ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

トルシャード。コスパがすごいカリフォルニアワイン発見!

トルシャードはどんな生産者か

東京・世田谷の下北沢ワインショップで開催された試飲会で飲んだカリフォルニアワインが衝撃的だったのでレポートしたい。

出展していたのは株式会社アグリ。通常の試飲会ではさまざまな生産者のさまざまなスタイルのワインが並ぶことが多いと思うが、今回は「トルシャード」という生産者のワインのみ。

トルシャードはどんな生産者?

このワイナリーを興したのはテキサス出身の医師、トニー・トルシャード。かねてワイン造りへの情熱を抱えていた彼は、1972年にナパ最南部のカーネロスに8ヘクタールの土地を貯金をはたいて購入。そこからがすごい。

トニーさんはネバダの無医村で働く傍ら、週末の夕方に妻と6人の子どもをクルマに詰め込むと、3時間半かけて山をこえてナパ・ヴァレーへ。週末をトレーラーハウスで暮らしながらブドウ栽培にあて、また平日は医師として働くという超人的な暮らしを続け、当時単なる牧草地だったカーネロスをブドウ畑に変えていったのだそうだ。体力と情熱が大谷翔平クラスだと思う。

トルシャードの畑。良さそう。

トニーはどんどん畑を増やし、1973年の時点で162ヘクタールまで畑を拡張。フロッグス・リープ、ロバート・モンダヴィ、ニッケル&ニッケル、カーター・セラーズといった超一流ワイナリーにブドウを販売するように。

試飲会会場に持ち込まれていたナパヴァレーの図。破線で囲んだのがカーネロス。ナパは海からの風が冷たいため、沿岸部に近いほど涼しく、内陸ほど温かい。つまりカーネロスは冷涼だ

そして98年、満を持して自社ブランド名でワインを造り始めて今に至る。この話を知った私の感想は「テキサスの人を敵に回すのはやめよう」です。

 

トルシャードのコスパ

さて、話は下北沢ワインショップでの試飲会に戻る。この日提供されたワインは6種類。すべてカーネロスAVAの自社畑からのワインで、シャルドネ、ルーサンヌ、ピノ・ノワール、ジンファンデル、メルローカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

トルシャード、ぜんぶうまい説。

結論を先に述べると、どれもとんでもなくおいしいと感じた。なんでも自社畑から収穫されたブドウのうちの70%はいまも超一流のワイナリーに販売、残りの30%、それもいいやつだけを自社ブランド用に使っているのだそうで、おいしいのも当然。

で、ありながら、みなさまここが大切なポイントだ。安いのだ。すべて4300〜5200円(税別)。たとえば、ニッケル&ニッケルのトルシャード・ヴィンヤード シャルドネは税込1万2100円。トルシャードのシャルドネは5200円なので半額以下。全日本コスパ壊れてる大賞ノミネートである。

素晴らしいと感じたメルローは新樽率35%で20か月熟成。醸造も手を抜いてないと思われる。

もちろん醸造・熟成工程その他が異なるので単純比較はできないが、インポーターの方も「どうもお金儲け度外視でやってるフシがある……」みたいなことをおっしゃっていた気がするし、品質に対して安いのはこれはもう絶対に間違いない。

大手にブドウを販売しつつ自分たちでも造る生産者というと、シャンパーニュのレコルタン・マニピュランが思い浮かぶ。RMも最高のブドウは自分たちで使うというケースが多いと思うが、その分価格は決して安くない。そりゃそうで、最高のブドウを使って手間をかけるんだから当然だ。

トルシャードの場合、同じことをやっていながら価格はむしろ安いのだ。よくわからないが、これらのワインが我々の手元に届くまでの過程で誰かがコストにまつわる重大ななにかを見落としてているのでは…? と訝しみたくなる。いいぞもっとやれ。

 

トルシャードのワインを飲んでみた【1】ルーサンヌ

今回試飲した中でとくに素晴らしいと感じたのはルーサンヌとメルロー

まずルーサンヌだが、これはタブラスクリーク・ヴィンヤードから分けてもらった樹からのブドウで造られたワインなのだそうで、もともとは北ローヌのシャトー・ボーカステルから取り寄せた苗木(タブラスクリーク自体にボーカステルが関わってる)。

 

その樹から採れたブドウを使ってごく少量、「自分たちで飲む用」に造っていたワインをインポーターさんが現地で試飲、こりゃやべえとなって分けてもらったという経緯で日本に入ってきたワインのようだ。

飲んでみると非常に繊細な酸があり、あんずのような白い花のような美しい果実味が黒板の端から端まで引いた1本の線のようにボトルの中を貫いている。

うますぎる。そしてこれが税抜4300円なのだ。

 

トルシャードのワインを飲んでみた【2】メルロー

もうひとつはメルロー。聞けばカーネロスは「メルローの隠れた銘醸地」なのだそうで、クロ・デュ・バルやシェイファーもカーネロスにメルローの畑を持っているのだそうだ。私は最近涼しめな地域の酸が残ったメルローがとてもおいしいんじゃないか、と思っているのだがこれがまさにそれ。

非常にまろやかで丸みがあり円熟して角の取れた要するにドラえもんみたいに輪郭すべてが円、みたいなワインなのだが、やはりここにも冷涼産地・カーネロスならではと思われるピシッとした酸があり、輪郭は丸いけれども弛緩はしていない、冷たい緊張感のようなものが液体を満たしている。

お値段税抜5300円で、私はこれを購入。ルーサンヌも買えば良かった…!

というわけでトルシャードはエグい、ということを思い知った今回の試飲会だったのだった。

下北沢ワインショップの試飲会は一般のワイン好きでも気兼ねなく参加でき、インポーターの方から直接お話を聞ける素晴らしい場なので、みんなで行きましょう。できれば秘密にしておきたいけど。

シャルドネも良かった↓

himawine.hatenablog.com