンパン・スパークリングワインの選び方」がわかりやすかった。要約するとこうだ。

炭酸飲料の残りを次の日飲むと、甘っ! ってなるよな? 炭酸があると、甘みを感じにくくなるんだよ。だから、炭酸飲料には甘さが必要ってわけ。わかったね?

※注:元の文章のニュアンスはもちろんはるかにマジメです。

これすごい納得いく。ふざけてコーラの炭酸を抜き、残った液体を飲もうとすると子供心に「あっま」ってなって飲めない、みたいになった記憶があるし。シャンパーニュにドサージュするのは、炭酸飲料には甘みが必要だから。初めてフランスで「ガス入り水」飲んだときなんだこりゃうええってなったものです。

砂糖が持つ魔性の力についての覚え書き

食品と甘さの関係でいうと、まだ私が学生のころ、バイト先の忘年会で、フードコーディネーターの方が鶏団子鍋を振舞ってくれたときのこと。調理を手伝った私は驚愕した。ありえない量の砂糖を入れていたからだ。大さじ1とかってレベルじゃない。おタマ1、とかそれくらいのドサージュ。うへー、そんなに砂糖入れちゃって大丈夫っスかと聞く私に、その方はニヤリとして言った。「甘いは旨いだよ」と。by北王路魯山人。あと味の素も半端なく入れてた。AJIサージュしてた。で、むっちゃくちゃ、無法においしかったんですよ、その鶏団子鍋が。プロの味、というか料理の裏技みたいのを初めてみた瞬間だった。砂糖は合法ドーピング。

また、以前読んだ「砂糖の世界史」という本によれば、西欧においてかつて砂糖は高級品であり、庶民が口にできるものではなかったそうだ。それが、大航海時代以降、奴隷労働を背景としたプランテーションでの砂糖の大量生産が可能となって、はじめて砂糖は庶民の口に入るものとなっていった。砂糖は本質的に富の象徴であり、少なくとも奴隷商人たちに大西洋を渡らせ、一つの土地を砂糖しか作れない土地に魔改造させてしまうほどの抗いがたい魅力を持っているのは歴史が示す事実だ。

「ドサージュの量が多いほど、一口飲んだ時リッチで豪華な印象を受けます。逆に少ないと、繊細で細身なイメージを持ちます。なのでドン・ペリニヨンクリュッグベル・エポックといった有名どころのシャンパンは、ほぼすべてブリュットです。」

(葡萄畑ココスのブログ記事より引用)

以上のようなことを考え合わせると、シャンパーニュにドサージュが必要なのも納得がいく。それだけに造り手もこだわっていて、エノテカのコラムによればルイ・ロデレールのクリスタルに加えるリキュールはクリスタル用の畑で収穫されたブドウから造られているそうな。奥が深い。ワインって、どの引き出しを開けてものび太の部屋の机の引き出しみたいになってるのホント勘弁してください。

ウィル・アンジェール エクストラブリュットを飲んでみた

で、なんだっけ。そうだ、ウィル・アンジェールのエクストラブリュットを私は飲もうとしていたのだった。基礎知識みたいなのをおさらいすると、ブリュットは1リットルあたりの残糖度が12グラム以下。エクストラブリュットは6グラム以下という規定がシャンパーニュにはあるそうな。

というわけで、ウィル・アンジェールのブリュットとエクストラブリュットの違いは、おそらくは数グラムの残糖度の違いということになりそうだ。わかるのかなそんなの。小さじ1は約5グラムなので、ティスプーンすりきり一杯の砂糖分くらいの味の差。わかるような、わからないような。

わかるかわからないかわからないので飲んでみた。
わかる。
気がする。
ブリュットに比べて、エクストラブリュットのほうがスッキリしてる。「今飲んでいるお酒は残糖度が低い」という先入観をゴリゴリに入れた上で飲んでるからかもしれないけれども、前掲の「ドサージュの量が多いほど、一口飲んだ時リッチで豪華な印象を受けます。」という言葉がそのまま当てはまるように思えた。リッチっていうよりシャープ。大乃国千代の富士の違いですね。急に力士にたとえて恐縮ですけど。

どちらが好みかと聞かれれば、ブリュット(大乃国)のほう。芝田山親方のほう。ワイン初心者かつ舌のレベルが何本飲んでも上がってくれない身からすると、より「シャンパーニュってラベルに書いてあるワインに期待する味」に近いのがブリュットって印象を受けたからだ。エクストラブリュットのほうもとってもおいしいんだけれども。奇しくも芝田山親方はスイーツ好きであります。

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vivinoの点数は3.5点でした。

うーん、面白いなこれ。ブリュットとエクストラブリュットで、思った以上に印象が違うんですね。これゼロ・ドサージュならどうなるんだろう。逆に、甘口ならば? 先月買った4本セットの残りの1本はまさしくゼロ・ドサージュ。一体どんな感想を持つことになるのか、今からワクワクしている次第だ。

<参考サイト>
https://anyway-grapes.jp/producers/france/champagne/index.php
https://cocos.co.jp/blog/seen/dosage/
https://www.enoteca.co.jp/article/archives/7449/
https://www.champagne.fr/jp/from-wine-to-wine/wine-making/disgorgement