イタリアン「Adosi」に行ってきた
先日身内のお祝いごとがあって東京・護国寺のイタリアン「Adosi」(アドジ)を訪ねた。私はワインのペアリングコースを頼んだのだが、これが素晴らしい内容だったのでレポートしたい。
この日頼んだのは通常よりも皿数が少なめの5品のコース。前菜、スープ、サラダ、肉料理、パスタという構成だ。それにデザートを追加で事前にオーダーしている。
Adosi一皿目 「パニプリ」とプーリアの土着品種・フィアーノミヌトロ
まず一皿目は、これはもともとはワインのボトルを入れていた箱だろうか。そこにお店の名前の焼き印が押され、黒米と赤米が敷き詰められた上に「パニプリ」なる料理がちょこんと置かれている。
パニプリはインドの揚げ菓子なのだそうで。イメージ的にはモナカとかシュークリームみたいなイメージだ。
手にとって召し上がってくださいと言われるがままにつまんでかじってみるとこれがおいしい。パプリカの煮込み的なもの、枝豆、レーズン、アンチョビ、ブッラータチーズなどが詰め込まれているのだが、噛むごとに違う味がするのにそれがすべて統合されていて、まったく個性の異なる9人を集めた結果実に調和のとれた野球チームができましたといった印象の楽しい料理。
これに合わせたのが珍しい(と個人的には思った)プーリア州の泡で、カイアッファのスプマンテ ブリュット ミリア。
フィアーノミヌトロ(という品種で、モスカット系のプーリア品種)とシャルドネのブレンドなのだそうで、蜜感があるけれどもさわやかなリンゴのイメージ。暑い季節にグビグビ飲みたいようなワインで、前菜とはともに競い合って海に向かって駆けていくみたいな、ちびまる子ちゃんでいうところの大野と杉山的な陽性のペアリングの印象だった。
レストランには非日常を求めたいが、その点でこの前菜は先制パンチとして素晴らしかった。「今日の晩ごはん、パニプリよ〜」という家庭はおそらく少なく、「ここでは家庭料理は出ませんよ」というメッセージがパニプリから発信されている。期待感がグッと高まり、2皿目へとつづく。
Adosi2皿目 とうもろこしの冷製スープとリグーリアの土着品種・ピガート
続いて2皿目はとうもろこしの冷製スープ。品種は笛吹市産のゴールドラッシュで、そこに自家製のクルトン、シブレット、セージ、エビのコンソメ、ポレンタ(とうもろこしのピュレみたいなの)、くるみなどが入っている玉手箱系の料理。
これに合わせるのがプンタ・クレーナのカ・ダ・レーナ。品種は生産地であるリグーリアの土着品種・ピガート。
塩味を感じるミネラル系の白ワインで、スープのなかで存在感を放つエビのコンソメと海のニュアンスにおいて調和し、同時にとうもろこしの甘さがワインを引き立てるような相互作用をしている。
それにしてもこの冷製スープは抜群においしかった。スープはいくらおいしくても味わいは一皿のなかで均一であるケースがほとんどだと思うが、このスープは非常に粘性が高いこともあり、多彩に配置された食材のどれと一緒に口にするかによって味わいが異なる。区画ごとに味わいが異なる、ワイン的にいえばスープ内にリュー・ディがあるみたいな印象だ。
ここまでは料理に圧倒され、ワインは正直脇役という印象。だが、ここからさらに力強いワインたちが登場してくることになる。
Adosi2皿目 サラダとトレッビアーノ
3皿目はやや箸休め的に大ぶりのカクテルグラスに入れられたサラダ。シェフの地元だという埼玉県小川町の横田農場から届いたというナス、きゅうり、オクラ、みょうが、ミニトマト、フライドオニオンなど。そこにカラスミがアクセントを加えている。野菜とカラスミのコントラストが面白く、畑で農作業をしていたらカラスミが降ってきました、空から、みたいなサラダだ。
そこに合わせたワインがテヌータ・ロヴェリアのリムネ・ルガーナ。収穫時期を2回に分け、早摘みと遅摘みのブドウをブレンドしているというワインで、発酵・熟成ともにステンレスタンクとは思えないほどリッチな味わいがある。
サラダはカラスミがかかっているとはいえサッパリ系なので、もっとキリッとシャープなワインを合わせるのが常道な気がするが、この果実感が野菜畑風のサラダに柑橘系フルーツのニュアンスを加えていてとても好みだった。
ともかくワイン単体でも飲み干したくなるような、おいしいワインだった。ところでトレッビアーノが世界で2番目に栽培されてるブドウ品種だって知ってましたかみなさん?(トレッビアーノ=ユニ・ブランなんですね。知らなんだ)
4皿目 京地鶏とモスカート・ディ・スカンツォ
4皿目、メインの肉料理は京地鶏。胸肉は低温調理が施され、もも肉はヴェネト州の名物だというレバーとサラミを使ったソース「ペヴァラーダ」を巻き込んでローストされていてこの料理がめちゃくちゃおいしかったのだった。
とくに胸が好み。低温調理した胸肉ということでふんわりやわらかいのかなと思ったらまさかの噛みごたえたっぷりの弾力系の食感。
非常にシンプルだけど奥に複雑な旨味・滋味があり、過去に食べた鶏胸肉を使った料理のなかでもベスト3に入るんじゃないのこれという味わいだった(もちろんもも肉もおいしかった)。付け合わせの姫にんじんもおいしい。
これに合わせるワインはロンバルディア州の生産者、ビアーヴァのモスカート・セッコ。品種はモスカート・ディ・スカンツォでこれはなんと「黒いモスカート(マスカット)」。そんなのあるんだ!
黒いマスカットを使った辛口赤ワイン、という初めてが渋滞しているワインで、個人的にはこれがこの日のベストワイン。
スミレとかバラみたいな3月から5月にかけての花園、みたいな香りにさくらんぼやいちごみたいな味わいで渋みは非常におだやか。とにもかくにも香りが良い。赤なのにアロマティックで、印象としては赤いゲヴュルツトラミネールみたいな、なぜか中二病感が出る感じ。赤きゲヴュルツトラミネールっていうか。香りが異様に華やかなので、モスカートよりゲヴュルツを想起した次第。
これが肉料理に華の香りを加えて和合し、肉うまっ、ワインうまっ、肉うまっ、ワインうまっ(たまに姫にんじんうまっ、が入る)といった無限ループ状態に突入する悪魔的ペアリングだった。シェリービネガーのソースや鶏自体の脂の感じが全体にちょっぴり甘めなのが、またワインとの相性を高めていた。
5皿目 豚肉のラグーとあんずのパスタとサンジョヴェーゼ
最後はパスタで、半袖を意味するメッツェマニケというショートパスタに豚肉のラグー、そして山梨県産のあんず、パルミジャーノを合わせたという一皿。
合わせたのはコントゥッチの「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」。モンテプルチアーノって書いてあんだからそりゃまあ品種はモンテプルチアーノなんだろうと思っていたら実は品種はサンジョヴェーゼだという脳がバグる系のDOCG(原産地呼称)のワイン。つまりはトスカーナのサンジョヴェーゼ、王道だ。
パスタもあんずの酸味がとてもおいしく、食事の締めくくりとして大満足。その後のデザートも食後酒としていただいた自家製リモンチェッロもおいしかった。
振り返ってみると、ワインは香りの良いものがほとんどで、どれも絶妙な変化球。イタリアならではの土着品種も多数取り入れられ、魔境的面白さを感じることができた。もちろん主役は料理だが、ワインが名脇役として実にいい仕事をしていた。
ショートコース+ワインペアリングコースは税込13750円で、かかっている手間を考えると十分にお値打ちと言っていい。コースの内容は毎月変わり、試飲会などにも積極的に足を運ばれるそうでワインの中身もどんどん変わるのだそうだ(今回は仙石のワインが多かった)。
というわけで満足。また行こ!