ワインマーケットパーティで醸造家・Nagiさんのワインを飲む
お友だちの醸造家・Nagiさんが転職に伴う有休消化で帰国。帰国のたびに3人で飲むのが恒例となっているワインマーケット・パーティ沼田店長の元に向かった。
Nagiさんが持参してくれた2本のワインを、閉店後のWMP店内でスタッフの方ともシェアしつつ飲もうというのがコンセプトだ。
結論からいうと、19時半のWMPの閉店時間からはじまったテイスティングは23時過ぎまで続いた。Nagiさん沼田さん私に加え、スタッフのAさん、Kさんも交えての白熱のテイスティングの模様をレポートしていきたい。
Nagiさんのワイン2種はどんなワインだったのか【1本目】
今回Nagiさんが持ってきてくれたのは、まだボトリング前のタンクから直接詰めてきてくれたという2本のワイン。
そのうちの1本はまだフィルターを通していないやや濁りのある状態というNagiさんのワインとしては珍しい状態のもの(Nagiさんのワインは基本超クリーン、超クリア)。
「このワインは、低温自然発酵がうまくいったタンクのワインです。13〜15度くらいで半年間、ゆっくりずーっと発酵が続いています。まだ発酵が完全には終わっていなくて、フィルターもかけていないので酵母の感じが残っています」(Nagiさん)
つまり本来ワイナリーを訪問しなければ味わえないようなブツだ。持つべきものは友人だ。日本に持ってくるにあたり、50PPMだけ二酸化硫黄を入れて持ってきてくれたそう。ヴィンテージはもちろん2022。
himawine.hatenablog.comちなみに、「ブラインドで糖度と酸度を当ててみてください」という無茶振り条件でのテイスティングである。わかるわけないじゃないですかそんなの(真顔)。
それはともかく飲んでみる。品種はリースリングだろう。品種はナイショとのことなのでリースリングじゃないかもしれないが、Nagiさんとリースリングの関係はピッチャーとキャチャーみたいなもんだ。きっとリースリングだ。
そして、いつものことながら灯油の香りのペトロール香は一切ない。Nagiさんいわく「ペトロールはオフ(フレーバー)」。私はちょっとのペトロール香はリースリングという品種の個性としてむしろ好ましいのではと思っていたのだがNagiさんのワインを飲んで「あ、ペトロール要らないです」とコロッと宗旨変えした者です。
テイスティングしてみると、香りも味わいもクリアかつクリーン。野生酵母発酵・ノンフィルターというイメージを覆す透明な宝石を水に溶かしたような美しさがある。
味わいは超ミネラルフレッシュレモンといった印象。聞けば2022年は収穫時に熟度が上がりきらず、酸が強いのが個性となった年なのだそう。
開けたては少し青い印象が個人的にはあったが、この日の数時間の間にボトルのなかでどんどん成熟していき、豊かな果実と酸のバランスが拮抗する、素晴らしい状態になっていった。
ちなみにこのワインの正体はグローセ・ラーゲ(特級畑)フェルゼンエックのブドウから造られたグローセス・ゲヴェックス(GG)。ドイツ辛口ワインの格付け最高峰、さすがのポテンシャルだった。
Nagiさんのワイン2種はどんなワインだったのか【2本目】
さて、続いてはもうひとつのボトルだ。
「野生酵母で発酵させ、年内に発酵を終えてSO2を入れて静置させていたワイン。こちらもノンフィルターです」とNagiさん。飲ませていただいたのだがこれがもう完全に素晴らしい。
「すごくいい甘さがあるよね。日本の感じ、甘夏とか。それと、グレープフルーツをふたつに割って、砂糖をかけて先の割れたスプーンで食べて最後に残った汁の感じ」という沼田店長のコメント通り、柑橘の甘さとすっぱさを兼ね備え、そこに柔らかい砂糖やハチミツのような甘みが乗っかっている。
「これは、ハルプトロッケン?」
「いや、ファインヘルプじゃない?」
みたいなワインショップの“放課後”らしいマニアックな答え合わせが盛り上がっていたが、正解はカビネット。糖度はなんと60もあるという。
我々の予想は10台後半から20台といったところ。カスリもしない結果となったが、Nagiさんいわく「ドイツの醸造家仲間に飲ませても糖度が60とは思えないと言われる」そうなのでこれはもう仕方ない。なぜそんなにギャップがあるのか? カギを握るのは「酸」だ。
ドイツ・ナーエの2022ヴィンテージをどうやら特徴づけるシャープで豊かな酸。それが甘さと調和し、まるでデザートのように甘いのにスイスイ飲めて飲み疲れることのないHPとMPが両方回復するタイプのアイテムみたいになってる。
そしてこのワインは驚くべきことに「スタンダードなカビネットクラス」なのだそうで、売価はグローセス・ゲヴェックス フェルゼンエックが40ユーロ以上に対してわずか13ユーロに過ぎない。マジか。
うまいなあすごいなあと飲んでいる脇で、沼田店長とスタッフAさんKさんたちが「これ13ユーロか……チョクで引っ張って3500円、インポーター通すと4000円ちょっとかな…?」みたいなガチの商売の話をしてるのも面白かった。沼田店長いわく「このワインは絶対に売れる」とのこと。うん、これは売れると思う。
というわけでNagiさんのワイン2本のテイスティングは終わった。これで記事も終わり……と思いきや、ここから怒涛のテイスティングタイムに突入していく。
ワインマーケット・パーティの放課後テイスティングタイム潜入レポート
WMPではスタッフの勉強のため、また商品知識を高め、我ら客への説明・レコメンドをしっかりと行うために夜ごとにテイスティングを行っているそう。そこにNagiさんと私も混ぜていただいた。
スタッフの方々がNagiさんに「なぜこのワインはこのような味だと思うか」「このワインの醸造はどのようにしていると考えられるか」といった専門的な質問を熱心にしているわきで、私はふむふむなるほどといった難しい顔をしながら全力でご相伴に預かる係。預かれるご相伴には全力で預かっていくスタイルだ。
カーサ・カテリーナ「キュヴェ60(セッサンタ)」
というわけで印象に残ったワインを挙げていきたい。まずはカーサ・カテリーナのキュヴェ60(セッサンタ)。私はこれが気に入った。
ジャック・セロスに憧れてフランチャコルタ協会を脱退、栽培はビオロジック、醸造においてはSO2不添加で野生酵母発酵でノンドサージュ&瓶内二次発酵時も砂糖ではなくブドウ由来の原料を添加するというこだわりMAXで造る“ただのスプマンテ”。
この日飲んだワインのなかで、Nagiさんワインに次いで印象に残ったのがこれ。なんですかねこれは。酸素をたっぷりと取り込んで発酵したブドウ汁だけが放つ香りと味わい、それをたっぷんたぷんにたたえている。旨味爆弾。UMAMI BOMB。心のメモ帳に太字でメモしておきたいワインとなった。
オスモート・ワイン「セネカ・レイク リースリング2019」
どんどんいこう。ニューヨークの造り手、オスモート・ワインのセネカ・レイク リースリング2019も良かった。
全房圧搾した畑Aのブドウと除梗後に破砕した畑Bのブドウを野生酵母でそれぞれ発酵させ、その後オークの大樽で澱とともに熟成させてからブレンドするという自然派的アプローチのワイン。
こちらはちょっぴりだけペトロールのある造りだが、ほんとにちょっとのアクセント程度なので気にならない。ついさっき「ペトロール要らないです」と言っておいてなんだがこれもとてもおいしいワインだった。私はリースリングが好きだ。白ワイン品種では1番か2番くらいに好きかもしれない。
AUSWAN CREEK「ビッグ・タイガー バロッサ・ヴァレー シラーズ」
そしてもう1本、最後にAUSWAN CREEKのビッグ・タイガー バロッサ・ヴァレー シラーズも記録に残しておきたい。台湾人の醸造家の方がオーストラリアで造るワインだそうで、なにがすごいってラベルのインパクトがやべえ。
これ、いわゆるひとつの干支ボトルのようで、日本でも売れそうなだねみたいな話をしつつ飲んでみたのだがこれが実に渋みしっかり果実味たっぷりのオーストラリアらしい濃厚シラーズ。二郎系シラーズ、みたいに言ってもいいかもしれない濃度で、これもおいしいワインだった。まだインポーターが決まっていないらしいので気になるインポーターの方がいらしたらぜひ。
ほかにもいろいろなボトルを飲みながら、ワインについて侃侃諤諤楽しく議論しながらのテイスティング大会は23時過ぎまで続いた。そして、私がゲラゲラ笑いながら飲んでいるなか、Nagiさんに最後まで熱心に質問していたAさん、Kさんの姿がとても印象に残る、あらためてワインマーケット・パーティはいい店だなあと感じるテイスティングだったのだった。
Nagiさん、沼田店長はじめWMPのみなさん、大変お世話になりました。また飲みましょう!
この泡はほんとに気に入った↓